相続税節税につながる「小規模宅地等の特例」とは

亡くなった人の自宅や事業に使っていた事務所・工場・店舗、賃貸収入を得ていた敷地などは、受け継ぐ家族にとっても生活の基盤となる大切な財産です。それらの財産に高額な相続税が課せられてしまうと、相続税が払えずに、やむなく自宅や事業用の不動産を売却せざるを得なくなり、残された家族にとって死活問題になることも考えられます。

そのため、一定の条件を満たす宅地については、評価を大きく引き下げて相続税の負担を軽減しようという趣旨に基づき創設されたのが「小規模宅地等の特例」です。

小規模宅地の種類と特例の内容

小規模宅地等には大きく分けて3つの種類があります。

1.特定居住用宅地等

2.特定事業用宅地等

3.貸付事業用宅地等

これから3つの小規模宅地等について解説をします。

なお、それぞれの小規模宅地等には、被相続人が所有していた宅地等のほかに、被相続人と同一生計の親族が所有する宅地等についても適用を受けられる場合がありますが、本記事では分かりやすくお伝えするために、実際の事例も多いと思われる被相続人が所有していた宅地等にしぼって解説をします。

1.特定居住用宅地等

被相続人の自宅が建っている敷地などで、一定の要件を満たす小規模宅地(特定居住用宅地等)を配偶者や親族が相続した場合、330㎡(約100坪)までの部分については、課税価格が20%に引き下げられます。言い換えると、約100坪までの自宅の敷地は、小規模宅地等が適用されれば評価を8割引にしてくれるということになります。

特定居住用宅地等の適用要件は、相続人のうち誰が自宅を相続するかによって異なります。

(1)配偶者

配偶者は無条件でこの特例を受けることができます。自宅に住んでいなくても、自宅を相続税の申告期限までに売却してしまってもかまいません。

(2)同居していた親族

被相続人と同居していた親族の場合は、自宅を相続税の申告期限まで所有し続け、かつ、住み続けることが条件になります。

(3)同居していない親族

配偶者も同居の親族もいない場合に限り、実家を出て同居していない親族でも適用が受けられますが、この場合は以下の要件を全て満たすことが必要です。

・過去3年以内に、自分や自分の配偶者、3親等以内の親族、特別の関係にある法人のいずれかが所有する家に住んだことがないこと

・相続時に住んでいた家を過去に所有していたことがないこと

・相続税の申告期限まで引き続き所有していること

このように、同居していない親族の場合は持ち家があると適用が受けられないため、「家なき子特例」とも言われています。

2.特定事業用宅地等

相続開始直前に被相続人が事業を行っていた建物や構築物の敷地を、親族が相続などによって取得した場合は、その事業を引き継ぐことなどを前提に、敷地の400㎡までの部分について課税価格が20%に引き下げられます。

なお、相続開始前3年以内に新たに事業用に供された宅地等(「3年以内事業宅地等」といいます)は特定事業用宅地等から除かれます。ただし、3年以内事業宅地等でも、その宅地等上に事業用減価償却資産があり、その価値がその宅地等の相続時の価額の15%以上であれば適用を受けられます。

この特例を受けるためには、相続税の申告期限までに事業を引き継いだ親族が、相続税の申告期限まで引き続き事業を継続し、かつ、その宅地等を所有していることが必要です。

なお、事業用の宅地には、特定事業用宅地等の他に、特定同族会社事業用宅地等があります。

この場合の同族会社とは、相続直前において被相続人や親族が発行済株式数の50%超を所有している法人のことを言います。この同族会社が事業を行っていた宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限においてその法人の役員であり、かつ、その宅地を所有していることを要件として、特定事業用宅地等と同じく敷地の400㎡までの部分について課税価格が20%に引き下げられます。

3.貸付事業用宅地等

貸付事業用宅地等とは、相続開始直前に貸付事業用に利用されている土地のことです。

貸付事業とは、具体的にはアパート・マンションといった不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場、準事業(規模は小さいが対価を得て継続的に行っている不動産貸付など)のことを言います。

貸付事業用宅地等については、敷地の200㎡までの部分について、課税価格が50%に引き下げられます。

なお、特定事業用宅地等と同様、相続開始前3年以内に新たに貸付事業用に供された宅地等(「3年以内貸付事業宅地等」といいます)は貸付事業用宅地等から除かれます。

ただし、相続開始から3年より以前から貸付事業を事業的規模で行っていた被相続人が、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地については適用の対象となります。

この特例を受けるためには、相続税の申告期限までに事業を引き継いだ親族が、相続税の申告期限まで引き続き貸付事業を継続し、かつ、その宅地等を所有していることが必要になります。

4.減額割合と限度面積

小規模宅地等の種類による減額割合と敷地面積の限度は表の通りです。

小規模宅地等には大きく分けて三つの種類があり、それぞれ、限度面積などに違いがあります
小規模宅地等には大きく分けて三つの種類があり、それぞれ、限度面積などに違いがあります

小規模宅地等の特例で自宅の評価がどのくらい下がる?

小規模宅地等の特例により、宅地の課税価格は大きく引き下げられますが、特に地価が高いエリアでは、減額できる金額も大きくなります。

東京などの都市部では、自宅の敷地の評価だけでも相続税の基礎控除を超えてしまうことが少なからずあります。このような場合でも、小規模宅地等の特例の適用を受けることができれば、相続税が大幅に軽減されたり、ゼロになることもあります。

具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。特定居住用宅地等を例に数字で確認をしてみましょう。

東京23区では、地価が坪当たり200万円を超える地域も珍しくありません。

たとえば、自宅の敷地面積が100㎡(約30坪)、路線価が60万円(坪当たり約200万円)であった場合の課税価格は次の通りです。(補正率は考慮していません)

60万円×100㎡=6,000万円

この土地が小規模宅地である場合、課税価格は、

6,000×20%=1,200万円

敷地全体の評価額が80%減額されるため、6,000万円の課税価格が1,200万円に圧縮されます。

仮に法定相続人が3人の場合、基礎控除は、

3,000万円+600万円×法定相続人数3人=4,800万円

小規模宅地等の特例がなければ、宅地の評価額だけで基礎控除を超えてしまいます。しかし特例の適用を受けることができれば、評価額は基礎控除を大きく下回ることになります。

自宅敷地の課税価格(特定居住用宅地)1,200万円<基礎控除4,800万円

他の相続財産と合わせた課税価格の合計額が基礎控除を超えなければ相続税も課税されません。

このように小規模宅地等の特例があることで、地価水準が高い地域にある自宅や事業用地の相続でも、相続税の負担が大きく軽減されるので、安心して財産を引き継ぐことができます。

種類の異なる小規模宅地がある場合のルール

被相続人が複数の宅地を所有しているケースもあります。それらが小規模宅地に該当する場合は、その種類によって適用のルールが異なります。

(1)小規模宅地に貸付事業用宅地等を含まない場合

特定事業用宅地等・特定同族会社事業用地等と特定居住用宅地等の特例は、併用して適用を受けることができます。

Ⓐ 特定居住用≦330㎡

Ⓑ 特定事業用≦400㎡

∴ Ⓐ + Ⓑ ≦ 730㎡

完全併用ができるため、最大で730㎡までの敷地面積について80%減額されます。

(2)小規模宅地等に貸付事業用宅地等を含む場合

この場合は限度面積が次の計算式によって調整されます。

特定居住用×200/330+特定事業用×200/400+貸付事業用 ≦ 200㎡

たとえば、特定居住用宅地が132㎡、貸付事業用宅地の面積が200㎡であるとき、特定居住用宅地を優先的に適用させた場合、適用を受けられる貸付事業用宅地の面積は、

132㎡×200/330+貸付事業用≦200㎡

∴ 貸付事業用≦120㎡

それぞれの敷地面積が適用限度以内であっても、面積調整により、小規模宅地等の適用面積は小さくなってしまいます。

小規模宅地等に貸付事業用宅地等を含まない場合
小規模宅地等に貸付事業用宅地等を含まない場合
小規模宅地等に貸付事業用宅地等を含む場合
小規模宅地等に貸付事業用宅地等を含む場合

種類の異なる小規模宅地がある場合の有利な選択は?

相続税の計算において、小規模宅地等の選択は重要なカギとなります。

被相続人が複数の小規模宅地等を所有していた場合、どの宅地を選択するかによって減額される金額が変わることがあります。減額割合だけではなく路線価なども考慮しながら計算、比較をした上で、どの小規模宅地等を選択するかを決める必要があります。

このような場合は、次の計算式によって計算した金額を比較して、金額の多い小規模宅地等から順番に特例を適用するようにすると、減額される金額がより大きくなります。

特定居住用…相続税評価額/㎡×80%×330/200

特定事業用…相続税評価額/㎡×80%×400/200

貸付事業用…相続税評価額/㎡×50%

小規模宅地等の注意点~専門家への相談も大切

大きなメリットがある小規模宅地等の特例ですが、適用を受けるためには注意をしなければいけないこともあります。誤った判断をしてしまうと、適用が受けられなくなってしまったり、思ったよりも軽減額が少なくなってしまう可能性もあります。

(1)小規模宅地等の適用ができないことがある!

たとえば、アスファルト舗装の駐車場は貸付事業用宅地等の適用が受けられますが、土を固めてトラロープを張っただけのいわゆる「青空駐車場」は適用が受けられません。貸付事業用宅地の適用を受けるためには、敷地に「建物」や「構築物」があることが条件になっているからです。アスファルトは構築物とされているので、適用を受けることができます。

また、親戚などに著しく低い賃料でアパートや駐車場を貸していた場合にも、「相当の対価を得ていない」として、貸付事業用宅地等とみなされない可能性があります。

このように、小規模宅地等の適用を受けたい場合には、あらかじめ適用要件をしっかりと確認しておく必要があります。

その外にも、複数の宅地のうち、どれを優先的に小規模宅地等として選択すればよいのか、適用を受けるための手続きはどのようにするか、など素人ではなかなか判断ができないこともたくさんあります。

自分だけで判断せずに、相続に強い税理士に相談しながら、ベストの選択をするようにしましょう。

(2)相続税の申告は必ず行う

小規模宅地等の特例を適用することによって、結果的に相続税がゼロになる場合でも、必ず相続税の申告はしなければいけません。申告を行わなかった場合でも、申告期限内に遺産分割ができていれば、小規模宅地の特例の適用を受けることができますが、期限後申告となるため、無申告加算税や延滞税が課せられる場合があります。

(3)相続トラブルがあると特例を受けられない?

小規模宅地の特例の適用を受けるための要件に、適用を受けたい宅地等について遺産分割が決まっているということがあります。遺産争いなどで宅地が未分割のままでは特例の適用が受けられません。

その場合は小規模宅地等の特例を受けない前提で相続税を納付することになります。ただし、申告期限から3年以内に遺産分割協議がまとまり、無事に遺産分割ができたときには、更正の請求により払いすぎた相続税を取り戻すことができます。その場合でも、相続税の申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。相続トラブルは、相続税においてもメリットはないと言えます。

小規模宅地等の特例のしくみを正しく知り、専門家のサポートも受けながら適切に利用し、上手に相続税の節税をしましょう。