目次

  1. 1. 破産した人が遺産相続できる条件
  2. 2. 破産手続き開始決定前に相続が発生したケース
    1. 2-1. すでに遺産分割協議が終わっている場合
    2. 2-2. まだ遺産分割協議をしていない場合
  3. 3. 破産者の遺産分割協議はどうやって進めるの?
    1. 3-1. 法定相続分が破産者の「財産」になる
    2. 3-2. 破産管財人が遺産分割協議に参加する
    3. 3-3. 管財事件になって負担が重くなる
  4. 4. 破産による遺産相続への影響を避けるなら「相続放棄」が有効
    1. 4-1. 相続放棄の期限が切れた場合は?
    2. 4-2. 破産前に遺産分割協議をする場合の注意点
  5. 5. まとめ:迷ったら相続問題に詳しい弁護士に相談を

「相続会議」の弁護士検索サービス

自己破産した人が相続人になったとき、遺産を受け取れるのでしょうか?

実はこの問題は「遺産相続の時期」に大きく左右されます。相続開始が「破産手続き開始決定前」なら遺産相続できません。一方、「破産手続き開始決定後」なら基本的に自分で遺産分割協議を進めて遺産を受け取れます。

たとえば、過去に破産した経験があると、「遺産相続できないのでは?」と心配になるでしょう。しかし破産者でも遺産相続できます。破産するときには「破産手続き開始決定」が下りますが、この決定の後に得た財産は基本的に「自由財産」として本人のものになるからです。

破産手続き開始決定さえ下りれば、その後に遺産相続が起こっても、基本的に遺産は配当対象になりません。破産者本人が遺産分割協議に参加して好きなように遺産相続方法を決められます。

この場合、過去に破産しているからといって、遺産を没収されることはないので安心しましょう。

問題になるのは「破産手続き開始決定前」に遺産相続が発生したケースです。

この場合、「破産手続き開始決定時」に存在する破産者の財産なので、債権者へ配当されてしまいます。よほど少額でない限り、破産者の手元に残すことはできません。

破産前に遺産分割協議が終わっている場合には、破産者の手元に財産が残っている限り相続財産が配当対象になります。

たとえば破産者が過去に300万円の預金を相続したとしましょう。100万円を使って手元に200万円残っていれば、200万円が債権者へ配当されます。

財産が手元に残っていない場合には基本的に配当対象になりません。ただし、かつて相続した金額が大きければ裁判所から「何に使ったのか」報告を求められる可能性が高いと考えていいしょう。

相続発生時が破産申立時期に近いにもかかわらず、高額な財産の行方をきちんと説明できなければ「財産隠し」を疑われる可能性もあります。

破産手続き開始決定前に遺産相続が発生し、手続き開始決定時にまだ遺産分割協議が済んでいない場合、破産者本人は遺産分割協議を進められません。裁判所から選任された「破産管財人」が遺産分割協議を進めます。

破産手続きにおける遺産分割協議の進め方については、次項で詳しく解説していきます。

すでに述べたとおり、遺産分割協議前に破産すると遺産は没収されてしまいます。その手続きの流れをみてみましょう。

自己破産をしたときに遺産分割未了の状態だと「法定相続分」が破産者の財産とみなされます。

たとえば遺産が3000万円のケースにおいて、破産者を含めたきょうだい3人で相続人になった場合を考えてみましょう。破産者の法定相続分は3分の1なので、破産者の相続分は1000万円。その1000万円分の権利が破産者の財産となって配当対象になります。

裁判所で破産手続き開始決定が下りると、破産者本人は財産管理権を失い「破産管財人」が財産を管理し始めます。そこで遺産分割協議も破産管財人が行います。

具体的には破産管財人が裁判所の許可を受けて、他の相続人と話し合い、遺産の分け方を決定します。

また、破産管財人は相続財産を換価して、債権者へ配当します。せっかく遺産を相続しても、相続人に破産者が含まれていたら債権者へ配当されて失われてしまいます。

相続発生後、遺産分割協議前に破産すると「破産管財人」が必要なので「管財事件」になる可能性が高まります。管財事件とは、財産が一定以上ある人が破産するときの複雑な手続きのことを指します。

破産管財人の高額な予納金が発生し、手続きも長くかかってしまいます。裁判所で何度も債権者集会が開かれるので、そのたびに裁判所へ行かねばなりません。

遺産がなければ簡易な「同時廃止」になって手続き費用も安く手続きも短期間で済むのに、遺産があるばかりに管財事件になれば、余計な負担がかかってしまうでしょう。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

破産手続き開始決定前に遺産分割協議が済んでいない場合、そのまま自己破産を申し立てると管財事件になったりせっかくの遺産が失われたりしてデメリットがあります。

不利益を防ぐには、どうしたらよいのでしょうか? 有効な方策は「破産前に相続放棄する方法」です。

相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することによってすべての遺産を相続しないための手続きのことです。相続放棄したら、その人ははじめから相続人ではなかったことになります。一切遺産を相続しないので、破産管財人や債権者に法定相続分を取られることもありません。他の相続人に迷惑をかけずに済みます。

また、相続放棄すれば、遺産以外に財産がない方の場合、破産手続きも簡易な「同時廃止」にしてもらえるでしょう。そうすれば、余計な費用を支払わずに済みますし、破産手続き自体もスピーディに終えられます。

相続放棄には「期限」があるので注意しましょう。基本的には「相続開始を知ってから3カ月以内」に家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間を過ぎると相続放棄を受け付けてもらえなくなります。

破産を検討しているときに遺産相続してしまったら、早めに相続放棄の申述を行いましょう。

もしも相続放棄の期限が切れてしまったら、破産前に自分で遺産分割協議に参加して「遺産を一切相続しない」内容で合意しましょう。

遺産分割協議で一切遺産を相続しないことに合意したら、本人の遺産取得分はありません。財産がないので、破産管財人に換価されるリスクも基本的になくなります。

ただし、破産直前に「債権者への配当を不当に免れるため」に遺産分割協議したとみなされると、破産管財人がついて「否認」される可能性があります。破産前に遺産分割協議や名義変更をするなら、自己判断で動かず弁護士に相談するほうが安心でしょう。

これまで述べてきたように、破産者が遺産相続するときには、「遺産相続の時期」や遺産分割協議のタイミングなど、いくつかの注意点が存在します。状況に応じた対応が必要となりますので、迷ったときには相続問題に詳しい弁護士に相談してみてください。

(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の弁護士検索サービス