親の借金を肩代わりしないための対処法 手続きや注意点を弁護士が解説
親が亡くなった際、子をはじめとした相続人に相続されるのは、お金や不動産だけではありません。借金などのマイナスの遺産も相続することになります。「土地やお金は欲しいけど、相続したら親の借金まで肩代わりしなければいけないのか」。そう悩む人は少なくありません。そういった人のために、親の借金を肩代わりしないための方法について弁護士が説明します。
親が亡くなった際、子をはじめとした相続人に相続されるのは、お金や不動産だけではありません。借金などのマイナスの遺産も相続することになります。「土地やお金は欲しいけど、相続したら親の借金まで肩代わりしなければいけないのか」。そう悩む人は少なくありません。そういった人のために、親の借金を肩代わりしないための方法について弁護士が説明します。
目次
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親が借金をしていた場合、その返済は親自身がするものですので、原則として、親の借金を子が肩代わりすることはありません。
ただし、これから説明する3つのケースでは、子が親の借金の肩代わりをしなければならないことがあります。
親が亡くなった場合、相続人である子は、故人の遺産を相続します。遺産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もあります。
したがって、相続の際、亡くなった親が借金を抱えていた場合には、これを返済しなければなりません。
親の借金について、子が連帯保証人になっている場合、親の返済が滞ったり、親が亡くなったりすれば、連帯保証契約に従い、子が借金を返済しなければなりません。
また、連帯保証契約では通常の保証契約と異なり「催告・検索の抗弁権」が認められません。「催告・検索の抗弁権」とは以下の権利を指します。
こういった権利がないため、連帯保証人は実質「自分が借金を負っているのと変わらない状態」といえるでしょう。
子が成年の場合、親に借金についての代理権を与え、これに基づいた借入をした場合、名義人(子)が返済をしなければなりません。
親に代理権を与えた覚えがないにもかかわらず、子名義で親が勝手に借金を借りていた場合は、子は返済する必要はありません。
一方、子が未成年(18歳未満)の場合、親には「子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について、子を代表する権限」があります(民法824条本文)。
これにより、親は子に代わって、子の名義で契約をすることができます。そのため、親が子の利益を図るために、子の名義で借金をしたような場合には、子本人が返済しなければなりません。
上記の3つのケースに直面しても、親の借金の肩代わりから逃れる方法があります。
子であっても必ず親の財産を相続しなければならないということはありません。
預貯金等のプラスの財産よりも、借金等のマイナスの財産が多いような場合には、相続放棄をすれば、借金の肩代わりをしなくても済みます。
ただし、相続放棄は、亡くなった人の一切の財産を引き継がないものになりますので、借金だけでなく、プラスの財産も引き継げなくなってしまうことには注意が必要です。
相続放棄は原則として、親が亡くなり、これにより自らが相続人となったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に手続きをしなければなりません。
不動産などの特定の財産を相続したいため相続放棄をしたくないけど、マイナスの財産がどの程度あるのかが分からないため、相続自体を躊躇してしまうような場合もあるでしょう。
そのような場合には、限定承認を行うことが考えられます。
限定承認は、相続によって得るプラスの財産を上限として相続をするものです。相続で引き継いだプラスの財産からマイナスの財産を清算して、残ったプラス財産があれば、相続人がこれを相続することができます。
ただし、家庭裁判所での手続きが必要なので、労力が必要な上、清算手続きが終わるまではプラスの財産の処分などを行うことはできません。また、他に相続人がいる場合には、相続人全員が共同して限定承認を行う必要があります。
親の借金の連帯保証人となっていたり、借金を相続したりした場合には、親の借金を肩代わりしなければなりません。
このような場合、借金の金額が、明らかに返済不能な額となっているようであれば、自己破産をするべきです。
支払能力がないために、一般的かつ継続的に、債務を弁済することができない状態にある場合、裁判所が自己破産を認めれば、債務の弁済が免除されます。
ただし、ギャンブルで借金を大きく膨らませてしまったなどの場合には、自己破産は認められないことがあります。
また、自己破産が認められた場合、自身が所有していた財産(家や車)については差し押さえられてしまいますので、注意が必要です。
なお、親の借金の一切を肩代わりしたくないということであれば、上記のとおり、自己破産をすることになりますが、そうでなければ、他の債務整理手続きを検討する必要があるでしょう。具体的には、任意整理や個人再生といった債務整理手続きがあります。
亡くなった親の財産の中に借金があることを知らずに相続してしまったり、借金があるにもかかわらず相続放棄の手続き期限を過ぎしてしまったりしたケースであっても、あきらめる必要はありません。
相続放棄は原則として、親が亡くなり、「自らが相続人となったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)」に手続きをとらなければなりません。
ただし、この期間を過ぎた後でも、相続放棄が可能な場合があります。
相続人がプラスの財産及びマイナスの財産いずれも全く存在しないと信じた場合において、これに相当な理由があると認められるときに限り、親が亡くなったこと等を知った時から3か月を過ぎても相続放棄が可能となり得ます。
相続放棄を行わなかった場合において、マイナスの財産がプラスの財産を大幅に超えてしまうようなときには、自己破産、個人再生、任意整理等の債務整理を行うことを検討するべきです。
各手続きの特徴は次の表のとおりです。
自己破産 | 個人再生 | 任意整理 | |
---|---|---|---|
債務のカット | あり (一部を除いて全額カット) |
あり (80%程度カット) |
原則なし (返済期間の変更や 利息のカットにとどまる) |
返済期間 | なし (返済不要のため) |
3~5年 | 3~5年 |
特定の財産を 残すことの可否 |
不可 | 可 | 可 |
官報への掲載 | あり | あり | なし |
裁判所の関与 | あり | あり | なし |
相続してから親の借金が判明してしまう事態を避けるためにも、親の借金の有無や、その金額を事前に把握することが大切です。
親が存命であれば、本人に直接確認するのが一番早いですが、後ろめたさから正直に教えてもらえない可能性があります。
そのような場合には、親宛ての郵便物の中に、裁判所からの書類や借金の督促状が届いていないか、定期的に確認しましょう。
また、不動産の登記事項証明書は、抵当権等の担保が設定されているか否かを確認できます。「抵当権が設定されている=住宅ローンなどが返済できなくなった際、住宅を売却することで借金を回収する」となるため、借金が残っている可能性があります。
ただし、抵当権が設定されている場合でも、単に住宅ローンに対する担保として設定されているにすぎないことも考えられますので、注意が必要です。
個人信用情報機関(CIC、JICC、KSCなど)には、借入や返済、滞納等の借金に関する情報が保存されています。そこで、親が亡くなっている場合には、個人信用情報機関に対し、情報開示を行うことが考えられます。
親が存命であれば、本人しか開示請求を行うことができませんが、すでに亡くなっている場合、以下の書類を提出することで、親の借金に関する情報を開示できます。
子が、自発的に親の借金を肩代わりする場合、子が借金を返済することになり、親は借金を返済する必要がなくなります。
すると「子が親に対して肩代わりをした分の金額を贈与し、そこから親が返済をしたもの」と評価されます。
よって、この金額が年間110万円を超えている場合には、贈与税が発生するので注意しましょう。
ただし「子が借金を肩代わりしたあと、親から肩代わり分を返済してもらう」場合には、贈与税がかからない可能性があります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す亡くなった親の住宅ローンの残金の返済については、団信の加入の有無が影響します。
団信(団体信用生命保険)とは、住宅ローンの返済中に契約者が亡くなった場合などに、住宅ローンが返済不要となる保険のことです。住宅ローンを組む場合、ほとんどの金融機関は、団信に加入することを住宅ローン融資の条件としています。
ただし、団信に加入せずとも住宅ローン融資を受けることができる場合もあります。この場合、住宅ローンの契約者である親が亡くなっても、住宅ローンの返済義務は残りますので、この点を踏まえて相続するか、相続放棄するかを判断する必要があるでしょう。
親が離婚していた場合、亡くなった親の元配偶者は相続人にはなりませんが、その間に生まれた子は、故人の遺産を相続することができます(民法887条1項)。そのため、子は、借金を含めて相続するか、相続放棄をするかを判断する必要があるでしょう。
なお、子が亡くなった親と絶縁し、一切連絡をとっていなかった場合でも、法律上、親子関係があることに変わりはありません。従って、この場合も同様に、子は相続するかどうか判断する必要があります。
借金に時効はあります。時効を迎えたのち、時効の利益を受けることを相手方に伝えると、借金の返済義務がなくなります。
これを「消滅時効」と呼びますが、以下のどちらかの短い方の期間が経過した際に成立します(民法166条1項)。
①借金の弁済期(返済期日)が到来し、債権者が返済を求めることができるようになったことを知ってから、5年を経過しても債務者に返済を求めなかったとき
②借金の弁済期(返済期日)が到来し、債権者が返済を求めることができるようになってから10年を経過しても、債務者に返済を求めなかったとき
親が自身や第三者の利益のために、勝手に子を保証人としていたような場合、子は借金を返済する必要はありません。ただし、子が自分の意思で「返済する」と決めたのであれば話は別です。
親が亡くなった際、子が親の借金を肩代わりしなければならないかどうかは「相続をするか・しないか」によって決定します。
相続をする場合、親のプラスの遺産を相続できますが、借金をはじめとしたマイナスの遺産も相続しなければなりません。
相続放棄をする場合、プラスマイナスに関係なく、一切の遺産を相続しないことになります。相続放棄の期限は「自分が相続人だと知ってから3ヶ月以内」のため、急いで手続きをしなければなりません。
期限切れなどの理由で相続放棄が認められなかった場合には、自己破産などの債務整理手続きを検討する必要もあるでしょう。もし相続すべきかどうかや、親の借金の肩代わりについて悩みがある場合は、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
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(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)
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