目次

  1. 1. 遺産分割協議が守られないというケースとは?
    1. 1-1. 代償金の支払いがなされない
    2. 1-2. 不動産の引渡しがなされない
    3. 1-3. 老親の面倒をみない
  2. 2. 原則として遺産分割協議は解除できない
    1. 2-1. 代償金の支払いがなされない場合の解決策
    2. 2-2. 不動産の引渡しがなされない場合の解決策
    3. 2-3. 老親の面倒をみない場合の解決策
  3. 3. トラブルを回避するための事前対策
    1. 3-1. 代償金の支払いを担保する方法
    2. 3-2. 不動産の引渡しを担保する方法
    3. 3-3. 老親の面倒を見ることを担保する方法
  4. 4. 「だろう」ではなく「かもしれない」という意識を持つ

苦労して遺産分割協議書を作ったのに、遺産分割協議書が守られないというケースを考えるとぞっとしますね。遺産分割協議が守られないというケースは、大きく分けて以下の3つのパターンが考えられます。

遺産分割協議において、代償分割による方法が採用されたにもかかわらず、代償金の支払いが行われないケースがあります。

遺産分割協議において、ある相続人から別の相続人に対し、故人の相続財産の不動産を引渡す旨の合意がなされたにもかかわらず、不動産の引渡しがなされないというトラブルがあります。

遺産分割協議において、老親の面倒をみる代わりに、ある相続人に対し、他の相続人よりも多くの相続財産を相続させることとしたにもかかわらず、老親の面倒をみないというケースです。

遺産分割協議で決めたことが守られないと、調停の申立ても検討が必要です。そういった時に対応できるのが弁護士です。早めの相談が大切です。

次に、これら3つのパターンにおいて、どのような対処法が考えられるのか、解説していきます。いずれの場合においても、約束した条件を守らないのだから、債務不履行(約束違反)を理由に、遺産分割協議を解除したいと考える方も多いかと思います。

しかし、上記1~3のようなケースにおいては、原則として、遺産分割協議を解除することはできないとされています。では、各ケースにおいて、どのような解決策が考えられるのでしょうか。

強制執行認諾文言付きの公正証書で遺産分割協議書を作成していれば、強制執行による手段を取ることが可能となりますが、そこまでの遺産分割協議書を作成しているケースは稀といえるでしょう。まずは、相続人間において、粘り強く代償金を支払うよう交渉する必要がありますが、相続人が応じない場合には、遺産分割後の紛争調整調停を申し立てる等の手段を選択せざるを得ないこととなります。なお、このような申立てについては、調停前置主義が適用され、調停を経てからでないと訴訟を提起することができない点に注意が必要です。

不動産の引渡しについては、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成していても、強制執行による手段を取ることができません。代償金のケースと同様、まずは、相続人間において、粘り強く不動産を引渡すよう交渉する必要がありますが、相続人が応じない場合には、代償金のケースと同様に、遺産分割後の紛争調整調停を申し立てる等の手段を選択せざるを得ないこととなります。

老親の面倒を約束した相続人が約束を守らない場合、当該相続人に対して、老親の生活費(扶養料)を請求することは可能です。しかし、当該相続人が任意に支払わない場合には、別途扶養請求調停といった裁判所の手続を経る必要があります。なお、このような手続きを経たとしても、あくまで金銭的な請求が認められるにすぎず、「老親の面倒」を見ることを強制することはできない点に注意が必要です。

以上のとおり、遺産分割協議の内容が守られない場合、その解決は容易ではありません。最悪の場合、調停等の手続を経なければならず、非常に面倒な対応を迫られる可能性もあります。しかし、事前の対策により、このようなトラブルを回避することは可能です。各パターンにおける事前対策について解説します。

基本的には、代償金の支払義務者の資力を十分に確認した上で、席上交付による代償金の支払い(遺産分割協議書への署名押印時における代償金の支払い)を条件に、遺産分割協議を行うとよいでしょう。代償金が支払われない限り、遺産分割協議書に署名押印しないという形であれば、「遺産分割協議の内容を守らない」という問題は発生しません。
諸々の事情で、席上交付による代償金の支払いができない状況下で遺産分割協議書を作成しなければならないときは、万が一のケースを想定し、強制執行認諾文言付きの公正証書による遺産分割協議書の作成を求めるとともに、遅延損害金の設定や物的担保・人的担保の提供を求めることも検討するとよいでしょう。

上記のケースと同様、不動産の引渡しを条件に、遺産分割協議を行うとよいでしょう。不動産の引渡しがなされない限り、遺産分割協議書に署名押印しないという形であれば、「遺産分割協議の内容を守らない」という問題は発生しません。しかし、金銭の支払いとは異なり、不動産の引渡しについては時間もかかることから、不動産の引渡しを条件とすることが難しいケースも多いかと思います。不動産の引渡しを遺産分割協議書作成後に設定する場合には、引渡しを遅滞した場合の損害金について設定しておく等の対応を検討するとよいでしょう。
なお、金銭の支払いとは異なり、公正証書による遺産分割協議書を作成しても、不動産の引渡しについては、強制執行による手段を取ることができないことから、あえて遺産分割調停を申し立て、遺産分割協議を遺産分割調停調書で行い、強制執行による手段を確保することも考えられます。

老親の面倒を見ることを担保すること(老親の面倒をみることを強制すること)は難しいため、遺産分割協議の内容を工夫する必要があります。基本的には、「老親の面倒を見る」という条件をつけるとしても、故人の全相続財産を老親以外の特定の相続人へ相続させることは控えた方がよいでしょう。扶養や介護等の実態を見ながら、状況に応じて、必要な財産を譲渡し、様子を見守る形が望ましいといえます。

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今回、「遺産分割協議の内容が守られない」というテーマで解説しましたが、他にも遺産分割協議をめぐるトラブルは多々あります。できる限り、遺産分割協議書を作成する前に、一度弁護士等の専門家に相談をされるとよいでしょう。遺産分割協議書に署名押印してしまってからでは、対応が難しくなるケースもあります。車の運転と同様、遺産分割協議についても、「(大丈夫)だろう」ではなく、「(問題がある)かもしれない」という意識を持って、気軽にご相談いただければ幸いです。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)