目次

  1. 1. 遺言書がある場合の相続手続き
    1. 1-1. まずは遺言書の存在を把握する
    2. 1-2. 遺言書の検認が必要な場合がある
    3. 1-3. 遺言執行者が就いている場合は、手続きを任せる
  2. 2. 遺言書とは異なる遺産分割ができる場合とは?
    1. 2-1. 受遺者・相続人全員が同意した場合
    2. 2-2. 遺言書が無効である場合
  3. 3. 遺言書の内容が不公平な場合は「遺留分侵害額請求」
    1. 3-1. 遺留分侵害額請求とは?
    2. 3-2. 遺留分侵害額請求を行う方法
    3. 3-3. 遺留分侵害額請求権の消滅時効に注意
  4. 4. 遺言書の内容に納得できない場合は弁護士に相談を
  5. 5. まとめ|原則遺言どおり、ただし遺言無効・遺留分侵害などの例外あり

被相続人には、遺言によって財産を処分することが認められています(民法964条)。したがって、遺言書がある場合には、その内容の通りに相続手続きを進めるのが原則です。
遺言書がある場合の相続手続きは、以下のポイントに留意して進めましょう。

被相続人が作成した遺言書が存在することを知っている相続人は、そのことを他の相続人に知らせなければなりません。
もし遺言書の存在を隠した場合、相続欠格によって相続権を失う可能性があるので注意が必要です(民法891条5号)。

一方、被相続人が誰にも相談せずに遺言書を作成した場合、基本的には遺品を調べて遺言書の存否を確認することになります。
自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は、被相続人の手元で保管されていることが多いです。これに対して公正証書遺言の場合は、被相続人が正本を保管し、原本は公証役場で保管されています。

なお、自筆証書遺言について、法務局の保管制度を利用している場合には、遺言書保管所から遺言書を保管している旨の通知が届くことがあります。
参考:自筆証書遺言書保管制度 10通知~通知が届きます!~|法務省

法務局(遺言書保管所)で保管されていない自筆証書遺言と、秘密証書遺言については、遺言執行の前に家庭裁判所の検認を経る必要があります(民法1004条1項)。
また、遺言書に封印がある場合には、家庭裁判所での開封が必要なので(同条3項)、勝手に開封しないように注意しましょう。

なお、公正証書遺言と法務局(遺言書保管所)で保管されている自筆証書遺言については、検認手続きが不要です(同条2項、法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。

遺言書の中で遺言執行者が指定されており、その者が就任を承諾した場合には、遺言執行者が相続財産の移転などの手続きをすべて行います。
遺言執行者の権利義務や職務内容については、民法で詳細にルールが定められているので(民法1007条以下)、規定に従って職務を遂行しましょう。遺言執行者に指名されたものの、対応の仕方がわからない場合には弁護士にご相談ください。

遺言書があるケースでも、例外的に、遺言書とは異なる内容で遺産分割ができる場合があります。

受遺者・相続人全員が同意した場合には、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことができます。
受遺者(遺言に基づき遺産の贈与(遺贈)を受ける人)には、遺贈を放棄することが認められています(民法986条1項)。
もし受遺者全員が、遺言とは異なる内容の遺産分割に同意した場合、受遺者全員が遺贈を放棄したものと解されます。その結果、相続人全員の合意による遺産分割が可能となるのです。

遺言書には、民法で厳格な形式要件が定められており、形式要件を満たしていない遺言書は、原則として無効です。
遺言書が無効である場合、すべての遺産が共同相続人の共有となるので(民法898条)、改めて遺産分割を行うことになります。

「長男にすべての遺産を相続させる」など、遺言書の内容が不公平である場合には、他の相続人は大いに不満でしょう。
このような場合には、「遺留分侵害額請求」を行うことで、不公平な遺産配分を是正できる可能性があります。

「遺留分」とは、相続できる遺産の最低保証額を意味します。
遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条1項)。
遺留分を下回る遺産しか相続できなかった相続人は、その不足額に相当する金銭を、遺産を多めに承継した者に対して請求できます(民法1046条1項)。
これを「遺留分侵害額請求」と言います。

遺留分侵害額請求は、以下のいずれかの方法により行います。

①協議
相手方と直接交渉を行い、遺留分侵害額の支払いを求めます。
内容証明郵便でやり取りをするケースが多いですが、電話・メール・メッセンジャー等でのやり取りも可です。

②調停
第三者である調停委員の仲介の下で、遺留分侵害額の精算についての合意を模索します。
参考:遺留分侵害額の請求調停|裁判所

③訴訟
裁判で遺留分侵害額を証拠により立証し、裁判所の判決に基づく強制的な支払いを求めます。

遺留分侵害額請求権は、以下のいずれかの期間が経過した場合、時効により消滅します(民法1048条)。

  • 相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年
  • 相続の開始から10年

消滅時効の完成を阻止するためには、上記の期間が経過する前に、時効の「完成猶予」または「更新」の措置を取ることが必要です。
代表的な手段としては、内容証明郵便の送付・調停申立て・訴訟提起などが挙げられるので、早めに対応することをお勧めします。

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遺言書が自分にとって不利な内容である場合にも、遺言無効の主張や、遺留分侵害額請求などの手段が残されています。
弁護士に相談すれば、遺言の形式・内容や相続財産の金額などを踏まえて、検討し得る手段につきアドバイスを受けられるでしょう。

特に遺留分侵害額請求権については、前述のとおり消滅時効が存在するので、早めの対応が必要です。遺言書の内容に納得できない場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

遺言がある場合は、原則としてその内容のとおりに相続が行われます。
ただし、相続人全員が合意すれば異なる内容の遺産分割ができるほか、遺言無効や遺留分侵害を主張する余地もあります。
遺言書に基づく相続手続きの進め方がわからない場合や、遺言書の内容に不満がある場合には、お近くの弁護士までご相談ください。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています。)