目次

  1. 1. 遺産分割協議とは
    1. 1-1. 相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続き
    2. 1-2. 遺産分割の期限は?
    3. 1-3. 遺産分割をしなかった場合のリスク
  2. 2. 遺産分割協議の進め方
    1. 2-1. 遺言書の有無を確認する
    2. 2-2. 相続人を調査・把握する
    3. 2-3. 相続財産を調査・把握する
    4. 2-4. 遺産の分け方を話し合う
    5. 2-5. 遺産分割協議書を作成する
    6. 2-6. 各相続財産の名義変更を行う
  3. 3. 遺産分割の4つの方法
  4. 4. 遺産分割協議がまとまらなかった場合の手続き
    1. 4-1. 遺産分割調停
    2. 4-2. 遺産分割審判
  5. 5. 遺産分割のやり直しはできるのか?
    1. 5-1. 相続人全員が合意すればやり直せる
    2. 5-2. 遺産分割が無効の場合はやり直しが必須
    3. 5-3. 遺産分割をやり直すと贈与税が課される
  6. 6. 遺産分割を行う際の注意点
    1. 6-1. 可分債権は遺産分割の対象外|ただし預貯金は例外
    2. 6-2. 遺産分割協議書は必ず作成すべき
    3. 6-3. 音信不通の相続人がいたらどうする?
    4. 6-4. 認知症の相続人がいたらどうする?
    5. 6-5. 遺産分割後に新たな財産や債務が判明したらどうする?
    6. 6-6. 遺産分割後に遺言書が見つかったら? 遺言書と異なる遺産分割は可能?
  7. 7. まとめ|遺産分割は弁護士にご相談を

まずは、遺産分割協議に関する基本的な事項として、遺産分割協議の概要とその期限、協議をせずに放置していた場合のリスクについて解説します。

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きです。亡くなった被相続人(以下「亡くなった人」)の遺産は、相続人全員の共有となります(民法898条)。共有状態の遺産の分け方を話し合うのが遺産分割協議です。

遺産分割協議に参加する相続人は、以下のルールに従って決まります。遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須である点を押さえておきましょう。

亡くなった人の配偶者
常に相続人となります(民法890条)。

亡くなった人の
常に相続人となります(民法887条1項)。

亡くなった人の孫(ひ孫以降)
亡くなった人の子が死亡、相続欠格、相続廃除によって相続権を失った場合に、その子(被相続人の孫)が相続人となります(代襲相続、民法887条2項)。孫も相続権を失っている場合は、被相続人のひ孫が相続人となります(再代襲相続、同条3項)。

亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母など)
亡くなった人の子(またはその代襲相続人)がいない場合に限り、相続人となります(民法889条1項1号)。

亡くなった人の兄弟姉妹
亡くなった人の子(またはその代襲相続人)と直系尊属がいない場合に限り、相続人となります(民法889条1項2号)。

亡くなった人の甥や姪
亡くなった人の兄弟姉妹が死亡、相続欠格、相続廃除によって相続権を失った場合に、その子(亡くなった人の甥や姪)が相続人となります(代襲相続、民法889条2項)。なお、甥と姪の子による再代襲相続は認められません。

相続人の決まり方
相続人の決まり方

未成年者が相続人になった場合の遺産相続については、下記の記事をご確認ください。

【関連】未成年の子が相続人なら特別代理人の選任を 親子で利害が対立する時の遺産相続

遺産分割には、特に法律上の期限はありません。ただし、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に相続税申告を行う必要があるため、それまでに遺産分割を完了するのがスムーズです。

もし10カ月以内に遺産分割が終わらなければ、暫定的に法定相続分による相続税申告を行い、後に修正申告や更正の請求によって相続税の精算を行います。

遺産分割をせずに放置していると、以下のリスクを負うことになってしまいます。そのため、できるだけ早い段階で遺産分割協議を開始してください。

①共有状態の遺産は活用しづらい
売却や賃貸に関して共有者間で意見が対立し、遺産を円滑に活用できないリスクがあります。

②一部の相続人が遺産を使い込んでしまう場合がある
遺産の管理を一部の相続人に任せていると、その相続人が遺産を使い込んでトラブルになるリスクがあります。

③相続税に関する特例を受けられなくなる場合がある
相続税について、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、原則として期限内に相続税申告を行わなければなりません。

相続税申告の期限までに遺産分割が完了しない場合、これらの特例や税額軽減の適用を受けるには、申告書に「申告後3年以内の分割見込書」を添付したうえで、申告期限から3年以内に遺産分割を行うことが必要です。

【関連】小規模宅地等の特例の計算の方法 評価額を8割下げる条件や注意点 
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遺産分割協議の進め方について、大まかな手順は以下のとおりです。

遺産分割協議の進め方
遺産分割協議の進め方

まずは、亡くなった人が遺言書を残しているかどうかを確認しなければなりません。

遺言書がある場合は、原則としてそのとおりに遺産分割を行います。遺言書に分け方が記載された遺産については、遺産分割協議の対象から除外されます。
したがって、遺産分割を行うべきかどうか、どの財産が遺産分割の対象となるかを把握するため、最初に遺言書の有無を確認する必要があるのです。

亡くなった人の遺品を探すほか、公証役場の遺言検索も利用して、遺言書が残されているかどうかを調べましょう。なお、遺言書には下記の3つの形式があります。

遺言書の3つの形式
遺言書の3つの形式

遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須です。そのため、参加すべき相続人を調査・把握する必要があります。

相続人が誰であるかについては、亡くなった人との間で相続権が発生する続柄にある者を、戸籍資料(戸籍全部事項証明書など)から確認することで把握できます。戸籍資料の取り寄せや確認は、弁護士に依頼するのが便利かつ確実です。

遺産分割の対象となる相続財産を調査・把握することも必要です。遺産の把握漏れが生じると、遺産分割をやり直すことになりかねないのでご注意ください。

銀行口座、証券口座、不動産、借金など、亡くなった人が生前に有した財産を漏れなく調査する必要があります。判明した相続財産は遺産目録にまとめておけば、一覧的に参照できるので便利です。財産目録とも呼ばれる遺産目録の書き方については、下記の記事が参考になります。

【関連】財産目録の書き方 ひな型付きでわかりやすく解説

相続人と相続財産の把握が完了したら、相続人全員参加のもと、具体的な遺産の分け方を話し合います。遺産分割協議のメインと言うべき手続きです。

話し合いの中では、相続人同士の主張が対立するケースもよくあります。冷静な話し合いにより、円滑に遺産分割協議をまとめるためには、弁護士に調整を依頼するのがお勧めです。

遺産分割の内容について合意が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめて締結します。

誰がどの遺産を相続するのか、費用やあとから判明した遺産の取り扱いはどうするのかなどを、明確な文言で記載することが大切です。

なお、遺産分割協議書の書き方については下記の記事で詳しく紹介しています。

【関連】自分で作成できる! 遺産分割協議書の書き方 ひな型・文例と一緒に解説 注意点や活用方法も紹介

遺産分割協議書を締結したら、その内容に従って各相続財産の名義変更を行います。

たとえば、不動産については登記、自動車は登録、未公開株式は株主名簿の書き換えの手続きが必要です。各手続きを行う際には、遺産分割協議書の提出を求められますので、忘れずに持参してください。

すべての相続財産の名義変更が完了したら、遺産分割協議は終了です。

遺産分割の方法には、以下の4種類があります。

遺産分割の4つの方法

①現物分割
遺産を物理的に分割する方法です。現金や預貯金を分ける場合や、土地を分筆してから分ける場合などが該当します。

②代償分割
遺産を一部の相続人のみが相続し、代わりにほかの相続人に対して代償金を支払う分割方法です。不動産や未公開株式などについて用いられます。

③換価分割
遺産を売却し、その代金を相続人間で分ける方法です。不動産などについて用いられます。

④共有分割
遺産を複数の相続人の共有とする方法です。不動産などについて用いられます。

特に不動産や未公開株式など、複数の分割方法があり得るものについては、遺産分割協議における対立の原因になりやすいので注意が必要です。

遺産分割の方法に関する詳細は、以下の記事を併せてご参照ください。

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遺産分割協議が決裂した場合は、家庭裁判所の調停や審判によって遺産分割の方法を決めることになります。

遺産分割調停は、調停委員の仲介により、相続人全員が遺産の分け方を話し合う手続きです。第三者である調停委員が間に入ることで、相続人同士が直接協議するよりも冷静な話し合いが期待できます。

裁判官が提示する調停案につき、相続人全員が同意すれば、調停は成立です。この場合は調停調書が作成され、調停調書に従った遺産分割が行われます。

【関連】遺産分割調停とは? 流れから有利に進める方法、やってはいけないことを弁護士が解説 

遺産分割調停が不成立となった場合、家庭裁判所が審判によって結論を示します。

家庭裁判所は、法定相続分を基準としつつ、当事者から提出された主張や資料を総合的に考慮して遺産分割の方法を決定します。各相続人には審判書が送達され、その内容に従った遺産分割が行われます。

【関連】家庭裁判所の遺産分割審判とは? 調停との違いや申立て方法を解説 

遺産分割の手続きの流れ
遺産分割の手続きの流れ

一度行った遺産分割でも、やり直せる場合や、やり直すべき場合があります。ただし、遺産分割をやり直す場合には、贈与税の課税に十分注意が必要です。

遺産分割により相続された財産は、権利を得た相続人が自由に処分できます。したがって、相続人全員の合意により、分けた遺産を再び持ち寄って遺産分割をやり直すのは自由です。

ただし、一人でも反対する相続人がいれば、遺産分割が無効である(取り消される)場合を除いてやり直しは認められません。

遺産分割に参加しなかった相続人がいる場合、その遺産分割は無効となります。

また、詐欺や強迫を受けて遺産分割に同意した相続人は、同意の意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。この場合も、遺産分割は当初にさかのぼって無効となります。

遺産分割が無効である場合は、あらためて遺産分割をやり直さなければなりません。

遺産分割のやり直しによって財産を移動する場合、相続ではなく贈与による財産の取得とみなされ、贈与税が課されます。すでに相続税を納付している場合でも、あらためて贈与税が課されることになります。

贈与税は相続税よりも高率であるうえ、相続税と贈与税の二重課税が生じる場合もあるので要注意です。

最後に、遺産分割協議に関して知っておくべきことや、よくある疑問への回答をまとめました。

貸付金債権や売掛金債権など、額面によって分けることのできる債権(可分債権)は、相続に伴って当然に相続人間で分割されるため、遺産分割の対象外とされています(最高裁昭和29年4月8日判決)。


・亡くなった人が生前、知人Xに対して500万円の貸付金債権を有していた
・相続人は子A・子Bの2名
→遺産分割を経ることなく、A・Bはそれぞれ、Xに対する250万円の貸付金債権を相続する

ただし、預貯金債権だけは例外的に、簡単に分けることができる可分債権であっても遺産分割の対象となります(最高裁平成28年12月19日決定)。


・亡くなった人が生前、金融機関Yに対して500万円の預貯金債権を有していた
・相続人は子A・子Bの2名
→金融機関Yに対する500万円の預貯金債権は、AB間の遺産分割協議によって誰が相続するかを決める

相続人同士の関係性が良好であっても、後日のトラブルを予防するためには、遺産分割に関する合意内容を明確化しておくべきです。そのため、遺産分割協議書は必ず作成しましょう。

また、不動産の相続登記手続きや、金融機関の相続手続きでは、遺産分割協議書の提出を求められます。したがって、これらの手続きを円滑に行うためにも、遺産分割協議書は必ず作成すべきものと理解しておきましょう。

【関連】遺産分割協議書の提出先や手続き一覧 期限やコピーの可否について弁護士が解説 

音信不通の相続人がいる場合は、家庭裁判所への申し立てにより不在者財産管理人を選任し、さらに家庭裁判所の許可を得て、その相続人に代わって遺産分割協議に参加させる必要があります(民法25条1項、28条)。

音信不通の相続人を無視して行った遺産分割は無効であり、やり直しを余儀なくされるので注意しましょう。居場所もわからない相続人がいる際の注意点などについては下記の記事をチェックしてみてください。

認知症によって判断能力が低下した相続人がいる場合は、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる必要があります(民法7条)。判断能力が十分でない相続人による遺産分割への同意は、無効となったり取り消されたりする可能性があるからです。

家庭裁判所によって選任された成年後見人は認知症などで判断能力が十分ではない人の代わりに法定権利を担う役割を得て、被後見人となった相続人に代わって遺産分割協議に参加できます。

【関連】認知症の人が相続人になる場合の注意点と対策 故人が認知症だった場合の対応も

遺産分割後に新たな財産や債務が判明した場合、遺産分割協議書に取り扱いが明記されていれば、その内容に従います。

一方、特に取り決めがなければ、あらためて遺産分割を行う必要があります。新たに判明した部分だけ分け直すことも、すでに分けた遺産も含めて分け直すことも可能です。

ただし、すでに分けた遺産を相続人間で移動させる場合には、贈与税の課税対象となる点にご注意ください。

遺産分割後に遺言書が見つかった場合、相続人と受遺者(相続人以外で遺産を譲り受ける遺贈をされる人や法人)の全員に対して、遺言書が見つかった旨を伝えなければなりません。

相続人と受遺者の全員の合意があれば、遺言書とは異なる内容の遺産分割を行うこともできると解されています。相続財産は相続人の共有であるところ、全相続人の同意があれば、遺言書とは異なる遺産分割を行っても相続人の保護を欠くことはないからです。

したがって、遺産分割後に遺言書が見つかった場合でも、相続人と受遺者全員の合意があれば、遺言書の内容にかかわらず、すでに行った遺産分割の結果を維持することも可能です。

ただし、相続人と受遺者のうち、1人でも遺言書に従った遺産分割を主張すれば、遺言書に従って遺産を分ける必要があります。

遺産分割には多くの手続きを要し、検討すべき課題も多く、さらにトラブルに発展するリスクも潜んでいます。ご自身だけで対応するのは難しい、リスクが大きいと感じたら、弁護士への相談がお勧めです。

弁護士は協議、調停、審判の各手続きを通じて、遺産分割がスムーズに完了するようにサポートを行っています。公正かつ円満な遺産分割をめざすなら、弁護士に相談するのが得策です。相続会議では全国の弁護士を検索できるサービスを展開していますので、ぜひご活用ください。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)