目次

  1. 1. デジタル遺言とは
  2. 2. デジタル遺言はいつから?なぜ必要?
    1. 2-1. デジタル遺言はいつから認められる?
    2. 2-2. デジタル遺言導入の背景は
  3. 3. 自筆証書遺言のデジタル化とは?
    1. 3-1. 現行民法における自筆証書遺言の作成方法
    2. 3-2. 法務省の法制審議会で検討されている、自筆証書遺言のデジタル化の方法
  4. 4. 公正証書遺言のデジタル化とは
  5. 5. デジタル遺言のメリット
    1. 5-1. 手書きせずに、偽造や紛失等のリスクを抑えた遺言を作成できる
    2. 5-2. 相続開始後の家庭裁判所における検認手続が不要に
    3. 5-3. 公正証書遺言の作成手続きが簡略化される
  6. 6. デジタル遺言のデメリット・課題
    1. 6-1. 全文を口述する必要がある
    2. 6-2. 第三者の関与を要する
    3. 6-3. なりすましのおそれがある
    4. 6-4. 保管方法によっては、遺言書データを紛失するおそれがある
    5. 6-5. デジタルが苦手な人にとっては利用しづらい
  7. 7. デジタル遺言が認められるようになった場合の弁護士の役割
  8. 8. デジタル遺言に関するよくある質問
  9. 9. まとめ デジタル遺言を正しく理解して安心の相続準備を

「相続会議」の弁護士検索サービス

デジタル遺言とは、パソコンやスマートフォンなどを活用して、電磁的記録で作成・保管する遺言のことです。民間事業者が提供しているデジタル技術を活用した遺言サービスも「デジタル遺言」と呼ばれることがありますが、本記事では、政府が導入を検討しているデジタル技術を活用した新たな遺言の方式を「デジタル遺言」と表現して解説します。

現行制度ではデジタル遺言が認められておらず、主に以下2つの方式で作成されています。

自筆証書遺言・・・遺言書に遺言の全文等を手書きし、署名押印する遺言
公正証書遺言・・・公証役場で遺言の内容を公証人に伝え、公正証書にする遺言

しかし、自筆証書遺言は全文を手書きする必要があり、公正証書遺言は公証人の関与や費用が必要であるなど、いずれも作成のハードルが高いと考える方が少なくありません。そこで、近年デジタル化が急速に進展していることを踏まえ、パソコンやスマートフォンを使って、より簡単に遺言を作成できる方法が政府で検討されています。

【関連】遺言書(自筆証書遺言)の書き方と例文 守るべき要件から注意点までわかりやすく解説

遺言の重要性が高まっている一方で、従来の方式は手間や費用の負担が大きい点が課題でした。こうした状況を受け、より簡単に作成できる「デジタル遺言」の導入が検討されています。ここでは、開始時期と導入が求められる背景について解説します。

自筆証書遺言をパソコンやスマートフォンを使って作成する新たな方式は、法務省の法制審議会で検討中であり、導入時期は未定です。一方、公正証書遺言のデジタル化は2025年10月に開始が予定されています。

デジタル遺言の検討が進められているのは、単に技術の進歩だけが理由ではありません。社会環境の変化や生活スタイルのデジタル化といった、複数の要因が重なっているためです。主な背景は次のとおりです。

【社会の変化による遺言の重要性の高まり】
高齢化が進展していること、家族の在り方が多様化していること、所有者不明土地問題や空き家問題などの社会問題を解決する必要があることなどから、遺言制度の重要性はこれまで以上に増しています。しかし、現行の自筆証書遺言では全文手書きを要するなどの厳格な要件があり、作成をためらってしまう一因となっています。

【技術の進展による暮らしのデジタル化】
近年、デジタル化が急速に進み、デジタル技術は日常生活において欠かせない存在になっています。今では高齢者にとっても、パソコンやスマートフォンは身近な道具になりつつあります。このようなデジタル化の進展によって、日常生活において手書きで文書を作成する機会は少なくなっており、デジタル技術による文書作成がより身近になっています。

以上のような事情から、国民がデジタル技術を活用して、現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保される遺言を簡単に作成できるような新しい方式を導入する必要があると考えられています。

自筆証書遺言は現在、全文を手書きしなければならず、パソコンで作成したものは無効です。ここでは、現行民法における自筆証書遺言の作成方法について解説します。

自筆証書遺言を作成するには「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」(民法968条1項)とされており、これに反した場合は無効とされています。そのため、たとえば、本文がパソコンで作成されていると、その遺言書は効力を持たないことになります。

なお、財産目録を添付するときは、その目録については手書きしなくても構いません。たとえば、遺言書の本文に「別紙財産目録1記載の財産をAに相続させる」と手書きし、これにパソコンで作成した財産目録を添付しても構いません。

新たな方式として、大きく下記の甲1案から丙案までの4案が示されており、これらの中から一つ、または複数の方式を創設することが検討されています。法務省民事局参事官室作成の「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」(法務省:「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」(令和7年7月15日)の取りまとめ)によると、それぞれの作成方法のイメージは下記のとおりです。

【甲1案】証人の立会いを要件とするもの
① パソコン等を利用して、遺言の全文等を入力した電磁的記録を作成
② 証人2人以上の前で、遺言の全文等を口述
③ 証人が自己の氏名等を口述
④ 上記②③の状況を録音・録画

【甲2案】証人は不要で、これに相当する措置を要件とするもの
① パソコン等を利用して、遺言の全文等を入力した電磁的記録を作成し電子署名を行う
② 遺言の全文等を口述して録音
③ 上記②の際、遺言者以外の者が立ち会わず、かつ遺言者以外の者が口述できないことを担保する措置をとる ※民間事業者のサービス利用を想定

【乙案】
① パソコン等を利用して、遺言の全文等を入力した電磁的記録を作成し電子署名を行う
② 公的機関に当該電磁的記録をオンラインで提供・本人確認(保管申請)
③ 公的機関に対し、対面またはウェブで遺言の全文を口述

【丙案】
① パソコン等を利用して、遺言の全文を入力した電磁的記録をプリントアウト等した書面に署名
② 公的機関に当該書面を持参または郵送で提出・本人確認(保管申請)
③ 公的機関に対し対面またはウェブで遺言の全文を口述
大きな違いとしては、まず、甲案と乙案はいずれも遺言の本文を電磁的記録により作成するものであるのに対し、丙案は遺言の本文を電磁的記録をプリントアウトした書面や手書きした書面により作成するものです。

また、甲案は公的機関による保管を前提としないのに対し、乙案及び丙案はいずれも公的機関による保管を要件とするものです。

「公正証書遺言」とは、公証人に作成してもらう遺言書のことです。公証人が関与して作成する遺言書なので、確実性が高い形式といえます。現状、公正証書遺言を作成するには、対面・書面での手続きが必須で、デジタル化に対応していませんでした。

公正証書遺言の基本的な作成手順は、以下のとおりです。

【従来の基本的な作成手順】
① 本人が公証役場に出頭して作成を申請
② 公証人が対面で本人の真意確認等を行う
③ 公正証書原本を書面で作成・保存
④ 本人に公正証書の正本等を書面で交付

しかし、2025年10月1日から、公正証書遺言を含む公正証書に係る一連の手続きのデジタル化が施行されることとなりました。デジタル化による新たな作成手順は下記のとおりで、リモートでの作成が可能になります。

【デジタル化による新たな作成手順】
① 公証役場に出頭せずに、インターネットを利用して電子署名を付して申請
② 公証人が対面ではなくウェブ会議で本人の真意確認等を行う(公証人が相当と認めた場合)
③ 公正証書は電子データでの作成・保存を原則化
④ 公正証書は書面のみならず電子データでの受領を選択可能

【関連】公正証書遺言とは? 作成の手順、費用、メリットを解説

デジタル遺言の導入が検討されている背景には、従来の遺言方式にあった「手書きの負担」「偽造や紛失のリスク」「手続きの煩雑さ」といった課題があります。デジタル化でこれらの問題を解消し、より安全で使いやすい仕組みを整えることが期待されています。

ここでは、デジタル遺言がもたらす主なメリットを整理して紹介します。

現行の自筆証書遺言については、遺言の全文を手書きしなければなりません。高齢化による体力の衰えに加え、日常生活で手書きの機会が減っていることから、この要件を負担に感じる人は少なくありません。

デジタル遺言が導入されれば、パソコンやスマートフォンを使って遺言を作成できるようになります。手書きの負担をなくせる点は、大きなメリットといえるでしょう。
また、現行の自筆証書遺言については基本的に遺言者自身で保管することが想定されているため、偽造や変造、紛失等のリスクがあることがデメリットでした。

その点、デジタル遺言については、証人の立会い、録音・録画(甲1案)や遺言者以外の者を関与させない技術的措置(甲2案)、公的機関による確認(乙案・丙案)によって、遺言の偽造・変造のリスクを軽減することができます。

加えて、公的機関の保管(乙案・丙案)によって、遺言の紛失や発見されない事態、他人による隠匿・破棄のリスクを軽減することもできます。

現行の自筆証書遺言では、法務局の遺言書保管制度を利用しない限り、相続人が相続開始後に家庭裁判所において検認手続をしなければなりません。検認手続を進めるには、家庭裁判所に提出する申立書を作成する必要があるほか、戸籍謄本等の必要書類の取得が必要になるため、相続人にとっての負担は大きいです。

一方、デジタル遺言については、公的機関による確認・保管が行われる場合(乙案・丙案)は検認手続が不要であるため、相続人の負担が軽減されます。

公正証書遺言を作成するには、これまでは公証人との対面が必要でした。

しかし、デジタル化によって、公証役場に出頭せずにウェブ会議や電子署名を利用してリモートで公正証書遺言を作成できるようになります。

デジタル遺言には、手書きの負担をなくしたり、偽造や紛失のリスクを抑えたりできるといった多くのメリットがあります。一方で、新しい制度ならではの課題や注意点も指摘されています。

ここでは、デジタル遺言におけるデメリットや課題について解説します。

現在検討されているデジタル遺言のいずれの案においても、遺言が真意であることなどを担保する目的から、遺言者が遺言の全文を口述しなければならないとされています。現行の自筆証書遺言にはない新たな負担です。

甲案から丙案のいずれについても、証人や民間事業者、公的機関といった第三者の関与が想定されています。現行の自筆証書遺言は遺言者自身のみで作成できるので、第三者の関与を要することはデメリットの一つでしょう。

デジタル遺言については、他人が本人になりすましたり、AIを使ったディープフェイク技術を悪用して本物のようにみせかけたりして遺言が作成されるおそれがあります。

そのため、本人確認を確実に行う方法として、いくつかの対策が検討されています。たとえば、生体認証や振る舞い認証を組み合わせる方法、あるいはウェブ会議で顔写真付きの本人確認書類を提示してもらい、その写真と画面に映る遺言者の顔を照合する方法などです。

公的機関の関与なくしてデジタル遺言を作成する場合(甲案)、遺言者本人によるデータの保管が想定されるので、その保管方法によってはデータを紛失する、データが遺言者の死後に発見されないリスクがあるといえます。

乙案や丙案については、公的機関で保管されるためこれらのリスクが相当程度軽減されますが、公的機関における手続きを要するデメリットがあります。

パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器に不慣れな人にとっては、デジタル遺言に抵抗を感じることがあるでしょう。そのため、利用しづらい制度と感じられるかもしれません。

ただし、従来の方式による遺言も引き続き選択できるため、必ずしも大きな問題になるわけではありません。

デジタル遺言が導入されたからといって、遺言書作成における弁護士の役割は大きく変わらないと考えられます。遺言書作成を弁護士に依頼する主なメリットは以下のとおりです。

【作成した遺言が無効にならない】
遺言書の作成には法律で決められた方式があります。自分だけで作成すると、不備が発生して無効になってしまうリスクが高くなります。弁護士に依頼すれば法律に則った方式できちんと遺言書を作成できるため、不備で無効になる可能性はほぼありません。

【相続人間のトラブルを防ぐためのアドバイスを受けられる】
遺言書が原因で相続人間のトラブルを招いてしまうケースも少なくありません。相続トラブルに強い弁護士であれば、どのような遺言であればトラブルが起きにくいか、状況に合わせて適切なアドバイスをしてくれます。

【遺言の内容を実現してくれる】
弁護士に遺言執行者(遺言の内容を実現してくれる人)になってもらうことも可能です。

遺言の内容を実現するには、金融機関での手続や法務局での相続登記などの対応が必要で、かなりの手間を要することが少なくありません。弁護士に遺言執行者を任せることで、遺言の内容をスムーズに実現することができます。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

遺言書の相談ができる弁護士を探す

Q. デジタル遺言はパソコンが苦手な人でも作れる?

デジタル遺言を作成するには、パソコンやスマートフォン等においてある程度の操作能力が求められます。そのため、パソコンが苦手な場合は、知識のある人のサポートを受けることが望ましいでしょう。

または、従来の方式である自筆証書遺言や公正証書遺言で作成するのも一つの方法です。どの方法で作成するのが良いか弁護士に相談すると安心です。

Q. デジタル遺言が始まるまで、遺言書の作成は待つべき?

デジタル遺言が導入される時期は未定です。現時点で遺言書を作成する必要性を感じているのであれば、万が一に備えて、早めに作成しておくことをおすすめします。

Q. デジタル遺言はどこで保管される?紛失の心配は?

現行の遺言書保管制度を担っている法務局で保管する案が検討されていますが、具体的には未定です。公的機関で保管される場合、紛失の心配は少ないでしょう。

デジタル遺言の具体的な内容はまだ検討段階ですが、どのような形になるにしても、遺言を考える人にとって新しい選択肢が増えるのは大きな前進といえます。

もっとも、デジタル遺言には多くのメリットがある一方で、デメリットや課題も残されています。今後どのように議論が進み、制度として整っていくのか注目されます。

(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の弁護士検索サービス