目次

  1. 1. 遺産分割協議で騙されたら、意思表示の取り消しが可能
  2. 2. 錯誤・詐欺にあたる場合、取り消せる
  3. 3. 相続でよくある「噓」の具体例
    1. 3-1. 遺産を隠す
    2. 3-2. 相続財産の売却価格について噓をつく
    3. 3-3. 多額の生前贈与を受けていたことを黙っている
    4. 3-4. 遺産を使い込んでいたことを黙っている
    5. 3-5. 遺言書を破棄・隠匿する
    6. 3-6. 遺言書を偽造・変造する
  4. 4. 遺産分割協議書作成後、「騙された」と気づいたときの対処法
    1. 4-1. 取り消しの意思を伝える
    2. 4-2. 重大な不正行為を行った相続人を相続手続きから除外する
    3. 4-3. 遺産分割協議をやり直す
    4. 4-4. 合意が得られなければ調停を申し立てる
    5. 4-5. 訴訟
  5. 5. 遺産分割の取り消しに関する注意点
    1. 5-1. 取り消しは善意無過失の第三者に対抗できない
    2. 5-2. 取消権の消滅時効は5年
    3. 5-3. 「追認」に注意
    4. 5-4. 遺産分割の内容に「納得できない」だけでは不十分
  6. 6. 遺産分割協議書で「騙された」ときに弁護士に相談・依頼するメリット
  7. 7. 遺産分割協議書で騙されたときに関するよくある質問
  8. 8. まとめ 遺産分割で「騙された」と感じたら、弁護士に依頼すべき

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遺産分割協議は、相続人・包括受遺者の全員の合意によって成立します。遺産分割協議書の作成後は原則、トラブルが生じたとしても内容を取り消すことはできません。

しかし、相続人が重大な勘違いをしていたり、他の相続人に騙されていたりした場合には、遺産分割に関する意思表示を取り消すことができます

もし遺産分割協議で「騙された」と感じている場合は、完全に諦めてしまう前に、一度弁護士に相談してみましょう。

遺産分割の意思表示を取り消すことができるのは、主に「錯誤」(民法95条1項)または「詐欺」(民法96条1項)に当たる場合です(「強迫」に当たる場合も取り消しが可能ですが、本記事では割愛します)。

錯誤とは…遺産分割の内容について重要な誤解があり、その誤解に基づいて意思表示をしたこと。たとえば、貯金や不動産など重要な遺産が漏れていることを知らずに合意してしまったケースなど。

詐欺とは…他の人がついた噓を信じてしまい、その誤信に基づいて意思表示をしたこと。

遺産分割協議では、協議を有利に進めるため、相続人は「噓」をつくことがあります。この噓によって、騙されて遺産分割に同意した場合には、錯誤・詐欺のどちらにも該当する場合が多いでしょう。

たとえば次のような噓がよく見られるので、安易に信じないようにご注意ください。もしこれらの嘘を信じたために遺産分割に同意した場合は、錯誤または詐欺による取り消しを主張しましょう。

遺産を管理している相続人が、自分の懐に入れる目的で、預金口座や金庫などの存在を隠すケースがあります。この場合、遺産の全体像が正しく把握できないため、遺産分割を適正に行うことは不可能です。

遺産に含まれる不動産の売却を任された相続人が、実際の売却価格よりも低い金額を他の相続人に伝えて、差額を自分の懐にいれてしまうケースがあります。

亡くなった被相続人から相続人が受けた生前贈与は、「特別受益」として遺産分割の際に考慮する必要があります。相続人が特別受益に当たる生前贈与を受けたことを黙っていた場合、遺産分割を正しく行うことができません。

分割前の遺産は相続人全員の共有であるにもかかわらず、一部の相続人が遺産を使い込んでしまうケースがあります。他の相続人から追及された際には、「被相続人のために使った」「葬儀代に使った」などと嘘をつくことが多いです。

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本来、遺言書が存在すれば、その内容に従って遺産分割を行う必要があります。しかし、他の相続人が自分に不利な遺言書を見つけて破棄したり、隠してしまったりするケースがあります。遺言書が存在することを知らずに協議が行われた場合、正しい遺産分割には至りません。

悪質なケースでは、相続人が自分に有利になるように遺言書を偽造したり、日付や内容を書きかえたりすることもあります。偽造や変造をされた遺言書は無効なので、それに基づいて行われた遺産分割はやり直しを求めることができます。

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他の相続人に騙されて遺産分割に同意してしまった場合に、その遺産分割のやり直しを求めるには、以下のような対処法が考えられます。

遺産分割を取り消す場合は、何らかの方法で他の相続人・包括受遺者全員に取り消しの意思表示を行いましょう。取消権を行使したという証拠を残すため、内容証明郵便を利用して通知を行うのが一般的です。

遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿などの重大な不正行為をした相続人は、「相続欠格」によって相続権を失います。相続権を失った欠格者が参加した遺産分割は無効であるため、欠格者を除外したうえでやり直しを求めることができます。

ただし、欠格者が遺言書の偽造などを否認して争いに発展する可能性もあります。その場合は訴訟などによる解決が必要となるため、弁護士に相談してサポートを受けましょう。

遺産分割の取り消しが認められた場合は、改めて相続人全員(欠格者は除く)で遺産分割協議を行います。

1回のやり直しで遺産分割を完了するため、すべての遺産を洗い出したうえでリストにまとめましょう。相続人に過不足がないか、遺言書を見落としていないかなどを確認することも重要です。予期せぬトラブルを防ぐため、弁護士と協力することをお勧めします。

遺産分割をやり直すことについて、相続人全員の合意が得られない場合は、家庭裁判所に遺産分割協議の無効確認を求める調停を申し立てましょう。

調停では、中立の調停委員が各相続人の主張を公平に聴き取り、合意形成をサポートします。明らかな取消事由や無効事由がある場合、客観的な資料の提出や説明を通じて調停委員に理解してもらえれば、遺産分割のやり直しを促してもらえるでしょう。

調停でも合意が得られず不成立となった場合は、裁判所に「遺産分割無効確認訴訟」を提起して争います。

訴訟では、錯誤・取り消しの原因となる事実(騙された際の相手方の言動など)を証拠により立証することが必要です。遺産分割協議に関する議事録やメッセージなどがあれば、証拠として提出しましょう。

訴訟手続きは複雑かつ専門的で、判決が確定すると覆すことはできないため慎重な対応が求められます。弁護士と協力して、十分な準備を整えたうえで訴訟に臨んでください。

錯誤・詐欺があったとしても、遺産分割協議を取り消して遺産を取り戻すことができないケースがあるため、注意が必要です。

錯誤・詐欺による意思表示の取り消しは、取り消し前に利害関係に入った善意無過失(事情を知らず、不注意や落ち度もない状態)の第三者に対抗することができないので注意が必要です(民法95条4項、96条3項)。

例えば、遺産分割によって相続人Aが取得した不動産Xが、Pに譲渡されたとします。

その後、他の相続人Bによって遺産分割の意思表示が取り消されたとしても、Pが取消原因(錯誤・詐欺)について知らず、かつ知らなかったことについて過失がない場合には、BはPに対して遺産分割の取り消しを対抗できないのです。

この場合、不動産XはPのものとなってしまいます。

錯誤・詐欺に基づく意思表示の取消権は、錯誤・詐欺を知った時から5年間で時効消滅してしまいます(民法126条1文)。

また、遺産分割が行われてから20年が経過した場合も、やはり同様に取消権が時効消滅します(同条2文)。

取消権の消滅時効が完成したら、錯誤・詐欺による取り消しができなくなるので要注意です。もし遺産分割で騙されたと感じた場合には、早めに弁護士にご相談ください。

錯誤・詐欺に基づき遺産分割を取り消すことができる場合でも、遺産分割を「追認」した場合には取消権を行使できなくなります(民法122条)。「追認」とは、取り消すことのできる意思表示を、取り消さずに有効なものと認めることをいいます。

明示的に追認をしなくても、他の相続人による嘘を知るに至った後、遺産分割によって割り当てられた遺産の引渡しを請求した場合や、取得した遺産を第三者へ譲渡した場合などには「法定追認」の効果が生じ、取消権を行使できなくなる点にご注意ください(民法125条)。

遺産分割を取り消すことができるのは、あくまでも錯誤や詐欺に当たる場合に限られます。

単に「納得できない」という理由だけでは、取り消しが認められるには不十分ですので注意しましょう。

例えば、「内容をきちんと読まずに署名押印した」「一度は納得したが、後から気が変わった」といった場合には、遺産分割に関する意思表示の取り消しが認められる可能性は低いです。

一度締結された遺産分割協議書の内容を後から取り消すには、「法律上取り消しができる場面なのか」「取消権の存在を立証するための証拠はあるか」「どのように主張すれば相手方が納得するか」など、さまざまな観点から検討を行うことが必要不可欠です。

このような検討や判断を自分だけで適切に行うことは現実的に難しいでしょう。弁護士に相談することで、適切なアドバイスを受けられます。

また、遺産分割の取り消しに納得しない相続人・包括受遺者がいる場合には、訴訟で徹底的に争わなければならない場合もあります。そのため、遺産分割の取り消しが必要となった場合は、早めに弁護士まで相談することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、取消権が認められる公算の程度や、他の相続人等との再協議・訴訟などの見通しについてアドバイスを受けられます。

正式に依頼をすれば、依頼者に代わって、取り消しに納得しない相続人との再協議の交渉を担ってくれるだけでなく、訴訟になった際には裁判所とのやりとりも任せることができます。弁護士を通じて取り消しの意思表示を行うことで、相手方も遺産分割の取り消し・やり直しを受け入れる可能性が高まりますし、訴訟も有利に進められる可能性が高まります。

初回相談は無料で受け付けている弁護士事務所も多いため、遺産分割協議書作成後にトラブルが生じている人は気軽に相談してみるとよいでしょう。

Q. 遺産分割協議書で騙されたと感じたら、どのような証拠を集めればいい?

騙してきた人とのやり取りの記録があれば、すべて保存しておきましょう。メールやLINEのメッセージ、電話録音などが挙げられます。これらの証拠がなくても、遺産分割に関する不自然な事情などから錯誤や詐欺を立証できる可能性があるので、弁護士にご相談ください。

Q. 遺産分割協議書の取り消しにはどれくらいの時間がかかる?

相続人全員の合意が得られれば、すぐに遺産分割をやり直すことができます。 一部の相続人がやり直しに反対している場合は、協議や裁判所の調停・訴訟によって解決を図る必要があります。その場合は短くても数カ月程度、長ければ1年以上を要します。

Q. 騙されたと気づいてから5年以上経ってしまった。もう手遅れ?

騙されたと気づいてから5年が経過すると、取消権が時効によって消滅するため、遺産分割の取り消しは認められない可能性が高いと思われます。ただし直ちに諦めるのではなく、念のため弁護士に確認してもらってください。

Q. すでに相続税を支払ってしまった。遺産分割を取り消したらどうなる?

錯誤や詐欺によって遺産分割を取り消した場合は、やり直しの遺産分割が完了した後、更正の請求や修正申告によって相続税額を訂正します。 相続税額が減る人は、更正の請求を行います。相続税額が増える人は、修正申告を行います。期限はいずれも再分割完了日の翌日から起算して2カ月以内です。

遺産分割協議書にサインした後で「騙された」と気づいても、諦める必要はありません。遺産隠しや虚偽の説明といった「詐欺」を受けた場合や、財産の内容などについて「錯誤」(重大な勘違い)があった場合は、遺産分割協議を取り消せる可能性があります。

ただし、取り消しを法的に主張するには、錯誤や詐欺を証明する証拠を集め、適切な手続きを踏む必要があります。また、取消権には「錯誤や詐欺に気づいた時から5年」という時効があるため、迅速な行動が何よりも重要です。

「騙された」「納得がいかない」と一人で悩み続けているだけでは、問題はなかなか解決しません。お早めに弁護士までご相談ください。

(記事は2025年10月1日時点の情報に基づいています)

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