目次

  1. 1. 相続税の配偶者控除とは
  2. 2. 相続税の配偶者控除の計算式
  3. 3. 相続税の配偶者控除を計算してみよう
    1. 3-1. 【事例1】妻が2億円の全部を取得
    2. 3-2. 【事例2】妻が1億6000万円を取得
    3. 3-3. 【事例3】妻が法定相続分取得
    4. 3-4. 【事例4】長男が2億円全部を取得
  4. 4. 相続税の配偶者控除があっても相続税0円にならないことも
  5. 5. その他の相続税の配偶者控除の注意点

「相続会議」の税理士検索サービス

配偶者にはさまざまな相続税の優遇措置があります。その優遇措置の一つに、配偶者に対する相続税額の軽減という相続税を減額する規定があります。この規定の趣旨は、下記のとおり、主に三つあります。

・ 配偶者への相続は同一世代間の財産の移転であり、立て続けに相続が発生した場合に相続税の負担が重くなることに対する相続税の負担を軽減するため
・ 生前に夫婦で蓄積した財産に対してそのまま相続税を課税することに対する配偶者への配慮
・ 被相続人が亡くなったあとの配偶者の生活保障

このように、配偶者は一定額まで相続税の優遇措置を受けることができる規定が設けられていることを覚えておきましょう。

配偶者がもらう財産が相続税の課税価格の法定相続分か1億6000万円のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。つまり、配偶者がもらう財産が相続税の課税価格の法定相続分以下であれば配偶者に相続税はかかりません。もし配偶者がもらう財産が相続税の課税価格の法定相続分を超えても、1億6000万円以下であれば配偶者に相続税は課されません。

なお、法定相続分とは、相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者の法定相続分は2分の1になります。相続人が配偶者と被相続人の親である場合、配偶者の法定相続分は3分の2になり、相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合、配偶者の法定相続分は4分の3になります。

配偶者に対する相続税額の軽減の計算式は以下のとおりです。

配偶者の相続税額の計算式
配偶者の相続税額の計算式

実際に配偶者はどのくらい相続税を軽減できるのか、事例を用いて相続税を計算してみます。

《前提》

夫(被相続人)の財産2億円、相続人は妻と長男の2人
配偶者に対する相続税額の軽減適用前の妻と長男の相続税の総額は3340万円(※)
(※)2億円-(3000万円+600万円×2人[基礎控除])=1億5800万円(課税遺産総額)
1億5800万円×1/2(法定相続分)×30%-700万円=1670万円(法定相続分に応じた妻と長男の各相続税額)
1670万円×2人(妻と長男)=3340万円(相続税額の総額)

①配偶者に対する相続税額の軽減適用前の妻の相続税
3340万円×(2億円÷2億円[配偶者の取得割合])=3340万円

②配偶者に対する相続税額の軽減額
3340万円×1億6000万円(※)÷2億円=2672万円
(※)イ:2億円×1/2=1億円<1億6000万円 よって1億6000万円
   ロ:2億円
   ハ:イ<ロ よって1億6000万円 

③妻の相続税
①-②=668万円

④長男の相続税
0円

⑤妻と長男の相続税の合計
③+④=668万円

①配偶者に対する相続税額の軽減適用前の妻の相続税
3340万円×(1億6000万円÷2億円[配偶者の取得割合])=2672万円

②配偶者に対する相続税額の軽減額
3340万円×1億6000万円(※)÷2億円=2672万円
(※)イ:2億円×1/2=1億円<1億6000万円 よって1億6000万円
   ロ:1億6000万円
   ハ:イ=ロ よって1億6000万円 

③妻の相続税
①-②=0円

④長男の相続税
3340万円×(4000万円÷2億円[長男の取得割合])=668万円

⑤妻と長男の相続税の合計
③+④=668万円

①配偶者に対する相続税額の軽減適用前の妻の相続税
3340万円×1/2(配偶者の取得割合)=1670万円

②配偶者に対する相続税額の軽減額
3340万円×1億円(※)÷2億円=1670万円
(※)イ:2億円×1/2=1億円<1億6000万円 よって1億6000万円
   ロ:1億円
   ハ:イ>ロ よって1億円 

③妻の相続税
①-②=0円

④長男の相続税
3340万円×1/2(長男の取得割合)=1670万円

⑤妻と長男の相続税の合計
③+④=1670万円

①配偶者に対する相続税額の軽減適用前の妻の相続税
0円

②配偶者に対する相続税額の軽減額
0円

③妻の相続税
①-②=0円

④長男の相続税
3340万円×(2億円÷2億円[長男の取得割合])=3340万円

⑤妻と長男の相続税の合計
③+④=3340万円

税理士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な税理士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る税理士を探す

配偶者に対する相続税額の軽減があっても配偶者の相続税が0円にならない場合があります。下記の3点を理解しておきましょう。

・ 相続税の申告書を提出していること
配偶者に対する相続税額の軽減を適用して相続税を0円にするには、相続税の申告書を必ず提出しなければなりません。

・ 内縁の妻は使えない
配偶者に対する相続税額の軽減が適用できる配偶者は戸籍上の配偶者になります。そのため、内縁の妻などは財産をもらってもこの規定を適用することはできません。

・遺産分割協議が完了していること
配偶者に対する相続税額の軽減が適用できる範囲は遺産分割が確定している財産に限ります。そのため申告期限までに遺産分割が確定していない財産についてはこの規定を適用することができません。もし申告期限までに遺産分割が確定しなかった場合は、相続税の申告書に『申告期限後3年以内の分割見込書』を添付することにより、申告期限から3年以内に遺産分割が確定したときは改めてこの規定を適用することができます。

相続税をできるだけ減らしたい場合は、一次相続(夫婦の一方が亡くなったときの相続)だけでなく、一次相続と二次相続(残された配偶者が亡くなったときの相続)の相続税がどのくらいになるかシミュレーションすることをおすすめします。

先ほどの事例を前提に一次相続と二次相続にかかる相続税について検討してみましょう。

一次相続と二次相続にかかる相続税額
一次相続と二次相続にかかる相続税額

一次相続で配偶者に対する相続税額の軽減を最大限に活用している事例は【事例1】と【事例2】になります。一方、一次相続と二次相続にかかる相続税の合計額をみると、一次相続で多く相続税を支払っている【事例3】と【事例4】のほうが少なくなっていることがわかります。つまり、一次相続で配偶者に対する相続税額の軽減を最大限活用して配偶者に財産を寄せてしまうと二次相続の負担が重くなり、トータルで相続税が不利になってしまう可能性があるということになります。

必ずしも一次相続で配偶者の相続税額の軽減を最大限活用することが一次相続と二次相続の合計で不利になるとは限りません。ただし、親族構成や夫婦お互いの財産状況により配偶者が取得する最適な財産額が変わってきますので、相続税をできるだけ減らしたい場合は早めに相続に強い税理士に依頼することをおすすめします。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の税理士検索サービス