■限定承認とは?

「限定承認」とは、相続人が、故人(被相続人)の債務超過(借金などマイナスの財産)を承継することによる不利益を避けるために、相続によって得た積極財産(プラスの財産)の範囲内でのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するという留保付きで相続することをいいます。

相続に関する手続きとしては、限定承認のほかにも「単純承認」や「相続放棄」という手続きもあります。

●単純承認・相続放棄との違いは?

「単純承認」とは、「故人の負債も財産も、相続人がすべて引き継ぐ」というものです。
つまり、被相続財産の財産を積極財産(プラスになる財産)、消極財産(借金などマイナスになる財産)の如何を問わず承継することとなります。

また「相続放棄」は、相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされ、積極財産・消極財産に関わらず相続財産を承継することが出来なくなってしまいます。

■限定承認をすべきケースとは?

上記を踏まえたうえで、限定承認を使う場面として考えられるのは、

  1. 被相続人の財産について借金の有無がはっきりしていない場合
  2. 故人の借金など債務超過がはっきりしていても、相続財産の中にどうしても受け継ぎたい財産がある場合

このいずれかでしょう。ただ、限定承認の手続きはかなりハードルが高いので、実際に①の場面で使われることはほとんどありません。よく使われるのは②の「相続財産の中に受け継ぎたい財産がある場合」です。

のちほど解説する「先買権」という制度により、不動産の鑑定をしたのち鑑定評価額を支払うことで、自宅などの受け継ぎたい財産を確保することができます。

■限定承認を自分で行う場合に最低限かかる費用

では「限定承認」を弁護士ではなく自身で行う場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。以下に説明します。

1.戸籍謄本などの収集費用

戸籍謄本などについては、被相続人の出生時から死亡日までのすべての戸籍謄本などが必要となり、申述人相続人の人数にもよりますが、戸籍謄本については1通450円、除籍・原戸籍謄本については1通750円ほど請求費用がかかります。

2.印紙代・郵便切手代

1件につき800円がかかります。郵便切手代については、申述先の裁判所によって異なるので、申述先の家庭裁判所に確認してください。

3.官報公告費用

家庭裁判所に限定承認の申述が受理された後は、受理の審判後5日以内に限定承認をしたことと、債権者および受遺者は2か月以内に請求の申し出をすべき旨を記載した官報公告をする必要があります(民法927条1項)。この官報公告の費用は、1行単位で料金が定められており、約4万円程度であることが多いです。

■限定承認を弁護士に依頼する場合の費用

次に、限定承認の手続きなどを弁護士に依頼する場合の費用を説明します。弁護士に依頼する場合は「着手金・成功報酬金方式」と「定額型」の2つの費用システムがあります。

1.着手金、成功報酬金方式

着手金とは、弁護士の業務の結果に関わらず最初に支払う費用のことです。また成功報酬金とは、弁護士の教務の結果、成功の程度に応じて着手金とは別に支払う費用のことです。

弁護士に依頼して限定承認の手続きをする場合、弁護士費用は着手金として限定承認の申立費用と、残余財産がある場合に残余財産額に応じて成功報酬を定めることがあります。弁護士事務所に限定承認を依頼する場合の費用は、以下の方式が相場の目安になると思います。

【費用計算の具体例】
着手金30万円、成功報酬金について残存した遺産の10%を報酬とする場合の費用について、具体例を挙げて説明します。

被相続人の遺産が1000万円の価値があり、借金500万円がある場合の限定承認の手続きを、弁護士に依頼したと想定します。

この場合、限定承認の申述手続きの着手金として、まずは30万円を支払うこととなります。
その後、限定承認の申述の手続きを終え、公告、弁済といった手続を経て、相続債権者や受遺者への清算手続をし、清算手続きとして被相続人の遺産を競売にかけその売却金1000万円のうち500万円で債権者に弁済をし、残存した500万円の10%である50万円が成功報酬金となります。なお、残余財産の有無にかかわらず、手続き終了時に50万円程度の最低成功報酬金額が定められることもあります。

2.定額型

その他の費用方式としては、報酬として一定額の報酬を支払い、それに加えて戸籍謄本などの手数料や官報公告費用などの実費を加えた費用を支払う「定額型」があります。

「相続会議」の弁護士検索サービス

■不動産などがある場合にかかる費用

上記で説明した費用以外にも、次のような費用がかかることがあります。

●競売の予納金

限定承認では、任意売却により不当な廉価で売却される弊害を阻止し、公平な換価を実現するために次の法律が定められています。債権者などに弁済をするにつき、相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者はこれを競売に付さなければならないとされています(民法932条1項)。この競売の予納金として100万円程度必要となることもあります。

●鑑定費用

限定承認者が相続債権者・受遺者に対して弁済をする際、弁済原資確保(返済にあてられる確実な資金の確保)のために相続財産を売却する場合は、競売による必要があります。

しかし、相続財産の中に「手放したくない」という財産がある場合には、相続人は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に基づき、相続財産の全部または一部の価額を弁済すれば、その競売を止めることができるとしています(民法932条但書き)。この条文上は、競売を止めることができるとされていますが、単に競売手続きを中止または停止できるだけではなく、競売による換価をしないで、鑑定人の評価した価額を限定承認者が自分の固有財産から支払うことによって当該財産を取得する権利を認めることが主眼にある手続きです。

具体的には、被相続人名義の自宅の価値が5000万円で、それ以外の借金として1億円がある場合に、家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい、鑑定人が5000万円と自宅を評価した場合、この評価額である5000万円を支払えば、自宅を確保することができるようになります。この制度がいわゆる「先買権」と言われるものです。このような場合の鑑定人の選任および鑑定は、競売の差し止めを求める限定承認者の利益のためになされるものであり、この費用については限定承認者が費用負担することとなり、数十万円かかります。

■限定承認にかかる「みなし譲渡所得税」とは

限定承認をすると、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項1号参照)、「みなし譲渡所得税」が課される可能性があります。この税金は、被相続人の遺産から支払うことになります。

具体的には、土地を取得したときの価格が1000万円で、その後土地の価格が上昇し現在の時価で2000万円となっていた場合、被相続人から相続人に対して現在の時価である2000万円で資産の譲渡があったものとみなされることになります。したがって、取得価格1000万円から取得時の価格2000万円に価値が増加していることになり、この価値が増加した1000万円に譲渡所得税が課税されることになります。

また、当初の取得価格がわからない場合には、取得価格として控除できる金額が売却金額の5%しか認められないこともあります。

●単純承認の場合は税負担はなし?

一方、単純承認の場合は、相続した財産などを取得した価格以上で売却しない限り、譲渡所得税としての税負担はありません。限定承認の場合には予期せぬ高額の譲渡所得税が発生する場合もあります。限定承認をする際は、取得する不動産の事前の調査を念入りに行うことをお勧めします。税引き後の遺産の価値が大きくなるのか否か、本当に欲した結果が生まれるのかどうかを検討する必要があるからです。

●準確定申告とは?

また、納税者が死亡したときの確定申告として「準確定申告」という制度があります。みなし譲渡所得税が発生する場合には納税者が死亡しており、被相続人の相続人などが準確定申告を行う必要があります。準確定申告による譲渡所得税の支払いは、被相続人の相続財産から支出し、しかも優先債権であることから、配当の際には、まず譲渡所得税の支払いに充てることになり(国税徴収法8条)、その残余額をその他の債権者に配当することとなります。

こういった不動産の調査などの手続きについても自分で行うとなると手間がかかるうえに、「限定承認する方が適切なのか」の判断についても困難な場合が多いものです。専門家に相談することで最善の解決方法が見つかるかもしれません。

■まとめ

限定承認にはかなりの費用や手間がかかりますが、先買権をはじめとするメリットもあります。「自分のケースで限定承認をするのが適切なのか」と悩んだら、一度弁護士をはじめとする専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

(記事は2021年8月1日時点の情報を基づいています)