目次

  1. 1. 遺言が有効となるには遺言者の意思能力が必要
    1. 1-1. 遺言の内容が複雑か否か
    2. 1-2. 長谷川式認知症スケールの点数
    3. 1-3. 医療記録や介護記録から確認する
    4. 1-4. その他の考慮事情
  2. 2. 遺言の有効性に疑問を感じたら調停や訴訟に
  3. 3. 遺言が有効であると考えられる場合でも油断は禁物
  4. 4. 遺言書を書いてもらっても無効となる場合の次善策
    1. 4-1. 遺留分侵害額請求をする
    2. 4-2. 特別受益の持ち戻し
    3. 4-3. 介護を担っていた場合は寄与分
  5. 5. まとめ

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認知症だった人の遺言について、その有効性が相続人の間で争いがある場合には、遺言を遺した当時、本人に意思能力があったかどうかを検討します。主に以下のような事情を総合的に考慮して意思能力の有無が判断されます。

「全財産を○○に相続させる」など遺言内容が簡単な内容であれば意思能力があったと判断されやすくなります。
反対に、多数の財産があって、複数人に割合を指定して財産を割り当てる場合など遺言内容が複雑になるほど意思能力があったと判断されにくくなるでしょう。

長谷川式認知症スケールとは、認知機能のレベルを推定するために行われる簡易的な知能検査のことであり、30点満点中20点以下の場合は認知症の疑いがあるとされています。
また、その中でも10点以下であれば意思能力がないと判断される可能性がかなり高くなります。
もっとも、遺言の内容が簡単であるなどの事情があれば10点以下でも意思能力が認められた裁判例もあります。
逆に、10点以上であっても会話が困難であったことなどを理由に、意思能力が否定された裁判例もあります。
よって、一概に長谷川式認知症スケールの点数だけで意思能力の有無が決まるとは言えません。

なお、公証役場で公証人の立会いの下で作成した公正証書遺言は、一般的に自筆証書遺言より遺言が有効と判断されやすいですが、長谷川式認知症スケールが10点以下の場合は、公正証書遺言であっても無効と判断される場合があります。

医師による診断書や介護記録などから、遺言作成当時に遺言者は意思疎通が可能であったか、金銭管理は出来ていたかなどが確認できることがあります。
また、看護記録には遺言者の当時の様子が記録されている場合があるので、そのような事情も考慮されます。

遺言作成の動機、遺言内容の合理性、公正証書作成時の意思疎通の様子、書面の筆跡の乱れなどの事情も考慮されます。

遺言の無効を主張しても、相手方が納得しなかった場合は、原則として最初は家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
そして、調停でも話し合いがつかなかった場合に、遺言無効確認訴訟を地方裁判所に提起することになります。
もっとも、当事者間の対立が激しく、調停をしたとしても不調になる可能性が高い場合は、調停を経ずに遺言無効確認訴訟を提起したとしても、そのまま訴訟手続きの審理を行ってくれる場合もあります。

残念ながら、認知症等で意思能力がない方の法律行為は無効となりますので、意思能力が無くなった後で他の人に財産をあげるということはかなり困難です。
そのため、遺言を作成することを予定している場合は、できれば認知症になる前に遺言を作成する必要があります。
もっとも、意思能力があるうちにと思って、早期に遺言書を作成してもらうと、後に遺言書の書き換え合戦が起こり、最終的に最新の遺言書が有効となるということがよくありますので、遺言書を作成したからといって絶対に安心できる訳ではありませんので注意しましょう。
なお、生前の相続対策として生命保険金の受取人を相続人にしておくということもよく行われています。
生命保険金の場合は、相続財産ではなく受取人の財産ですので、原則として遺産分割の際に他の相続人に生命保険金を分け与える必要はありません。

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被相続人となる人がすでに重度の認知症などで遺言書を遺しても無効となる可能性が高く作成できない場合は、相続開始後に以下のことを主張して自分の相続する財産を増やすことができる可能性があります。

被相続人の意思能力がなくなる前に、「遺産は全て長男に相続させる」など他者に遺産を集中させる内容の遺言があった場合には、遺留分侵害額請求を検討します。
遺留分は法定相続人に認められている最低限保証されている相続分で、遺言よりも優先されます。
ただし、法定相続人の中でも被相続人の兄弟姉妹及びその子には遺留分がありません。

被相続人の生前に、多額の贈与を受けていた相続人がいる場合は、それらの贈与分を特別受益として遺産に持ち戻すことを主張できる可能性があります。

被相続人の生前、無償で長年介護をしていた相続人は、寄与分を主張できます。

被相続人となる人が高齢で認知機能の低下のおそれがあるが、遺言を作成してもらう場合には、無効とならないように、以下の点に注意して作成してもらいましょう。

・被相続人となる人には認知症と診断される前に遺言を書いてもらう。
・軽い認知機能の低下などが認められる場合は、医師の診断書や長谷川式認知症スケールなど意思能力があったことを示す資料を取っておく。
・できるだけ自筆証書遺言ではなく公正証書遺言にする。
・認知症のレベルに合わせた遺言内容にする(認知症が進行していれば簡単な遺言内容にするなど)。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)

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