家族信託が失敗する9つのパターン

家族信託が失敗する代表的なパターンとして下記の9つがあります。

  1. 親族仲が悪化する
  2. 信託できない財産を対象にしてしまう
  3. 高額な税金が発生
  4. 「1年ルール」で強制終了してしまう
  5. 認知症が進んで信託契約ができなくなる
  6. 自分たちで契約書を作成してトラブルになる
  7. 遺留分トラブルが起きる
  8. 経験のない専門家に依頼してトラブルになる
  9. 損益通算ができなくなる

それぞれについて見ていきましょう。

家族信託の仕組みとは メリット・デメリットを司法書士が解説

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1. 親族仲が悪化する

親の介護を子どもが担う場合に、認知症対策として家族信託は有効な手段です。たとえ親の認知症が悪化したとしても、家族信託をしておけばその影響を受けず、子どもが親の財産を介護費用や生活費に使うことができるからです。

一方、子どもの1人が親自身や他のきょうだいに情報共有をせずに、勝手に進めていくと誤解を受けやすいのも事実です。信託をスタートさせるときに財産の名義を変更する手続きが発生したり、相続のときに誰が財産を承継したりするのかも決められる制度だからです。

実際に私が相談を受けたトラブルのケースをご紹介します。

子どもが姉弟で、弟が父親と同居していました。しかし、姉主導で家族信託の手続きを進めてしまったというのです。相談を受けた時には、姉と父親との間で家族信託契約の締結が済み、不動産登記も終わった後でした。

話を聞くと、父親としては家族信託契約にサインはしたものの、不動産の名義が換わるとは聞いていないということでした。また弟も、家族信託という話が出ていたことは知っているが、進めているとは聞いていなかったとのこと。この家族は結局、家族信託を終了させることになりました。

家族間でよく話し合わずに家族信託を進めたばっかりに家族仲が不仲になってしまったケースです。

2.信託できない財産を対象にしてしまう

家族信託できない財産があります。代表的なものは「農地」や「預貯金口座」です。これらの財産は、たとえ信託契約書に記載しても効果が生じません。

「農地」の場合には農地法という法律に則った手続きが必要になりますが、信託ではほぼ認められません。また「預貯金口座」は銀行との契約で譲渡禁止特約という約定があり、勝手に名義変更はできません。親と家族信託契約を結び、その契約書を銀行に持っていって「家族信託契約をしたから親の口座の預金を下ろしたい」と言っても銀行側は対応してくれないのです。

ただし、預貯金口座にある金銭は信託できます。その場合、信託契約を結んだ後に親自身が口座内の金銭を受託者である子ども名義の口座に送金手続きをする必要があります。

3.高額な税金が発生

家族信託を契約する場合にも、税金には注意が必要です。例えば父親が持っている不動産を家族信託して、その財産権(受益権と言います)を孫が持つとする契約をすることはできます(他益信託と言います)。しかし、この場合には父親から孫に贈与があったとして孫は贈与税を納めなくてはなりません。

これ以外でも、信託する財産が不動産の場合には、将来、親の亡くなったのち信託契約を終了させたときにその登記をするための登録免許税がかかります。登録免許税は課税される税率が2パターンあり、契約書の内容によっては高い方の税率が採用されてしまう可能性があります。その差は15倍にもなる場合もあるので注意が必要です。

4.「1年ルール」で強制終了してしまう

財産権を親から自分、自分から孫に順番に承継させたい場合、遺言では指定することはできませんが、家族信託ではそれが可能です。しかし契約書の構成を間違えると予定外に早く終了してしまい、当初の希望が叶えられなくなります。

その1つが「1年ルール」です。「1年ルール」とは、受託者が唯一の受益者となり、その状態が1年間継続すると信託契約が終了するというものです。

「受託者=受益者」の場合は、信託ではなく所有権を持っている状態と変わらず、また受託者と受益者が同じ人物という特殊な状態です。これが1年間継続した場合、信託契約は終了すると法律で規定されています。

信託契約を終了させず孫の代にも承継していくためには、受託者を変更するなど、「受託者=受益者」を解消し「1年ルール」を回避する工夫が必要です。

5.認知症が進んで信託契約ができなくなる

家族信託は認知症対策の1つですが、親に契約する能力がある間しか契約できません。したがって、家族信託を利用することを決めて、実際に契約の締結までどのくらいのスピードでたどり着けるかも重要になります。

信託契約の内容が複雑になる場合や、融資を受けていて事前に融資銀行に確認が必要になる場合などは、契約の締結までに半年など長期間かかることもあります。その間、親の認知症が進んでしまい契約能力がなくなってしまった場合は信託契約をすることができなくなります。

6.自分たちで契約書を作成してトラブルになる

今は、様々な手続きの流れや必要書類の雛形などをインターネット上で見つけることができるようになり、自分で手続きをする方も増えてきました。しかし、家族信託の契約手続きを自分たちだけで進めることはお勧めしません。

インターネット上で雛形として上がっている契約書には不備のあるものがあります。法律専門職の運営しているサイトも例外ではありません。例えば、契約書中に、父親の死亡により信託が終了するとなっているのに父親の次の受益者が定められているなど、同じ契約書内で矛盾が生じているなどの例もありました。

家族信託は大変高度な契約です。自分たちだけで契約書の作成を行った場合はこのような不備を発見できず、将来のトラブルを作り出してしまう危険性があります。

7.遺留分トラブルが起きる

家族信託契約は相続の時の財産の承継についても定めることができるので相続対策としても有効です。しかし、相続人間で偏った割合で財産を承継させる場合には注意が必要です。遺産をもらえなかった相続人から遺留分を請求される可能性があるためです。

遺留分とは、「特定の相続人が遺産を相続する最低限の取り分」であり、請求された場合は金銭で支払う必要があります。遺留分が請求される可能性が高い契約を行う場合は、同時に遺留分相当額を金銭で支払える準備もする必要があります。

8.経験のない専門家に依頼してトラブルになる

家族信託契約は、「締結して終わり」ではなく「締結してからがスタート」です。そのため、経験のない専門家に依頼した場合は締結してから後々にトラブルが生じる可能性があります。

「1. 親族仲が悪化する」で、父親や弟へ十分な了承をとらずに姉が家族信託の契約を進めてしまった事例を紹介しました。家族間で話し合いもおこなわれましたが、父親や弟の姉への不信感が強く、最終的に家族信託契約は終了することになってしまいました。初めに依頼した専門家への報酬や実費などはすべて無駄になってしまいました。

また、家族信託契約は長く続く契約なので、当初の計画通りにいかないこともあります。経験のある専門家の場合は、予定外の事態が生じたときにも対応できるよう契約書に工夫をします。例えば「受益者代理人(受益者に代わって権利を代理する立場の人)」の設置などもその1つです。

しかし、経験のない専門家の場合は、契約にそのような工夫が盛り込まれておらず、予定外の事態が生じたときに対応できない可能性があります。

9.損益通算ができなくなる

アパート経営をしている方特有の家族信託での注意点として損益通算があります。損益通算とは、同じ人が所有する赤字経営のアパートの最終的な損失を黒字経営のアパートの最終的な利益と足し合わせて利益を圧縮できるルールのことです。

しかし、家族信託を利用する場合には注意が必要です。なぜなら「信託したアパート」で出た最終的な損失はゼロと扱われてしまうため、「信託していない財産」の利益に足し合わせ、利益を圧縮することができないからです。

特に大規模修繕などを予定している場合、損益通算について注意して家族信託を設計しないと、損失が使えない分、多額の税金を納めることになりかねません。

家族信託で失敗しないための対処方法

以上、失敗する代表的な9パターンを見ていきました。これらの失敗を回避する1番の方法は、家族信託に長けている専門家を見つけることです。そうすれば、家族信託契約書の不備からの失敗、家族との情報共有の不備からの失敗や税務面での失敗などを回避することができます。

住んでいる地域で見つからなくても、今はリモートで相談ができます。1人だけではなく、複数の専門家に相談して実際にお願いする人を選ぶのがよいでしょう。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)