目次

  1. 1. 生前贈与で、現金手渡しはOK?
    1. 1-1. 現金手渡しは法的に問題ないが、税務調査を誘発する
    2. 1-2. 現金手渡しでも生前贈与はばれる
  2. 2. 隠していた生前贈与がばれたらどうなる?
    1. 2-1. 年110万円を超える手渡しであれば、追徴税
    2. 2-2. 相続税の修正申告の可能性も
  3. 3. 生前贈与を行う際の注意点
    1. 3-1. 「贈与契約書」で贈与に関する記録を残しておく
    2. 3-2. 贈与ごとに贈与契約を結んでおく
    3. 3-3. 亡くなる一定期間内の生前贈与は相続財産に加算される
  4. 4. 生前贈与で効果的に節税対策を行う方法
    1. 4-1. 贈与税の110万円の基礎控除を有効に活用する
    2. 4-2. 贈与税の特例制度も積極的に利用する
  5. 5. 生前贈与の現金手渡しに関するよくある質問(FAQ)
  6. 6.まとめ|生前贈与は専門家と相談して計画的に

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生前贈与は、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の合意により法的に成立します。贈与税のルールでは非課税枠は年間110万円なので、これを超える贈与を受けた人は贈与税の申告納税を忘れないようにしましょう。

生前贈与を行うときは、贈与契約書を交わすとともに、銀行振込のように証拠が残る方法をお勧めします。口頭や現金手渡しによる生前贈与でも法的には問題ないのですが、税務調査を受けたときに困る可能性が高まります。

子や孫に現金を手渡ししたとして、贈与契約書がなければ生前贈与でお金のやり取りをしたことを証明するのが困難です。さらに、贈与契約書を交わしたとしても、現金手渡しなら、「本当に契約書のとおりにお金のやりとりをしたのか」と疑われる余地があります。そのため、税務調査へ備える意味で、どのように生前贈与を行うかに注意を払う必要があるのです。

ここで気になるのが、「現金手渡しで生前贈与を受ければ、税務署にばれないのでは?」ということではないでしょうか。銀行などの第三者を介さずにやり取りをすれば、通帳などの記録に残らず、お金のやり取りは外に漏れないのではないかと思われるかもしれません。

しかし、現実には、生前贈与を税務署に隠し通すことは難しいでしょう。なぜなら、税務職員は、周辺の事実を総合的に調査し、贈与の事実にたどり着くことができるからです。

たとえば、贈与のために預金を下ろしたとします。税務職員は、その預金口座を調査すれば、「いつ、誰の口座から、◯円の出金があった」という事実を把握できます。ここから、その出金について、「使途不明金」として調査を実施します。「何かに支出されている」「現金などとして残っている」「誰かのもとにわたっている」といった複数の可能性から絞り込み、贈与の事実を把握すれば、贈与税の申告漏れに対して税務処分を行うことになります。

なお、贈与から数年経った後に贈与の事実が明らかになることも少なくありません。相続税調査の際には、被相続人(亡くなった人)のみならず相続人の預金口座も調べられるのが一般的です。贈与者が死亡し、相続税調査のタイミングで贈与の事実が明らかになるケースもあるのです。

生前に子や孫に財産を譲る際、気になるのが贈与税です。現金の手渡しは税務署にばれてしまいますが、贈与税がかからない方法もありますので、以下の記事を参考にして下さい。
【関連】生前贈与の非課税枠が2500万円! 節税対策になる控除や特例をわかりやすく説明

被相続人の財産が、生前に相続人に渡っていたことが税務調査によって明らかになった場合、どのように判断されるのでしょうか。

ひとつは、「生前贈与があった」と判断されるケースです。被相続人と相続人の間で贈与の合意があり、資金の受け渡しがあったにもかかわらず、贈与税の申告がなかった場合をイメージしてください。現金を手渡しし無申告のままでいるのが、典型的なケースです。

この場合、贈与税の計算は、原則として「暦年課税制度」により行います。暦年課税制度では、1年間に贈与を受けた金額を合計し、基礎控除額110万円を引いた額について、10〜55%の税率で贈与税を計算します。つまり、税務調査で年間110万円を超える生前贈与があったことが明らかになれば、贈与税の申告と、追徴税を含む納税が必要となるのです。

一方、税務調査の結果、「被相続人から相続人に資金が移動しているものの、生前贈与ではない」という判断になる可能性もあります。贈与は、贈与者と受贈者の同意があってはじめて成立するため、この同意がなかったと判断されれば、贈与税はかかりません。 

たとえば「被相続人が勝手に相続人名義の口座に財産を貯めていた」「相続人が勝手に被相続人の預金を下ろした」といったケースです。

このようなケースでは、贈与税はかからないものの、出金額の全部または一部が「被相続人の相続財産」と判断され、相続税の修正申告を求められることになります。

このように、生前贈与の合意の有無によって贈与税、相続税の違いは出ますが、いずれにしても使途不明金は追徴税の課税根拠になります。

生前贈与をおこなう際には、以下の点に注意しておく必要があります。

使途不明金として追徴税の課税対象とならないためには、贈与者と受贈者に生前贈与に関する合意があったことについて、「贈与契約書」で記録を残しておく必要があります。さらに、贈与契約書どおりに贈与を履行することも大切です。たとえば、父から息子に生前贈与をするのであれば、渡した現金や預貯金は息子が管理するようにしましょう。

また、実際のお金のやり取りは口座振込が望ましいですが、現金の手渡しをせざるを得ない場合は、領収書を作成し、受け取った資金を口座に入金するなどして通帳に記録を残しておくと、後の税務調査のときに役立ちます。そして、1年の間に基礎控除額110万円を超える贈与をした場合には、必ず贈与税の申告をするようにしましょう。そうしておくことで、後から贈与税や相続税の課税処分を受けることはありません。

贈与契約書を作っておくことは、遺産分割トラブルの防止にも役立ちます。遺産分割の際に使途不明金があると相続人の間で疑念が生まれかねないからです。「もらった」「もらっていない」といったトラブルにならないよう、親族間であってもお金のやり取りをするときは、その理由や使いみちを記録として残しておくことをおすすめします。

【関連】ひな型付きで解説! 贈与契約書の書き方と注意点

「100万円の贈与契約を10年連続で交わした場合(その都度、贈与契約を取り交わした場合)」と「毎年100万円を10年間にわたり贈与する契約を交わした場合(全部まとめて1つの贈与契約を結んだ場合)」とでは、税務上の取り扱いが異なります。

まず前者について説明しましょう。毎年、贈与があった都度契約を交わし、その金額が年間110万円以内であれば、贈与税はかかりません。その契約が10年や20年にわたって、連続で繰り返されたとしても、贈与税はゼロです。

ところが、「100万円を10年間にわたって贈与をする」という契約を交わした場合、毎年やり取りをする金額が110万円以内であっても贈与税がかかります。こうした契約については、「10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利」の贈与があったとみなされてしまうからです。贈与契約を毎年交わすのが面倒だからといって、このようにまとめて契約してしまうと、思いもよらぬ税負担が生じる可能性があります。

被相続人が亡くなる前の一定期間内に行った生前贈与については、その金額を相続財産に含めて相続税を計算する必要があります。

この期間は、2023年末までの贈与については「3年」でしたが、2024年以降は段階的に延長されていき、2031年からは「7年」になります。

たとえば相続開始前の3年間で毎年100万円ずつ生前贈与を受けていた場合、贈与税は110万円以下なので非課税になったとしても、3年間贈与を受けた合計300万円は相続税の課税対象となってしまいます。この期間が今後段階的に「7年間」にまで延長されますので、続税の節税目的で生前贈与を行う場合には注意が必要です。

2023年度税制改正で、この相続税における生前贈与の加算対象期間が「3年間」から「7年間」に変更され、2024年以降の贈与から適用されます。詳しくは、以下の記事を参照下さい。
【関連】生前贈与は亡くなる7年前までが相続税対象に 実質増税への対応策も解説

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生前贈与で節税対策を行うためには、以下にあげる制度を積極的に利用するのが良いでしょう。

贈与税には、年間110万円までの基礎控除額が定められているため、この金額内に収まる生前贈与であれば、贈与税を支払うことなく財産を渡すことが可能です。

ただし、定期贈与とみなされてしまうと贈与全額について贈与税が発生してしまうため、定期贈与とみなされないためにも、毎年贈与契約書を作成するようにしてください。

なお、亡くなる前3年以内(今後段階的に延長され7年に移行)の生前贈与は、相続財産に加算されて相続税の対象となってしまうため、なるべく早いうちから計画的に贈与をしていくようにしてください。

贈与税にはいくつか特例制度が存在します。特例制度を利用すれば非課税になることも多く、うまく制度を利用すればかなりの節税対策になるため、適用の対象となる場合には積極的に制度を利用するようにしましょう。

  • 相続時精算課税制度
  • 住宅取得等資金の贈与の非課税特例
  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税制度
  • 結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
  • 配偶者控除(おしどり贈与)

特に、相続時精算課税制度は2024年1月1日から、2500万円の「特別控除」に加え、年間110万円まで非課税となる「基礎控除」が新設されました。この基礎控除を使った贈与財産は、暦年課税制度のように一定期間内に亡くなると相続財産に加算されることもないため、注目を集めています。

【関連】新しい相続時精算課税制度とは 年110万円まで非課税に 2500万円まで贈与税もかからない

生前贈与に関する質問をまとめてありますので、ぜひ参考にしてみてください。

Q. 生前贈与での現金手渡しは、いくらまでならOKなの?

年間110万円以下であれば贈与税は非課税となり、手渡しでも法的には問題ありません。ただし、現金の手渡しは「契約の金額と実際の金額に差があるのでは」と税務署からあらぬ疑いをかけられる恐れがあります。したがって、口座振り込みなどで資金の移動を証明できるようにしておくことをおすすめします。

Q. 贈与税の支払い義務は誰にあるの?

贈与税は、原則贈与を受けた側が支払う必要があります。また、贈与税の申告についても、同様に贈与を受けた側が行う必要があります。なお、贈与税の申告は、贈与を受けた人の住所地を所轄する税務署に行います。

Q. 贈与税の時効は何年?

贈与税の申告期限の翌日(贈与を受けた翌年の3月16日)から、6年が過ぎると時効になります。脱税目的で贈与を隠すなどの悪質なケースの場合の時効は7年です。時効を過ぎると、国税局や税務署は課税処分を行えません。

子や孫への生前贈与を現金手渡しでおこなうと、使途不明金とみなされ、税務調査を受けるおそれがありますので、おすすめできません。

追徴課税を課されないためにも、贈与契約書を作成し、通帳に贈与したことがわかるような記録を残しておくようにしてください。

生前贈与については微妙な課税上の判断が伴います。贈与の契約、資金の受け渡しや税務申告などについて、税理士や弁護士などの専門家と相談しながら、計画的に行うようにしましょう。

(記事は2024年1月1日現在の情報に基づきます)

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