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1. 遺産分割協議書とは|法的に作成義務はないが、相続手続きに必要な書類
遺言書がない場合、相続人たちは遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。その協議で合意した結果をまとめた書類が、「遺産分割協議書」です。誰がどの財産を相続するか、ということが細かく書かれています。
法律上、遺産分割協議は口頭だけでも成立するため、遺産分割協議書は必ず作成しなければならない書面ではありません。しかし、口約束だけだと後になって「合意していない」「言った、言わない」というもめごとになりかねません。口約束の内容を立証するのは困難です。遺産分割協議書があれば話し合いの証拠となるため、こうしたトラブルを避けることができます。
また遺言書がない場合に遺産分割協議書も作成していなければ、不動産や車、預貯金などの名義変更の手続きを進められなくなってしまいます。相続財産を亡くなった方の名義のまま放置すれば、将来、大きなトラブルにつながる恐れがあります。遺産分割協議書は遺言書がない相続では必ず作成すべき書類です。
2. 相続開始から遺産分割協議書作成までの流れ
相続が始まってから、遺産分割協議書を作成するまでを簡単にまとめると、次のような流れになります。
【STEP①】遺言書の有無を確認
遺言書があれば、原則として遺言のとおりに遺産分割をすることになり、遺産分割協議書は不要です。被相続人(亡くなった人)の自宅や銀行、公証役場などを徹底的に探しましょう。また、2018年以降、法務局で自筆証書遺言が保管できるようになりました。最寄りの法務局で有無を確認できます。
【STEP②】相続人と相続財産の調査
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集めて、誰が相続人かを確定させます。同時に、預貯金や不動産などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産を洗い出します。ここで調査漏れがあると、遺産分割協議のやり直しやトラブルにつながるリスクがあるため、慎重に調査しましょう。
【STEP③】遺産分割協議
相続人全員で「誰がどの財産をどれだけ引き継ぐか」を話し合います。遺産の分け方を巡って話し合いがまとまらない場合は、弁護士に依頼しましょう。
【STEP④】遺産分割協議書の作成
遺産分割の内容について相続人全員の合意が得られたら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、不動産の所在や口座番号などを正確に記載し、財産を特定できるように記載するのがポイントです。具体的な書き方は後述します。
【STEP⑤】相続人全員が署名・押印
作成した遺産分割協議書に相続人全員が自署し、実印を押します。この際、全員分の印鑑証明書を添付しておくと、名義変更の手続きをスムーズに進められます。
遺産分割協議書は間違った方法で作成すると無効になり、相続手続きに使えなくなる恐れがあります。書き方に不安があるなら、弁護士に相談しましょう。
3. 【ひな形】遺産分割協議書を自分で書く際のポイント・注意点
遺産分割協議書の書き方に法的な決まりはありません。とはいえ、内容に不備があれば協議書が無効とされ、相続手続きが進まない原因になりえますので、書き方のポイントを押さえておくことは大切です。まずはひな形をみてください。
遺産分割協議書のひな型。財産の特定方法は財産の種類によって異なる
3-1. パソコンを使ってもかまわない
遺産分割協議書に決まった様式はありません。パソコンでも手書きでもかまいません。利用する用紙やペンなども自由です。パソコンを使える方なら、パソコンで作成してA4サイズの紙に印刷すると良いでしょう。
3-2. 作成日付を入れる
遺産分割協議書を作成した日付を書き入れましょう。
3-3. 被相続人(亡くなった人)の情報を記載する
「誰が財産を残したのか」という情報が必要です。亡くなった人の名前、逝去日、最後の住所、本籍地などを記載しましょう。
3-4. 相続人全員で協議して合意した旨を記載する
ひな形のように「妻 朝日和子」「長男 朝日一郎」など、きちんと続柄や氏名を書いて特定しましょう。
3-5. 誰がどの財産を相続するのか具体的に記載する
遺産分割協議書では「誰がどの財産を取得するか」を明らかにせねばなりません。そのためには「遺産の特定」が非常に重要です。遺産が正しく特定されなければ、遺産分割協議書が意味のないものになってしまいます。
遺産の特定方法は、財産の種類によって異なります。
【預貯金】
銀行名、支店名、口座番号、名義人の名前を書いて特定します。
【不動産】
「自宅」のようなあいまいな表記ではなく、登記簿謄本通りに書きましょう。そうでないと、相続登記(相続した不動産の名義変更)の手続きを行う際に法務局が受理してくれません。不動産の情報は、土地と建物に分けて以下の項目を記載します。
・土地:所在、地番、土地の種類(地目)、地積
・建物:所在、家屋番号、種類、建物の構造、床面積
なお、マンション等の区分所有権の場合は「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の表示」に分けて以下の項目を記載します。
・一棟の建物の表示:所在、構造、各階の床面積
・専有部分の建物の表示:家屋番号、建物の名称、種類、構造、床面積
・敷地権の表示:所在及び地番、地目、地積、敷地権の種類、敷地権の割合
不動産全部事項証明書の「表題部」をそのまま書き写しましょう。細かい数字が多いので、間違えないように慎重に対応する必要があります。
【株式】
株式などの有価証券については、預けている証券会社名、発行会社名、株式数を書きます。
【債務や負債】
プラスの財産だけでなく、負債のようなマイナスの財産についても記す必要があります。債権者、契約内容、債務残高について記載しましょう。
【自動車】
自動車については、車検証に記載されている自動車登録番号と車体番号を書きます。
なお、査定額が100万円以下の普通自動車であれば、遺産分割協議書ではなく「遺産分割協議成立申立書」を提出することで名義変更できます。書式は運輸支局の窓口か国土交通省のウェブサイトからのダウンロードで取得できます。
3-6. 生命保険金や死亡退職金は記載不要
生命保険金や死亡退職金は「受取人固有の財産」なので、遺産分割の対象になりません。従って、これらを受け取った人がいても遺産分割協議書に記載する必要はありません。
3-7. 後日判明した財産の取り扱いも明らかにしておく
遺産分割協議書の作成後、新たに財産が見つかるケースもあります。
そういった状況に備え、後から見つかった遺産をどのように取り扱うかも明らかにしておきましょう。たとえば「後から見つかった財産は、被相続人の妻 朝日和子が相続する」というように書いておけば、後に遺産が見つかったときにその部分について遺産分割協議をやり直す必要がなく、スムーズに解決できます。
3-8. 相続人全員が実印で署名押印する
遺産分割協議書の作成者は「相続人全員」なので、全員による署名押印が必要です。押印する印鑑は「実印」を使いましょう。一人でも欠けると無効になるので注意してください。署名は手書きが望ましいですが、パソコンによる印字でも問題ありません。
3-9. 複数ページにわたる場合は契印する
遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合には、ページの間に契印をするとよいでしょう。契印も相続人全員が実印で行います。遺産分割協議書が多くのページにわたる場合、押印箇所が少なくなるよう、袋とじで作成することをお勧めします。
3-10. 人数分を用意する
遺産分割協議書が完成したら、相続人が各自1通ずつ所持します。この協議書によって、各相続人が相続した財産の名義変更を行います。パソコンで作成した場合、人数分の部数を印刷しましょう。
4. 事例別の遺産分割協議書の書き方・文例
遺産分割の事例別に、遺産分割協議書の記載方法を紹介します。
4-1. 特定の相続人がすべて相続する場合
たとえば、被相続人の妻、長男、次男の3人で話し合った結果、被相続人の妻がすべての財産を相続する場合の文例は、以下のとおりです。
被相続人○○ ○○の死亡により、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の長男○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の通りに被相続人の財産を分割することに合意した。
第1条 被相続人が死亡時に有した一切の財産および債務は、被相続人の妻○○ ○○が単独で相続する。
4-2. 法定相続分どおりに分ける場合
たとえば、被相続人の妻、長男、次男の3人が法定相続分どおり(妻2分の1、長男4分の1、次男4分の1)に財産を分ける場合の文例は、以下のとおりです。
被相続人○○ ○○の死亡により、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の長男○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の通りに被相続人の財産を分割することに合意した。
第1条 被相続人が死亡時に有した一切の財産および債務について、被相続人の妻○○ ○○が2分の1、被相続人の長男○○ ○○が4分の1、被相続人の次男○○ ○○が4分の1の割合で相続する。
4-3. 不動産は特定の相続人が相続し、残りの財産は他の相続人が相続する場合
たとえば、被相続人名義の自宅不動産を長男が相続し、その他の預貯金等を妻と次男で分ける場合の文例は、以下のとおりです。
被相続人○○ ○○の死亡により、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の長男○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の通りに被相続人の財産を分割することに合意した。
第1条 下記の不動産は、被相続人の長男○○ ○○が単独で相続する。
(所在)○○県○○市○○町○丁目○番○号
(地番・家屋番号)○番○
(地目・種類)宅地・居宅
(地積・床面積)○○㎡
第2条 前条記載の不動産を除く一切の財産および債務は、被相続人の妻○○ ○○および被相続人の次男○○ ○○が均等に相続する。
4-4. 数次相続や代襲相続がある場合
数次相続(相続開始後、遺産分割前に相続人が死亡し、その相続人の地位を引き継ぐケース)や代襲相続の場合は、誰がどの立場で協議に参加しているかを明示する必要があります。たとえば、長男がすでに死亡しており、長男の子(被相続人の孫)が代襲相続するケースの文例は、以下のとおりです。
被相続人○○ ○○の死亡により、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○、および被相続人の長男○○ ○○(令和○年○月○日死亡)の代襲相続人である○○ ○○の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の通りに被相続人の財産を分割することに合意した。
第1条 被相続人が死亡時に有した一切の財産および債務は、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○、代襲相続人○○ ○○が、それぞれ法定相続分に従い相続する。
4-5. 換価分割や代償分割をする場合
換価分割(遺産を売却して代金を相続人で分ける方法)と代償分割(特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法)では、それぞれ文言を明確に記載する必要があります。たとえば、長男が自宅不動産を取得し、妻と次男に代償金を支払う代償分割の文例は、以下のとおりです。
被相続人○○ ○○の死亡により、被相続人の妻○○ ○○、被相続人の長男○○ ○○、被相続人の次男○○ ○○の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の通りに被相続人の財産を分割することに合意した。
第1条 下記の不動産は、被相続人の長男○○ ○○が単独で相続する。
(所在)○○県○○市○○町○丁目○番○号
(地番・家屋番号)○番○
(地目・種類)宅地・居宅
(地積・床面積)○○㎡
第2条 被相続人の長男○○ ○○は、前条の代償として、被相続人の妻○○ ○○に金○○万円、被相続人の次男○○ ○○に金○○万円を、令和○年○月○日までに支払う。
5. 遺産分割協議書が必要な手続き
遺産分割協議書が完成したら、それを使って名義変更などの相続手続きを進めます。遺産分割協議書が必要となる手続きには、主に以下のものがあります。
5-1. 相続税の申告
遺言書ではなく、遺産分割の結果にもとづいて税務署で相続税を申告する際、遺産分割協議書を添付しなければなりません。
5-2. 不動産の名義変更(相続登記)
不動産を相続する人は、法務局で「相続登記(名義変更)」をしなければなりません。その際に遺産分割協議書が必要です。その他、被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類、住民票の除票、相続人の住民票や相続人全員分の印鑑登録証明書などの必要書類も集めてから登記申請しましょう。
手間を省きたい方や自分でうまく進める自信がない方は、遺産分割協議書を司法書士に預けて相続登記を依頼するようお勧めします。
また、相続登記申請時に法務局で「法定相続情報証明書」を発行してもらっておくと、預貯金や株式の名義変更の際に使えて便利です。不動産の名義変更の際、一緒に相続人関係図(家系図)を提出して、引き換えに法定相続情報証明書を発行してもらいましょう。
5-3. 預貯金の名義変更、解約払戻し
預貯金を相続した人は預貯金の名義変更あるいは解約払い戻しを行います。
預け先の金融機関に遺産分割協議書を持参して、名義変更や解約払い戻しの申請書を書いて提出しましょう。
書式や必要書類は金融機関によって異なるので、各金融機関に問い合わせながら手続きを進めます。
5-4. 株式の名義変更
株式を相続した人は、遺産分割協議書を使って株式の名義変更を行いましょう。まずは相続人名義の証券口座を開設し、そこに名義変更した株式を預け入れます。証券会社ごとの申請書や必要書類があるので、担当者に問い合わせながら手続きを進めましょう。
非上場株式の場合には株式発行会社へ問い合わせをして必要書類を集め、名義変更しましょう。
5-5. 車の名義変更
車の名義変更は、管轄の「運輸支局」で行います。必要書類を揃えて名義変更を申請しましょう。軽自動車の場合には、軽自動車検査協会が窓口となり、一般の車両と異なるので間違えないように注意してください。
6. 遺産分割協議書を守らない相続人への対処方法
遺産分割協議書の内容を守らない相続人がいても、遺産分割協議自体を白紙に戻すことは基本的にできません。この場合には、協議書の内容を履行させるために調停、訴訟や強制執行を行う必要があります。
まずは遺産分割後の紛争調整調停を申し立てて、それでも解決できなければ義務の履行を求める訴訟を起こしましょう。判決が確定しても相手が判決に従わなければ強制執行を行う必要があります。なお、この類型の紛争には「調停前置主義」が適用されるので、先に調停をしなければ訴訟提起できません。順番を間違えないようにしましょう。
7. 遺産分割協議書の作成はどの専門家に依頼すべき?
遺産分割協議書の作成は、弁護士などの専門家に依頼できます。自分での作成も可能ですが、不備があると相続手続きができなくなるリスクがあります。状況に応じて、適切な専門家に依頼するのが安心です。
たとえば、相続人同士でもめていて協議自体がまとまらない場合は、弁護士に依頼するとよいでしょう。弁護士は遺産分割協議を代理でき、付随する業務として遺産分割協議書の作成も行います。
トラブルがなく、遺産に不動産が含まれている場合は、司法書士にも依頼できます。遺産分割協議書の作成と併せて、相続登記も依頼できます。
トラブルがなく、遺産に不動産がない場合は、行政書士への依頼を検討してもよいでしょう。行政書士は預貯金の解約払い戻しや、自動車の名義変更などの手続きができます。
相続税がかかる場合は税理士への依頼をお勧めします。相続税の申告が必要なのは、遺産総額が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額を超えるケースです。税理士は相続税申告を代行でき、付随する業務として遺産分割協議書の作成も行います。
その専門家に相談すべきか分からない場合は、初回無料相談を行っている専門家事務所や自治体の士業相談などで聞いてみるとよいでしょう。
8. 遺産分割協議書についてよくある質問
Q.遺産分割協議書に作成期限はある?
遺産分割協議書の作成に期限はありません。ただし、遺産分割協議書の写しの提出が求められる相続税申告には期限があり、「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」に行う必要があります。
相続税の申告期限に遅れると、加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。そこで、遅くとも相続税の申告期限までには遺産分割協議ができているのが望ましいでしょう。相続税の申告がある人は、相続開始後8カ月から10カ月程度を目処に遺産分割協議書の作成を進めると安心といえます。
また、相続登記についても、「相続の開始および不動産の取得を知った日から3年以内」の期限があります。手続きを怠ると、過料の制裁を受ける可能性があるため注意してください。
Q. 遺産分割協議書の用紙はどこでもらえる?
遺産分割協議書の書き方には法的な決まりはないため、用紙については役所や法務局などでもらえるものではなく、自分で用意する必要があります。紙のサイズや色にも指定はありませんが、パソコンを使うのであれば、一般的なA4サイズの白い用紙がよいでしょう。
Q. 後日、遺産分割協議書に記載されていない遺産が見つかった場合はどうなる?
遺産分割協議書に「後日判明した財産は○○が相続する」と書いておけば、その相続人が相続することになります。こうした指定がない場合は、新たに見つかった遺産の分け方について、再び相続人全員で話し合って決める必要があります。トラブルを避けるためにも、遺産分割協議書には後日判明した遺産の取り扱いを明記しておきましょう。
Q. 遺産分割協議書を無くしたらどうすればいい?
遺産分割協議書は、相続手続きの際に各自で利用できるように、相続人全員分の部数を作成した上で、各相続人が保管します。もしも無くしてしまった場合、ほかの相続人に遺産分割協議書の原本を借りて手続きを行うことが考えられます。
なお、ご自身の分の原本を再作成するためには、ほかの相続人全員に連絡して、再び調印してもらう必要があります。調印に協力してくれない相続人がいる場合、その遺産分割協議書を再発行することはできません。紛失トラブルを防ぐため、遺産分割協議書は、鍵のかかる引き出しや金庫など安全な場所に保管しましょう。
9. まとめ 遺産分割協議書の作成に不安があれば、弁護士や司法書士に相談を
遺産分割協議書は、相続トラブルを防ぎ、相続手続きをスムーズに進めるための基本の書類です。自分たちで書くことは可能ですが、正しい方法で作成しないと無効になり、相続手続きにも使えなくなる恐れがあります。
もし遺産分割協議書の書き方に不安があるなら、司法書士や弁護士などの専門家に相談したり、作成を依頼したりすることも検討してみましょう。
(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)
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