「通常の地代」と「相当の地代」の違いとは? 借地権の相続税評価額の計算方法を解説
相続税の計算においては、たとえ自分自身が土地の所有者でなくても、他者から借りた土地の上に建物を所有していると、借地権の評価が必要となるケースがあります。借地権とは他者から借りた土地の上に、自分の建物を建てられる権利をいいます。
相続税の計算においては、たとえ自分自身が土地の所有者でなくても、他者から借りた土地の上に建物を所有していると、借地権の評価が必要となるケースがあります。借地権とは他者から借りた土地の上に、自分の建物を建てられる権利をいいます。
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「通常の地代」や「相当の地代」の意味を理解するためには、まず借地権について知る必要があります。借地契約では、土地全体を「借地権」と「底地」の2つに分類し、一般的には契約締結時に権利金を支払うことによって、借主は地主から「借地権」を取得します。この場合、実際に支払う権利金の額は、土地の価額×借地権割合などによって計算されます。
上述のように、借地契約締結時に権利金を支払っている場合、「借地権」部分の対価の支払いはすでに完了しているため、月々の地代としては、土地全体から「借地権」を除いた部分、つまり「底地」に相当する賃料を支払えば良いこととなります。この「底地」に相当する部分の地代を「通常の地代」といいます。
通常の地代は、以下の算式によって計算します。
通常の地代(年額)=土地の価額×(1-借地権割合)×6%
上記算式のうち、括弧内の部分が土地全体から「借地権」を除いた「底地」部分であることを意味しています。一般的な契約では、契約締結時の権利金に加え、上記算式により計算した通常の地代を支払うことによって、借主は土地全体を使用することが可能となります。
先述のとおり、通常の地代は「借地権」部分を権利金として支払った場合における、「底地」部分の使用料という性質を持っています。
一般的には借地契約時に権利金を支払いますが、親族同士や親族が経営する会社など、同族関係者の間で取引を行う場合には、権利金のやりとりを行わないケースもあります。本来、そのような権利金を支払わないケースでは、「借地権」部分の支払が完了していないため、「底地」に加えて「借地権」に相当する賃料も地代に上乗せして支払わなくてはなりません。
このように権利金を支払わずに、借地権部分を含んだ土地全体の賃料として支払う地代のことを「相当の地代」といいます。
つまり通常の地代では「底地」部分のみの賃料であったのに対し、相当の地代の場合には借地権部分を含めた「土地全体」の賃料となるため、相当の地代は通常の地代よりも高い金額に設定されます。
土地全体の賃料として支払う相当の地代は、以下の算式によって計算します。
相当の地代=土地の価額×6%
先述した通常の地代の計算式では(1-借地権割合)を乗ずることで「底地」のみに相当する地代を算出しましたが、相当の地代の計算式では「土地全体」が地代の対象となっていることがわかります。したがって「通常の地代<相当の地代」という関係性が成り立ちます。
借地権の相続税評価は、シンプルに「自用地評価額×借地権割合」で求めることができます。一方で、地代によって計算式が複雑なことも。計算が「難しい」と感じたら、相続に詳しい税理士に相談してみてください。
相続税の計算における借地権の評価方法は、権利金の支払の有無や実際の地代がどのような金額に設定されているかなどによって変わります。まず一般的な借地契約で権利金の支払があるケースでは、借主側での借地権の評価額は「自用地評価額×借地権割合」というシンプルな算式で求めることができます。
ちなみに貸主である地主側が持つ底地の評価は、借地権部分を除いた「自用地の価額×(1-借地権割合)」によって計算することとなります。
一方で権利金の支払がない場合には、本来は土地全体の賃料として「相当の地代」を支払う必要がありますが、必ずしも実際に支払っている地代が相当の地代よりも高く設定されているとは限りません。
権利金の支払がないにも関わらず、相当の地代に満たない額で土地を使用するという、いわゆる「借り得」の場合には、その「借り得」となっている部分を借地権として認定し、財産として評価することとなります。借地権の評価方法は、以下のように実際に支払う地代に応じて異なります。
・固定資産税等以下
借地権評価額:ゼロ
底地権評価額:自用地評価額
いわゆる「使用貸借」と呼ばれるケースです。固定資産税以下の額やタダで土地を借りている場合には、借主が持つ権利は非常に希薄なものと判断されるため、借地権を認識することはありません。したがって借地権評価額はゼロであり、地主側では自用地評価となります。
・固定資産税より高く、通常の地代以下
借地権評価額:自用地評価額×借地権割合
底地権評価額:自用地評価額×(1-借地権割合)
地主が支払っている固定資産税等よりは大きく、通常の地代以下の地代を支払っている場合には、底地部分の賃料しか払っていない状態であり、借地権部分が丸々「借り得」となっています。そのため権利金の支払があるケースと同様に、自用地評価額に借地権割合を乗じた金額を借地権として計上します。
・通常の地代より高く、相当の地代より低い
借地権評価額:自用地評価額×借地権割合×比率
底地権評価額:自用地評価額-上記借地権評価額
上記算式における比率は、実際の地代の大小に応じて借地権割合を調整するためのものです。つまり実際の地代が相当の地代へ近づくほど「借り得」は小さくなるため、そのような実態に合わせて借地権割合を減少させることで、税務上の借地権評価額も低減する仕組みとなっています。
・相当の地代以上
借地権評価額:ゼロ
底地権評価額:自用地評価額×80%
権利金の支払はないものの、相当の地代以上の地代を支払っている場合には、借地権の対価は地代に上乗せして精算しているものと判断されるため、「借り得」はないものと判断され、借地権の認定も不要となります。一方で地主側は他者の建物が建っていることによる制限を考慮し、20%の評価減が認められています。
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相続税に詳しい税理士を探す以下の具体的な数字を用いて通常の地代や相当の地代、借地権の評価額を計算してみましょう。
上記の場合、権利金の支払があるケースでは、借地権評価額は5,000万円×70%=3,500万円となり、通常の地代は年間で5,000万円×(100%-70%)×6%=90万円となります。
一方で権利金の支払がないケースにおける相当の地代は、5,000万円×6%=300万円となり、通常の地代の3倍以上となることがわかります。
権利金の支払がない場合において、実際の地代が90万円以下のケースでは、5,000万円×70%=3,500万円を借地権として評価しなければなりませんが、実際の地代が300万円よりも大きい場合には借地権はゼロとなります。
これまで解説した内容は個人間での取引を前提としており、法人個人間での借地契約の場合には判断基準や評価方法が異なる場合があります。また法人の場合には、「無償返還の届出」を行うことによって借地権の認定課税(権利金があったものとみなして課税されること)を回避する方法も認められています。
小規模宅地等の特例とは、居住用や事業用、貸付用などの用途に供されている土地について、一定の要件を満たす場合には最大で80%の評価減を受けられる制度をいいます。一般的には土地の所有者の相続時に活用するケースが大半ですが、当特例制度については土地の所有権のみならず、借地権についても適用できます。
借地契約においては、十分な考慮をせずに権利金支払の有無や地代の取り決めを交わすことで、思いがけず相続税が増えてしまうケースも少なくありません。判断が難しい場合には、税理士など専門家への相談を検討してみてください。
(記事は2021年8月1日時点の情報に基づいています)
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