見直しのきっかけは東日本大震災

日本司法書士会連合会で副会長を務める小澤吉徳さんによると、相続登記が見直されたきっかけは東日本大震災。津波の被害にあった土地や高台移転先の土地の不動産登記を確認したところ、登記簿に記載されている所有者は故人の場合が多く、誰に相続されたのがわからないケースが数多くみられたのです。土地の所有者が分からないと、道を通すわけにもいかず、復興の足かせになりかねません。

「所有者不明の土地は、災害の際の復旧・復興に大きな弊害となります。これは被災地に限った話ではなく全国の問題。町おこしや都市開発の遅滞につながります」

所有者不明土地は九州以上

国土交通省の平成28年度の地籍調査で、約62万筆(563市区町村1,130地区)の土地について所有者を調べたところ、登記簿から所有者が判明しなかった土地の割合は20.1%にのぼりました。そのうち3分の2は相続登記が行われていないもので、残りの3分の1は所有者の住所変更の未登記などによるものでした。

また、法務省が平成29年に全国10か所の地区、約10万筆の土地を対象に、最後の登記からの経過年数を調査した結果、大都市以外の地域では4分の1を超える土地が最後の登記から50年以上経過していることがわかりました。所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也東大公共政策大学院客員教授)による推計では、2016年時点の所有者不明土地は全国に410万ヘクタールあるとされ、九州本島の面積約370万ヘクタールを上回りました。

今後、対策を講じなければ2040年までに合計720万ヘクタールに膨らむ見通しです。こうした所有者不明の土地が増えている問題を解消するため、法務省は昨年、民法と不動産登記法を見直すと発表。2020年以降には土地の相続登記を義務化する法改正が検討されています。

相続登記をしないと後々困る

また、最近、増えてきている相談がマイナスの遺産が多いことからの相続放棄と子どものいない人の相続登記の案件。相続登記の申請の際には、故人の土地を誰が引き継ぐかを確定するための遺産分割協議書の添付が必要となり、法定相続人全員が同意し、署名・押印する必要があります。ですが、法定相続人の第一順位である子供のいない人は、第二順位の両親が亡くなっているケースが多く、さらに第三順位の兄弟姉妹もすでに亡くなっていると、甥や姪に相続の権利が生じます。しかし、普段ほとんど付き合いがない間柄であったりすると、連絡先がわからないことも多く、相続登記に協力が得られないケースもあると小澤さんは強調します。

「司法書士に依頼があれば戸籍から相続人を確定することができますので、アプローチすることはできます。しかし、連絡がつかないケースもあります。最終的には家裁の調停に委ねるしかありません」

長い時間と多額の費用がかかる

かくゆう私も母親が亡くなり、その際に確認すると、相続した不動産はまだ祖父の名義のままでした。家屋が面している私道の相続では、私道を共有する30人余りの名義人から承諾が必要になりましたが、半数以上の人と連絡が取れませんでした。結局、全ての手続きを終えるまで、2年近い歳月と多額の費用がかかった苦い思い出があります。

小澤さんは、こう教えてくれました。「よくあるのが、戸籍から住所を特定しても、その人はそこには住んでいないケース。生死不明が7年以上経過すれば家庭裁判所に申し立てて失踪宣告、死亡とみなすことができますが、7年未満の場合は、不在者という扱いとなり、家裁で不在者財産管理人を選任する必要が出てきます。相続人が何人もいる場合は、莫大な時間がかかってしまうのです」

相続人が複数人いるともめる理由

デメリットはかかる時間と費用だけではありません。相続人全員と連絡がとれても足並みが揃わないことも少なくないのです。土地以外の財産がほとんど残っていないのに、相続人が複数人いる案件がもっとももめるパターンです。

「同居していた親が亡くなり、長男が名義変更をしたいと兄弟姉妹に呼びかけても、妹が『私にも相続する権利があるから判子を押さない』と納得しない。そうなると不動産を売るか、法定相続分のお金を支払う必要がでてきます。これも最終的には家庭裁判所で審判してもらうしかありません」

現実味を帯びる相続登記の義務化

私の場合は、祖父の死後、両親が名義変更をせず、私の代で相続登記をしました。こうした代を飛ばすことによるデメリットはあるのでしょうか?
「この場合のような二次相続では、両親のきょうだいも亡くなっているなど、関係相続人の数が増え、遺産分割協議をすることが困難になったり、所在不明の相続人が出てきたりすることもあるでしょう」。すぐには目に見えないからと言って、相続登記を後回しにしていると、長いライフステージのどこかで困ることが出てきそうです。

土地の相続登記の義務化が、いよいよ現実味を帯び始めてきた2020年。具体的な内容はまだ決まっていませんが、より実効性のあるものにするため、罰則も検討されています。相続が発生してから大慌て!と、ならないためにも、早めの準備が大切です。

(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)