目次

  1. 1. 遺産分割協議で騙されたら、意思表示の取り消しが可能
  2. 2. 錯誤・詐欺にあたる場合、取り消せる
  3. 3. 相続でよくある「噓」の具体例
    1. 3-1. 遺産を隠す
    2. 3-2. 相続財産の売却価格について噓をつく
    3. 3-3. 多額の生前贈与を受けていたことを黙っていた
    4. 3-4. 遺産を使い込んでいたことを黙っていた
  4. 4. 遺産分割の取り消しに関する注意点
    1. 4-1. 取り消しは善意無過失の第三者に対抗できない
    2. 4-2. 取消権の消滅時効は5年
    3. 4-3. 遺産分割の内容に「納得できない」だけでは不十分
    4. 4-4. 「追認」に注意
  5. 5. 遺産分割の意思表示を取り消す方法は?
  6. 6. まとめ 遺産分割で「騙された」と感じたら、弁護士に依頼すべき

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遺産分割協議は、相続人・包括受遺者の全員の合意によって成立します。

しかし、相続人が重大な勘違いをしていたり、他の相続人に騙されていたりした場合には、遺産分割に関する意思表示を取り消すことができます。

もし遺産分割協議で「騙された」と感じている場合は、完全に諦めてしまう前に、一度弁護士に相談してみましょう。

遺産分割の意思表示を取り消すことができるのは、主に「錯誤」(民法95条1項)または「詐欺」(民法96条1項)に当たる場合です。(「強迫」に当たる場合も取り消しが可能ですが、本記事では割愛します)

錯誤とは…遺産分割の内容について重要な誤解があり、その誤解に基づいて意思表示をしたこと

詐欺とは…他の人がついた噓を信じてしまい、その誤信に基づいて意思表示をしたこと

遺産分割協議では、協議を有利に進めるため、相続人は「噓」をつくことがあります。この噓によって、騙されて遺産分割に同意した場合には、錯誤・詐欺のどちらにも該当する場合が多いでしょう。

たとえば次のような噓がよく見られるので、安易に信じないようにご注意ください。もしこれらの嘘を信じたために遺産分割に同意した場合は、錯誤または詐欺による取り消しを主張しましょう。

遺産を管理している相続人が、自分の懐に入れる目的で、預金口座や金庫などの存在を隠すケースがあります。この場合、遺産の全体像が正しく把握できないため、遺産分割を適正に行うことは不可能です。

遺産に含まれる不動産の売却を任された相続人が、実際の売却価格よりも低い金額を他の相続人に伝えて、差額を自分の懐にいれてしまうケースがあります。

亡くなった被相続人から相続人が受けた生前贈与は、「特別受益」として遺産分割の際に考慮する必要があります。相続人が特別受益に当たる生前贈与を受けたことを黙っていた場合、遺産分割を正しく行うことができません。

分割前の遺産は相続人全員の共有であるにもかかわらず、一部の相続人が遺産を使い込んでしまうケースがあります。他の相続人から追及された際には、「被相続人のために使った」「葬儀代に使った」などと嘘をつくことが多いです。

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錯誤・詐欺による意思表示の取り消しは、取り消し前に利害関係に入った善意無過失の第三者に対抗することができないので注意が必要です(民法95条4項、96条3項)。

例えば、遺産分割によって相続人Aが取得した不動産Xが、Pに譲渡されたとします。

その後、他の相続人Bによって遺産分割の意思表示が取り消されたとしても、Pが取消原因(錯誤・詐欺)について知らず、かつ知らなかったことについて過失がない場合には、BはPに対して遺産分割の取り消しを対抗できないのです。

この場合、不動産XはPのものとなってしまいます。

錯誤・詐欺に基づく意思表示の取消権は、錯誤・詐欺を知った時から5年間で時効消滅してしまいます(民法126条1文)。

また、遺産分割が行われてから20年が経過した場合も、やはり同様に取消権が時効消滅します(同条2文)。

取消権の消滅時効が完成したら、錯誤・詐欺による取り消しができなくなるので要注意です。もし遺産分割で騙されたと感じた場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

遺産分割を取り消すことができるのは、あくまでも錯誤や詐欺に当たる場合に限られます。

単に「納得できない」という理由だけでは、取り消しが認められるには不十分ですので注意しましょう。

例えば、「内容をきちんと読まずに署名押印した」「一度は納得したが、後から気が変わった」といった場合には、遺産分割に関する意思表示の取り消しが認められる可能性は低いです。

錯誤・詐欺に基づき遺産分割を取り消すことができる場合でも、遺産分割を「追認」した場合には取消権を行使できなくなります(民法122条)。「追認」とは、取り消すことのできる意思表示を、取り消さずに有効なものと認めることをいいます。

明示的に追認をしなくても、他の相続人による嘘を知るに至った後、遺産分割によって割り当てられた遺産の引渡しを請求した場合や、取得した遺産を第三者へ譲渡した場合などには「法定追認」の効果が生じ、取消権を行使できなくなる点にご注意ください(民法125条)。

遺産分割を取り消すには、何らかの方法で他の相続人・包括受遺者全員に取り消しの意思表示を行いましょう。取消権を行使したという証拠を残すため、内容証明郵便を利用して通知を行うのが一般的です。

もし他の相続人・包括受遺者が、遺産分割の取り消し・やり直しに応じない場合は、裁判所に「遺産分割無効確認訴訟」を提起して争います。

訴訟では、錯誤・取り消しの原因となる事実(騙された際の相手方の言動など)を証拠により立証することが必要です。

遺産分割協議に関する議事録やメッセージなどがあれば、証拠として保存しておきましょう。

遺産分割に一度は同意したものの、相続財産を隠されていた・売却価格をごまかされていたなどの事情がある場合は、錯誤や詐欺を理由に、遺産分割の意思表示を取り消すことができます。

ただし、一度締結された遺産分割協議書の内容を、後から取り消すのは簡単ではありません。

取消権を行使するに当たっては、「法律上取り消しができる場面なのか」「取消権の存在を立証するための証拠はあるか」「どのように主張すれば相手方が納得するか」など、さまざまな観点から検討を行うことが必要不可欠です。

遺産分割の取り消しに納得しない相続人・包括受遺者がいる場合には、訴訟で徹底的に争わなければならない場合もあります。そのため、遺産分割の取り消しが必要となった場合は、お早めに弁護士までご相談ください。取消権が認められる公算の程度や、他の相続人等との再協議・訴訟などの見通しについてアドバイスを受けられます。

弁護士を通じて取り消しの意思表示を行うことで、相手方も遺産分割の取り消し・やり直しを受け入れる可能性が高まります。

「騙された」「納得がいかない」と一人で悩み続けているだけでは、問題はなかなか解決しません。お早めに弁護士までご相談ください。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)

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