目次

  1. 1. 単純承認とは
    1. 1-1. 単純承認=プラス財産もマイナス財産も引き継ぐ相続方法 
    2. 1-2. 単純承認の手続き~特別な手続きは必要なし
    3. 1-3. 単純承認を選択すべきケース
    4. 1-4. 単純承認、限定承認、相続放棄の違い
  2. 2. 「みなし単純承認」となる行為に注意
    1. 2-1. 相続財産を処分する行為
    2. 2-2. 相続財産を隠したり消費したりする行為
  3. 3. 事例紹介:財産処分が単純承認になるケースとならないケース
    1. 3-1. 葬儀費用を払ったとき
    2. 3-2. 生命保険を受け取ったとき
    3. 3-3. 債務を弁済したとき
    4. 3-4. 携帯電話を解約したとき
    5. 3-5. 解約返戻金を受け取ったとき
  4. 4. まとめ:相続放棄をする場合は相続財産には触らないことが重要

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相続が生じたときに、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する「単純承認」は、相続方法の中でもっとも一般的です。そのほかに、すべての財産を相続しない「相続放棄」と、プラスの財産の範囲内でマイナス財産を引き継ぐ「限定承認」があります。単純承認との違いについても説明します。

単純承認とは、相続人が亡くなった人(被相続人)のプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの財産も全て引き継ぐことをいいます。

プラス財産、マイナス財産の具体例は以下の通りです。

【主なプラス財産】

  • 現預金
  • 外国通貨
  • 不動産(自宅用の建物と土地、賃貸用の建物と土地、店舗、田畑、山林、空き地、立木など)
  • 有価証券(株式、投資信託、公社債など)
  • 債権(売掛金、貸付金、立替金、被相続人が受取人の生命保険金請求権など)
  • 借家権・借地権
  • 家庭用財産(車、家具、宝石、宝飾品、絵画、書画、骨とう品など)
  • ゴルフ会員権
  • 船舶・飛行機など
  • 仮想通貨(暗号資産)
  • 知的財産権(特許権・著作権など)
  • 慰謝料請求権・損害賠償請求権
  • 電話加入権など

【主なマイナス財産】

  • 借金(ローン、クレジットカードの未決済分)
  • 買掛金
  • 医療費や水道光熱費などの未払経費
  • 未払税金
  • 未払家賃・未払地代
  • 未払いの慰謝料・損害賠償金
  • 預り金(敷金、保証金など)
  • 保証債務

相続が発生した場合、相続人は相続の開始及び自己が相続人であることを知ってから3カ月以内に単純承認・相続放棄・限定承認の中からどれかを選択しなければなりません(この期間を、熟慮期間と言います)。

熟慮期間の間に相続放棄または限定承認がされなかった場合は、単純承認したものとみなされます。よって、単純承認するために必要な手続きは特にありません。

一方、3カ月の熟慮期間中に、故人の預金から現金を引き出して使うなど一定の行為があったばあいは、単純承認をしたとみなされ、相続放棄や限定承認を選択することができなくなるので、注意が必要です(詳細は後述します)。

単純承認は、もっとも一般的な相続方法です。プラスの相続財産がマイナスの相続財産が多いことが明らかな場合は、相続したくない特別な理由がない限りは、単純相続でプラス財産からマイナス財産を差し引いた残りの遺産を相続人の間で分け合うのがいいでしょう。

一方で、マイナス財産のほうが多い場合や、プラス財産とマイナス財産のどちらが多いか分からない場合などは、相続放棄あるいは限定承認を選択したほうがいいかもしれません。

限定承認は、相続人が相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ被相続人のマイナスの財産を引き継ぐ方法です。プラスよりもマイナスの財産が多い場合、もしくはどちらが多いのか分からない場合など、相続人はプラスの相続財産の範囲内で債務を弁済すればいいというメリットがあります。ただ、限定承認の手続きはとても複雑で時間もかかりますので、ほとんど利用されていません。

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相続放棄は単純承認とは反対に、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全ての財産の承継を拒否することをいいます。被相続人のマイナスの財産がプラスの財産を上回っていることが明らかな場合は、相続放棄を選択しておくと安心です。

前述のように、単純承認を選ぶ場合には特別な手続きは必要ありませんが、一定の行為をした場合には、単純承認を選んだとみなされます。これを「法定単純承認」といいます。相続放棄や限定承認をしたいと考えている場合は、みなし単純承認とならないように注意する必要があります。

相続人が相続財産のすべてもしくは一部を「処分」した場合は、単純承認を選んだとみなされます。相続するという相続人の意思表示ととられるためです。処分行為とは、相続財産の現状や性質を変更する行為や、法律上の変動を生じさせるような行為のことを意味します。たとえば、故人の預貯金を解約したり、不動産を売却したりするケースがこれにあたります。

相続人が故意に相続財産を隠したり消費したりした場合は、単純承認を選んだとみなされます。たとえば、故人の預貯金を引き出して使ってしまうような行為がこれにあたります。また、また、財産目録に意図的に記載しなかった場合も、単純承認したことになります。

限定承認や相続放棄をした後に相続財産の隠蔽が発覚した場合でも、限定承認や相続放棄は無効となります。

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相続財産を処分する行為について、以下の事例をみながら、みなし単純承認となるケースとならないケースを説明します。

【50代男性Aさん(会社員)の場合】

  • 東京都在住 家は一戸建て(30年ローン) 年収800万円 
  • 山形県在住の両親とは長年離れて暮らしている
  • 最近、先月亡くなったAさんの父が知人の3000万円の借金の連帯保証人になっていることを知り、動揺している。

Aさんは相続放棄を考えているが、以下の行為がみなし単純承認とならないか心配で弁護士のもとに相談に訪れました。

①葬儀費用を払ったとき
Aさんの父の預金口座の残高は1500万円でしたが、Aさんの父の死亡後、Aさんは90万円を引き出して葬儀費用に使ってしまいました。

②生命保険を受け取ったとき
Aさんの父の生命保険金500万円の受取人はAさんになっていたので受け取りました。

③債務を弁済したとき
Aさんの父は死亡直前に1週間入院していたが、入院費用がまだ病院に支払われていなかったので、Aさんは未払いであった父の入院費用を自分の財産から支払いました。

④携帯電話を解約したとき
Aさんの父が使っていた携帯電話は、Aさんの父の死亡後は使わなくなったので、出費を抑えるために解約しました。

⑤解約返戻金を受け取ったとき
Aさんの父が契約していたがん保険の解約返戻金10万円があるとの通知が保険会社から送られてきたので、解約返戻金を受け取る手続きをしたい。

相続財産から葬儀費用を支出した行為は、社会的にみて不相当に高額のものといえない場合であれば、Aさんの父の財産を処分したことに該当しません。被相続人の預金を引き出して葬儀費用に使った場合、常にAさんの父の財産を処分したことに該当するわけではないことに注意しましょう。

本件の場合は、Aさんの父の預金口座から葬儀費用として90万円程度を引き出しただけなので、通常の葬儀費用の範囲内と判断される可能性が高いでしょう。

Aさんを受取人とする生命保険金は、相続財産ではなくAさん固有の財産となります。よって、Aさんが生命保険金を受け取ってもAさんの父の財産を処分したことにはなりません。生命保険金については、受取人固有の財産とすることで判例が確立しているので、相続放棄をする場合であっても受け取って問題ありません。

未払いの入院費用をAさんの父の財産から支払った場合は、相続財産を処分したことに該当するおそれがあります。一方、Aさんが自分の財産からAさんの父の未払いの入院費用を支払ったのであれば、Aさんの父の財産を処分したことにはならないと判断される可能性の方が高いでしょう。だれのお金で支払ったのかがポイントとなります。

Aさんの父の携帯電話を父の死後はだれも使わなくなったために解約する行為は、相続財産からの出費を抑えるためなので、相続財産の処分とはみなされません。クレジットカードを解約する場合も、同様に財産処分とはみなされません。

受取人名義がAさんの父名義の解約返戻金は、Aさんの父の財産となります。Aさんが受け取ると、相続財産を処分したと判断されるおそれがありますので、受け取らない方が良いでしょう。

なお、基本的に相続財産か相続人固有の財産かは受取人の名義で判断できる場合も多いですが、未支給年金の場合は、被相続人が受給者であっても相続財産には当たらないなど例外的なものもありますので、受け取ってよいお金か判断に迷う場合は専門家に相談しましょう。

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このように些細なことでも単純承認したとみなされ、相続放棄もしくは限定承認ができなくなる可能性があります。相続財産を処分したことに該当するか判例が確立していないものもあります。このため、相続放棄や限定承認をしたい場合は、原則として被相続人の財産には何も触れない、ということが重要です。

中には、債権者の言うままに被相続人の財産の処分に協力したことが原因で、単純承認したとみなされて何億円という借金を相続しなればならなくなった悲劇的なケースも現実にあります。相続放棄する場合は、相続財産を処分したことが原因でみなし単純承認とならないよう、不安があれば弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)

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