相続税の算出に必要な路線価 実勢価格との違いも解説
毎年7月1日になると、国税庁が路線価を発表します。路線価は相続税の計算には欠かせないものです。今回の記事では、路線価の意味や見方に加えて、公示価格や実勢価格などとの違いについて、元東京国税局国税専門官のライターが説明します。
毎年7月1日になると、国税庁が路線価を発表します。路線価は相続税の計算には欠かせないものです。今回の記事では、路線価の意味や見方に加えて、公示価格や実勢価格などとの違いについて、元東京国税局国税専門官のライターが説明します。
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相続税や贈与税(以下「相続税等」)の計算を行う際、相続開始日や贈与時点の財産の価額を集計することになります。この際、土地を評価するために用いられるのが「路線価」です。路線価は、日本の道路に設定されている値で、その道路に接する土地の1m²あたりの価額を示しています。
たとえば、相続した土地が路線価260,000円の道路に接しているのであれば、土地の面積に260,000円を掛け、さらに土地の形状などに応じた調整率を加味すると、評価額が算出されます。
本来、税法では土地の評価は、「時価により評価する」と定められています。しかし、納税者自身が、日々変動する土地の時価を算定するのは容易なことではありません。また、同じような土地であっても、申告する人によって評価額がバラバラになる可能性もあるでしょう。そのため国税庁では、相続税等の申告をスムーズにし、課税の公平を図る観点から、路線価を設定しているのです。
路線価は、日本のあらゆる道路に設定されているわけではありません。とくに田園や山林の多い地方には、路線価が定められていない地域が多くあります。こうした地域を「倍率地域」と呼びます。
倍率地域の場合、「固定資産税評価額」に、国税庁が定める一定の倍率を掛けることで、評価額を求めます。たとえば、固定資産税評価額が100万円の土地で、倍率が1.2であれば、相続税等においては120万円の評価額で計算するということです。
それでは、「固定資産税評価額」はどのように調べればいいのでしょうか? こちらは、市区町村(東京23区の場合は都)から毎年送られる「固定資産税・都市計画税納税通知書」に付いている「課税明細書」で確認することができます。納税通知書を紛失した場合は、その土地を所轄する固定資産税の窓口で評価証明書の交付申請を行い、固定資産税評価額を確認してください。
路線価や固定資産税評価額のほかにも、土地の価格に関係する指標があります。公示地価と基準地価です。いずれも特定の地点の1m²当たりの価格を示すものですが、これらは税金計算に使うものではありません。
まず、公示地価については、毎年1月1日時点における標準地の価格を、国が毎年3月に公示するものです。この標準地とは、各地域における標準的な地点を指し、令和2年地価公示では、全国26,000地点の標準地について公示地価が発表されました。
一方、基準地価は、都道府県知事が毎年7月1日時点における基準地の価格を、9月に発表するものです。この基準地は全国2万ヵ所以上あり、その一部は公示地価における標準地と重複しています。
公示地価と基準地は、国土交通省のWEBサイトに掲載されている「国土交通省地価公示・都道府県地価調査」のページで調べることができます。都道府県から絞り込めば、標準地や基準地の所在地や面積、交通施設までの距離などの情報とともに、1m²あたりの価格が表示されます。
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相続の相談が出来る税理士を探す不動産の価格に関するワードに「実勢価格」というものもあります。これは、「実際に土地が売買される価格」を示す言葉です。路線価や公示地価などのように、官公庁が算定するものではありません。
土地の実勢価格は、一般的なモノの売買と同じく需要と供給のバランスによって決まります。たとえば、「駅からの距離」「生活の便利さ」「最寄り駅からの交通アクセス」「学区」といった複数の要素が絡み、同じ土地であっても売買のタイミングにより実勢価格は変動するものです。
先に解説した公示地価と基準地価は、その土地の実勢価格に近い価格になるように算出されています。そのため、土地の売買を行うときは、その周辺の公示地価・基準地価を調べることで、ある程度の相場を知ることができます。
さらに、路線価は公示地価の80%、固定資産税評価額は公示地価の70%を目安として算出されていますので、これらの数値から実勢価格の目安を知ることも可能です。たとえば路線価による評価額が1,600万円の土地であれば、1,600万円を80%で割り戻した2,000万円が実勢価格に近い数字になります。
ここからは、路線価の具体的な調べ方について解説します。
路線価は国税庁のWEBサイトで調べることができます。トップページの下部にある「分野別メニュー」から「路線価図・評価倍率表」をクリックしてください。すると、日本地図が出てきます。このなかから、調べたい土地の所在地の都道府県を選び、出てくるメニューから「路線価図」をクリックすると、市区町村名が一覧で表示されます。
ここで調べたい土地の所在地を選択すると、地図に路線価が記された図(路線価図)へのリンクが出ます。この路線価図を見ると、道路上に「200D」といった数字とアルファベットの組み合わせがあるはずです。この数字が路線価で、千円単位の表記になっています。そして数字の隣のアルファベットは、その土地の「借地権割合」を示しています。
相続した土地に他人の建物が建っているような場合、その土地には、地主がもつ所有権と、借地人がもつ借地権が含まれていることになります。このとき、所有権と借地権の割合を示すのが、借地権割合です。借地権割合は土地の所在地によって違い、路線価図では以下のとおりアルファベットで示されています。
たとえば「200D」との表記がある道路に接している土地の場合、「路線価200,000円で、借地権割合は60%」を意味しているということです。そのため、この土地を借地権がついた状態で相続をすると、200,000円✕(1−0.6)=80,000円をベースとして評価額が決まります。
また、路線価図には、道路に以下の表示が付されています。これは地区区分を示すものです。土地の評価額を計算する際、土地の形状などによって調整計算が必要になりますが、その調整率は地区区分によって異なります。各地区区分ごとの調整率については、こちらのページから「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」をご確認ください。
路線価図は毎年7月1日に最新版が公開されます。ここで覚えておきたいのが、7月1日に公開される路線価は、その年の1月1日から12月31日までの相続・贈与に係る相続税等に対して適用されるという点です。
たとえば、2020年1月に相続開始した場合も、2020年10月に相続開始した場合も、同じく2020年7月1日に公開される路線価が基準になるということです。そのため、たとえば2020年1月に相続が発生したような場合、相続税を計算するには2020年7月1日まで待つ必要があります。
最後に、路線価が設定されず、しかも倍率地域でもないケースについて説明します。こうした地域は、路線価図に「個別評価」と記載されており、税務署に申請して個別に路線価を設定してもらう必要があります。
個別評価となる土地は、現在進行形で再開発が進んでいる土地など、1月1日を評価基準にすると不合理が生じる可能性がある土地です。こうした土地は、相続開始日や贈与日の時点の路線価を税務署で個別に設定してもらう必要があります。
この場合、税務署に申請してから回答を得るまでに数週間から1か月程度かかります。相続税や贈与税の申告期限間際に申し込むと、期限内申告ができなくなるおそれもあるため、早めに申請をしておくことをお勧めします。
(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)
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