目次

  1. 1. 未成年者の子と親が相続人のケースは特別代理人が必要
    1. 1-1. 親は子どもの法定代理人になる
    2. 1-2. 親が子どもの利益相反とは?
    3. 1-3. 特別代理人が不要のケース
  2. 2. 未成年の特別代理人とは
    1. 2-1. 特別代理人の役割
    2. 2-2. 特別代理人の候補者について
  3. 3. 特別代理人の選任・手続き方法
    1. 3-1. 費用について
    2. 3-2. 必要書類
    3. 3-3. 家庭裁判所の審理
  4. 4. 特別代理人が選任された後の手続き

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未成年の子どもとその親が相続人になる場合、特別代理人を選任しなくてはいけません。その理由と背景である利益相反について解説します。

通常では、親は子どもの法定代理人としていろいろな契約行為等を行います。遺産分割協議も法律行為の一種なので、基本的には法定代理人が代行します。しかし、相続の場合は、親と子で利害が対立する可能性があるため、特別代理人が必要となります(親が相続人でなければ、子どもの代理人になれます)。

親と子どもの双方が相続人になっている場合、親が子どもを代理して遺産分割協議を進めてしまうと、親が自分の利益を優先して遺産を多めに獲得し、子どもの権利を害してしまう可能性があります。このように、親と子どもの利害関係が対立することを「利益相反」と言います(子どもが有利な内容であっても親との利益相反となるので代理人は必要です)。

親と子どもが利益相反する場合、親が子どもを代理して遺産分割協議をしても無効になります。親が子どもの法定代理人として署名した遺産分割協議書があっても、不動産の名義書換や預貯金の払い戻しなどを受け付けてもらえません。そのため、未成年の子どものために「特別代理人」を選任する必要があります。

相続人が未成年でも、以下のような場合には特別代理人の選任は不要です。

  • 親権者が相続人でない場合
    たとえば親権者の前婚の際の元夫(子どもの父親)が死亡した場合など、子どもは相続人となっていても親権者は相続人にならないケースでは、特別代理人の選任は不要です。
  • 親権者が相続放棄した場合
    親権者が相続放棄して子どもは相続する場合、特別代理人の選任は不要です。親権者と子どもの両方が相続放棄する場合でも特別代理人は必要ありません。
  • 遺産分割協議をせずに法定相続分とおりに相続する場合
    遺産分割協議を行わず、不動産を相続人全員の共有名義(持分割合は法定相続分とおり)に登記する場合などには特別代理人の選任が不要です。

特別代理人とは、未成年者や認知症の方などで判断能力が低下している方(成年被後見人)の代わりに特定の法律行為を行うために選任される代理人です。未成年者と親、認知症の母とその後見人である子ども(成年後見人)の利益が相反し、法定代理人としての職責を果たせない場合などに選任されます。

特別代理人が選任されたら、特別代理人が子どもの代わりに親と遺産分割協議をして相続方法を決めることが可能です。子どもが複数いる場合、子ども同士の利益も対立するので、子どもの人数分の特別代理人が必要となります。

特別代理人は以下のような役割を負います。

  • 遺産分割協議の参加
    特別代理人は親権者に代わって遺産分割協議に参加します。このことにより、親権者と子どもの利益が相反するケースでも遺産分割協議を成立させられます。
  • 未成年の相続人に不利にならないようにする
    特別代理人は子どもの利益を守らねばならず、遺産分割協議を進める際、子どもにとって不利な内容で成立させてはなりません。原則的に最低限、子どもの法定相続分は確保する必要があります。たとえば子どもの配偶者と子どもが相続する場合、子どもの相続割合を2分の1以下に減らすことは認められないのが原則です。
  • 遺産分割協議の署名・捺印、その他必要な手続きの代行
    特別代理人は遺産分割協議書に署名押印をして遺産分割協議書を完成させる役割を負います。また相続登記を行う際の署名押印、金融機関で預金払い戻しを行う手続きなど、各種相続手続きにおいても子どもの代理人として活動します。

特別代理人選任の申立をするときには「候補者」を立てることができます。特別な資格は必要ないので、一般的には相続人になっていない親族を候補者にするケースが多数です。たとえば、未成年者の叔父や叔母などを候補者にすることが可能です。また親族に適任がいなければ、友人などでも問題ありません。

ただし、先述した特別代理人としての役割や職務が全うできる方である必要があり、裁判所は未成年者との利害関係の有無を確認するので、注意が必要です。 

特別代理人が身近にいなかったり、候補者が家庭裁判所から適任ではないと判断された場合は、家庭裁判所が弁護士を選任します。このようなケースでは、誰が弁護士となるかはわかりませんし、相性が合わないことも考えられます。心配な場合は、申立をする前に専門家に相談すると良いでしょう。

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特別代理人が必要な場合、親権者または利害関係者が子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に選任の申立手続きを行います。

特別代理人の申立に必要な費用は、未成年者1人につき、収入印紙800円と返信用の切手代、戸籍謄本等の取得費用となります。また特別代理人に報酬が発生する場合もあります。

特別代理人に報酬が発生するのは以下のようなケースです。

  • 専門家に申立を依頼した場合
    司法書士や弁護士などの専門家に特別代理人の選任申立を依頼すると、申立にかかる報酬が発生します。
  • 専門家を候補者にして選任された場合
    特別代理人を選任する際には、候補者を立てることができます。司法書士などの専門家を候補者にしてそのまま選任されると、特別代理人の業務について費用(報酬)が発生します。
  • 候補者を記載せず裁判所が選任した場合
    特別代理人の選任申立を行う際、候補者を立てなくてもかまいません。その場合には家庭裁判所が専門家の中から特別代理人を選任します。専門家が特別代理人に選任される場合には予納金として先に報酬を納める必要があります。

申立に必要な書類は下記になります。

【特別代理人選任の申立の必要書類】

  • 申立書(下記、裁判所のホームページを利用しましょう)
  • 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
  • 利害関係を証する資料(利害関係人からの申立の場合)

申立の際には、遺産分割協議書の案をつけなければなりません。基本的には法律上で定められた各相続人の遺産の割合である「法定相続分」に従った分割案になっていることが望ましいのですが、配偶者が多めに遺産を相続すべき事情があれば、配偶者の取得分を多めにすることができます。

たとえば現在居住している家を配偶者が受け取りたい場合、生活費として大きな金額のお金が必要な場合などには、配偶者に遺産の大部分を取得させる内容の協議書案も認めてもらえます。

申立書を提出すると、家庭裁判所で審理が始まり、一般的に1カ月ほどで結果が出ます。問題がなければ特別代理人が選任されたことを証明する「特別代理人選任審判書」が届きます。場合によっては、追加での書類や回答書を求められることもあります。

特別代理人が選任されたら、配偶者が特別代理人と遺産分割協議を行って遺産分けを行います。特別代理人が子どもの代理人として署名押印すれば、遺産分割協議書を有効なものとして利用できます。たとえば不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどの相続手続きも進められます。
特別代理人は、遺産分割協議のためだけに選任された特別な代理人なので、遺産分割協議が終わったら任務を終了します。その後、利害が対立しない限りは、法定代理人である親が未成年者の代理を務めることができます。
遺産相続するとき、未成年の子どもがいると複雑な相続手続きが必要になる可能性があります。迷ったときには、弁護士に相談してみてください。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)

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