目次

  1. 1. 時効と期限の違い
    1.  相続に関する主な時効と期限の一覧表
  2. 2. 相続に関する主な「時効」
    1. 2-1. 遺留分侵害額請求権の時効は1年または10年
    2. 2-2. 相続した債権の時効は5年または10年
    3. 2-3. 相続回復請求権の時効は5年または20年
    4. 2-4. 相続税の徴収権の時効は5年
  3. 3. 相続に関連する時効の完成を阻止する方法
    1. 3-1. 時効の完成猶予(停止)
    2. 3-2. 時効の更新(中断)
  4. 4. 相続に関する主な「期限」
    1. 4-1. 相続放棄の期限は3カ月後
    2. 4-2. 準確定申告の期限は4カ月後
    3. 4-3. 相続税申告の期限は10カ月後
    4. 4-4. 相続登記の期限は3年後
    5. 4-5. 相続税の更正や決定の期限は5年後または7年後
  5. 5. まとめ

法律上、「時効」と「期限」は以下のように区別されています。

時効:時効期間を経過すると(=時効の完成)、権利を行使できなくなります。
期限:公的機関との関係で行う手続きについて設けられています。期限を経過した場合の効果は、手続きによって異なります。

相続については、さまざまな時効や期限が設けられています。相続に関する主な時効と期限は、以下の表のとおりです。各時効と期限の詳細については、追って詳しく解説します。

手続きによって時効期間は異なります。最低限の遺産取得分が守られる​遺留分侵害額請求権は1年が時効となっているので注意しましょう
相続に関する主な期限
相続放棄は3カ月、亡くなった人の生前の所得税に関する準確定申告は4カ月など、期限が短いものもある点を認識しておきましょう

時効は、相続に関して発生する債権(請求権)について問題となります。「債権」とは、相手に対して、金銭の支払いなど何らかの行為を請求する権利です。

相続に関して発生する債権の概要と、各債権に設定されている時効期間を解説します。

「遺留分侵害額請求権」は、遺言書や生前贈与により、偏った遺産の配分が行われた場合に問題となります。

配偶者、子、直系尊属などの兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。遺留分とは、相続できる遺産の最低保障額です。

遺留分未満の遺産しか取得できなかった場合は、遺留分侵害額請求を行うことで、多くの遺産を取得した者から金銭の支払いを受けられます(民法1046条1項)。

遺留分侵害額請求権の時効期間は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年です。また、相続開始のときから10年を経過した場合も、同様に遺留分侵害額請求権が時効消滅します(民法1048条)。

相続人ごとの遺留分の割合
遺留分とは、相続できる遺産の最低保障額のこと。配偶者と子一人の場合、それぞれ最低でも4分の1を受け取る権利があります

【関連】遺留分侵害額請求とは? 協議から調停・訴訟までの流れ、時効を解説

被相続人(以下「亡くなった人」)が死亡時に有した債権は、相続人によって相続されます。

<相続する債権の主な例>

  • 預金債権
  • 貸付債権
  • 売掛金債権

相続した債権は、その発生時期により、以下の期間が経過すると時効消滅します。2020年4月1日以降に発生した債権は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年のいずれかが経過した時点で時効消滅します。それより前に発生した債権の時効期間は、権利を行使できるときから10年です。

債権とは金銭の返還を請求する権利のこと。2020年4月1日以降に発生した債権は権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年で時効を迎えます

債権の発生時期によって時効期間が異なるのは、2020年4月1日に改正民法が施行され、時効に関するルールが変更されたためです。

「相続回復請求権」とは、相続権のない人が遺産を勝手に管理や占有している場合に、相続人が遺産の取り戻しを請求する権利です。

たとえば、相続欠格(民法891条)に該当して相続権を失った人が、自らの相続権を主張して遺産を管理したり占有したりしている場合には、相続人が相続回復請求権を行使できます。

相続回復請求権の時効期間は、相続人またはその法定代理人が、相続権を侵害された事実を知ったときから5年です。また、相続開始のときから20年が経過した場合も、相続回復請求権は時効消滅します(民法884条)。

亡くなった人の住所地を管轄する税務署は、相続税の徴収権を持っています。各相続人は、税務署に対する申告の内容に従い、相続の開始を知った日の翌日から10カ月後(=法定納期限)までに相続税を納付しなければなりません。

相続税の徴収権の時効期間は、法定納期限から5年です。ただし、税務署による更正または決定(後述)があった場合、時効期間は更正や決定の日から5年となります。

実際には、法定納期限を過ぎると早い段階で税務署から督促が行われるため、相続税の徴収権の時効が問題になることはまずありません。

【関連】相続税申告の時効成立は7年。でも簡単に逃げ切れない理由  元国税専門官が解説

遺留分侵害額請求権、相続した債権、相続回復請求権について、消滅時効の完成を阻止するには、「時効の完成猶予(停止)」または「時効の更新(中断)」の手続きをとる必要があります。

時効の「完成猶予」および「停止」とは、時効の完成を一時的に阻止する手続きです。完成猶予や停止の効果が存続している間は、時効は完成しません。

2020年4月1日以降に発生した債権については「完成猶予」、2020年3月31日以前に発生した債権については「停止」の手続きをとる必要があります。

<時効の完成猶予事由>

  • 裁判上の請求
  • 支払い督促
  • 和解
  • 調停
  • 倒産手続参加
  • 強制執行
  • 担保権の実行
  • 競売
  • 財産開示手続
  • 第三者からの情報取得手続
  • 仮差押え、仮処分
  • 内容証明郵便などによる履行の催告(6カ月間のみ)
  • 協議の合意

<時効の停止事由>

  • 天災地変など
  • 内容証明郵便などによる履行の催告(6カ月間のみ)

時効の「更新」および「中断」とは、時効期間をリセットする手続きです。更新や中断事由に該当した場合、時効期間はゼロからカウントし直しとなります。

2020年4月1日以降に発生した債権については「更新」、2020年3月31日以前に発生した債権については「中断」の手続きをとる必要があります。

<時効の更新事由>

  • 裁判上の請求、支払督促、和解、調停、倒産手続参加のあとで権利が確定したこと
  • 強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続、第三者からの情報取得手続が終了したこと
  • 権利の承認

<時効の中断事由>

  • 裁判上の請求
  • 差押え、仮差押え、仮処分
  • 債務の承認

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期限は、相続について行うべき公的な手続きとの関係で問題となります。期限が経過した際に発生する事態は、手続きによってさまざまです。

相続に関する主な手続きの概要と、期限が経過した場合に生じ得る事態について解説します。

「相続放棄」は、遺産を一切相続しないという意思表示です。家庭裁判所に対して、相続放棄の申述書を提出して行います(民法938条)。

相続放棄をすれば、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。債務を相続せずに済むため、特に亡くなった人が多額の借金を負っていたケースなどでは、相続放棄をすることが有力な選択肢です。

相続放棄の期限は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内です(民法915条1項)。基本的には亡くなった人の死亡を知ったときから起算されますが、ほかの相続人の相続放棄によって相続権が回ってきた場合には、当該相続放棄を知ったときが起算点となります。

相続放棄の期限が過ぎると、相続を単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。この場合、亡くなった人の借金などの債務を相続しなければなりません。

ただし、実務上は相続放棄の期限については多くの例外が認められています。特に、亡くなった人の死後だいぶ経ってから債務が判明した場合は、債務の存在を知ったときから3カ月以内に申述書を提出すれば、相続放棄が認められるケースが多いです。

相続放棄の主なメリットとデメリット
相続放棄には負債を相続せずに済むといったメリットもありますが、一方で全員が相続放棄をすると、先祖代々の資産が失われるといったデメリットもあります

日本の居住者が年の途中で死亡した場合、その年の所得税について「準確定申告」を行う必要があります(所得税法125条1項)。

準確定申告の要領は、通常の確定申告とおおむね同じです。申告先は、亡くなった人の死亡当時の納税地を管轄する税務署となります。

準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4カ月後とされています。所得税の納期限も同日です。準確定申告の期限を経過した場合、本税に加えて加算税が課され、本来よりも多くの納税を強いられる可能性があります。

【関連】準確定申告の手続き、注意点をプロが解説 必要書類も

以下のいずれかに該当する場合は、相続税の申告が必要となります。申告先は、亡くなった人の死亡当時の住所地を管轄する税務署です。

①課税対象財産の総額が、基礎控除額※を超えている場合
※基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

②小規模宅地等の特例の適用を受ける場合

【関連】小規模宅地等の特例 評価額を引き下げ相続税節税 適用条件を解説

③配偶者の税額の軽減の適用を受ける場合

【関連】相続税の配偶者控除の計算方法 具体事例をもとに解説

相続申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月後です。相続税が発生する場合、納付も同日までに済ませる必要があります。相続税申告の期限を経過した場合、準確定申告と同じく、本税に加えて加算税が課される可能性があります。

不動産を相続した場合、早い段階で相続登記の手続きを行っておくべきです。相続登記を怠っていると、ほかの相続人によって不動産が二重譲渡された場合などに、権利を失ってしまう事態になりかねません。

また、2024年4月1日に施行された改正不動産登記法により、以下の事実を両方知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務づけられました(同法76条の2第1項)。

  1. 自己のために相続の開始があったこと
  2. 自分が不動産の所有権を取得したこと

相続登記を申請する義務を怠った場合には、「10万円以下の過料」に処される可能性があります(同法164条1項)。

相続税の申告が適切に行われなかった場合、税務署長による「更正」または「決定」が行われることがあります。

更正:税額等の計算が法律に従っていなかった場合に、当該税額等を変更する行政処分(国税通則法24条)
決定:納税申告書の提出義務を怠った場合に、税額等を決定する行政処分(同法25条)

相続税の更正や決定の期限は、原則として法定申告期限から5年後です(同法70条1項)。期限を経過した場合、税務署長は更正や決定を行うことができません。

ただし、脱税にあたる悪質なケースの場合は、法定申告期限から7年後が更正や決定の期限となります(同条5項)。

相続手続きにはさまざまな種類の時効と期限があるため、スケジュール管理が重要となります。漏れなく相続手続きの対応を行うためには、弁護士などの専門家へご相談ください。

たとえば家の相続があったのに、遺産分割協議がないままほかの相続人が住んでいて放置していると、時効を迎えて請求する権利がなくなります。自分に相続する権利があると知った場合、20年以内であれば相続回復請求権を主張できるため、そうしたケースでは弁護士からアドバイスを受けることをお勧めします。

(記事は2024年5月1日時点の情報に基づいています)