目次

  1. 1. 特別受益とは?
  2. 2. 特別受益の「持ち戻し」とは?
  3. 3. 持ち戻し計算の考え方
  4. 4. 持ち戻し計算の具体例
  5. 5. 寄与分とは?
  6. 6. 寄与分がある場合における相続分の計算方法
  7. 7. 特別受益や寄与分を主張する方法
  8. 8. 特別受益や寄与分を巡るトラブルは弁護士に相談を

「特別受益」とは、被相続人からの遺贈または贈与によって、相続人が得た特別の利益を意味します(民法903条1項)。
具体的には、以下の遺贈・贈与が特別受益に該当します。

①すべての遺贈
②以下のいずれかに該当する贈与
(i)婚姻のための贈与
(例)持参金、支度金、結納金
(ii)養子縁組のための贈与
(例)養子に渡す支度金
(iii)生計の資本としての贈与
(例)生活費、学費、住居や自動車(購入費用の援助を含む)

特別受益が存在する場合、各法定相続人の相続分を計算するに当たって「持ち戻し計算」が行われます。

特別受益の「持ち戻し」とは、特別受益に当たる遺贈・贈与を、相続財産と合算したうえで、財産全体を相続人の間で再分配する考え方です。
特別受益によって優遇を受けた相続人の相続分を減らす半面、他の相続人の相続分を増やして、相続人間の公平を図ることが「持ち戻し計算」の目的です。

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<設例>
相続人は配偶者A、子B、子Cの3人
相続財産は4000万円分
Cには800万円分の特別受益あり

特別受益があった場合の例
特別受益があった場合の例

上記の設例において、特別受益がなかったと仮定すると、A・B・Cの相続分は以下のとおりです。
<相続分(特別受益なし)>
A:2000万円
B:1000万円
C:1000万円

特別受益がない場合の相続人ごとの法定相続分
特別受益がない場合の相続人ごとの法定相続分

しかし実際には、Cに800万円分の特別受益が存在するので、「持ち戻し計算」を行う必要があります。

持ち戻し計算では、相続財産の4000万円に、特別受益の800万円を加算した「4800万円」を、A・B・Cの法定相続分に応じて分配します。
<相続分(特別受益あり)>
A:2400万円
B:1200万円
C:1200万円(特別受益の800万円を含む)

Cはすでに特別受益の800万円を得ているので、実際に相続できるのは、1200万円から800万円を控除した400万円のみです。
したがって、特別受益の「持ち戻し計算」により、A・B・Cの相続分は以下の通り変化しました。
A:2000万円→2400万円
B:1000万円→1200万円
C:1000万円→400万円

特別受益を持ち戻し計算した場合の相続分
特別受益を持ち戻し計算した場合の相続分

このように、「持ち戻し計算」を行うと、特別受益のある相続人の相続分は減る一方で、それ以外の相続人の相続分が増えます。

「寄与分」は、相続財産の維持・増加に寄与した(「特別の寄与」があった)相続人につき、その貢献度に応じて認められます(民法904条の2)。
寄与分が認められた相続人の相続分は増え、それ以外の相続人の相続分は減ることになります。
寄与分も、特別受益と同様に、相続人間の公平を図る観点から、原則的な相続分を修正する制度です。

寄与分が認められる場合の例としては、以下のパターンが挙げられます。
①事業に関する労務提供
● 被相続人の事業を、無償または低廉な報酬で手伝った場合

②財産上の給付
● 被相続人が資産を購入するための資金を提供した場合
● 被相続人の借金を代わりに返済した場合

③療養看護
● 被相続人の介護を無償で行った場合
● 被相続人の介護費用を支出した場合

④扶養
● 被相続人の生活費を援助した場合

⑤財産管理
● 被相続人のために財産の管理を行った場合
● 被相続人の財産を管理するための費用を支出した場合 など

特定の相続人に寄与分が認められる場合、相続分は以下の式によって計算します。

相続分(寄与分あり)=(相続財産-寄与分)×法定相続分+寄与分

相続分(寄与分なし)=(相続財産-寄与分)×法定相続分

寄与分の金額の計算方法は、「特別の寄与」の内容に応じて異なります。

<寄与分の計算式>
①事業に関する労務提供
寄与分=年間報酬相当額×(1-生活費控除割合※)×寄与年数
※生活費控除割合:30~50%程度(寄与者が被相続人と生計を一にしていた場合等に限る)

②財産上の給付
● 被相続人が資産を購入するための資金を提供した場合
寄与分=相続開始時の当該資産の価額×裁量的割合※
※裁量的割合:0.6~1程度

● 被相続人の借金を代わりに返済した場合
寄与分=資金提供当時の金額×貨幣価値の変動率×裁量的割合※
※裁量的割合:0.6~1程度

③療養看護
● 被相続人の介護を無償で行った場合
寄与分=付き添い看護人の日当相当額×療養看護日数×裁量的割合※
※裁量的割合:0.6~1程度

● 被相続人の介護費用を支出した場合
寄与分=実費相当額

④扶養
寄与分=実費相当額×扶養期間×(1-寄与相続人の法定相続分)

⑤財産管理
● 被相続人のために財産の管理を行った場合
寄与分額=第三者に管理を委託した場合の報酬相当額×裁量的割合※
※裁量的割合:0.6~1程度

● 被相続人の財産を管理するための費用を支出した場合
寄与分=実費相当額

以下の設例を考えてみましょう。
<設例>
相続人A(被相続人の配偶者)は、被相続人の事業を、5年間にわたり無償で手伝っていた。Aの貢献度を報酬に換算すると、年間400万円だった。
Aは、生前の被相続人と同居していた。

上記の設例では、寄与分は以下の式により、「1000万円~1400万円」と計算されます。

寄与分=年間報酬相当額×(1-生活費控除割合※)×寄与年数
※生活費控除割合:30~50%程度
=1000万円~1400万円

寄与分の計算例
寄与分の計算例

他の相続人に対して、特別受益や寄与分による相続分の調整を主張する方法としては、以下の3つが挙げられます。

①遺産分割協議
相続人全員の間の協議により、特別受益や寄与分を考慮したうえで、遺産の分配方法を決定します。
②遺産分割調停
家庭裁判所において、調停委員(+裁判官)の仲介により、特別受益や寄与分を反映した遺産分割案への合意を目指します。
③遺産分割審判
遺産分割調停が不成立となった場合に、家庭裁判所の判断によって、特別受益や寄与分を反映した遺産分割の内容が決定されます。

特別受益や寄与分は、遺産相続に関する論点の中でも、相続人の間で揉めやすいポイントです。
そのため、協議では調整がつかず、調停・審判に発展するケースも多くなっています。
特別受益や寄与分に関するトラブルの深刻化を防ぐためには、早期に弁護士へご相談ください。

特別受益や寄与分については、過去に遡った事実の調査が必要不可欠です。
また、計算の考え方にも難しい部分があります。
遺産分割協議の中でも、特別受益や寄与分は、特にトラブルを引き起こしやすい論点です。
特別受益や寄与分が関係する遺産相続を、円滑・迅速に完了するためには、弁護士へのご相談をお勧めします。

(記事は2022年4月1日時点の情報に基づいています)