目次

  1. 1. 小規模宅地等の特例とは
  2. 2. 小規模宅地等の特例の計算は
    1. 2-1. 【事例】特定居住用宅地等の特例
    2. 2-2. 【事例】特定事業用宅地等の特例
    3. 2-3. 【事例】貸付事業用宅地等
  3. 3. 二つ以上の宅地等で特例を使えるか
    1. 3-1. 特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等を適用する場合
    2. 3-2. 【事例】亡くなった人が【事例1】の土地と【事例3】の土地を所有していた場合
    3. 3-3. 特定居住用宅地等と特定事業用宅地等を適用する場合
    4. 3-4. 【事例】亡くなった人が【事例1】の土地と【事例2】の土地を所有していた場合
  4. 4. 小規模宅地等の特例の計算の留意点

小規模宅地等の特例は相続税の優遇措置の一つになります。一定の要件を満たす宅地等(土地や借地権など)については評価額を最大80%下げることができますが、小規模宅地等の特例の計算は簡単ではありません。

小規模宅地等の特例が適用できる宅地等は大きく四つに分類されます。それぞれの宅地等ごとに適用できる面積の範囲(以下、限度面積)や減額割合は異なります。四つの分類については以下の通りです。

〇特定居住用宅地等
亡くなった人の自宅として利用していた宅地等に対する特例
〇特定事業用宅地等
亡くなった人の個人事業(貸付用を除く)として使用していた宅地等に対する特例
〇貸付事業用宅地等
亡くなった人が貸地又は貸家など貸付用としていた宅地等に対する特例
〇特定同族会社事業用宅地等
亡くなった人の会社(同族会社)として使用していた宅地等に対する特例

小規模宅地等の特例において、各分類の適用できる限度面積と減額割合は以下の通りです。

  • 特定居住用宅地等・・・限度面積330㎡、減額割合80%
  • 特定事業用宅地等・・・限度面積400㎡、減額割合80%
  • 貸付事業用宅地等・・・限度面積200㎡、減額割合50%
  • 特定同族会社事業用宅地等・・・限度面積400㎡、減額割合80%

実際に事例を用いてどれだけ評価額を下げることができるか計算してみます。
※限度面積の要件以外は要件を満たしているものとします。

亡くなった人の自宅の土地が150㎡(土地の評価額3000万円)

特定居住用宅地等の特例の計算例
特定居住用宅地等の特例の計算例

この事例は、特定居住用宅地等として限度面積330㎡に対して所有している土地は150㎡のため、全部の土地に対して評価額の80%控除することができます。

亡くなった人の個人事業として使用していた土地450㎡(土地の評価額4500万円)

特定事業用宅地等の特例の計算例
特定事業用宅地等の特例の計算例

この事例は、特定事業用宅地等として限度面積400㎡に対して所有している土地は450㎡のため、400㎡の土地に対して評価額の80%控除することができます。

亡くなった人がアパートとして貸していた土地(全室賃貸)100㎡(土地<貸家建付地>の評価額1400万円)

貸付事業用宅地等の計算例
貸付事業用宅地等の計算例

この事例は、貸付事業用宅地等として限度面積200㎡に対して所有している土地は100㎡のため、全部の土地に対して評価額の50%控除することができます。

亡くなった人の所有している宅地等が1カ所のみである場合には、上記の計算式で控除できる評価額を計算することができます。しかし、所有している宅地等が2カか所以上の場合、限度面積の計算が複雑になります。

特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等について、この特例を適用する場合、下記の範囲内でこの特例を使うことができます。

特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等で適用する場合
特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等で適用する場合

150㎡(特定居住用宅地等)×200/330+100㎡(貸付事業用宅地等)=190.909㎡≦200㎡で200㎡の範囲内であるため、全部の土地に対してこの特例を適用することができます。

したがって、控除することができる評価額は、
3000万円×150㎡÷150㎡×80%+1400万円×100㎡÷100㎡×50%=3100万円
になります。

この事例では上記の計算式による限度面積が200㎡の範囲内でしたが、計算した結果、200㎡を超える場合には特例が適用できる宅地等の一部が控除できなくなります。計算した結果、200㎡を超える場合、一番評価額を下げられるように有利判定を行い、限度面積が200㎡の範囲内になるように宅地等を選択するのが一般的ですが、自宅とアパートの宅地等のうち各面積をどれだけ適用するかは、小規模宅地等の特例が使える宅地等を取得した相続人間の協議により自由に選択することができます。

特定居住用宅地等と特定事業用宅地等についてこの特例を適用する場合、限度面積は以下のようになります。

特定居住用宅地等部分の限度面積は330㎡まで、特定事業用宅地等部分の限度面積は400㎡まで、合計で730㎡まで適用することができます。

特定居住用宅地等の土地は330㎡まで、特定事業用宅地等の土地は400㎡までこの特例を適用することができます。したがって、控除することができる評価額は
3000万円×150㎡÷150㎡×80%+4500万円×400㎡÷450㎡×80%=5600万円
になります。

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小規模宅地等の特例は評価額を最大80%下げることができるため、要件に該当する場合は相続税を大きく減らすことができます。ただし、この特例を使うためには留意点があります。

・相続税の申告書を提出していること
この特例を使うためには、納税額が0円になったとしても相続税の申告書は必ず提出しなければなりません。

・遺産分割が完了していること
この特例が適用できる範囲は遺産分割が確定している財産に限ります。そのため、申告期限までに遺産分割が確定していない宅地等についてはこの特例を適用することができません。

もし申告期限までに宅地等について遺産分割が確定しなかった場合、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することにより、申告期限から3年以内に遺産分割が確定したときは改めてこの特例を適用することができます。

・判断も計算も難しい、専門家に相談するのがベスト
亡くなった人の所有する宅地等が1カ所のみである場合、控除できる評価額は比較的想像しやすいと思いますが、所有する宅地等が2カ所以上あり有利判定が必要な場合は、どの宅地等を選択するかの判断や計算が非常に複雑になります。

また、ある相続人が評価額の高い宅地等を相続により取得したにもかかわらず、小規模宅地等の特例を適用することによりその相続人の納税額が極端に少なくなる場合、他の相続人と不公平感が生じる可能性があり、かえって「争族」になってしまう場合があります。そのため、小規模宅地等の特例を適用して相続の手続きを行う場合は、ぜひ相続に詳しい税理士に相談して対応してもらうことをお勧めします。

(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)