相続税申告の時効成立は7年。でも簡単に逃げ切れない理由 元国税専門官が解説
相続税の時効は最長7年で成立します。ということは、理論上「7年で相続税から逃げ切れる」わけですが、しかし、現実はそう簡単には行きません。税務調査の実態やペナルティなど、元国税専門官のライターが詳しく解説します。
相続税の時効は最長7年で成立します。ということは、理論上「7年で相続税から逃げ切れる」わけですが、しかし、現実はそう簡単には行きません。税務調査の実態やペナルティなど、元国税専門官のライターが詳しく解説します。
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まずは相続税の時効についての基本ルールから見ていきましょう。相続税の法定申告期限は、相続開始日(被相続人の死亡日等)から10ヶ月以内です。この期間内に申告しなかった相続財産があったり、相続税の計算誤りがあったりした場合、国税局や税務署(以下まとめて「税務署」)から相続税の賦課などの処分(以下「課税処分」)を受ける可能性があります。
しかし、法定申告期限から一定年数が経過すると、税務署は課税処分を行えません。課税処分を行える期間を「除斥期間」といいますが、この除斥期間には期限があるからです。つまり、除斥期間が過ぎると、いわゆる時効が成立し、税務署は課税処分ができなくなります。
この除斥期間は「法定申告期限の翌日を起算日として、原則5年」と定められています。ところが、「偽りその他不正の行為」によって税額を免れ、または還付を受けた場合、除斥期間が7年に延びます。偽りその他不正の行為とは、税務調査に対して虚偽の答えをしたり、多額の相続財産を隠したりといった、脱税行為があるケースを意味します。
民法では、「ある事実を知らないこと」を「善意」といい、「ある事実を知っていること」を「悪意」といいます。そして、たとえば不当な利益を得たとき、善意なのか、悪意なのかによって、賠償責任が変わります。しかし、相続税の時効については、「悪意であったか」という判断基準ではなく、あくまでも「偽りその他の不正があったか」という観点から判断される点に注意してください。
上記のとおり、原則5年、最長7年の除斥期間が過ぎるまで待てば、相続税を免れるわけですが、現実的には難しいと考えられます。その理由について説明します。
税務署は、相続税の申告が必要と見込まれる人をピックアップし、申告についての案内文書を送付しています。このようなピックアップが可能となるのは、過去の申告情報などを蓄積しているからです。税務署が共有している国税総合管理(KSK)システムには、過去の税務申告状況はもちろん、不動産売買の履歴や、保険金の受取履歴など、様々な情報が蓄積されています。なお、税務署から申告の案内が来たものの、相続財産等を集計した結果、申告が不要と判断できる場合もあるでしょう。そうした場合は、案内文書に同封されている「相続についてのお尋ね」という文書に、財産等の状況を正確に記載して返送してください。
相続税の申告漏れが最終的に明らかになるのは、税務調査が実施された後です。相続税の調査対象になると、相続人への聞き取り調査に加え、銀行などの調査も行われます。預貯金は過去10年分をチェックされることもあります。また、相続人に相続税調査の協力を得られないときなど、悪質なケースについては「反面調査」が行われます。反面調査とは、納税者本人ではなく、取引の相手方などを調査することで、税務職員には反面調査の権限も与えられています。たとえば、被相続人と取引をしていた会社や、銀行の貸金庫など、反面調査を通じて相続財産の申告漏れが発覚することは少なくありません。
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相続税申告の相談ができる税理士を探す次に、相続税に関するペナルティを見ておきましょう。申告不足に対しては「加算税」、納税不足については「延滞税」という税金が追加で徴収されます。さらに、加算税については、相続税の場合、以下の3パターンが存在します。
・無申告加算税:申告期限までに申告をしなかった場合
・過少申告加算税:本来の税額よりも少なく申告をした場合
・重加算税:仮想隠蔽行為があり、その行為に基づき過少申告をした場合や期限内申告をしなかった場合
これらの加算税は、申告期限までに正しく申告していなかった税額を基準に、一定の税率を掛けて計算します。一方、納税遅れのペナルティである延滞税は、納期限から遅れるほどに増えていく仕組みになっています。
相続税の申告を行ったり、課税処分を受けたりしても、納税をしなかった場合はどうなるのでしょうか? 納税をせずに放置していると、税務署から「督促」がなされます。この督促に応じないときは、財産の差押処分が行われ、公売にかけられる可能性があります。状況によっては、相続財産だけでなく納税者本人の財産に差押処分が及びます。こうした一連の処分は「滞納処分」と呼ばれます。
相続税法第34条では「同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、その相続又は遺贈により受けた利益の金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる」と定められています。この内容を簡単に説明すると、同じ被相続人から相続した人同士は、連帯して相続税の納付義務を負うということです。したがって、相続人のうち誰かが相続税の納税に応じない場合、他の親族が納税の肩代わりを求められるということです。
ここまで説明してきたとおり、本来の相続税を納めずに免れるのは非常に困難です。申告を放置していると税務調査が行われますし、納税を放置していると滞納処分が行われます。
しかし、相続税の納税は、「一括現金納付」が原則ですから、期限までの納税が難しい場合もあるでしょう。そうしたときには、「延納」と「物納」という2つの方法が考えられます。延納は納税できない金額を限度として、年賦(分割払い)にする制度です。一方、「物納」は、土地などの相続財産をそのまま相続税の納税に充てる方法です。これらの手続きは、相続税の納期限が来る前に行っておく必要があります。必要になると思われる場合は、早めに税務署や税理士に相談するようにしましょう。
(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)
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