相続の限定承認とは? 自分で手続きする、弁護士に依頼する場合の費用を解説
相続する際に、相続で得た財産から故人(被相続人)の借金などを精算して、財産が残ればそれを引き継ぐという方法を「限定承認」といいます。プラスの財産を超える債務を相続しないですみますが、手続きは複雑です。自分で手続きする場合と、弁護士に依頼する場合の費用の差も解説します。
相続する際に、相続で得た財産から故人(被相続人)の借金などを精算して、財産が残ればそれを引き継ぐという方法を「限定承認」といいます。プラスの財産を超える債務を相続しないですみますが、手続きは複雑です。自分で手続きする場合と、弁護士に依頼する場合の費用の差も解説します。
目次
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限定承認は、相続で得た財産から故人(被相続人)の借金などを精算して、財産が残ればそれを引き継ぐという方法です。限定承認のほかにも「単純承認」や「相続放棄」という手続きもあります。
相続人が、被相続人の債務超過(借金などマイナスの財産)を承継することによる不利益を避けるために、相続によって得た積極財産(プラスの財産)の範囲内でのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するという留保付きで相続する方法が限定承認です。
相続財産の範囲を超えて、被相続人の債務を返済する必要がないという点は、限定承認の大きなメリットです。
債務超過であっても、自宅など特定の財産を取得したい場合、限定承認すれば、鑑定人の定める相当な金額を支払うことによって、その財産を取得することができるという特徴があります。これを「先買権」といいます。
限定承認で被相続人の債務弁済のために相続財産を売却する場合は、原則として競売による必要があります。しかし、相続財産の中に「手放したくない」という財産がある場合には、相続人は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に基づき、相続財産の全部または一部の価額を弁済すれば、その競売を止めることができるとしています(民法932条但書き)。
この条文上は、競売を止めることができるとされていますが、単に競売手続きを中止または停止できるだけではなく、競売による換価をしないで、鑑定人の評価した価額を限定承認者が自分の固有財産から支払うことによって当該財産を取得する権利を認めることが主眼にある手続きです。
例えば、被相続人名義の自宅の価値が5000万円で、それ以外の借金として1億円がある場合に、家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい、鑑定人が5000万円と自宅を評価した場合、この評価額である5000万円を支払えば、自宅を確保することができるようになります。
相続放棄は、相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされ、積極財産・消極財産に関わらず相続財産を承継することが出来なくなります。相続財産が明らかに債務超過である場合などには選択するといいでしょう。各相続人が単独で選択することが可能です。
単純承認とは、「故人の負債も財産も、相続人がすべて引き継ぐ」というものです。つまり、被相続財産の財産を積極財産(プラスになる財産)、消極財産(借金などマイナスになる財産)の如何を問わず承継することとなります。単純承認はもっとも一般的な相続方法で、単純承認をするために必要な手続きは特にありません。
限定承認を選択する上で、以下の点に注意が必要となります。
限定承認をするには、相続人となる全員が共同して行わなければなりません。もっとも、相続放棄を希望する他の共同相続人がいる場合には、相続放棄希望者に相続放棄をしてもらえば、相続放棄をした人は初めから相続人にならなかったものとみなされるため、相続放棄を希望する相続人を除いた残りの相続人で限定承認を行うことが可能です。
行方不明の人がいた場合には、原則として限定承認はできませんが、例外的に相続財産管理人を選任するなどして限定承認を行うことも可能です。
また、限定承認の手続きは、相続人になったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。相続放棄についても同様です。その期間を過ぎると、自動的に単純承認したものとみなされます。
さらに、限定承認の手続きが終わる前に、例えば被相続人の預貯金を解約したり、不動産を売却したりといった処分行為があった場合は、単純承認したものとみなされ、限定承認や相続放棄の手続きが、一切できなくなります。
上記を踏まえたうえで、限定承認を使う場面として考えられるのは、
このいずれかでしょう。ただ、限定承認の手続きはかなりハードルが高いので、実際に①の場面で使われることはほとんどありません。よく使われるのは②の「相続財産の中に受け継ぎたい財産がある場合」です。
限定承認を利用するには、以下のような非常に複雑な手続きが必要です。
まず、限定承認は相続人全員で、期限の3カ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に限定承認をする旨の申述をしなければなりません。熟慮期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ってから3カ月間です。申述をするにあたっては、さまざまな添付資料も必要です。例えば申述人全員の戸籍謄本、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本(除籍謄本や改正原戸籍謄本)に加え、被相続人の財産目録も準備しなければなりません。
家庭裁判所が限定承認を受理すると、相続人が複数人いる場合には、家庭裁判所が職権で相続人のなかから相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、被相続人の財産の管理及び清算をするために選任されます。相続人が一人しかいない場合には、その人が財産の清算をすることになります。限定承認者が債権者などに弁済をするために相続財産を売却する必要がある場合、財産の換価方法は原則として裁判所を通した競売です。
また、財産の清算以外にも、限定承認をしたあと、5日以内に、すべての相続債権者及び受遺者に対して、限定承認をしたことなどを官報に掲載して公告しなければなりません。
ここまでの説明で示してきたとおり、限定承認をする場合の手続きは多く、長期間かかるため相当に大変です。
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相続の相談が出来る弁護士を探すでは「限定承認」を弁護士ではなく自身で行う場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。以下に説明します。
戸籍謄本などについては、被相続人の出生時から死亡日までのすべての戸籍謄本などが必要となり、申述人相続人の人数にもよりますが、戸籍謄本については1通450円、除籍・原戸籍謄本については1通750円ほど請求費用がかかります。
1件につき800円がかかります。郵便切手代については、申述先の裁判所によって異なるので、申述先の家庭裁判所に確認してください。
家庭裁判所に限定承認の申述が受理された後は、受理の審判後5日以内に限定承認をしたことと、債権者および受遺者は2か月以内に請求の申し出をすべき旨を記載した官報公告をする必要があります(民法927条1項)。この官報公告の費用は、1行単位で料金が定められており、約4万円程度であることが多いです。
次に、限定承認の手続きなどを弁護士に依頼する場合の費用を説明します。弁護士に依頼する場合は「着手金・成功報酬金方式」と「定額型」の2つの費用システムがあります。
着手金とは、弁護士の業務の結果に関わらず最初に支払う費用のことです。また成功報酬金とは、弁護士の業務の結果、成功の程度に応じて着手金とは別に支払う費用のことです。
弁護士に依頼して限定承認の手続きをする場合、弁護士費用は着手金として限定承認の申立費用と、残余財産がある場合に残余財産額に応じて成功報酬を定めることがあります。弁護士事務所に限定承認を依頼する場合の費用は、以下の方式が相場の目安になると思います。
【費用計算の具体例】
着手金30万円、成功報酬金について残存した遺産の10%を報酬とする場合の費用について、具体例を挙げて説明します。
被相続人の遺産が1000万円の価値があり、借金500万円がある場合の限定承認の手続きを、弁護士に依頼したと想定します。
この場合、限定承認の申述手続きの着手金として、まずは30万円を支払うこととなります。その後、限定承認の申述の手続きを終え、公告、弁済といった手続を経て、相続債権者や受遺者への清算手続をし、清算手続きとして被相続人の遺産を競売にかけその売却金1000万円のうち500万円で債権者に弁済をし、残存した500万円の10%である50万円が成功報酬金となります。
なお、残余財産の有無にかかわらず、手続き終了時に50万円程度の最低成功報酬金額が定められることもあります。
以下の表は、経済的利益(弁護士に依頼したことで得られた金額)に応じた報酬金のパーセンテージについての相場です。
上記の数字は、日本弁護士連合会がかつて定めていた弁護士費用の目安「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」と同じです。この基準は現在廃止されていますが、今も参考にしている弁護士が少なくありません。ただし、現在は各法律事務所が弁護士費用を自由に決めることができるため、依頼の際は事前に確認して下さい。
その他の費用方式としては、報酬として一定額の報酬を支払い、それに加えて戸籍謄本などの手数料や官報公告費用などの実費を加えた費用を支払う「定額型」があります。
上記で説明した費用以外にも、次のような費用がかかることがあります。
限定承認では、相続財産が不当に安く売却されないようにし、公平な換価を実現するために次の法律が定められています。債権者などに弁済をするにつき、相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者はこれを競売に付さなければならないとされています(民法932条)。この競売の予納金として100万円程度必要となることもあります。
被相続人の特定の財産を競売で換価せず、先買権を使って手元に残すためには、相続人は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に基づいた相当な金額を支払う必要があります。このような場合の鑑定人の選任および鑑定は、競売の差し止めを求める限定承認者の利益のためになされるものであり、費用は限定承認者が負担します。数十万円かかります。
限定承認をすると、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項1号参照)、「みなし譲渡所得税」が課される可能性があります。この税金は、被相続人の遺産から支払うことになります。
具体的には、土地を取得したときの価格が1000万円で、その後土地の価格が上昇し現在の時価で2000万円となっていた場合、被相続人から相続人に対して現在の時価である2000万円で資産の譲渡があったものとみなされることになります。したがって、取得価格1000万円から取得時の価格2000万円に価値が増加していることになり、この価値が増加した1000万円に譲渡所得税が課税されることになります。
また、当初の取得価格がわからない場合には、取得価格として控除できる金額が売却金額の5%しか認められないこともあります。
一方、単純承認の場合は、相続した財産などを取得した価格以上で売却しない限り、譲渡所得税としての税負担はありません。限定承認の場合には予期せぬ高額の譲渡所得税が発生する場合もあります。限定承認をする際は、取得する不動産の事前の調査を念入りに行うことをお勧めします。税引き後の遺産の価値が大きくなるのか否か、本当に欲した結果が生まれるのかどうかを検討する必要があるからです。
また、納税者が死亡したときの確定申告として「準確定申告」という制度があります。みなし譲渡所得税が発生する場合には納税者である被相続人が死亡しており、相続人などが準確定申告を行う必要があります。準確定申告による譲渡所得税の支払いは、被相続人の相続財産から支出し、しかも優先債権であることから、配当の際には、まず譲渡所得税の支払いに充てることになり(国税徴収法8条)、その残余額をその他の債権者に配当することとなります。
こういった不動産の調査などの手続きについても自分で行うとなると手間がかかるうえに、「限定承認する方が適切なのか」の判断についても困難な場合が多いものです。専門家に相談することで最善の解決方法が見つかるかもしれません。
限定承認にはかなりの費用や手間がかかりますが、先買権をはじめとするメリットもあります。「自分のケースで限定承認をするのが適切なのか」と悩んだら、一度弁護士をはじめとする専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
(記事は2022年11月1日時点の情報に基づいています)
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