遺留分権利者の範囲は? 相続人ごとの遺留分割合、計算方法を弁護士が解説
遺産の最低保障額である遺留分をもらう権利がある人を遺留分権利者といいます。兄弟姉妹以外の相続人が遺留分権利者となりますが、代襲相続や二次相続などにより、それ以外の人が遺留分権利者になるケースもあります。遺産相続で遺留分が問題になった場合に備えて、遺留分権利者の範囲や遺留分割合、遺留分侵害額の計算方法などを把握しておきましょう。
遺産の最低保障額である遺留分をもらう権利がある人を遺留分権利者といいます。兄弟姉妹以外の相続人が遺留分権利者となりますが、代襲相続や二次相続などにより、それ以外の人が遺留分権利者になるケースもあります。遺産相続で遺留分が問題になった場合に備えて、遺留分権利者の範囲や遺留分割合、遺留分侵害額の計算方法などを把握しておきましょう。
目次
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遺留分とは、相続によって承継できる遺産の最低保障額を意味します。遺留分権利者とは、遺留分が認められた相続人のことです。遺言書などによって遺留分よりも少ない遺産しか受け取れなかった(=遺留分を侵害された)場合には、遺留分侵害額請求をすることで遺留分を確保できます。
具体的に、誰が遺留分権利者となるかを整理してみましょう。
遺留分は、「兄弟姉妹以外の相続人」に認められるとされています(民法1042条1項)。
具体的には、亡くなった人(被相続人)の配偶者・子・直系尊属(両親など)が遺留分権利者です。配偶者と子は常に相続人となるため(民法890条、887条1項)、遺留分も同じく常に認められます。
これに対して直系尊属は、子がいない場合にのみ相続人となり(民法889条1項1号)、その場合に限って遺留分が認められます。
被相続人の子が死亡・相続欠格(民法891条)・相続廃除(民法892条)のいずれかによって相続権を失った場合、被相続人の孫が「代襲相続」により相続人となります(民法887条2項)。
この場合、代襲相続人である孫にも、被代襲者である子が有していたのと同等の遺留分が認められます。
なお、孫が死亡・相続欠格・相続廃除のいずれかに該当した場合、ひ孫による「再代襲相続」が発生し(同条3項、玄孫以降も同様)、やはり被代襲者と同等の遺留分が認められます。
遺留分より少ない遺産しか承継できなかった相続人には、遺産を多く承継した者に対する「遺留分侵害額請求権」が認められます(民法1046条1項)。
遺留分侵害額請求権は、相続の対象となります(民法896条参照)。そのため、もし二次相続が発生した場合には、以下の人に遺留分侵害額請求権が承継されます。
相続発生後に限り、遺留分侵害額請求権を債権譲渡することも認められています。この場合、譲受人が、譲渡人である相続人等の遺留分侵害額請求権を代わりに行使します。
たとえば被相続人の子が、知人から借金をしていたとします。このとき、被相続人がすでに死亡している場合に限り、借金返済の代わりに、債権者の知人に対して遺留分侵害額請求権を譲渡することも認められます(知人の同意が必要)。譲渡を受けた知人は、被相続人の子に代わって遺留分侵害額請求権を行使できるのです。
なお、相続発生前(被相続人が存命中)の段階では、遺留分侵害額請求権を譲渡することはできないと解されています。
「遺留分割合」とは、基礎財産額に占める各相続人の遺留分額の割合です。以下のルールで決定されます。
相続人構成別の遺留分割合を下に表でまとめましたので、参考にしてください。
遺留分侵害の有無を判断するには、遺留分侵害額を計算する必要があります。民法のルールに沿って、遺留分侵害額の計算方法を見ていきましょう。
遺留分額は、以下の計算式によって算出されます。
遺留分額=基礎財産※の総額×遺留分割合
※基礎財産には、以下のものが含まれます。
・相続財産(資産)
・遺贈された財産
・贈与された財産(相続人に対する贈与は相続開始前10年、相続人以外に対する贈与は相続開始前1年以内に行われたもののみが対象<民法1044条1項、3項>)
・相続財産(負債)
【例】
基礎財産:2000万円
遺留分割合:4分の1(配偶者)
遺留分額
=2000万円×4分の1
=500万円
次に、遺留分権利者が承継した遺産額を、以下の計算式によって算出します。
遺留分権利者が承継した遺産額
=遺留分権利者が相続した相続財産(資産)
+遺留分権利者が遺贈を受けた財産
+遺留分権利者が贈与を受けた財産※
-遺留分権利者が相続した相続財産(負債)
※相続人に対する贈与は相続開始前10年、相続人以外に対する贈与は相続開始前1年以内に行われたもののみが対象(民法1044条1項、3項)
【例】
相続によって100万円の遺産を取得
相続開始から6カ月前の生前贈与によって200万円の遺産を取得
相続によって50万円の債務を承継
遺留分権利者が承継した遺産額
=100万円+200万円-50万円
=250万円
最後に、遺留分額から実際に承継した遺産額を控除して、遺留分に対する不足額(遺留分侵害額)を計算します。
遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者が承継した遺産額
【例】
遺留分額:500万円
遺留分権利者が承継した遺産額:250万円
遺留分侵害額
=500万円-250万円
=250万円
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺留分を侵害された遺留分権利者は、遺産などを多く取得した者に対して遺留分侵害額請求を行い、遺留分に相当するお金を確保することができます。
遺留分侵害額請求は、以下の流れで行うのが一般的です。
遺留分侵害額請求権には、以下の消滅時効が適用されるので注意が必要です。
被相続人が死亡した事実と、遺留分を侵害する遺言書や生前贈与の存在を知ったら、その時から1年以内に遺留分侵害額請求をしなければなりません。また、遺留分権利者が相続開始や遺留分を侵害する遺言書などの存在を知らなくても、相続開始から10年が経過すると、同様に遺留分侵害額請求権が時効消滅してしまいます。
遺留分はあくまでも権利であって、必ず行使しなければならないわけではありません。遺留分権利者には、遺留分を放棄することも認められています。
ただし、生前の遺留分放棄については、判断に慎重を期すため、家庭裁判所の許可が必要とされています(民法1049条1項)。家庭裁判所は、遺留分放棄の目的や、遺留分権利者に対する補償の有無などを考慮して、遺留分放棄の可否を判断します。
これに対して、相続発生後の遺留分放棄には、家庭裁判所の許可は要求されていません。したがって、遺留分権利者の意思により、いつでも遺留分を放棄することが可能です。
なお、相続放棄した場合に相続分が他の相続人に帰属するのとは異なり、遺留分の放棄は、他の相続人の遺留分に影響を及ぼさないとされています(同条2項)。したがって、遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増えることはありません。
遺留分権利者である相続人の方は、相続財産などから、最低限遺留分を確保する権利があります。遺言書や生前贈与により、あまりにも不公平な形でご自身の相続分が減らされてしまった場合は、遺留分侵害額請求をご検討ください。
遺留分侵害額請求を行う場合は、弁護士へのご相談をお勧めいたします。信頼できる弁護士に相談すれば、適正な遺留分を確保できるように、親身になって対応してくれるでしょう。
(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)
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