目次

  1. 1. 配偶者居住権は個別検討が大切
  2. 2. 相続登記ないまま数世代経過するケースも
  3. 3. 遺産分割協議は不可欠な手続き

「相続会議」の税理士検索サービス

――今回の税制改正大綱で、注目されているポイントを教えてください

昨年の民法改正に伴い、来年4月1日に施行される配偶者居住権で重要な点がありました。例えば、夫に先立たれた妻が、配偶者居住権で住んでいる自宅を売却などする際の譲渡所得の計算が明確になりました。

妻が、老人ホームに入らざるを得ないような時、自宅を売却すると、どのような課税になるのか、今まで明確になっていませんでした。

配偶者居住権は法律上、譲渡できませんが、無償で放棄することや、所有者との話し合いにより対価を受け取って消滅させることは可能です。

妻が持っている配偶者居住権を無償で消滅させると、子どもが所有者である場合、事実上、子どもへ贈与することとなり、贈与税が課されます。そうではなく、子どもから対価を受け取って消滅させる、実質的に売却するケースでの課税が明確になっていませんでした。今回の大綱で、対価について譲渡所得として課税されることや売却利益を計算する際の取得費の計算方法も、ある程度、明確になったので、来年4月1日の施行後に配偶者居住権を活用するか否かを具体的に検討しやすくなりました。

個人的には、配偶者居住権は、ものすごく重要だと思っています。来年4月以降の相続で、配偶者が法定相続人の場合には、全て検討しないといけません。自宅そのものを相続するのか、配偶者居住権を取得するのか、を考える必要があります。二次相続に影響するからです。自宅を売却する可能性などもシミュレーションして比較検討しないと、相談して下さった方のライフプランにとって何が有利になるのか結論が出ません。

――配偶者居住権の有無に伴い、後々の二次相続にかかる相続税が違ってくるのでしょうか?

配偶者居住権の大きな特徴の一つは、配偶者が亡くなった時点で消滅することです。二次相続の対象にはなりません。ただ、すべてのケースで活用したらいいわけではありません。あえて使わないほうが、後々の税負担が少なくなるケースもあります。個別ケースごとに具体的にシミュレーションする必要があります。今後、配偶者居住権の活用を検討したい方は、専門家に相談していただくといいと思います。

1995年中央大学商学研究科修了。同年、山田&パートナーズ会計事務所(現 税理士法人山田&パートナーズ)入社。個人・法人の相続・事業承継など資産税を中心とした申告及びコンサルティングを担当。顧客及び金融機関向けセミナーの講演多数あり。(税理士法人山田&パートナーズは総合型税理士法人として、人員数700名超、全国16か所に拠点を持ち、個人から法人まで幅広いサービスを提供しています。)

――所有者が分からない土地の固定資産税についても言及がありました

相続税申告の案件を多く手伝っていますが、不動産の名義が、実際に亡くなった方ではないことが、けっこうあります。一番多いのが、相続登記がなされないまま経過したものです。
今回の税制改正大綱によると、登記上の名義人は亡くなっている場合に、実質的に所有している人に名前や住所を市区町村に申告させることができるようになります。市区町村で調査しても所有者が分からない場合には、住んでいる人を所有者とみなして固定資産税を課税できることになる見込みです。

税制改正大綱について、もっと知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい(年末に決まる税制改正大綱とは?税金のルール変更を簡単に調べる方法を解説

税制改正ではありませんが、法制審議会で検討されている内容で不動産の相続登記や遺産分割にも重要な点があります。相続が発生した不動産の中には、遺産分割されず、未登記のままで何十年も経過した物件があります。遺産分割の期限を、相続が始まってから10年以内とし、その後は、法定相続分で確定させることも検討されています。見直された場合、所有者不明の土地に関する問題が、ある程度改善されるのではないでしょうか。

遺産分割がなされていない場合、亡くなった人の法定相続人で話し合う必要があります。当時の相続人が亡くなっていた場合、その方の法定相続人が代わりとなり、遺産分割協議をすることになり、関係者が増えてしまいます。そうなってしまうと、法定相続人が、遠縁の親族になっていくので、法定相続人か分からないケースがあると思います。

――その都度、きちんとした申告が必要なんですね

相続登記では、法務局での手続きのほか司法書士への支払いなども生じます。「それだったら、義務ではないのでやらなくていいか」と思ってしまうのかもしれません。ただ、将来、売却するには名義変更しないと売れません。

遺産分割協議書を作った記憶があっても、書面が残っていないケースがあります。自宅に住み続けている人が「祖父が亡くなった時、協議して父が相続したと聞いている」と主張しても法務局で登記されないまま、というケースです。この場合でも書面がなければ、あらためて協議しないといけません。

法定相続人を探し当てても、話し合いに応じないこともあります。多くのケースでは、法定相続分をちゃんと主張されます。長年、実際に住み続けていても、思いがけずお金を払わないといけない事もあります。そういう観点でも、遺産分割協議をして早めに登記することが必要だと思います。

(記事は2019年12月13日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の税理士検索サービス