遺留分侵害額請求に精通した弁護士を探す
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1. 遺留分とは|一定の相続人に最低限保障される遺産取得分
遺留分の読み方は「いりゅうぶん」です。遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得分です。簡単に言うと「最低でもこれだけの遺産をもらう権利がある」と主張できる取り分を指します。
1-1. 遺留分は遺言よりも優先される権利
遺留分は遺言によっても奪うことはできません。
たとえば、遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」など、明らかに不公平な遺産分割の内容が書かれていることがあります。この場合でも、一定の範囲の相続人は遺留分を主張することで遺言よりも遺留分が優先され、最低限の遺産を受け取ることができます。
1-2. 遺留分を侵害されたら「遺留分侵害額請求」ができる
遺留分を侵害されていたら、侵害した相手に「遺留分侵害額請求」を行います。遺留分侵害額請求とは「遺留分をお金で返してもらう手続き」です。たとえば長男への遺贈によって、被相続人の妻の遺留分が750万円分侵害されたら、妻は長男に750万円の「お金」を請求できます(遺留分侵害額請求の方法については後述)。
なお、遺留分の請求方法は、2019年7月1日に施行された改正相続法によって変更されています。改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれており、遺留分を「お金」ではなく「遺産そのもの」で取り戻す手続きでした。法改正によりお金での精算が原則となったことで、遺産が共有状態になるリスクが解消され、早期のトラブル解決が期待できるようになりました。
1-3. 遺留分は放棄できる
遺留分はあくまで「権利」なので、請求するかどうかはその相続人次第です。遺言書に「配偶者に全財産を相続させる」と書いてあったとしても、その他の相続人である子どもたちが遺言の内容に納得していれば問題ありません。
また、遺留分は被相続人の生前に放棄することもできます。ただし、遺留分の生前放棄が認められる条件は厳しいです。放棄する相続人が家庭裁判所に申し立てて許可を得る必要があり、「遺留分を放棄する」といった念書だけでは無効です。なお、家庭裁判所で遺留分の放棄が認められると、撤回は難しくなります。
遺留分を請求するには、複雑な計算をしたり、ほかの相続人と話し合ったりしなければなりません。相続人同士が対立していたら、なおのこと大変です。弁護士に相談すると心強い味方になってもらえます。
2. 遺留分が認められる相続人の範囲
法定相続人であれば誰にでも遺留分が認められるわけではありません。遺留分侵害額請求ができる相続人は、法律で定められています。
2-1. 遺留分が認められる相続人|兄弟姉妹には遺留分がない
遺留分が認められるのは、亡くなった人の配偶者、子どもや孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属です。
遺留分が認められる相続人の図。亡くなった人の兄弟姉妹と甥姪には遺留分がない
実子だけでなく養子縁組をした普通養子・特別養子も遺留分の権利を持ちます。
なお、亡くなった人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合に代襲相続人となる甥姪には遺留分がありません。
2-2. 遺留分が認められないケース
亡くなった人の配偶者や直系尊属、直系卑属であっても、以下に該当する人には遺留分が認められません。
【相続欠格者】
相続欠格者とは被相続人の生命を脅かす重大な犯罪行為をした人や、詐欺または脅迫によって遺言を書かせたり撤回させたりした人など欠格事由に該当する人です。欠格事由に該当する場合、自動的に相続権が剥奪されます。
【相続廃除された人】
相続廃除とは、被相続人への虐待や重大な侮辱、その他著しい非行などがあった人の相続権を剥奪する手続きです。自動的に相続権が剥奪される相続欠格とは異なり、被相続人本人が生前、家庭裁判所に廃除を申し立てる必要があります。
【遺留分放棄をした人】
被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄した場合、遺留分を請求する権利は完全になくなります。被相続人が亡くなった後でも原則として放棄の撤回はできません。
【相続放棄した人】
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産も負債などのマイナスの財産も一切相続しないことで、家庭裁判所に申述をして行います。相続放棄が認められると最初から相続人ではなかったとみなされるため、遺留分の請求権もなくなります。
3. 相続人ごとの遺留分の割合と計算方法
誰が法定相続人となるかによって、遺留分の割合が異なります。
遺留分の割合は「法定相続分の半分」(直系尊属者のみが相続人の場合は「法定相続分の3分の1」)と理解しておくとわかりやすいでしょう。法定相続分とは、法律で定められた遺産の分け方の目安となる割合です。
例えば、相続人が、亡くなった人の配偶者と子ども2人(兄弟)の場合、配偶者の法定相続分は「2分の1」ですので、遺留分は「4分の1」となります。子どもの法定相続分は「2分の1」で、それをきょうだいの人数で割るので、一人あたりは「4分の1」です。遺留分はさらにその半分ですので、子ども一人の遺留分は「8分の1」となります。
したがって、遺産が3000万円ある場合の遺留分は、以下のとおりになります。
・配偶者:3000万円×4分の1=750万円
・長男 :3000万円×8分の1=375万円
・次男 :3000万円×8分の1=375万円
相続人ごとの遺留分の割合を一覧表にまとめましたので、参考にしてください。
相続人ごとの遺留分割合の一覧図。相続人の組み合わせによって、それぞれの遺留分は異なってきます。
なお、法律の条文に沿った計算方法は、以下の2つのステップを踏みます。
①総体的遺留分(遺留分の合計)を計算する
②総体的遺留分に各相続人の法定相続分を掛けて個別の遺留分を算出する
たとえば、先ほどと同じ事例(遺産総額3000万円、妻と子ども2人が相続人)で計算してみましょう。
上の表通り、直系尊属のみが法定相続人の場合を除き、総体的遺留分(遺留分の合計)は遺産総額の2分の1です。法定相続分は妻が2分の1、子ども2人は合計2分の1(それぞれは半分の4分の1)です。したがって、それぞれの遺留分は以下のとおりです。
①総体的遺留分(遺留分の合計)
3000万円×2分の1=1500万円
②個別の遺留分
・妻 :1500万円×2分の1=750万円
・長男:1500万円×4分の1=375万円
・次男:1500万円×4分の1=375万円
計算式こそ異なりますが、さきほど紹介した「遺留分の割合は法定相続分の半分」との考え方を採用した計算結果と同じになります。
ただし、「亡くなった人の兄弟姉妹(代襲相続人の甥・姪)」が法定相続人に含まれる場合、この考え方は当てはまらないため注意が必要です。被相続人の兄弟姉妹には遺留分の権利はないため、遺留分の計算では存在しないものとして扱われます。
4. 遺留分侵害額請求の方法と流れ
遺留分を侵害されたら、侵害した人に対して遺留分相当の金銭の支払いを請求できます。その方法について解説します。
4-1. まずは話し合い
遺留分侵害額請求を行うとき、通常は相手との話し合いから始めます。穏便に話ができそうであれば、電話やメールなどで話を持ちかけても良いですが、もめそうな場合には内容証明郵便で遺留分を請求してから話し合いましょう。その理由は後に説明する「時効」を止めるためです。
相続人同士で合意できたら「遺留分侵害額についての合意書」を作成し、合意内容に従って支払いを受けます。
4-2. 話し合いが決裂したら、調停
直接話し合いをしても合意できない場合には、家庭裁判所で「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。裁判所の管轄は、相手の住所地の家庭裁判所です。なお、遺留分侵害額請求では、調停を申し立てずに訴訟を提起することはできません。
調停を申し立てると、家庭裁判所の2名の調停委員が間に入って調整を進めます。相手が「遺留分を払いたくない」と言っても、調停委員が「法的な権利があるから払わざるを得ない」と説得してくれます。遺留分侵害額の金額や支払い方法について合意ができれば調停が成立して、お金を払ってもらえます。
4-3. 調停でも無理なら、訴訟
調停では合意がない限り、遺留分の支払いを強制できません。調停での話し合いも決裂した場合には、遺留分侵害額請求訴訟を行います。裁判所が遺産を評価して遺留分を計算し、相手に支払い命令を下します。調停と違い、話し合いではないので当事者の合意は不要です。
裁判で主張を認めてもらうには、法的に正しい主張を行い、それを根拠づける資料の提出が必要です。自分一人では対応仕切れないので弁護士に依頼する必要があります。
5. 不公平な遺言以外に、遺留分を請求できるケース
遺留分が侵害されるのは、不公平な内容の遺言書がある場合だけではありません。被相続人による生前の多額な贈与も遺留分侵害につながるケースがあります。
例えば、以下のような事例です。
・遺産 :貯金1000万円
・相続人 :長男と次男
・過去の贈与:被相続人が亡くなる5年前に、長男に自宅購入資金として3000万円を贈与
この場合、残された貯金1000万円だけを見ると、兄弟はそれぞれ500万円ずつ均等に取得することが公平に思われます。
しかし法律上、このような生前贈与は「遺産の前渡し」(特別受益)の扱いとなり、遺産分割や遺留分の計算においては、この贈与分を相続財産に加算するのが原則です。従って、この場合、4000万円(貯金1000万円+生前贈与3000万円)をもとに、遺産分割や遺留分を考えることになります。
この原則に基づくと、次男に保障されるべき遺留分は1000万円です(遺産4000万円×遺留分割合4分の1)。したがって、長男が「1000万円を均等にわけるべきだ」と主張したとしても、次男は不足分の500万円を遺留分侵害額として請求できます。
6. 遺留分の請求期限(時効)に注意!
遺留分侵害額請求権には時効が適用されるので注意が必要です。
6-1. 遺留分侵害額請求の時効と除斥期間|「1年以内」
遺留分侵害額請求権は「相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内」に遺留分を請求する必要があります。被相続人が死亡したことと不公平な遺言や贈与があったことを知りながら1年間放置すると、遺留分を請求できなくなります。また相続開始や遺留分侵害を知らなくても、相続開始から10年経過したら「除斥期間」によって遺留分を請求できなくなります。
6-2. 遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に請求をすれば止めることができます。請求の方法について特に決まりはありませんが、証拠を残すために「内容証明郵便」を使いましょう。口頭や普通郵便などで連絡すると「知らない」と言われて時効の成立を主張されるリスクがあるからです。
6-3. 生前贈与は、「特別受益」であれば「10年以内」
法定相続人への生前贈与によって遺留分が侵害されていた場合、「特別受益」と認められるのは、相続開始前10年以内の贈与に限られます。
法定相続人以外への生前贈与では「相続開始前1年以内」が対象です。
ただし、どちらの場合でも、被相続人と贈与を受けた人の双方が「贈与によって遺留分を侵害する」と知りながら贈与した場合には、贈与の時期を問わず遺留分請求の対象になります。
7. 遺留分侵害額請求を弁護士に相談するメリット
遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すると、主に以下のようなメリットがあります。
- 遺留分を正確に計算してもらえる
- 請求する相手との話し合いを任せられる
- 調停や訴訟などの手続きを代行してもらえる
- 時効が成立するリスクを防げる など
遺留分を請求する相手は、親や兄弟姉妹であることも多く、当事者同士でお金の話をするのは精神的ストレスになります。また、親族だからこそ感情的になり話し合いがまとまらない可能性もあります。弁護士に対応してもらうことで、スムーズかつ有利に交渉が進められるでしょう。
なお、遺留分を取得すると相続税がかかる可能性があります。相続税の計算や申告などは、税理士のサポートが必要です。
8. 遺留分に関してよくある質問
Q. 遺留分侵害額請求は自分でできる?
遺留分侵害額請求は自分でもできます。ただし、自分で請求すると相手が真剣に対応してくれなかったり、話し合いでトラブルに発展したりするリスクがあります。
話し合いを有利かつ円滑に進めたいなら、弁護士への依頼をお勧めします。調停や裁判になった場合でも書類の作成や収集などを任せられるため、精神的なストレスを軽減できます。
Q. 相続人に遺留分を渡さなくてもいい方法はある?
遺留分の放棄や相続放棄を求める、相続廃除をする、相続欠格を主張するなどの方法があります。
ただし、遺留分の放棄や相続放棄は相続人本人が任意で行うものなので、強制することはできません。法的拘束力はないものの、遺言書に付言事項として「遺留分侵害額請求をしないでほしい」というメッセージを記載しておくと、請求を思いとどまってくれる可能性があります。
Q. 遺産が不動産しかない場合の遺留分はどうなる?
遺産が不動産しかない場合でも、遺留分を請求すれば侵害額に相当する金銭の支払いを受けられます。土地や建物に対する遺留分の金額は「相続開始時の評価額」が算定基準となります。評価方法には、地価公示や相続税路線価、不動産鑑定評価額などがあります。
不動産の評価方法や価額について、遺留分を請求する側とされる側で主張が対立する可能性があるため、弁護士などの専門家に相談しましょう。
Q. 遺留分侵害が複数の方法で行われていた場合、どのような順番で請求すればいい?
遺留分侵害額請求の対象は「遺贈」「死因贈与」「生前贈与」の3種類です。遺贈と死因贈与と生前贈与が複数行われている場合、法律によって以下のように請求する順番が決まっています。
①遺贈
②死因贈与
③生前贈与(日付の新しいものから)
まずは遺贈です。遺贈と生前贈与がある場合は、先に遺贈が対象となります。つまり、遺言によって遺産を引き継いだ相手に対して遺留分侵害額の支払いを求め、それでも足りないときに贈与を受けた相手に支払いを請求します。
次に対象となるのは死因贈与です。死因贈与は、死亡を原因として贈与する契約です。遺言による相続と似ているものの、遺言は被相続人の一方的な意思表示であるのに対し、死因贈与は双方の合意によって成立する点で異なります。遺留分を侵害する死因贈与が行われていた場合、死因贈与の受贈者に対して遺留分侵害額を請求できます。
最後に、生前贈与です。生前贈与が複数ある場合には「日付の新しいものから先に」対象となります。たとえば2018年10月の生前贈与と2015年6月の生前贈与がある場合、2018年に生前贈与を受けた相手に先に遺留分侵害額請求を行います。同時に生前贈与を受けた相手が複数いる場合には、贈与額の割合に応じて按分して遺留分の請求を行います。
9. まとめ 遺留分が侵害されたら早めに弁護士に相談を
不公平な遺言書が見つかったり、多額の贈与が行われていたりしたら、遺留分を請求できる可能性があります。
ただし親族間での遺留分侵害額請求は、話し合いが進まずにトラブルに発展してしまうおそれがあるため、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。弁護士に依頼すれば、請求できる遺留分の額を正確に計算し、法的知識にもとづいて交渉を進められます。
遺留分請求できるのかどうか、どのくらい請求できるのか、まずは弁護士に相談してみましょう。
(記事は2025年10月1日時点の情報に基づいています)
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