法定相続人とは?範囲と相続順位、相続割合を詳しく解説
親族で誰かが亡くなったとき、まず気になるのは「誰が遺産(相続財産)を引き継ぐのか」という点ではないでしょうか。今回は法定相続人の範囲や優先する順位を含め、誰が遺産を引き継ぐのかについて解説します。
親族で誰かが亡くなったとき、まず気になるのは「誰が遺産(相続財産)を引き継ぐのか」という点ではないでしょうか。今回は法定相続人の範囲や優先する順位を含め、誰が遺産を引き継ぐのかについて解説します。
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「人が亡くなると、親族内の誰かが遺産を受け取れる」ことは、よく知られていますが、「『誰が』遺産を受け取れるのか」について正確に理解している人は少ないようです。
「亡くなった人の遺産をめぐって親族同士が争う」というストーリーのドラマ・映画を時々目にしますが、実際は民法で遺産を引き継ぐ人(相続人)の範囲や順番、引き継ぐ割合(相続分)などのルールは決まっています。遺産の分け方について話し合う遺産分割協議も、民法のルールを意識して進めます。
相続人とは「実際に財産を相続する人」を指します。一方、法定相続人とは民法で定められた「被相続人の財産を相続する権利を持つ人」を指します。
誰が遺産を引き継ぐのかは、亡くなった人(被相続人)が遺言を残したかどうかで異なります。相続では、原則として遺言書の内容が優先されることが民法に定められています(民法964条)。
つまり遺言書で「誰に○○という財産(あるいは△%という割合)を相続させる(遺贈する)」という指示があれば、その指示が優先されます。遺言によって財産を受け取る人のことを受遺者といいます。
ただし、遺言書の形式が民法に規定された方式に従っていなければ、遺言書の内容は無効となります。
また、遺言書は法定相続人の遺留分(一定の法定相続人について民法により保障された相続分)を侵害できないことにも注意が必要です。遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、受遺者は法定相続人からの請求に応じ、遺留分を彼らに支払わなくてはなりません。
遺言書がない場合、あるいは遺言書に指定のない遺産の相続を考える場合には、民法では「誰が相続人になれるのか」を定めており、この権利を有する人を「法定相続人」とも呼びます。
法定相続人には被相続人の配偶者および被相続人と血のつながりのあった人(血族)がなりますが、血族については相続人になる順番や受け取れる遺産の割合(相続分)に一定のルールがあります。
法定相続人が、民法でどのように定められているのかを図とともに解説します。
配偶者は相続開始時に存在していれば常に相続人になります。なお、ここでいう配偶者は「法律婚をしている配偶者」に限られるので注意が必要です。
被相続人の血族は法定相続人になりますが、「被相続人に近い人」が先の順位となります。具体的な順位は次の図のように、第1順位から優先され、上位の順位の人がいる場合、下位の人に相続権はありません。
【法定相続人と相続順位】
配偶者は常に相続人となる
第1順位:直系卑属(子や孫、ひ孫など)
第2順位:直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母など)
第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)
遺言がない場合、相続人となれるのは、「配偶者」「直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の血族」と民法で定められています。
配偶者は必ず相続人となり、被相続人が亡くなった時点で配偶者と子どもがいれば、配偶者と子ども相続人となり、子どもや孫など直系卑属がいない場合は、配偶者と両親や祖父母など直系尊属が相続人となります。
被相続人の親族であっても、先にあげた法定相続人に該当しない人は、原則として遺産は受け取れません。遺言書により遺産の受取人として指定されたのなら、受遺者として遺産を受け取ることはできます。そうでなければ、生前どんなに被相続人と懇意にし、尽くしたとしても、遺産は1円も受け取れません。
「被相続人と縁があっても相続人になれない人」は次のような人です。
ただし、一定の手続きを経ればこれらの人でも特別縁故者として相続財産を引き継ぐことができる可能性もあります。また、民法(相続法)の改正により、2019年7月1日以降、被相続人の生前に介護や看護に尽力した長男の嫁など一定の親族は、要件を満たせば特別寄与料を相続人に請求できるようになりました。
逆に法定相続人でも遺産相続できない人も存在します。ドラマ・映画では「親族なら誰でも遺産をもらえそう」に見えます。しかし、これまで見てきたとおり、配偶者と一定の血族以外は相続人になれません。つまり、以下に該当する人は「遺産がもらえそうでもらえない人」なのです。
相続欠格とは、以下の欠格事由に該当する相続人の相続権を、手続きなしで剥奪する制度をいいます。相続欠格事由に該当する人は、配偶者や子などであっても相続人になりません。
【欠格事由】
民法は、相続において被相続人の意思を最大限尊重するようにしています。その被相続人の意思を無視あるいは民法が目指す相続のあり方をねじまげるべく法に触れるようなことをした人は相続権を失います。
相続廃除された人も相続人になりません。相続廃除とは、被相続人の請求にもとづき、家庭裁判所が相続人の相続権を剥奪する制度をいいます。いずれ被相続人になる人は、次の廃除事由がある場合、廃除の請求を生きている間に(あるいは遺言により)家庭裁判所に行うことができます。
なお、相続廃除の対象になる人は、配偶者と第一順位・第二順位の相続人に限られます。第三順位である兄弟姉妹は対象外です。
相続権の放棄、つまり、被相続人の現預金や土地などのプラスの財産だけでなく借金や未納税金などのマイナスの財産も含めたすべての財産に関する相続を放棄した人も相続人になりません。
相続放棄を行うならば、相続開始から3か月以内に家庭裁判所にその旨を申し立てなくてはなりません。
なお、相続放棄は先に説明した代襲相続の要因になりません。つまり、被相続人の子が相続放棄をした場合、「最初から相続権がなかった」とみなされるため、被相続人の孫は相続放棄をした子に代わって相続人になることはできません。
また相続放棄は、異なる相続順位の人が同時に手続きはできません。先順位の相続人がいる場合、先順位の相続人全員の相続放棄の申述が受理されてから、次順位の相続人が相続放棄が可能となります。つまり第2順位の人は、第1順位の人すべてが相続放棄をした段階で、相続放棄の手続きが可能になります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す相続人が誰になるか、何人になるかで相続割合(法定相続分)は変わります。それぞれのケース別に解説します。
相続人が配偶者と子の場合、相続割合は次のようになります。
たとえば、被相続人の死亡時に生きている親族が配偶者と子と孫、そして父母であれば、相続順位により配偶者と子が相続人になります。
それぞれの相続割合は配偶者と子どもで2分の1ずつとなります。このとき、孫と父母は相続人になれません。
また、血族側の相続人が複数いる場合には、その人数で財産を分けます。子が1人ではなく2人の場合、2分の1の相続分を2人で分けるため、子1人当たりの相続分は4分の1となります。
配偶者が死亡、もしくは相続放棄をしていて、相続人が子どものみの場合は、子どもの人数に応じて等分します。子どもが3人であれば、それぞれの相続割合は3分の1となります。
相続人が配偶者と親または兄弟姉妹の場合、相続割合は次のようになります。
【配偶者と第2順位の相続割合】
【配偶者と第3順位の相続割合】
被相続人に直系卑属がいない、もしくは直系卑属全員が相続放棄をしているケースでは第2順位(直系尊属)が相続人となります。同様のケースで両親・祖父母もいない、もしくは全員が相続放棄をしている場合、第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。
あまり例はないですが、両親が相続人のケースで両親が亡くなっており祖父母が存命の場合は、祖父母が相続します。
また相続順位が低い相続人と配偶者が相続する場合は、配偶者の相続割合が大きくなります。
このように家庭環境によって、誰が相続人になるか、また相続人の人数によって相続割合も変化します。被相続人に離婚歴があった場合など相続人はより複雑になる可能性があります。誰が相続人となるかを調べる「相続人調査」は非常に重要です(後述)。
もし被相続人の死亡時に存在している親族が配偶者と孫、父母だったら誰が相続人になるでしょうか?
配偶者と第2順位の父母が相続人になりそうにも感じますが、民法のルールでは相続人になるのは配偶者と孫です。孫は既に亡くなっている子に代わって相続人になるのです。これを「代襲相続」といいます。
代襲相続とは、本来生きていれば相続人になるはずの人(被代襲者)が相続開始以前に死亡している場合、その人の直系卑属(代襲者)が代わりに相続分を引き継ぐことをいいます。
上の図は被相続人に配偶者はいなく、子どもは2人。子どもの1人は相続開始以前に亡くなってしまっており、被相続人の孫が2人いる場合の相続割合です。
また同様に兄弟姉妹が相続人となるケースでは甥姪が相続分を引き継ぎます。
なお、代襲相続が発生するのは被代襲者の死亡だけではありません。後述する「相続欠格」「相続廃除」により相続権を失った場合も代襲相続の要因となります。
相続が発生したら誰が相続人や受遺者になるのかを把握しなくてはなりません。具体的な手続きは次のようになります。
まず確認するのが遺言書の有無です。前述の通り、相続人とその相続割合も遺言書の内容次第です。
自宅を探すのはもちろん、銀行や弁護士・司法書士・税理士に預けられている可能性も検討しましょう。なお、遺言書が公正証書遺言の場合、公証役場で存在の有無を照会することができます。さらに、民法(相続法)の改正により2018年以降、法務局で自筆証書遺言が保管できるようになりました。
ありとあらゆる可能性を探り、徹底的に遺言書の有無を確認しましょう。自筆証書遺言が見つかった場合には、開封など一切せずに速やかに家庭裁判所に提出し、検認の申し立てを行います。検認とは、遺言書の内容を確認し相続人に通知するとともに、内容の変造・偽造を防止するための手続きです。
遺言書の調査・検認と同時進行で推定相続人(相続人になる可能性のある人)をくまなく調べる作業を行う必要があります。
家族形態が複雑化している昨今、どこに相続権を有する人がいるか分からないからです。被相続人の前妻との間に子がいる、あるいは生前に養子縁組をした子がいる可能性もあります。推定相続人は戸籍謄本を取得して確認します。
取得する戸籍謄本は被相続人が生まれてから死ぬまでのすべての戸籍謄本です。相続人については全員分の戸籍謄本を取得します。被相続人の戸籍上で新たな相続人が見つかった場合あるいは相続人の中に行方不明者がいる場合、その戸籍謄本とともに戸籍の附票を取得して連絡先を突き止め、相手に連絡しなくてはなりません。
このように誰が相続人となるかは非常に複雑です。相続人の範囲に関して、よくある質問・疑問に対してお答えします。
養子も実子と同様の扱いとなり、相続人となります。注意したいのが「普通養子」と「特別養子」の違いです。
普通養子の場合、養親との親族関係が新たに発生する一方、実親との親族関係も継続します。つまり、養親と実親両方の推定相続人になります。しかし特別養子の場合、養親との親族関係が発生したら実親との親族関係は途絶えるため、養親の推定相続人にはなりますが、実親の推定相続人にはなりません。
未成年者は原則として、遺産分割や相続といった法律行為を単独で行うことが民法上認められていません。そのため相続人が未成年者の場合には、代理人を立てなくてはなりません。
通常は親が子の法定代理人ですが、相続で「配偶者と未成年者の子が同時に相続人になる」場合、親(配偶者)は子の代理人になれません。相続において親と子が利益相反関係になるからです。この場合、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てなくてはなりません。選任された特別代理人が子の代わりに遺産分割協議に参加することになります。
相続開始時に被相続人の子や孫、兄弟姉妹などにあたる胎児がいた場合、その胎児も相続人になります。民法上は胎児は「すでに生まれたもの」として取り扱われるからです。ただし、この取り扱いは後日無事に生まれた場合に限ります。流産・死産・中絶の場合には最初からいないものとされ、相続人にはなりません。
相続人に行方不明者がいる場合には、相続人の戸籍の附票から住所を探し、直接訪ねるかまたは手紙を出すなどして連絡する努力をすることが必要です。
それでも連絡がつかない場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行います。家庭裁判所の許可が下りれば、この不在者財産管理人が相続人である行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加することになります。なお、行方不明者がどうしても見つからない場合、実際には弁護士などの専門家に相談し、対処を依頼することが一般的です。
遺言書もなく、相続人もいない場合には、家庭裁判所により相続財産管理人が選任されます。選任する旨が2カ月間公告された後、相続財産管理人が相続人や相続債権者などを公告により探索します。2カ月から6カ月、この公告をしてもなお相続人が現れなければ、「相続人の不存在」が確定し、遺産は国庫に帰属することになります。
なお、相続人探索の公告期間に相続人としての権利を主張する人が現れない場合、被相続人の特別縁故者(内縁の妻など)が相続財産の分与を家庭裁判所に申し立てることができます。相続財産分与が認められれば、特別縁故者は清算後に残った相続財産の全部または一部を取得することができます。
法定相続人は、それぞれの家庭環境や事情によって異なり、場合によっては非常に複雑になるケースもあり、相続人調査に手間がかかったり、遺産分割協議がうまく進まなくなることもあります。
相続は法律の知識がないと判断が難しいシーンや手続きに時間が取られてしまいます。弁護士、司法書士、税理士などの専門家に相談することでスムーズに進めることができます。
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(記事は2023年7月1日時点の情報に基づいています)
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