相続廃除とは? 制度の内容に加え、生前と遺言で異なる手続きを解説
「親の心、子知らず」ではないですが、過去のトラブルをきっかけに親子間で断絶が生じることがあります。親としては「財産を相続させたくない」と思うことがあるかもしれません。そんな時の対応策が相続廃除です。ただ、廃除が認められるハードルは高いです。相続廃除について、弁護士が詳しく解説します。
「親の心、子知らず」ではないですが、過去のトラブルをきっかけに親子間で断絶が生じることがあります。親としては「財産を相続させたくない」と思うことがあるかもしれません。そんな時の対応策が相続廃除です。ただ、廃除が認められるハードルは高いです。相続廃除について、弁護士が詳しく解説します。
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相続廃除とは、被相続人がその者に財産を相続させたくないことも当然と思われるような事由(例えば、被相続人を虐待しているなど)がある場合に、被相続人の意思に基づいて、その者の相続権を失わせる制度です。
相続廃除の対象者は、「遺留分を有する」推定相続人のみです。推定相続人とは、現時点である人が亡くなった場合に相続人になるはずの人です。
遺留分とは、法律上で定められている最低限保障された相続割合です。遺留分は遺言書でも奪うことができない相続人の権利となるため、いくら相続させたくない相続人がいても遺留分を侵害してしまうと相続トラブルの原因となります。
遺留分を有しない推定相続人に相続させたくなければ、そのような内容の遺言書を書けば問題ありません。しかし、遺留分を保障されている相続人は、遺言書に書いても遺留分をなくすことはできません。遺留分を有する推定相続人の相続分をゼロにしたいのであれば、相続廃除が必要となります。
相続廃除の対象は下記の通りです。
【相続廃除の対象になる(遺留分あり)】
【相続廃除の対象にならない(遺留分なし)】
相続廃除の手続きができるのは、被相続人のみです。手続きの方法は、生前廃除と遺言廃除(遺言執行者が手続きを行う)の2つです(後述)。なお、高齢による認知症等で被相続人本人が行為能力の制限を受けていても、法定代理人によらずに自分で手続きができます。
相続廃除は、相続人の相続権を失わせる重大な手続きとなります。そのため相続廃除が認められるのは、民法で下記のように定められています。
まず、「被相続人に対する虐待」は被相続人に対する暴力や耐え難い精神的な苦痛を与える行為を、「重大な侮辱」は被相続人に対する同人の名誉や感情を害する行為を意味します。次に、「著しい非行」とは、虐待や重大な侮辱という行為には該当しないものの、それに類する程度の非行を意味します。
例えば、犯罪、遺棄、被相続人の財産の浪費・無断処分、不貞行為、素行不良などが挙げられます。単に不仲では足りず、客観的にみて、家族的信頼関係の破壊の程度が酷く、遺留分をはく奪されてもやむを得ないといえるかどうかが基準です。
例えば、ある裁判例(大阪高裁令和元年8月21日決定)では、当時60歳を優に超えていた被相続人に対して少なくとも3回にわたって暴行に及んだこと、被相続人は鼻から出血するという傷害や全治約3週間を要する傷害を負っていてその結果も極めて重大であることなどから、被相続人の一連の暴行を「虐待」または「著しい非行」に該当すると判断しています。
ある裁判例(佐賀家審昭和41年3月31日)では、相続人の妻と姑、小姑らとの不仲が原因で疎遠となり、相続人夫婦が被相続人に近寄らず火事見舞、病気見舞をしなかった事案について、あながち相続人の責のみに帰せられるべきではなく、被相続人の行為もその原因の一端をなすことがうかがえるとして、「虐待」や「重大な侮辱」には該当しないと判断しました。
また、別の裁判例(東京高決昭和49年4月11日)では、推定相続人が被相続人を背任罪で告訴した事案について、被相続人に対する侮辱に該当するものの、その原因が被相続人にあることに加え、告訴は一時的な所業であることから、いまだ「重大な侮辱」には該当しないと判断しました。
では、相続廃除をしたい場合、どのように手続きをすれば良いのでしょうか。2つの方法を、それぞれ具体的に解説します。
まず、被相続人が生前に相続廃除を行う場合は、家庭裁判所に申立をして、審判を受ける必要があります。この場合は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出しましょう。他に書類を求められる場合もあるので、事前に管轄の裁判所に問い合わせておきましょう。
なお、費用としては、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代が必要です。
また、遺言で廃除の意思を表示する方法(遺言廃除)もあります。例えば、遺言書の中に「遺言者の長男○○は、遺言者に対して~~するなどの虐待があったため、遺言者は長男○○を廃除する」などと書くことによって行います。この場合、被相続人の死後、遺言執行者が家庭裁判所に申立てをします。そのため、遺言廃除をしたい場合は、遺言で遺言執行者の指定をしておくべきです。
相続廃除の申立てがなされた場合、家庭裁判所で審判手続きが行われます。審判手続きでは、申立人(被相続人または遺言執行者)と廃除の対象者である推定相続人との間で、廃除事由の存否をめぐって主張・立証がなされた上で、裁判所が諸般の事情を総合的に考慮して廃除を認めるかどうかの判断を下します。
審判手続きの結果、裁判所に相続廃除が認められ、その審判が確定したら、10日以内に戸籍の届出をする必要があります。相続廃除の申立人が、相続廃除された相続人の本籍地または申立人の住所地の役場に下記書類を提出して届出をします。
この届出がなされることで、相続廃除された相続人の戸籍の身分事項欄に、推定相続人から廃除された旨が記載されることになります。
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相続の相談が出来る弁護士を探すでは、相続廃除にあたっての注意点を解説します。
相続廃除にも代襲相続が適用されるので、廃除された推定相続人に子がいれば、その子が代襲相続することになります。
結果として、相続排除された相続人の家族に遺産は相続されます。相続廃除はあくまで相続人を対象にするもので、代襲相続人にその効力は及びません。代襲相続人にも遺産を相続させたくないのであれば代襲相続人を対象者とする相続排除が必要であり、代襲相続人からも虐待や重大な侮辱を受けていた事実が必要となります。
相続廃除と同じく、相続人の相続権を失わせる制度として「相続欠格」という制度が存在します。相続欠格は、欠格事由に該当する場合に法律上”当然”に相続権が失われる制度です。
“当然に”相続権が失われる点で、被相続人の意思に基づいてなされる廃除とは異なります。
相続欠格には強力な効果があるため、相続廃除の事由に比べると相続欠格の事由はいずれも重大な事由に限られています。
例えば、故意に被相続人や他の相続人を殺したこと、被相続人の遺言書を偽造・破棄・隠匿するなどが挙げられます。
申立てをすれば、必ず相続廃除が認められるわけではありません。廃除には対象者の相続権を失わせるという強力な効果があるため、家庭裁判所は、廃除を認めて良いかどうかを慎重に判断します。そのため、廃除が認められる場合は多くありません。司法統計上、認容されているのは2割程度です。
また、実際に廃除事由に該当する事実があったとしても、廃除の対象者である推定相続人から「そんなことはやっていない」と嘘をつかれると、証拠なしに裁判所に廃除を認めてもらうことは困難です。そのため、申立てに先立って、証拠を揃えておくことが大切です。
廃除は事後的に取り消すことも可能です。被相続人が廃除の取消をする方法は、廃除をする場合と同様です。被相続人が生前に家庭裁判所に申立てをする方法と遺言で取消の意思を表示する方法の2つです。後者の場合は、被相続人の死後に、遺言執行者が家庭裁判所に申立てをすることになります。
相続廃除はなかなか認められないので、他の方法で同じ目的を達成できるのであれば、まずはその方法を検討しましょう。
例えば、相続廃除の対象者が配偶者や養子であれば、相続廃除ではなく、離婚や離縁という方法が考えられます。また、生前贈与を活用するというのも一つの方法です。ただ、遺産の前渡しとみなされて遺産に組み戻されてしまう可能性や贈与税の負担にも配慮が必要ですので、注意してください。
特定の相続人に遺産を相続させたくないのであれば、生前の準備が不可欠です。各方法によって、それぞれメリット・デメリットが変わってきますから、早めに弁護士に相談をして、対策を練ることをおすすめします。
(記事は2022年10月1日現在の情報に基づきます)
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