目次

  1. 1. 「死の意識」は人生を充実させることにつながる
  2. 2. 母が生前、娘に語った「節約して資産形成」
  3. 3. 家族と資産について共有を

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16年前、大学の卒業前に1カ月ほどインドに旅行しました。ぼろぼろの服を着ながらも笑顔で働く子供、当たり前のように5時間遅れる電車など、日本では見たことのない風景の連続で、人生観の変わる時間でした。

驚いたのは死が身近にあることです。
例えば、ヒンドゥー教の聖地であるバラナシでは、ガンジス川のほとりで火葬が行われていました。火葬場には、インド各地から聖地での最後を希望する遺体が集まります。
町を歩くと毎日のように葬列を見かけました。
毎日のように死に触れるたび、「いつか自分も死ぬ」という感覚が強くなっていきました。

ラテン語に「メメント・モリ」という言葉があります。
「死を忘れるな」という意味で、人生が有限であることを自覚するために使われていたそうです。
己の死を意識することは、日々を充実させて楽しむことにつながっていたのでしょう。

日本は死が社会から隔絶されているように感じます。
葬儀以外で意識することは少ないかもしれません。
そのためもあるのでしょうか、当事務所へも、「突然相続が発生し、どうしたらよいかわからない」という相談が時にあります。被相続人が亡くなる前に、死後に必要となる情報を伝えていないと、遺族が苦労することになります。

以前、「突然母が亡くなってしまった。手続きもわからないし書類の所在もまったくわからない」という相談がありました。
守秘義務に反しないよう、実際の事例を改変し、脚色しています。

亡くなった女性は70代前半。
持病もなく元気に一軒家で暮らしていましたが、外出先で倒れ、そのまま亡くなりました。
早くに夫を亡くしており、残された相続人は40代後半の長男と、40代前半の長女です。
2人とも近隣に居住していたものの、女性は一人暮らしでも生活に支障はなかったため、頻繁に行き来することはありませんでした。

葬儀が終わってから、2人で家の整理をしたところ、見つかったのは財布と少額の預金が入った通帳だけ。家は人気のある住宅地にあるので、解体して土地を売却することにしました。

財産額から相続税の申告は不要のため、相続登記の手続きをして関与は終了する予定でしたが、長女が「気になることがある」と言い始めました。

女性は生前、「節約して資産形成している」と話していたそうです。
ですが、どこを探しても有価証券の明細や定期預金通帳は見つかりません。
家の解体を延期し、もう一度家を捜索することにしました。

その後、改めてきょうだいで家をくまなく探したところ、通帳や印鑑、有価証券の明細、現金100万円ほどが見つかりました。
タンスに何気なくかけてあった服のポケットに、少しずつ分けて入れてあったそうです。

聞くと、女性の亡くなった夫は盗犯を担当する警察官だったそう。長女は、「父から言われて財産を隠していたのだろう」と話していました。

この事例では無事に財産が見つかりましたが、解体中の家から現金が見つかることは珍しくありません。2019年1月には、解体工事現場から見つかった現金約3900万円を盗んだとして、作業員が逮捕される事件もありました。
そのような現金は、遺族も知らずに保管されていた可能性が高いでしょう。

突然の相続が発生すると、遺族は平常心でいられません。
ただでさえ混乱する中、資料が見つからなかったり、必要な手続きがわからなかったりすれば、大きな負担になります。

備える手段として、エンディングノートが広まってきました。死後に必要な情報や希望をまとめ、遺族に残す手段です。私自身はまだノートを作っていませんが、資産の状況を妻と共有し、もし自分が死んだ場合の手続きについても、定期的に相談しています。

死はいつか誰にも訪れるものです。
もしもの時に備えて、家族で一度話してみてはいかがでしょうか。

(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)

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