目次

  1. 1. 死後に預金を引き出しても違法、罪にならないケース
    1. 1-1. 遺言書で預金を相続した
    2. 1-2. 預貯金の仮払制度を利用した
    3. 1-3. 裁判所で仮分割の仮処分が認められた
    4. 1-4. 死亡した人の預金を払い戻しは罪に問われないか注意が必要
  2. 2. 死後に預金を引き出してトラブルになるパターン
    1. 2-1. 相続分を超えて出金した
    2. 2-2. 使途を説明できない
    3. 2-3. 出金を隠していた
  3. 3. 死後は預金が凍結されて出金できなくなる
  4. 4. 凍結された預金を引き出す方法
    1. 4-1. 遺産分割協議書(調停・審判)
    2. 4-2. 相続人全員の協力
  5. 5. 死後に違法に預金を引き出されたときの対処方法
    1. 5-1. 遺産分割協議でまとめて解決する方法
    2. 5-2. 訴訟を起こす方法
  6. 6. まとめ 被相続人の預貯金を引き出す前に弁護士に相談を

被相続人(亡くなった人)の死亡によって、被相続人名義の預金は基本的に相続人全員の共有になります。そのため、相続人全員で遺産分割協議をしたうえで預金を引き出すことが望ましいでしょう。ただし、下記の場合は、一部の相続人だけで預金を引き出しても問題ありません。

「すべての遺産は○○に相続させる」「●●銀行□□支店の預金は○○に相続させる」などの遺言で当該預金を相続した場合、その相続人は単独で適法に預金を引き出すことできます。

令和元年7月に施行された改正相続法によって、遺産分割前に相続人が預貯金の一部を払戻しできる制度(預貯金の仮払制度)が制定されました(民法909条の2)。この制度を利用することで、各金融機関ごとに下記のうちの低いほうの金額を適法に引き出すことができます。

【預貯金の仮払制度】

  1. 死亡日現在の預貯金額×3分の1×各法定相続分
  2. 150万円

上記の預貯金の仮払制度では払い戻せる金額に限度があるため、それ以上の金額が必要な場合には不十分です。その場合には、裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を認めてもらうことで、預貯金の全部または一部を適法に引き出すことができます(家事事件手続法200条3項)。要件は下記のとおりです。

【預貯金債権の仮分割の仮処分の要件】

  1. 遺産分割の調停・審判が家庭裁判所に申し立てられていること
  2. 相続人が、相続財産に属する債務の弁済や相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金を払い戻す必要があると認められること
  3. 他の相続人らの利益を害さないこと

ひとりの相続人が他の相続人の了解を得ずに預金の払い戻しをしても、横領罪などの犯罪に問われる可能性は低いです。親族間の財産上の紛争については親族間に委ねるのが相当と政策的に考えられています。これを親族相盗例といい、刑事事件として立件されないケースがほとんどですが、他の相続人から不当利得返還請求や損害賠償請求をされる可能性はあります。

先述の遺言書や仮払制度を利用せずに単独の相続人の判断で被相続人の預金を引き出すと、法定単純承認とみなされ相続放棄や限定承認ができなくなる可能性もあるので注意が必要です。また次項で解説するとおり、正しい手順を踏まないと他の相続人とトラブルになるケースが考えられます。

関連記事:相続放棄ができない・認められない事例と手続きで失敗しないための対処法

被相続人と同居している家族などは、生前、口座からお金を引き出してくるように被相続人から頼まれるなどして暗証番号を知っていることも多いでしょう。その場合、被相続人の死後に、葬儀費用など当座の費用に充てるためにキャッシュカードを利用して同人名義の口座から引き出しをするケースは少なくありません。

しかし、後に他の相続人から不正に引き出したと追及を受けるおそれがありますから注意が必要です。あらかじめトラブルになるパターンを知っておきましょう。

相続分の範囲内での出金であれば、自身の取り分から先払いを受けたものとして精算できるため、トラブルになりにくいといえます。

しかし、相続分を超えて出金した場合には、他の相続人から「なぜ人の取り分を勝手に引き出しているのか」「ちゃんと返金してくれるのか」などと追及され、トラブルになりやすいものです。

そのため、葬儀費用などに充てるために引き出す必要があるとしても、必要最小限度の引き出しに止めておくことが望ましいでしょう。

「入院費として○○病院に支払った」「葬儀費用として●●社に支払った」など使途を明確に説明することができれば、他の相続人も納得しやすいでしょう。

しかし、「被相続人のための費用に充てたが、何の費用か細かく覚えていない」など使途を明確に説明できなければ、他の相続人から「自分のために使ったのではないか」と不審に思われ、トラブルになりやすいと考えられます。

そのため、使途については、あとから説明ができるように、請求書や領収書、メモを残しておくべきです。

勝手に預金を引き出したことに負い目を感じるなどして出金したことを他の相続人に隠していた場合、これがあとになって判明すると、他の相続人が「生前も勝手に出金していたのではないか」「他にも出金があるのではないか」など疑心暗鬼になってトラブルが拡大する可能性があります。

そのため、他の相続人と遺産の話になったら、できる限り早いタイミングで、出金した事実やその使途を説明しておくべきです。

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金融機関は、預金者が亡くなったことがわかるとその預金者名義の口座を凍結するため、それ以降は出金や振り込みなどができなくなります。

役所に死亡届を提出しても金融機関に情報共有されるわけではないため、親族などが直接金融機関に死亡の事実を伝えたタイミングで凍結されることが多いでしょう。なお、凍結される前にキャッシュカードなどを利用して出金しても必ずしも違法ではありません。

凍結された預金を引き出すための方法は下記のとおりです。1から3は前述のとおりですので、ここでは4と5を詳しく説明します。なお、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等の必要書類がそれぞれありますので、注意してください。

【凍結された預金を引き出す方法】

  1. 預貯金の仮払制度
  2. 預貯金債権の仮分割の仮処分
  3. 遺言書
  4. 遺産分割協議書(調停・審判)
  5. 相続人全員の協力

遺産分割協議とは被相続人の遺産の分け方を相続人全員で話し合って決めることをいい、決めた内容をまとめた文書が遺産分割協議書です。預金の取得者になった相続人はこの遺産分割協議書を使って預金を引き出すことができます。また、家庭裁判所での遺産分割調停や審判を利用した場合には、調停調書や審判書を使って預金を引き出すことができます。

遺産分割協議が成立していなくても、金融機関所定の書式に相続人全員で署名捺印することで、預金を引き出すことができます。

一部の相続人が、被相続人の死後に違法に同人名義の預金を引き出していた場合、どのように対処したら良いのでしょうか。

死後の引き出し分については、相続法の改正(令和元年7月1日施行)によって、預金を引き出した相続人以外の相続人全員が合意をすれば、遺産分割協議・調停・審判のなかでまとめて解決することが可能になりました(民法906条の2第1項)。

預金を引き出した相続人以外の相続人全員の合意が得られない場合や改正相続法が適用される前の相続については、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こして解決を図ることになります。

被相続人の死後に預金を引き出しても罪に問われる可能性は低いものの、相続人間でトラブルが起きたり返還請求や損害賠償請求を起こされる可能性があります。

相続トラブルを起こさずに預金を払い戻すには、弁護士に相談しておくと安心です。自己判断で行動する前に弁護士に相談すると良いでしょう。また、死後の預金の引き出しについて相続人間でトラブルになってしまった場合には、弁護士に相談してから対応を検討することがおすすめです。

(記事は2023年1月1日時点の情報に基づいています)