失踪宣告とは 法律上死亡したとみなす制度 相続との関係、生きていた場合の対処法を弁護士が解説
行方不明者を法律上死亡したものとして扱う「失踪宣告」が認められると、行方不明者の相続の手続きを進めることができます。失踪宣告が認められる条件や裁判所への申立方法、実は生きていることが明らかになった場合の対処方法を解説します。
行方不明者を法律上死亡したものとして扱う「失踪宣告」が認められると、行方不明者の相続の手続きを進めることができます。失踪宣告が認められる条件や裁判所への申立方法、実は生きていることが明らかになった場合の対処方法を解説します。
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失踪宣告とは、生死がわからない行方不明の人に対して、要件を満たすと法律上死亡したとみなす制度のことです。
「行方不明」と聞いてもピンとこない人も多いかと思いますが、過去10年間で毎年8万人以上が行方不明となっているそうです。この数字は警察へ行方不明者届が提出された人の数であり、実際にはもっと多いものと思われます。
行方不明の状態が長期化した場合、残された遺族や配偶者は、非常に「困った」状態になります。行方不明者の財産を処分することができない、別の人と再婚できないなど、不安定な立場に置かれてしまうためです。
このような場合に、残された親族等の立場を安定させるため、一定の条件のもとで、行方不明者を死亡したものと取り扱う制度が失踪宣告です。
行方不明者を死亡したものと取り扱うことができることで、行方不明者の相続が発生し、残された遺族は財産を自由に処分することが可能となります。なお、行方不明者の財産について、このような「失踪宣告」等の手続きを経ることなく、残された親族が勝手に処分することはできませんので、注意が必要です。
先ほど述べたとおり、失踪宣告とは、「死亡した」という確たる証拠がないにもかかわらず、「法律上死亡したものとみなす」という非常に強い効果を生み出す制度となっています。
このような失踪宣告が認められるためには、「死亡の蓋然性」という観点から2つのポイントがあります。
以下、2つの要件について解説していきましょう。
法律上は「不在者(従来の住所または居所を去った者)」といいますが、今回は、あえて「行方不明者」という表現で統一したいと思います。「死亡の蓋然性」を判断するうえでは、行方不明者の生死が不明な状態が必要となります。
なぜなら、行方不明者が生存していることが証明できれば、当然「死亡したものとみなす」ことはできず、また死亡していることが証明できれば、あえて「失踪宣告」というややこしい制度を使う必要がないからです。
行方不明者の生死が不明な状態がどれくらい継続していれば「死亡の蓋然性が高い」と判断できるかは、失踪宣言が認められる上でのポイントといえます。
この「一定期間」については、「失踪期間」とも表現されます。失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があり、それぞれ要件となる期間が異なります。
上述のように、失踪宣告には2種類あり、行方不明者の相続開始時期も異なります。
通常、失踪宣告が認められるためには7年の失踪期間が必要とされており、これを「普通失踪」といいます。
普通失踪の場合には、7年間の失踪期間が満了したとき(行方不明者の生存が最後に確認されたときを起算点として7年経過したとき)に死亡したものとみなされます。たとえば、2022年10月頃から連絡が取れずに行方不明となった場合、2029年10月頃が死亡日とみなされることとなり、死亡日から相続が開始されます。
一方で、行方不明者が、戦争や海難事故などの「死亡の原因となる危難に遭遇」し、その危難が去ったあとの1年間、生死が不明な状態である場合にも失踪宣告が認められます。これを「特別失踪」といいます。
特別失踪の場合には、普通失踪の場合とは異なり、上記のような「危難」が去ったあとから1年後に死亡したものとみなされるわけではなく、「危難」が去ったときに死亡したものとみなされます。たとえば、2022年10月に乗船していた船が沈没して行方不明となった場合、1年後の2023年10月ではなく、2022年10月が死亡日とみなされ、死亡日から相続が開始されます。
なお、行方不明者の失踪宣告にあたり、普通失踪と特別失踪、いずれの方法を採用すべきか悩ましいケースもあり得ます。基本的には普通失踪を基準として考える形が望ましいといえるでしょう。
行方不明者の財産に関して対応が必要となった際は、弁護士に相談することをおすすめします。
失踪宣告については、人の生死にかかわる重要な判断が求められるため、利害関係人から請求(申し立て)を受けた家庭裁判所が最終的な判断を行うものとされています。失踪宣告の申し立てにかかる手続きの流れは、以下のとおりです。
なお、申し立てから失踪宣告の審判確定までは1年ほどかかってしまうケースもあるため、注意が必要です。
利害関係人は、失踪宣告の申立書を家庭裁判所へ提出します。申立先の家庭裁判所は、行方不明者の従来の住所地や居住地を管轄する裁判所となります。申し立てにあたっては、行方不明者の戸籍謄本等のほかに、失踪を証明する資料の提出が求められます。
失踪を証する資料は、「警察署長発行の行方不明者届受理証明書」「返戻された行方不明者宛ての手紙」などが代表的です。
【利害関係人の範囲】
失踪宣告の申し立てをすることができる人は、失踪宣告により法律上の利害関係を有する者(相続人や配偶者等)に限定されています。行方不明者の単なる友人や知人、または検察官は申し立てをすることが認められていません。一般的に失踪宣告の利害関係人は、下記が考えられます。
【失踪宣告の申立に必要な書類】
【申立にかかる費用】
申し立てを受けた裁判所は、申し立てを行った親族等に対し、家庭裁判所調査官による独自の調査を行います。
調査終了後、裁判所は、失踪宣告の申し立てがなされている旨を官報や裁判所の掲示板に公示し、一定期間内(普通失踪では3カ月以上、特別失踪では1カ月以上)に、行方不明者については生存の届出を、行方不明者の生存を知っている者はその旨の届出をするよう催告します。
公示催告後、特段の届出等がない場合には、裁判所は、失踪宣告の審判を行うこととなります。審判がなされると、裁判所から審判書謄本等が送られてきます。
なお、審判によって失踪宣告が認められても、自動的に行方不明者の戸籍は変更されないので、10日以内に行方不明者の本籍地、又は申立人の住所地である市区町村の役場へ失踪の届出をしなければなりません。
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相続の相談が出来る弁護士を探す失踪宣告は、あくまで行方不明者を死亡したものとみなす制度ですので、行方不明者が実は生きているケースもあります。
失踪宣告がされた場合でも、行方不明者自身の新天地での生活自体に支障はほとんどありません。死亡したものとみなされているからといって、死者(とされている人)との契約は無効だなどとされることはありません。契約を締結することも可能です。
しかし、行方不明者が、残された家族の元へ「帰ってきた」場合、相続に関して言えば、行方不明者の資産が「相続」により他の親族により処分されているといった法的なトラブルに発展します。
このような場合において、どのように対処すれば良いのか、解説します。
まず、失踪宣告については、本人の生存が確認できたからといって、自動的に取消が行われるわけではありません。本人や利害関係人により、失踪宣告の取消を裁判所に申し立てる必要があります。
失踪宣告が取り消された場合、失踪宣告による「死亡」は、はじめから「なかった」ことになります。遡及的に、失踪宣告による効果が消滅することとなります。
要するに、行方不明者はずっと生きていたということとなり、失踪宣告による「死亡」の結果として生じた行方不明者に関する「相続」は開始しなかったこととなります。
失踪宣告により、行方不明者から相続により財産を得た人(以下「相続人等」といいます)については、失踪宣告の取消によって、上記のとおり「相続」が開始しなかったこととなります。たとえ、行方不明者が生きていたとは知らなくても、相続等によって得た財産を本人へ返還しなければなりません。
しかし、失踪宣告の取消による財産の返還については、例外的に「現に利益を受けている限度において」(現存利益)返還すれば良いとされています。そのため、相続人等が浪費していた場合には、残っていた分だけを返還することになります。
なお、生活費に使用していた場合や住宅ローンの返済に充てていた場合には、「現に利益を受けている」といえるため、そのぶんも返還する必要がある点に注意が必要です。
一方で、相続人等が、行方不明者の「相続」によって得た財産を第三者に売却した場合、上記の原則論からすれば、取引を巻き戻して財産を行方不明者へ返還しなければなりません。しかし、それでは、そもそも失踪宣告といった事情を知らない第三者が不当に害されてしまいます。
そこで、例外的に、相続人等と上記第三者の双方が、行方不明者が生存していることを知らなかった場合には、両者の間で行われた取引の効力に、失踪宣告の取消は影響しないものとされています。
つまり、相続人等も第三者も行方不明者の生存を知らなければ、取引は有効となりますが、そうでなければ無効となる可能性があるということとなります。そのため、行方不明者の財産の処分を目的として失踪宣告を行う場合には、十分に注意をする必要があります。
特別失踪と似た制度として、「認定死亡」という制度があります。認定死亡とは、震災や火災などにより死亡したことが確実視される状況下で、死体などを確認できなくても戸籍上「死亡したもの」として取り扱う制度となります。
両者の違いは、以下の表のとおりです。失踪宣告は非常に煩雑な手続きとなりますので、もしも行方不明者が死亡したことが確実視される場合には、公官庁等に相談すると良いでしょう。
残された配偶者は、行方不明者である配偶者と死別したこととされ、再婚が可能となります。一方、「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」は、失踪宣告等の手続きを経ることなく、離婚すること、または離婚してから再婚することが可能です。
なお、失踪宣言後に行方不明者が戻ってきたときに配偶者が再婚していた場合は、配偶者と再婚相手の双方が、行方不明者が生存していることを知らなければ、前婚(もともとの婚姻関係)は復活せず、後婚(再婚)が有効とされます。
なお、再婚する当事者の片方または双方が、行方不明者が生存していることを知っていた場合、失踪宣告の取消により、前婚が復活して重婚状態となるという見解が通説的な見解のようです。ただし、再婚当事者の認識を問わず、後婚のみを有効する見解も根強く、裁判所等の判断が待たれる領域となっています。
そのため、再婚を目的として失踪宣告を行う場合には、上記のようなリスクに注意をする必要があるといえます。再婚については、必ずしも失踪宣告を行う必要はないため、別の手段を取ることも考えられます。
遺言書がある場合は、遺言通りに遺産が分けられるので、行方不明者の相続人がいても相続手続きに支障が生じることは少ないでしょう。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。したがって、行方不明の相続人がいる場合には、遺産分割協議を行うことができません。そこで、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任等を申し立てて、代わりに遺産分割協議に参加してもらうことで、相続手続きを進めることができます。
行方不明の相続人がいなくなって7年以上が過ぎている場合は、失踪宣告を申し立てることで当該相続人の相続手続きもあわせて進めることも可能です。
以上、行方不明者にかかる失踪宣告について解説してきました。
行方不明者については、失踪宣告の問題とともに、失踪宣告が認められるまでの期間の財産管理も問題となります。また、仮に本人が生きていた場合の処理についてもあわせて考えておく必要があり、非常に複雑な問題となる可能性があります。
親族が行方不明となってしまった場合には、警察署への相談とともに、弁護士等の専門家へもあわせて相談すると良いでしょう。
(記事は2023年8月1日時点の情報に基づいています)
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