目次

  1. 1. 親を介護した人が相続でたくさんもらえるという明確な法律はない
    1. 1-1. 寄与分は他の相続人に認めてもらわなくてはいけない
    2. 1-2. 親の介護をめぐって、兄弟は相続でもめやすい
    3. 1-3. 裁判所で寄与分が認められるハードルも高く、金額も低い
  2. 2. 介護した分、遺産を多くもらうための方法
    1. 2-1. 遺言書を書いてもらう
    2. 2-2. 生前贈与してもらう
    3. 2-3. 負担付死因贈与契約を結ぶ
  3. 3. 介護する家族でもめやすいのが「通帳の管理」
  4. 4. まとめ 介護を巡って相続で争いが生じたら、弁護士に相談を

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父親の介護をしていたというAさんからこんな相談がありました。

「姉さんも弟もひどいんですよ。父の介護を私に押し付けておいて、自分たちはめったに顔も出さなかったくせに、今になって『父の財産は法定相続分通りに分けよう』なんて言い出して……。私が父の介護をしてもいいと言った時は『相続の時にはたくさんもらってね』なんて言ってたくせに。介護をした人がより多く相続できる法律はないんですか?」

3人きょうだいで、50代独身の次女Aさん。Aさんには、姉と弟がいます。姉は結婚して夫の両親と同居。弟は賃貸マンションで妻と2人暮らし。

残念ですが、介護した人が相続でたくさんもらえるというはっきりした法律はないんです。

介護した分、財産を多くもらうという考え方は「寄与分」という考え方に基づきます。「寄与分」とは、被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合、貢献度に応じて相続できる財産をプラスする制度です。

介護における「特別の寄与」とは、「無償で介護をした」こと、「介護をしたことで、亡くなった方の財産の維持または増加に役立った」こと、「相続財産を多くもらえるほどの貢献だったこと」が要件になりますが、要件を満たしているかどうかなどについては他の相続人(Aさんの場合なら、姉と弟)がこれを認めてくれなければ、遺産を多くもらうことはできません。

【関連】相続でもめやすい「寄与分」とは? 「長年の介護」が報われる要件や事例を解説

Aさんがもし「介護した分たくさん相続でもらいます!」というのであれば、他の相続人(Aさんの場合は、姉と弟)に「寄与分」を認めてもらう必要があります。

その姉と弟の言い分はというと……。

「父が倒れたと聞いた時は本当に驚いて、Aが『会社を辞めて父の面倒をみてもいい』と言ってくれてほっとしたのは事実です。でも、実際父は全く動けなかったわけではないし、昼はデイサービスを使っていたんだから、そんなに大変だったとは思えません。だいたい、Aはずっと自宅で親がかりで生活していたんだから、たくさん貯金があるはずでしょ。退職金だってたくさんもらったらしいんですよ。私たちは独立してから親に援助してもらったことはありません。それを考えたら、法定相続分通りの相続でいいと思ってるんですよ」

独身のAさんは生まれてからずっと自宅暮らし。自分の給料はすべて自分のもの。家では上げ膳据え膳、洗濯も掃除も家事全般すべて両親がしてくれていたといいます。

その母親は3年前に他界。そして1年前、父親が倒れて要介護状態になったのです。

他の相続人からすれば、「寄与分」を認めるということは、自分のもらう相続財産が減るということですから、なかなか認めてもらうのは大変です。

Aさんと姉弟が話し合いでも折り合いがつかず、それでもAさんが「寄与分」を認めてほしいということであれば、家庭裁判所に申し立てをして、調停をすることになります。調停でも話し合いがつかなければ、裁判です。

しかし、家庭裁判所から寄与分を認められるためのハードルも低くはありません。「寄与行為が、親族として通常期待される程度を越えていること」が求められ、例えば「ヘルパーにも頼まず介護に専念した」「仕事をやめて親の家業を無償で手伝った」など、そこまでしていないと認めてもらえません。寄与行為を裏付ける証拠資料も求められます。

また、裁判所から認められたとしても、期待するほどの金額はもらえません。裁判になった場合、どのくらいの額が認定されるかというのを過去の判例で見てみると、重度の認知症の老人を10年以上介護していた人が相続分を争って裁判を起こした判例がありますが、1日数千円程度の寄与分(相続の上乗せ分)を認めてもらう程度だったといいます。

ちなみに、令和元年(2019年)7月の相続法改正で、相続人以外の親族(例えば同居する長男の妻など)が無償で被相続人の療養看護等を行った場合に、相続人に対して寄与度に応じた金銭(=特別寄与料)を請求できる制度ができましたが、これも考え方は「寄与分」と同様です。

介護をしてきた子と、介護をしなかった子は遺産の分け方を巡ってトラブルが生じやすいです。事前に対策を打ちたい人や、すでにもめてしまっている人は、弁護士に相談するとよいでしょう。

皆さん、Aさん一家の話を聞いてどう思いますか?

どっちの言い分にも一理あるような気がしませんか。こうなると話し合いで財産の分け方を決めるのは困難を極めそうです。

このケースで問題なのは、Aさんが介護を引き受ける時に「相続でどのくらい多くもらう」のかをはっきりさせなかったことと、「多くもらう」ということを口約束で済ませてしまっていたことです。

会社を辞めてまで「介護」という大仕事を引き受ける以上、ここをうやむやにしてしまってはいけなかったのです。相続において自分の権利を守るためには、お父さんに具体的な財産の分け方を決めた遺言書を書いてもらうべきだったのです。遺言書があれば、基本的にはその内容通りに遺産を分けることになるため、後からほかの兄弟が口出しすることはできないのです。

具合の悪くなった父親に「遺言書を書いて!」なんて迫るのは気が引けることでしょう。でも、Aさんのように、話がこじれてしまえば、その後、きょうだいと今まで通りの仲でいるのはむずかしくなると思います。独身のAさんにとっては、これから先、ずっと孤立無援の状態になってしまうかもしれないのです。それを考えたら、「親の責任として遺言書を書いてくれ」という主張もできたのではないでしょうか。

父親の生前に財産の一部を贈与してもらい、特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしておいてもらえば、Aさんは多くの財産をもらうことができました。

生前贈与で受け取った財産は、遺産分割協議の際に、その「前渡し分」(特別受益)を加味して分け方を考えることになります。これを「特別受益の持ち戻し」と言います。しかし、贈与した人が「死んだときに、特別受益として持ち戻さなくてもよい」と意思表示をすれば免除されますので、相続とは切り離して、財産を受け取れます。

負担付死因贈与契約とは、例えば、「贈与する代わりに○○してもらう」という条件付きの贈与契約です。介護の場面では、「金○○円を渡す代わりに、私が亡くなるまで介護してほしい」などと契約します。

この契約をAさんと父親が結んでおけば、生前の介護が前提となっていますので、父親にとって安心です。また遺言書と違って、Aさんの同意がないと内容を変更することはできない点で、Aさんにとっても安心です。

なお、死因贈与契約は、通常の相続と比べ、不動産取得税や登録免許税が高くなります。また、贈与税ではなく、相続税の対象となります。

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ちなみに、介護がらみでよく問題になることとしては「通帳の管理」があります。要介護状態になると、面倒をみている人が、通帳からの現金の出し入れ、生活費や介護費用の管理などをすることになります。

介護にかかる費用は決して安くありません。それをどんどん通帳から下ろしていると「親の金を勝手に使った」とあらぬ疑いをかけられることがあるのです。そうならないように、介護用の通帳を作成し、何に使ったかわかるように管理することも、円満な相続のためには必要なことかもしれません。

介護をした人としていない人では、感じる負担感が違います。これは、決してAさんきょうだいだけの特別な例ではないのです。つらい介護を経験した上につらい遺産争いを経験するなんてつらすぎるじゃないですか。そうならないためにも、しっかりとした対策を打っておきたいものです。

相続でもめてしまいそうと感じたら、早めに弁護士など専門家に相談してみてください。

(記事は2023年9月1日現在の情報に基づきます)

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