目次

  1. 1. 遺言書は法定相続分に優先する
  2. 2. 遺言書があっても法定相続分に従った相続が行われるケース
    1. 2-1. 遺言書で法定相続分どおりの相続方法が指定された場合
    2. 2-2. 相続人全員が法定相続分による相続に合意した場合
    3. 2-3. 遺言書が無効である場合
  3. 3. 遺言書で法定相続分とは異なる相続方法を指定する場合、遺留分に要注意
  4. 4. 遺言書に関するトラブルを予防する方法
    1. 4-1. 各相続人の遺留分に配慮する
    2. 4-2. 公正証書遺言の方式で作成する
    3. 4-3. 判断能力が十分なうちに作成する
    4. 4-4. 専門家に相談しながら作成する
  5. 5. まとめ|遺言書関連のトラブル予防は弁護士などへご相談を

遺言書・遺産分割協議・法定相続分の優先劣後関係は、相続における基本的かつ重要なテーマです。
結論としては、相続の方法は以下の順序に従って決まります。

  1. 遺言書
  2. 遺産分割協議
  3. 法定相続分

遺言者(被相続人)は、遺言によって財産の全部または一部を処分することができます(民法964条)。
言い換えれば、遺産相続においては「遺言者の意思」が最優先であり、遺言書の内容は遺産分割協議や法定相続分に優先するのです。

遺言書がない場合や、遺言書によって配分が指定されていない財産がある場合には、遺産分割協議が行われます。
遺産分割協議では、相続人(および包括受遺者)全員の合意により、自由に財産の分け方を決めることができます。

そして、遺産分割協議がまとまらない場合、最終的には、家庭裁判所の「審判」によって遺産分割の方法が決定されます。
この審判の段階になって、初めて法定相続分に従い相続方法が決まるのです。

上記の順序に従うと、遺言書は法定相続分に優先するという結論になります。

ただし、遺言書が存在するとしても、法定相続分に従って相続が行われるケースはあります。
具体的には、以下の3つの場合です。

遺言書でどのように相続方法を指定するかは、遺言者の自由です。
したがって、遺言書の中で「法定相続分どおりに遺産を相続させる」旨を記載しても構いません。
遺言書に上記の旨が記載されていれば、その内容に従い、法定相続分による相続が行われることになります。

相続人および包括受遺者の全員が合意すれば、遺言書の内容とは異なる方法により遺産分割を行うことができると解されています。
相続について利害関係を持つ相続人・包括受遺者の全員が納得していれば、自由な遺産分割を認めても不都合はないと考えられるからです。

もし相続人・包括受遺者全員の間で、「遺言書の内容にかかわらず、法定相続分に従って遺産を相続する」旨が合意されれば、法定相続分による相続が行われます。

遺言書全体が無効の場合には、遺言書による相続分の指定がなかったことになるため、遺産分割によって相続の方法を決定します。

<遺言書全体が無効となる場合の例>

  • 民法の方式に従わずに遺言書が作成された場合
  • 遺言者以外の者が、遺言書を偽造または変造した場合
  • 遺言書を作成する時点で、遺言者に遺言能力がなかった場合
  • 遺言書の記載が乱雑であり、全く判読できない場合
  • 遺言書の文言が不明確であり、相続方法が一義的に決まらない場合 など

遺言が無効と判断された後、遺産分割協議で法定相続分で相続することに合意すれば、法定相続分に従った相続が行われます。
また、遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所の遺産分割審判へ移行した場合には、原則として法定相続分に従った相続方法が指定されます。

遺言書では、法定相続分とは異なる相続方法を指定することもできますが、その際には「遺留分」に注意が必要です。

「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められた、相続できる遺産の最低保障額です。
兄弟姉妹以外の相続人には、以下の遺留分が認められます(民法1042条1項)。

1.直系尊属のみが相続人の場合
基礎財産(※)×法定相続分×3分の1

2.それ以外の場合
基礎財産(※)×法定相続分×2分の1

※遺留分計算の基礎財産には、以下の財産が含まれます(民法1043条1項、1044条1項、3項)。

  • 相続財産
  • 被相続人から遺贈(遺言による贈与)された財産
  • 被相続人から相続人に対して、相続開始前10年以内に贈与された財産(婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本としての贈与に限る)
  • 被相続人から相続人以外の者に対して、相続開始1年以内に贈与された財産

取得した遺産が遺留分額を下回っている場合、相続人は遺産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」(民法1046条1項)を行うことができます。
遺留分侵害額請求が認められると、相続人は遺産を多く取得した者から、金銭の支払いを受けられます。
遺留分権利者の範囲と相続人ごとの遺留分割合、計算方法を弁護士が解説

このように、遺留分を無視した遺言書を作成すると、遺言者(被相続人)の死後、相続人間で遺留分を巡る金銭トラブルが発生するおそれがあるので要注意です。

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遺言書に関する「遺言無効」と「遺留分侵害額請求」のトラブルを予防するには、遺言書を作成する段階で、以下の対応を行いましょう。

遺留分侵害額請求に関するトラブルを予防したい場合には、各相続人の遺留分を侵害しないような相続方法を指定するのが無難です。
正確に遺留分額を計算したうえで、バランスよく各相続人に遺産を配分しましょう。

なお、遺留分を侵害しないようにしつつ、特定の相続人に多くの財産を与えたい場合には、生命保険を活用する方法などが考えられます。
生命保険金は遺留分の基礎財産に含まれないため、財産を多く残したい相続人を受取人に指定すれば、遺留分問題を回避できます。

遺言書は、民法所定の形式に従って作成しなければ無効となってしまいます。
形式不備を理由とした遺言無効を回避したい場合は、公証役場で公正証書遺言を作成するのがお勧めです。

公正証書遺言は、専門家である公証人が、民法の形式に従って作成する公文書なので、形式不備により遺言が無効とされる心配がまずありません。
公正証書遺言の作成には、事前に公証役場との調整が必要ですが、弁護士などに依頼するとスムーズです。

認知症などが進行してしまうと、判断の能力の低下により、遺言書が無効とされるリスクが高まってしまいます。
そのため、ご自身で遺産の分け方を指定したい場合は、認知症などが進行する前の段階で、遺言書の作成に着手することをお勧めします。

遺言無効や遺留分侵害額請求は、いずれも法律上のトラブルに当たるため、専門家のアドバイスを受けることが予防に役立ちます。

弁護士や司法書士に相談すれば、遺言に関するトラブルを避けるために、様々な対策を提案してくれるでしょう。
また、遺言執行者への就任も併せて依頼すれば、実際の相続手続きもスムーズに進めてくれます。

遺言書を作成すれば、法定相続分にかかわらず、遺言者が自由に相続方法を指定できます。
ただし、遺言書を作成したことで、かえって遺言無効や遺留分に関するトラブルを誘発することもある点に注意が必要です。

遺言書に関するトラブルの予防には、専門家による法的なアドバイスを踏まえて遺言書を作成することをお勧めいたします。
遺言書の作成にご関心をお持ちの方は、お近くの弁護士や司法書士へご相談ください。

(記事は2022年4月1日時点の情報に基づいています。)