親の介護をした人が相続でほかのきょうだいより多く遺産をもらえるか?

「私はピンピンコロリで逝くからね」なんて宣言する方がいます。亡くなる寸前まで元気に活動してコロリと逝く。こう望んでいる方は多いでしょう。でも、実際はそうはいきません。内閣府の調べでは、平成28年の時点で介護保険制度における要介護者または要支援者と認定された人は633万人にも上るといいます。長寿大国日本では、介護状態になってから亡くなる方が増えています。そして、介護を経た相続はトラブルに発展することが多々あるのです。
「私はピンピンコロリで逝くからね」なんて宣言する方がいます。亡くなる寸前まで元気に活動してコロリと逝く。こう望んでいる方は多いでしょう。でも、実際はそうはいきません。内閣府の調べでは、平成28年の時点で介護保険制度における要介護者または要支援者と認定された人は633万人にも上るといいます。長寿大国日本では、介護状態になってから亡くなる方が増えています。そして、介護を経た相続はトラブルに発展することが多々あるのです。
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父親の介護をしていたというIさんからこんな相談がありました。
「姉さんも弟もひどいんですよ。父の介護を私に押し付けておいて、自分たちはめったに顔も出さなかったくせに、今になって『父の財産は法定相続分通りに分けよう』なんて言い出して……。私が父の介護をしてもいいと言った時は『相続の時にはたくさんもらってね』なんて言ってたくせに。介護をした人がより多く相続できる法律はないんですか?」
3人きょうだいで、50代独身の次女Iさん。Iさんには、姉と弟がいます。姉は結婚してご主人の両親と同居。弟は賃貸マンションで奥さんと2人暮らし。
残念ですが、Iさん、介護した人が相続でたくさんもらえるというはっきりした法律はないんです。
介護した分財産を多くもらうという考え方は「寄与分」という考え方に基づきます。「寄与分」とは、(亡くなった方)の財産の維持又は増加について「特別の寄与」をした人がいる場合、貢献度に応じて相続できる財産をプラスする制度です。
介護における「特別の寄与」とは、「無償で介護をした」こと、「介護をしたことでなくなった方の財産の維持または増加に役立った」こと、「相続財産を多くもらえるほどの貢献だったこと」が要件になりますが、要件を満たしているかどうかなどについては他の相続人(Iさんの場合なら、他の兄弟)がこれを認めてくれなければ、遺産を多くもらうことはできません。
他の相続人からすれば、「寄与分」をみとめるということは、自分のもらう相続財産が減るということですから、なかなか認めてもらうのは大変です。
それでもどうしても「寄与分」を認めてほしいということであれば、家庭裁判所に申し立てをして、調停をすることになります。調停でも話し合いがつかなければ、裁判です。
ちなみに、令和元年7月の相続法改正で、相続人以外の親族(例えば同居する長男の妻など)が無償で被相続人の療養看護等を行った場合に、相続人に対して寄与度に応じた金銭(=特別寄与料)を請求できる制度ができましたが、これも考え方は「寄与分」と同様です。
裁判になった場合、どのくらいの額が認定されるかというのを過去の判例で見てみると、重度の認知症の老人を10年以上介護していた人が相続分を争って裁判を起こした判例がありますが、1日数千円程度の寄与分(相続の上乗せ分)を認めてもらう程度だったといいます。
実際負担の軽い介護だった場合、裁判を起こしても相続の上乗せ分を認めてもらうことがむずかしい例もあるようです。
Iさんがもし「介護した分たくさん相続でもらいます!」というのであれば、他の相続人(Iさんの場合は、姉と弟)に「寄与分」を認めてもらう必要があるのです。
その姉と弟の言い分はというと……。
「父が倒れたと聞いた時は本当に驚いて、Iが『会社を辞めて父の面倒をみてもいい』と言ってくれてほっとしたのは事実です。でも、実際父は全く動けなかったわけではないし、昼はデイサービスを使っていたんだから、そんなに大変だったとは思えません。だいたい、Iはずっと自宅で親がかりで生活していたんだから、たくさん貯金があるはずでしょ。退職金だってたくさんもらったらしいんですよ。私たちは独立してから親に援助してもらったことはありません。それを考えたら、法定相続分通りの相続でいいと思ってるんですよ」
独身のIさんは生まれてからずっと自宅暮らし。自分の給料はすべて自分のもの。家では上げ膳据え膳、洗濯も掃除も家事全般すべて両親がしてくれていたといいます。
その母親は3年前に他界。そして1年前、父親が倒れて要介護状態になったのです。
皆さん、この話を聞いてどう思いますか?
どっちの言い分にも一理あるような気がしませんか。こうなると話し合いで財産の分け方を決めるのは困難を極めそうです。
このケースで問題なのは、Iさんが介護を引き受ける時に「相続でどのくらい多くもらう」のかをはっきりさせなかったことと、「多くもらう」ということを口約束で済ませてしまっていたことです。
会社を辞めてまで「介護」という大仕事を引き受ける以上、ここをうやむやにしてしまってはいけなかったのです。相続において自分の権利を守るためには、お父さんに具体的な財産の分け方を決めた遺言書を書いてもらうべきだったのです。
具合の悪くなった父親に「遺言書を書いて!」なんて迫るのは気が引けることでしょう。でも、Iさんのように、話がこじれてしまえば、その後、姉や弟と今まで通りの仲でいるのはむずかしくなると思います。独身のIさんにとっては、これから先、ずっとと孤立無援の状態になってしまうかもしれないのです。それを考えたら、「親の責任として遺言書を書いてくれ」という主張もできたのではないでしょうか。
ちなみに、介護がらみでよく問題になることとしては「通帳の管理」があります。要介護状態になると、面倒をみている人が、通帳からの現金の出し入れ、生活費や介護費用の管理などをすることになります。
介護にかかる費用は決して安くありません。それをどんどん通帳から下ろしていると「親の金を勝手に使った」とあらぬ疑いをかけられることがあるのです。そうならないように、介護用の通帳を作成し、何に使ったかわかるように管理することも、円満な相続のためには必要なことかもしれません。
介護をした人としていない人では、感じる負担感が違います。これは、決してIさんきょうだいだけの特別な例ではないのです。つらい介護を経験した上につらい遺産争いを経験するなんてつらすぎるじゃないですか。そうならないためにも、しっかりとした対策を打っておきたいものです。
相続でもめてしまいそうと感じたら、早めに弁護士など専門家に相談してみてください。
(記事は2022年12月1日現在の情報に基づきます)
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