目次

  1. 1. 相続人が被相続人の滞納税金を支払う義務があるのか?
    1. 1-1. マイナス財産として相続人が支払い義務を引き継ぐ
    2. 1-2. 滞納税金の引き継ぎを知らせる通知
  2. 2. 滞納状態のまま放置した場合のリスクは?
    1. 2-1. 相続人に対して滞納処分
    2. 2-2. 滞納処分の流れ
  3. 3. 滞納税金を支払えない、支払いたくない場合は?
    1. 3-1. 相続放棄で滞納税金の支払いは不要に
    2. 3-2. 相続放棄の注意点
    3. 3-3. 限定承認も選択肢、プラス財産の範囲内で滞納税金などマイナス財産を引き継ぐ
    4. 3-4. 限定承認の注意点
    5. 3-5. 相続放棄も限定承認も手続き期限は原則3カ月
  4. 4. まとめ

「相続会議」の弁護士検索サービス

まず、税金滞納者が死亡した場合、相続人がその滞納税金を支払う義務があるのかが気になるところですが、結論としては支払い義務があります

被相続人の遺産には、預貯金や不動産などの「プラスの財産」だけでなく、借入金や滞納税金などの「マイナスの財産」もあり、原則として、すべて相続人に承継されます。相続人が二人以上いる場合、だれがいくら滞納税金を承継するかというと、原則として、民法の法定相続分により各相続人が承継することになります。

具体的にどういう仕組みで相続人に被相続人の滞納税金が承継された旨が通知されるかというと、地方自治体により死亡した税金滞納者の相続人の調査等が行われ、相続人に対して「納税義務承継通知書」という書類の送付で滞納税金の承継があった旨が通知されます。

「納税義務承継通知書」が送付されてきて、相続放棄や限定承認(詳しくは後述)を行わずに滞納状態のまま放置してしまうと相続人に対して滞納処分が行われます。

滞納処分とは、税金滞納者の意思に関わらず、滞納税金を徴収するために、財産を差押え、差押えた財産を換価し、滞納税金に充当する一連の手続きです。税金滞納者であった被相続人に対して、生前に督促又は滞納処分が行われている場合、相続人がその督促又は滞納処分されている状態をそのまま引継ぐことになります。

以下に地方自治体が行う地方税の滞納処分の流れをご紹介します。

①督促
納期限までに納税されない税金について、納期限から20日以内(各地方自治体の条例により20日以上の日数の場合もある)に督促状が送付されます。

②電話や文書等による催告
督促状が送付されても納税されない場合には、電話や文書などで納税の催告が行われます。ここで地方自治体の担当者と税金滞納者との納付交渉の結果、分割納付による場合や徴収猶予制度による場合もあります。ただし、徴収猶予が認められるのは、災害等の一定の事由により一時的に納付が困難と認められる場合に限られます。

③財産調査
督促や催告を行っても納税されない場合、官公署、金融機関、勤務先、滞納者の財産を有する第三者等に対して財産調査が行われます。なお、財産調査に際し、税金滞納者本人の承諾は不要とされています。

④財産の差押え
財産調査により差押える財産が決定され、税金滞納者の財産が差押えられます。差押えられた財産については、税金滞納者の意思に関わりなく、法律上の処分(売買、贈与)や事実上の処分(き損、破棄)が禁止されます。

⑤換価処分・配当
差押えた財産は、原則として、強制的に換価されます。例えば、差押えた財産が不動産の場合、公売(入札又は競り売り)によって売却することで、その売却代金が滞納税金に充当されます。なお、滞納税金へ充当してもなお残余があれば、税金滞納者に交付する配当手続きが行われます。

相続人が被相続人の滞納税金を支払いたくない場合や支払いたくても支払えない場合には、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことで、滞納税金を支払う必要はなくなります。

なお、相続放棄した場合には、家庭裁判所が発行している「相続放棄申述受理通知書」の写しなどを地方自治体に提出する手続きなどが必要となります。

ただし、相続放棄してしまうと滞納税金のようなマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も承継できなくなるため注意が必要です。また、一度相続放棄してしまうとたとえ相続の開始があったことを知った時から3カ月以内でも撤回できません。

なお、相続税の計算上、被相続人の死亡保険金は相続人1人につき500万円まで非課税とする取扱いがありますが、相続放棄した人が支払いを受けた死亡保険金にはこの非課税の取扱いの適用はありませんので注意が必要です。

【関連】相続放棄の手続きは自分でできる? 流れや注意点、専門家に依頼すべきケースを解説

被相続人の滞納税金等のマイナスの財産がどの程度あるか不明であり、プラスの財産が残る可能性もあるような場合、相続人が相続したプラスの財産を限度としてマイナスの財産を承継する限定承認という方法もあります。この限定承認は、相続人全員で共同して、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所で行う必要があります。

なお、限定承認した場合には、家庭裁判所が発行している「相続の限定承認申述受理証明書」の写しなどを地方自治体に提出する手続きなどが必要となります。

限定承認は相続放棄と異なり相続人全員で行わなければならず、一部の相続人だけで行うことはできない点に注意が必要です。通常、相続放棄よりも手間がかかります。なお、限定承認を行うと、被相続人の相続財産について、相続開始時の時価で譲渡したものとみなして譲渡所得税が課税されてしまいますので注意が必要です。

【関連】相続の限定承認とは? 自分で行う、依頼する場合の費用を解説

相続放棄も限定承認も3カ月の熟慮期間経過後では原則として行うことはできません。しかし、判例によれば、3カ月以内に相続放棄や限定承認を行わなかったのは、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたためである等、相当の理由が認められる場合には、3カ月の熟慮期間経過後でも相続放棄や限定放棄が行える場合もあるとされています。

ただし、これはあくまでも例外的な取扱いですので、実際に被相続人の死後3カ月を経過した後に滞納税金があることを「納税義務承継通知書」で知った場合において、上記例外的な取扱いにより相続放棄できるかどうかについては、早期に弁護士に相談確認した方がよいでしょう。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

相続人は被相続人の滞納税金を滞納状態で放置してしまうと、延滞金も増えてしまい、滞納処分により財産を差し押さえられてしまいます。ですので、納税する意思がある場合には早期に役所(国税の場合には税務署)に訪問して納税に関して相談する必要があるでしょう。また、納税できない場合等には、相続放棄や限定承認の検討をする必要がありますが、熟慮期間3カ月と期間がタイトですので、早期に弁護士や税理士に相談する必要があるでしょう。

(この記事は2022年10月1日現在の情報に基づきます)

「相続会議」の弁護士検索サービス