目次

  1. 1. 生前の相続放棄はできない
  2. 2. 生前に相続放棄してもらいたい場合の対処法
    1. 2-1. 遺言書を作成するだけでは不十分
    2. 2-2. 遺言書の作成に加えて遺留分の放棄をしてもらう
    3. 2-3. 推定相続人の廃除を申し立てる
    4. 2-4. 生前贈与する
    5. 2-5. 相続欠格について
  3. 3. 親の負債を相続したくない場合の対応
  4. 4. 死後に相続放棄する方法
    1. 4-1. 相続放棄の手続き
    2. 4-2. 相続放棄の期限
  5. 5. まとめ

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被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。「他の相続人から『相続しません』との念書を作ってもらっている」と相談を受けることも時折あるのですが、残念ながら、その念書に法的な効力はありません。そのため、その相続人が被相続人の死後に相続権を主張してきた場合、「念書があるから相続できないはずだ」と反論しても、法的には認められません。

では、生前に相続放棄してもらいたい場合はどうしたら良いのでしょうか。

特定の人に相続をさせたくない場合、その旨の遺言書を作るだけでは不十分です。具体的なケースに基づいて説明します。

例えば、相続花子さんには、一郎さん、次郎さんという2人のお子さんがいました。一郎さんは、長年の間、花子さんと同居して身の回りの世話をしてくれていました。これに対し、次郎さんは、花子さんと折り合いが悪く、遠方に居住していることもあって、花子さんに会いに来ることは一切ありませんでした。

そのため、花子さんは、遺産をすべて一郎さんに相続してもらいたいと考えるようになりました。この場合、一郎さんにすべての遺産を相続させる内容の遺言書を作成することが考えられます。

しかし、次郎さんには遺留分があります。次郎さんが遺留分を主張すれば、花子さんの遺産のうち4分の1は次郎さんが取得することになります。そのため、遺言書では、この遺留分に相当する部分まで放棄させることはできないのです。

そこで、遺言書を作成することに加えて、生前に遺留分を放棄してもらうという方法が考えられます。

遺留分を有する相続人は、被相続人の生存中に、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができます(民法1049条)。

家庭裁判所の許可が必要とされているのは、被相続人の生前は、被相続人から遺留分を有する相続人に対して、遺留分の放棄を迫るなどの不当な干渉が行われる可能性があるためです。そのため、裁判所に対して、遺留分を放棄する合理的な理由を説明する必要があります。

注意点は、上記制度は「遺留分の放棄」であって「相続放棄」ではないので、相続権は失われないということです。先程のケースでいえば、次郎さんに遺留分の放棄をしてもらっても、遺言書がなければ、次郎さんは、法定相続分どおり遺産のうち2分の1を相続できます。

そのため、遺留分の放棄だけではなく、その人に相続させない内容の遺言書を作成することも不可欠です。

家庭裁判所に推定相続人の廃除の申立てをするというのも一つの方法です。推定相続人の廃除とは、被相続人が、遺留分を有する相続人から虐待や重大な侮辱等を受けたことを理由に、家庭裁判所に申立てをして、その人の相続権をなくす制度のことです(民法892条)。家庭裁判所が廃除を認めれば、その人は相続権を失います。ただ、相続権を失わせるという強力な効果があるので、廃除を認めるかどうかは慎重に判断され、認められる場合は多くありません。

遺産を与えたくない相続人以外の人に、財産を生前贈与しておくという方法もあります。ただし、遺留分には注意が必要です。というのも、遺留分は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額」(民法1043条)で計算されるので、被相続人が生前に贈与した財産も含まれてしまう可能性があります。すべての生前贈与が含まれるわけではないので(民法1044条)、どの範囲の生前贈与が含まれるのかを踏まえて、生前贈与という方法をとるかどうかを検討すべきです。

相続欠格というのは、被相続人との身分関係からすると相続権があるものの、欠格事由に該当する場合には、当然に相続権が失われるという制度です。例えば、下記のような事由です(民法891条)これらの事由に該当すれば、その人は遺産を相続することができません。推定相続人の廃除のような申立ては不要であり、事由に該当すれば、当然に相続権を失います。

● 故意に被相続人や他の相続人を殺したこと
● 被相続人が殺されたことを知っていたのに告発や告訴をしなかったこと
● 詐欺や脅迫によって被相続人が遺言をしたりするのを妨げたこと
● 詐欺や脅迫によって被相続人に遺言をさせたりすること
● 被相続人の遺言書を破棄・隠匿したこと

親が多額の借金を負っており、生前に相続放棄をしてしまいたいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、上記のとおり、生前に相続放棄することはできないため、死後に相続放棄するしかありません。

親の負債が多くてお悩みであれば、弁護士に相談するなどして、生前から債務整理を進めることも一つの方法です。自己破産などの債務整理をすることで、借金が免除されたり、完済の目処を立てたりすることができますので、プラスの財産を相続人に残せる可能性が出てくるためです。ただ、親自身が債務整理に前向きでなければ、円滑に手続きを進めることはできません。将来の相続を見据えつつ、親と子で真摯に話し合って方針を決めることが大切です。

遺言書を書いてもらっても債権者からの請求に対抗できない

ちなみに、遺言書を書いてもらっても債務を免れることはできません。例えば、長男と次男の2人が相続人、親(被相続人)に1000万円の債務があるというケース。このケースで、生前から次男が「借金を引き継ぎたくないから相続放棄したい」と述べたことから「負債も含めて全財産を長男に相続させる。次男には負債を相続させない。」という遺言書を作成したとしましょう。

この場合、債権者が承諾すれば別ですが、債権者は、当然には、遺言書の内容に拘束されません。そのため、債権者は、遺言書の内容に関係なく、長男と次男にそれぞれ500万円ずつ請求することができます(民法902条の2)。次男が「遺言書に次男には負債を相続させないと書いてある」と主張しても認められません。

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被相続人が亡くなった後は、相続放棄が可能です。

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述書や被相続人の住民票除票、除籍謄本などの必要書類を提出します。詳細は裁判所のホームページなどで確認すると良いでしょう。

相続放棄の注意点は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければならないという期限が設けられていることです。つまり、被相続人が亡くなったことを知った日から3カ月以内が期限です。そのため、この期間内に相続財産の調査をし、相続するかどうかを判断する必要があります。

3カ月では期間が足りない場合、期間が経過する前に、期間の伸長の申立てをすることもできます。また、仮に3カ月を経過してしまった場合も、事情によっては相続放棄が認められる可能性もあります。これらの場合は、専門的な知見を要しますので弁護士に相談すると良いでしょう。

なお、上記の期間内であっても、相続財産を一部でも処分してしまうと、単純承認といって相続することを承認したと見なされて相続放棄ができなくなることがあります。相続するかどうかを決めるまでは、安易に相続財産を処分しないようにしてください。

【関連】相続放棄の前後にしてはいけないこと 遺品整理はダメ?葬式代は? 注意点を解説

生前に相続放棄をすることはできませんが、上記のとおり、代替策はあります。ケースによってどの方法が最適か変わるので、弁護士に相談することがおすすめです。

(記事は2021年4月1日時点の情報に基づいています)

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