すぐに支障はないけれど・・・

相続の現場を取材する連載「行ってみた!」シリーズの第2弾は、「相続登記」がテーマです。実は、2月は全国各地の司法書士会が「相続登記はお済みですか月間」に位置づけています。さらに、国の法制審議会は、相続登記の義務化を検討しています。背景には、近年、顕在化してきた問題があります。私自身も、不動産を相続した際、問題に直面しました。どうすれば、トラブルを避けられるのでしょうか。そこで今回は、日本司法書士会連合会副会長の小澤吉徳さんに、相続登記を巡るトラブルやその原因などを聞いてきました。

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名義変更しないとトラブルに?

まず、相続登記の基本的なことを説明します。相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際、相続した人に名義を変更することを言います。現在、相続登記は期限が定められておらず、手続きを行わないことで罰せられる法律もないため、そのまま何代にも渡って放置している人も少なくありません。しかし、「相続登記の放置は多くのトラブルの温床」だと小澤さんは警鐘を鳴らします。
「たしかに相続登記は直ちに生活に何らかの支障をもたらすものではありません。例えば親から土地や建物を相続した場合、登記手続きをしなくても、誰かからその所有権を否定されることもない。つまり、すぐに必要性を感じないので動機づけが低いのです」

また、よくあるのが、故郷にある地方の山林を相続したようなケースです。行ったこともなければ、場所もよくわからない。わざわざ、自分で手数料をかけて登記手続きする必要性を感じない人も多いでしょう。こうしてみると、相続登記をしないことによるデメリットは少ないように感じてしまいます。

名義人が膨れあがることも

小澤さんは、この考え方に注意を促します。
「たしかに『直ちに』、デメリットはありません。しかし、必ずどこかで顕在化します。一つは、建物の建て替えや不動産を売却する場合、そして不動産を担保にして融資を受けようとする場合などです」。例えば、先祖から継承した土地に建っている建物を建て替えようとする場合、融資する銀行は土地と建物を担保にとることになります。そうすると、名義人の確認が必要になりますが、長い間放置しておくと、相続権のある人がどんどん増えて権利関係は複雑になっていくのです。
例えば、土地を所有していた男性が亡くなるとしましょう。そうすると、妻や子どもに相続権が発生します。この時、遺言書や遺産分割協議書で決めたことに従い、土地を相続する人を決めて、手続きも済ませます。

しかし、この一連の流れを済ませないで、長年、放っておくと、相続権は、さらにその下の世代に受け継がれます。よくあるのが「土地は長男に」といった暗黙の了解のもとで、名義変更をせずに長男が親の土地に住み続けたまま時間が過ぎていくと、気づいた時には名義人が膨れあがることにも。そんな事態になると、どんなトラブルが起きるんでしょう。小澤さんが、司法書士としての実務経験から事例を交えて教えてくれました。

家のリフォームでトラブルが

これまで小澤さんが関わった相続登記の案件で、もっとも複雑だったのが相続人が100人に膨れあがったケースです。依頼主は、東海地方の郊外に住む人でした。家を2世帯住宅にリフォームしようと住宅メーカーに相談したところ、「銀行から融資を受けるには、不動産の名義変更が必要」と言われたことから、問題が目に見えるように。
調べてみると、住んでいる家は、明治初期に生まれた人の名義のまま。そこから戸籍をたどっていくと、最終的に相続人は100人になりました。もちろん依頼主は、会ったことも聞いたこともない人ばかりで、中には行方不明者もいました。行方不明者は家裁で失踪宣告をしてもらい、連絡のとれる人には、手続きへの協力を依頼したそうです。
ところが、依頼人から郵送した書類にサインして手続きに必要な印鑑証明書を送付してくれる人は約半数。無視する人、「詐欺じゃないか」と不審がる人も。

解決におよそ2年、書類の高さは約50センチ

「何度も何度も依頼人にやり取りをしてもらって、およそ80人の印鑑はもらえましたが、残りの5、6人に対しては家裁で調停をすることになりました。この調停申立書も私が作成しましたが、調停に出てこない人もいる。最終的には審判により、出頭してくれなかった相続人に法定相続分相当のお金を支払うことに。やっと、不動産を依頼人の名義とするジャッジが下されました。解決するまでに約2年。全員の戸籍を積むと、およそ50センチの高さになりました」と小澤さんは振り返ります。

特に親世代と同居の多い地方では、親から代々受け継いだ家に住んでいる人が多く、こういった事例は少なくありません。様々な事情が複雑に絡み合うと、手続きが途方もないことに思えます。あらゆる手段を講じても解決しないこともあるのではないでしょうか。質問を投げかけると、小澤さんは、こう教えてくれました。

遺言書の作成も大事

「どんな複雑なケースでも、最後は裁判官が審判を下すので、解決しないことはありません。しかし、相続登記が終わるまでは不動産に手をつけることができないので、できるだけ早い時期の相続登記をおすすめします」

不安があれば、まずは不動産の名義を調べます。登記簿は法務省のデータベースにアクセスすれば、誰でも確認できるようになっています。最寄りの法務局にお問い合わせください。そこで、まだ親の名義であれば、自分の名義に変更しておきましょう。もちろん、その際には相続人の間での協議が前提となります。
そして、トラブルを未然に防ぐためにも、遺言書の作成を考えてみてください。なぜなら、相続が発生したら、まず遺言書に明記されている内容が優先されるからです。

相続登記は、自分の死後の手続きです。その執行者を誰にするのかを遺言書に明記しておくことも大切です。この一連の作業・手続きは個人でも可能ですが、内容が複雑なケースもあります。

自分での手続き難しければ司法書士へ

小澤さんは「私個人の実感」と前置きした上で「司法書士に依頼するほうが、費用対効果は高いと感じています。その場合、準備するのは不動産の権利書、預金通帳、有価証券など。もしも権利書がない場合も、権利がなくなるわけではないので、固定資産税の納付書があれば、それで不動産を特定できます」と話します。

中には、権利書といった大事なものを貸し金庫に預ける人もいますが、これが落とし穴になることも。その人の死亡が確認されると、銀行が金庫をロックしてしまいます。そうすると、相続手続きが滞ってしまうので注意が必要です。

相談分野で異なる専門家

こういった事態にも、司法書士なら対応できるようです。小澤さんは、こう強調します。「司法書士は職務として相続による不動産登記や預金の解約業務などができるので、相続に関する幅広い分野を解決できます。もちろん、遺言執行者を担うことも可能。もし相続税の申告が必要な場合は、税理士、紛争性が高く、代理人を選任すべき事件については弁護士を紹介することもできます。相続の窓口として、まずは司法書士に相談していただければと思います」

次回の後編では、相続登記が見直されるきっかけをひもときながら、相続人同士でもめるケースなどを紹介します。

(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)