目次

  1. 1. 遺産分割協議書には「実印」での押印が必須
    1. 1-1. 遺産分割協議書とは
    2. 1-2. 実印、印鑑証明書とは
    3. 1-3. 認印では遺産分割協議書が無効になるのか
    4. 1-4. 相続で遺産分割協議書が必要となる手続き
  2. 2. 遺産分割協議書に実印を押さない相続人がいるときの対処方法
    1. 2-1. 印鑑登録していない場合
    2. 2-2. 自らの意思で押印を拒否している場合
    3. 2-3. 偽造はNG
  3. 3. 遺産分割協議書への署名・押印を拒否されたときの対処方法
    1. 3-1. 弁護士に代理を依頼して交渉
    2. 3-2. 遺産分割調停の申し立て
    3. 3-3. 遺産分割審判への移行
  4. 4. まとめ

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遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産をどのように分割するかを話し合い(遺産分割協議)、その結果をまとめたものです。

遺言書がある場合には、遺言にしたがって遺産を分ければいいので、遺産分割協議の必要はありません。しかし、遺言書がない場合や、 遺言書に記載がない財産が発覚した場合は、基本的に遺産分割協議が必要となります。

遺産分割協議を行う場合は、相続人全員が全員参加しなくてはなりません。せっかく遺産分割協議をしても、相続人が1人でも欠けた場合はその遺産分割協議は無効となってしまいます。

遺産分割協議書は、相続人全員が遺産分割の内容に同意したことを証明する書類となり、亡くなった人から相続人に不動産の登記を移したり、亡くなった人の口座の凍結解除をして預金を払い戻したりする手続きで必要になります。

なお、遺産分割協議は、いつまでにしなければならないという期限はありません。

遺産分割協議書を作成する流れ
遺産分割協議書を作成する流れ

遺産分割協議書には、相続人全員が署名と実印を押印する必要があります。実印とは、市町村で印鑑登録がされている印鑑のことです。印鑑の値段は関係ありません。

また、印鑑証明書(印鑑登録証明書)とは、実印に対して市区町村から発行される証明書です。印鑑証明書は、実印を押印した書類とともに使われます。押印した人の「印」が、確かにその人のものであることを証明します。

遺産分割協議書に実印を押さなければならないという規定はありません。そのため、遺産分割協議書に相続人が実印を押さず、認印を押したということのみで遺産分割協議書が無効になる訳ではありません。

しかし、実印の方がその意思表示を行った人物が本人であることを裏付けることができます

また、実際に相続手続きの際には、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書+印鑑証明書を求められることがほとんどです。具体的には以下のような手続きで必要になります。

  • 不動産の相続登記
  • 自動車や船舶の名義変更
  • 預貯金の払い戻しや解約、名義変更
  • 有価証券の名義変更
  • 相続税申告

遺産が現金のみで相続税申告もないなど、これらの手続きをしない場合には、遺産分割協議書は作成の必要はあっても、印鑑証明書の取得は不要です。

なお、最近では、脱ハンコの動きがありますが、遺産分割協議書に実印での押印を求める運用は変わっていません。そのため、遺産分割協議書には実印を押す必要があるということです。

遺産分割協議書に実印を押さない相続人がいるケースでは、実印がないから押さない(押せない)場合と、遺産分割協議書の内容や決め方に納得がいかないから押すことを拒否している場合が考えられます。「相続で印鑑を押してもらえない」と困る場合は、主に後者のケースだと考えられます。

印鑑登録をしていない相続人がいる場合や、実印に関する知識がない相続人がいる場合は、その相続人に基本的には住民登録している市区町村の役所で印鑑登録の手続きをしてもらいましょう。

自らの意思で実印を押すのを拒否している相続人がいる場合は、実印が相続手続きに必要であることを説明してもなお拒否するのであれば、調停などの手続きをとる必要があるでしょう(詳しくは後述します)。

相続人の中に実印を押してくれない相続人がいるからといって、勝手にその人の実印を持ち出して押したり、実印が押されたように偽造したりするのは違法です。その場合も遺産分割協議が無効となるおそれがあるのでやめましょう。

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弁護士に代理を依頼して、遺産の分け方に納得のいくように交渉するとともに遺産分割協議書への署名及び実印を押すよう説得するという方法があります。

相続人間で仲が悪かったり、相続人が遠方に住んでいたりする場合は、弁護士を代理人として交渉すると遺産分割協議がスムーズにいく場合が多く、弁護士に交渉を任せることで精神的な負担も減らすことができます。また、遺産の分け方に不安があるので法的なチェックをして欲しいという場合や自己が相続する財産を増やすために法的な主張をしっかりして欲しいという場合も弁護士に依頼すると良いでしょう。

遺産分割協議が相続人の間で合意できなければ、相続人は、亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停は、裁判所の調停委員2名が相続人の間に入って話の調整を図るので、相続人だけで話し合いをするよりもスムーズに進むことが多いです。

ただし、あくまで合意形成を目的とした手続きなので、調停案に反対する相続人が1人でもいれば、調整は成立しません。

なお、調停は弁護士等を代理人に立てる必要はなく、ご自身でも行うことができます。しかし、各相続人が遠方に住んでいる場合や相続人間の仲が悪く話合いが難しい場合、法的な主張をしっかり行いたい場合は、弁護士に依頼するのが良いでしょう。

調停でも遺産の分け方について合意できなければ、裁判官が遺産の分け方を決める遺産分割審判となります。裁判所が客観的な立場から、遺産分割問題の解決方法を示す手続きです。調停と違い、反対している相続人がいたとしても、最終的には審判で決まった分け方の強制力が相続人全員に及びます。

なお、遺産分割の事案は、訴訟という手続きはとらず、遺産分割調停を申し立てる、または調停を経ずに遺産分割審判を申し立てるという手続きが取られます。訴訟と審判の手続きは似ていますが、審判は家庭内の実情に沿った柔軟な審理と判断が重視され、非公開で口頭弁論もありません。

また、調停を経ずに遺産分割審判を申し立てた場合は、まずは相続人間で話し合うようにと言われ、家庭裁判所の判断で審判から調停に回されることがあります。

実印を押すことを拒絶している相続人がいるとしても、調停の調停調書、審判の審判書が作成されると、その相続人の実印・印鑑証明書は不要です。

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遺産分割協議書には、その後の相続手続きを考慮し、相続人全員の実印での押印と印鑑証明書の添付が必須になります。相続人同士が疎遠だったり、険悪だったりすると、遺産分割協議書への署名や押印に応じてもらえない事態に陥り、手続きが進まなくなるかもしれません。そうなる前に、弁護士に相談してみることをお勧めします。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)

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