目次

  1. 1. 夫が急逝 妻と未成年の子が相続人の場合「特別代理人」が必要
  2. 2. 妻がすべて相続したら相続税はかからないのに
  3. 3. 未成年の子がいる人こそ、遺言書の準備を

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50歳のLさんは外資系金融機関に勤めるビジネスマン。奥様は専業主婦で45歳。16歳の子どもがいます。Lさんの年収は約2000万円と高く、自宅マンションと金融資産を合わせると 1億5000万円ほどの資産をお持ちでした。

そんな Lさんがある日突然倒れて、帰らぬ人となってしまったのです。

相続人が2人(妻と子1人)いる場合、相続税の基礎控除額の計算式3000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算すると、4200万円以上の財産があると相続税がかかることになります。

1億5000万円もの財産があった Lさんのご家族は、もちろん相続税の課税対象者となります。しかし、一家の大黒柱を失った家族にとっては、多額の税金を納めるのはできれば避けたいところです。

ここまで書くと、税金にくわしい方は「奥さんが相続する場合、1億6000万円まで相続税はかからないんじゃないの?」と思われるかもしれません。

はい、その通りです。でも、子どもが未成年の場合、そうもいかないのです。ちなみに、2022年4月以降は成年となる年齢が現在の満20歳以上から満18歳以上となったため、改正後の未成年者は満17歳以下の人をいいます。

誰が相続財産をもらうかを決める「遺産分割協議」は法律行為です。そして、この協議は、未成年者が単独で行うことはできないと決められています。相続人の中に未成年者がいる場合は「特別代理人」を立て、その代理人が未成年者の代わりに遺産分割協議を行うことになるのです。

「特別代理人」は誰がなってもかまいませんが、遺産分割協議の場合、財産を分け合う同じ立場の相続人の方がなることはできません。つまり、父親が亡くなった時の遺産分割協議では、母親が未成年の子どもの「特別代理人」になることはできないということです。

仮にお母さんが子どもの代理人になった場合、お母さん1人の意思で遺産分割を決めることができてしまい、子どもたちの権利を守ることができないというのです(むずかしい言葉で「利益相反」といいます)。

そう聞くと「子どものためを思わない母親なんていないんじゃないの? お母さんが代理でいいんじゃないの」と思うのですが、法律ではそれは認められません。

では、「特別代理人」はどう決めればいいのでしょうか? これは、その辺の人にテキトーに頼んじゃう、というわけにはいきません。家庭裁判所に申し立てをして承認を得る必要があります。申請をする時には、どのように遺産分割をするかの案も一緒に提出する決まりになっています。

そして問題はここからです。あくまでも「特別代理人」を選任するのは未成年の子どもの権利を守るためです。ですから「母親が全部相続する」ということは基本的に認められません。原則、「法定相続分程度は子どもに相続させなさい」ということになります。

Lさんの相続で考えると、遺産総額は1億5000万円なので、妻が全部相続すれば相続税はかかりません。しかし家庭裁判所は「それはダメよ」というのです。仮に裁判所推奨の法定相続分通りの遺産分割をすると、相続税は880万円(現時点での配偶者控除と未成年者控除を勘案後)となります。

「母親が全部もらったって子どものために使うはずだから、相続税がかからないように遺産分割するのが、一番子どものためになるんじゃないのか?」と思うのですが、意見が通る見込みは低いのです。

理不尽な話だと思いますが、法律は最悪のケースを想定して作られているような側面があります。仮に、子どものことを全く顧みない人だった場合、子どもに1円も相続させずに自分が金を湯水のように使って贅沢三昧し、あげくの果てに子どもは衣食住にも困る……。なんてことになれば、母親にすべて相続させたことが子どもにとってよくなかった、ということになりかねません。

こうして、Lさんのご家族も泣く泣く相続税を納めることになってしまいました。

「まだまだ若いから相続なんて」と思うかもしれませんが、いつ何が起こるかは、誰にもわかりません。

また、仮に相続税がかからなかったとしても、子どもとの遺産分割協議に第三者を介在させるというのは、決して愉快なことではありません。

そんな時、遺言書があれば、どんなに助かるか。子どもが未成年のうちならば「妻に全部相続」という遺言書でいいじゃありませんか。もちろん、家庭ごとに様々な事情があると思いますので、これがベストというわけではありません。あくまで、ご自分の家庭にとってベストと思われる分け方を指定すればいい。未成年のお子さんがいるご家庭は、是非、遺言書のご用意を検討してください。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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