目次

  1. 1. 寄与分とは?
  2. 2. 寄与分が認めれるための要件
  3. 3. 寄与分が認められにくい理由
    1. 3-1. 「親の面倒をみている」だけはダメ? 厳しい「特別の寄与」の要件
    2. 3-2. 裏付け資料をそろえにくい
    3. 3-3. 感情的な対立を招きやすい
  4. 4. 寄与分の計算方法
    1. 4-1. 算定方法
    2. 4-2. 相続分の計算方法
  5. 5. 「特別寄与料」制度で、寄与分を主張できる人の範囲が広がった
    1. 5-1. 主張できる親族
    2. 5-2. 請求期間に制限がある
  6. 6. まとめ~寄与分や特別寄与料を主張するために~

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民法は、「亡くなった家族(被相続人)の家業を無給で手伝っていた」「会社を辞めて長期にわたる療養介護を担った」などの理由で、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人に、遺産分割で法定相続分を超える財産を相続できる制度を定めています。これが「寄与分」の制度です。

寄与分をめぐっては、親の介護をしてきた子と介護をしなかった子など、相続人の間で衝突するケースがよくあります。寄与分の金額は相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で判断するのが原則ですが、折り合いがつかない場合は、裁判所による調停で話し合いを行い、それでも決まらない場合は審判で裁判所の判断を仰ぐことになります。

寄与分の対象は相続人のみです。内縁の妻は相続権をもっていないので対象外です。ただ、息子の妻など相続人以外の親族は、相続人に「特別寄与料」を請求することができます(詳しくは後述)。

寄与分が認められるためには、相続人の被相続人に対する貢献が「特別の寄与」である必要があります。

特別の寄与があったというためには、
①対価を受け取っていないことあるいはそれに近いこと
②被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であること
③片手間ではなく、その行為に専念していたこと
④長期間継続していたこと
などが考慮要素とされており、寄与の態様によって若干異なってきます。

親の介護を一人で担っているような場合、「自分の貢献も寄与分で考慮されるべき!」と思われる方も多いと思います。しかし、実際に遺産分割が行われるなかで、寄与分が考慮されるケースはそこまで多くありません。

寄与分が認められにくい一つの理由は、上に記した特別の寄与の要件が意外と厳しいということにあります。特に②の要件「被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であること」がポイントで、寄与分を主張したいと考えている多くの方の認識と法律的な要件との間にズレが起きてしまいがちです。

例えば、同居している親子であれば、歳を取った親の面倒をある程度見ることは、法律上当然とされています。そのため、程度の問題ではありますが、「特別の寄与」として主張したい事実が、「親の食事の世話をずっとしていた」とか、「病院の送り迎えをずっとしていた」という内容では、「同居している親子であれば当然です」とされてしまう可能性が高くなってしまいます。

逆に言えば、同居している親子であっても、普通はそこまでしないという場合には、「特別の寄与」として認められる可能性が高くなります。

例えば、「親の介護をしていて、通常は費用を払ってヘルパーを頼むところ、すべて自分でやっていた」とか、「今までやっていた仕事を辞めて、親がやっていた家業を無償で手伝っていた」などの場合です。「家族でも普通そこまでできない」と思われるかもしれませんが、そこまでしないと「特別の寄与」とは認めてもらえないということです。

もちろん、最初から寄与分の主張をあきらめる必要は全くありませんが、実際に寄与分が認められてほかの相続人よりも多く財産を受け取れるまでには、大きなハードルを乗り越えなければいけないのです。

また、実務的な問題を挙げると、相続が起きたときに寄与分の主張をしたくても、それを裏付けるだけの資料がないためにほかの相続人や裁判官を説得することができず、寄与分の主張をあきらめざるを得ないケースも見受けられます。

裏付け資料がないという問題は、領収書の保管や日々の記録を手帳に残しておくだけでもかなり解消されます。家族に対して特別な貢献をしていると考えている人は、日々の貢献を記録することを検討してみるのもいいでしょう。

遺産分割において寄与分が考慮されにくいもう一つの理由が、感情的な対立を招きやすいという点です。例えば、相続人の一部の人が寄与分の主張をし始めた場合、ほかの相続人はおもしろくないと感じがちで、すんなりと納得して話し合いが進むケースはごくまれです。また、被相続人に対する貢献は一見して数字に表れづらいこともあり、「やった」「やらない」の水掛け論になりがちという事情があります。

そのため、寄与分の主張を強くすると、話し合いで折り合いがつかず、裁判所での調停や審判で決着をつけざるをえないということもあります。そうなると、いつまでたっても遺産分割協議が終わらず、手間と時間がかかってしまうのです。

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寄与分の金額については、まずは相続人間の協議によって決めますが、合意ができなければ裁判所で判断してもらうしかありません。民法は寄与分の算定方法について、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」定める(民法904条の2第2項)としか規定していませんが、裁判例の積み重ねにより、実務上、一定の類型については以下のような方法で算定されることがあります。

ただし、仮に寄与分が認められても、期待していた金額よりもかなり少ないという場合が多いのが実態です。

例として、いくつかの類型について具体的な算定方法を説明します。

①相続人の1人が無償で家業の手伝いをしていた場合
寄与分の額=寄与した相続人が通常受けることができる年間給料額×(1-生活費控除割合)×寄与年数×裁量的割合

②相続人の1人が被相続人の介護をしていた場合
寄与分の額=職業的付添人(看護師・ヘルパーなど)の日当額×療養看護日数×裁量的割合
※裁量的割合とは、被相続人との身分関係、被相続人の状態、専従性の程度などによって判断されます。

これらの類型における計算方法は、要するに、相続人が本来相続人に支払うべき給料相当分や、ヘルパーらに支払うべき費用を免れた分だけ財産の増加に寄与した、という考え方です。しかしながら、「裁量的割合」が算定方法に含まれているとおり、手伝いの方法、人間関係、行為を行うに至った理由などによって事情は異なりますから、ことはそう単純ではありません。

このように、寄与分を全ての事例で一義的に計算することは非常に困難です。具体的に寄与分を計算したい場合には、弁護士など専門家に相談したほうが良いでしょう。

具体的に寄与分の額が定まった場合には、それを具体的相続分に反映させます。その計算式を簡単にまとめると次のとおりです。

 (遺産総額-寄与分)×法定相続分+寄与分=寄与分がある相続人の相続分
 (遺産総額-寄与分)×法定相続分=寄与分がない相続人の相続分

(例)相続人は兄弟ABの2人、遺産総額4000万円、Aの寄与分1000万円の場合
   ・Aの具体的相続分=(4000万円ー1000万円)×1/2+1000万円
            =25000万円
   ・Bの具体的相続分=(4000万円ー1000万円)×1/2
            =1500万円

また、よく問題になるのが「自分は何もしていなかったけど、家族が貢献していた」ケースです。

例えば、父親と息子夫婦が同居していて、父親につきっきりの介護を献身的にしていたのは息子ではなくその妻だったという場合です。寄与分は相続人に認められた制度なので、この例では、相続人の妻は寄与分の主張をすることはできないことになります。これまで裁判所は、相続人の妻の貢献を「相続人と一体とみて、相続人の寄与分として認める」などと理由をつけて、救済を図ろうとしてきました。それでも、ハードルが高いのが現実でした。

こうした問題に対し、2019年7月から施行された相続分野の民法改正では、「特別寄与料」制度が創設されました。この制度は、相続人以外の親族が被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした場合、その親族が相続人に対して寄与に応じた金銭の請求を認めることができるというものです。この制度の創設によって事実上、相続人以外の親族が自ら寄与分を主張することができるようになりました。

特別寄与料が認められるためには、被相続人に対して「特別な寄与」があったと認められなければなりません。このあたりの要件は基本的には寄与分と同様とみられています。

また、特別寄与料の主張ができる親族は「6親等内の血族、3親等内の姻族」とされています。つまり、自分のはとこ(祖父の兄弟の孫)や自分の妻の甥っ子まで含まれることになり、かなり広い範囲の親族が特別寄与料を主張することができるようになります。

特別寄与料を請求したい場合、相続人に対して「特別の寄与」に見合ったお金の請求をすることになります。相続人の間の遺産分割協議に加わるわけではないことに注意してください。

さらに、特別寄与料の請求は家庭裁判所に申し立てますが、申し立てができる期間が「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月」及び「相続開始の時から1年」以内という短い期間制限になっています。相続人たちの遺産分割協議を待っていたら、請求できる期間が過ぎていたという事態も十分想定されるので、注意が必要です。

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ここまで寄与分や新しい制度である特別寄与料の制度を見てきました。これらの制度は、本来的には相続人の間の公平性や、被相続人のために貢献した人への救済を図るものですので、積極的に活用されるべきものであるはずです。しかし、従来の寄与分の制度は、要件が厳しいこともあり、認められるケースがそこまで多くないという事情があるということは既に書きました。

寄与分の主張または特別寄与料の請求は、相続人間で事実関係の争いになるなど、相続に関する紛争につながる可能性があるので、実際に寄与分や特別寄与料の請求を検討される際は、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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