公正証書遺言とは? 作成の手順、費用、メリットを解説
公証人が作成してくれる「公正証書遺言」。メリットはなんといっても、自分で書く自筆証書遺言と比べ、条件を満たしていないなどの理由で無効になるリスクが少なく、安心して作れる点です。その公正証書遺言の作成手順や費用などを行政書士が詳しく説明します。
公証人が作成してくれる「公正証書遺言」。メリットはなんといっても、自分で書く自筆証書遺言と比べ、条件を満たしていないなどの理由で無効になるリスクが少なく、安心して作れる点です。その公正証書遺言の作成手順や費用などを行政書士が詳しく説明します。
目次
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自筆証書遺言が自分の手で書くのに対し、公正証書遺言は、原則的に公証役場で作ります。2人以上の証人の立ち会いのもと、公証人がパソコンで作成し、遺言を遺す人が、記載された内容で間違いないかどうかを確認して最後に署名・押印をして完成です。
公証役場は、全国約300カ所にある法務省管轄の機関です。公証人とは、裁判官や検察官などを長く務めた法律実務の経験があり、公募の中から法務大臣が任命した準国家公務員です。定年は70歳です。
証人が必要な理由は、遺言者本人が遺言を遺すということ、誰かに脅され書かされているわけではないこと、認知症などを患っておらず正常な判断能力が備わっていることなどを確認するためです。証人に身の回りでお願いできそうな方は、友人や知人です。
ただ、注意も必要です。民法では、未成年者や相続人、財産をもらう知人は証人になれません。このため、証人になってくれる人に心当たりがない場合は、専門家または公証役場に相談してください。証人1人に対し、1万円前後の謝礼が必要ですが、紹介してもらえます。
公正証書遺言は、全国どこの公証役場でも作れます。ただ、病気などで外出が難しく、公証人に出張してもらう場合は、住んでいる都道府県内の公証役場にしか依頼できません。
公証役場で公正証書遺言を作成する際に必要な書類や入手方法は、以下の通りです。
公証役場によっては、必要書類が異なることもあります。依頼する前に、足を運ぼうとしている公証役場で確認してください。
また、公正証書遺言の作成日には、遺言者の実印(印鑑登録していない場合は、認印)、証人の認印が必要です。
公証役場での具体的な手順とは、遺言者が直接、公証役場に依頼するのか、弁護士や行政書士などに遺言書作成の補助を依頼するのかによって違います。また、公証人同様、弁護士らにとっても、作成の手順が法律で決まっていません。このため、手順は、依頼を受けた専門家次第です。ここでは、一般的に考えられる手順を紹介します。
以下のような作成の流れになります。
【ステップ1】遺言内容のメモ書きを作る
まず、自分で相続人の名前、主な相続財産、具体的な財産の遺し方をメモに書きます。
【ステップ2】相談日時の予約
次に、公証役場に電話して相談日時を予約します。予約当日は、公証人と相談ができるので、メモをもとにご希望を伝えてください。公証人から戸籍謄本等の必要書類が伝えられるので、後日、用意してください。
【ステップ3】公証人との相談
相談は、公証人や具体的事例に応じ、1回で終わる場合もあれば、複数回になることもあります。相談料は無料。ただし、公証役場では個々の事情に応じた遺産の分割相談などには応じていません。相談の段階では、証人の立会いは必要ではありません。
【ステップ4】証人の依頼
この後は、署名・押印をして公正証書遺言を完成させる際の証人について、あらかじめ決めておかなければなりません。自分の知人に頼むのか、公証役場に紹介してもらうのか、考えてみましょう。公証役場で証人をお願いする場合は、謝礼が必要になります。1人につき約6000円~1万円です。
【ステップ5】作成日の予約、必要書類の郵送または持参
遺言書の内容に納得できた場合、そのまま署名と押印を迎えることになります。公証人、遺言者、証人の予定を聞き、都合の良い日時を予約します。前もって、公証人から必要書類を伝えられるので、郵送で送るか直接持参してください。公証人は、事前に戸籍謄本等の書類を確認します。
【ステップ6】作成日当日:遺言書の内容確認、証明・押印
当日の持ち物は、実印(実印を登録していない場合は、認印と運転免許証などの身分証明書)と、公証役場の手数料です。手数料の金額は、事前に公証人から伝えられます。証人の持ち物は、認印と運転免許証などの身分証明書になります。
公証人、遺言者、証人2人がそろったら、すぐに遺言書の内容を確認するため、公証人が遺言書を読み上げます。公証人が原本を、遺言者が正本を、証人が謄本をそれぞれ見ることになります。
公正証書遺言は、公証役場で保管される原本、遺言者に交付される正本、謄本の3種類が作成されることになります。内容はもちろん同じです。遺言者が内容を確認して問題がなければ、出席した全員が署名・押印をします。違うところがあれば、その場で公証人に申し出て修正してもらいます。
【ステップ7】正本と謄本の保管
署名・押印が終われば遺言書が完成し、公証役場手数料や証人の謝礼を支払って終わりです。遺言書を読み始めて手数料を支払うまで、順調にいけば約20分で終わります。あとは、いただいた正本と謄本を大切に保管してください。
弁護士や行政書士などに遺言書作成の補助を依頼する場合も、公証役場に直接依頼する場合と大きな流れは変わりません。同じように、ご自分で相続人の名前、主な相続財産、具体的な財産の遺し方をメモに書きます。相談したい専門家に電話をして日時を予約します。
専門家と話しながら作成することで、スムーズに作れたり、遺産分割時にトラブルになるリスクを減らしたりできる点がメリットです。
遺言書の内容が決まったら、専門家が戸籍謄本などの必要書類をそろえて公証人と打ち合せをしてくれます。通常、依頼を受けた専門家が証人になってくれるので、探す必要のある証人は1人だけです。
この後、専門家が公証役場に行くのにスケジュールを調整してくれます。当日に必要な手順は、公証役場に直接依頼する場合と同じになります。
遺言書作成で迷うことがあれば、弁護士など専門家のサポートを受けると安心です。
次に公正証書遺言のメリットとデメリットを説明します。
ある公証人によると、公正証書遺言を作成しておくと、内容に不満のある相続人が裁判をおこしても、その内容をひっくり返すことは難しいとのことです。それだけ、信用がある位置づけになります。
【メリット1】無効になる可能性が低い
裁判官や検事を経験した法律のプロで準国家公務員の公証人が手がけてくれるため、遺言書が無効になる可能性が低いです。
【メリット2】高い信用性
2人の証人が立ち会うことで内容の信用性が高まるほか、遺言を遺す人は、実印の印鑑登録証明書を提出するか、または運転免許証などを見せるため、本人確認も厳格です。
【メリット3】検認手続き不要
このほか、自筆証書遺言で必要となる家庭裁判所での検認という手続きが不要になります。
【メリット4】手が不自由・外出困難でも作成可能
手が不自由でも、遺言書を遺すことが出来ます。なぜなら公証人がパソコンを使用して遺言書を作成してくれるからです。高齢だと握力がなくなり、綺麗に印鑑を押印することが難しくなりますが、公証人に事前に申し出ておくことで、公証人が代わりに署名・押印することもできます。
また、原則では、手続きは公証役場で済ませないといけませんが、病気などで外出困難な場合には、公証人が病院や自宅に出張してくれます。
逆に、デメリットとしては、公証役場の手数料のほか、場合によっては弁護士や行政書士などの専門家に報酬を支払う必要が生じます(詳細は後述)。
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相続の相談が出来る弁護士を探す公証人に支払う公正証書遺言作成の手数料は、遺言に記載する財産の価格によって異なります。例えば、500万円を超えて1000万円以下の場合は1万7000円、1000万円を超えて3000万円以下の場合は2万3000円といった形です。費用は、相続を受ける人ごとにかかる手数料を合算して算出します。
具体的な手数料は、以下の通りです。
上記の基準を前提に、具体的に手数料は下記のような流れで算出します。
具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となる場合もあります。それぞれの公証役場で、お尋ねください。
公正証書遺言作成のサポートを弁護士などの専門家に依頼する際には、専門家への報酬が別途かかります。
遺言書を作成するメリットは、相続人同士が遺産分割協議という話し合いをしなくてもよいということです。遺言書のとおりに粛々と事務手続きを進めていけばよいのです。こんなに素晴らしいことはありません。
もしも、仲の悪い相続人同士で遺言書がない場合、話し合いが必要となったら、どうなることでしょう。時間がかかり、喧嘩をし、さらに裁判所や弁護士に依頼して、余計にお金もかかるかもしれません。そういうことがなく、書いてある通りに事務手続きをすればよいというのは、相続人の方たちも気が楽だと思います。
また、仲が良い相続人同士でも、財産をどう分けるかを言い出すのは、大変気分的に重いことだと思います。それもないということだけでも充分に遺言書を作成する意義があることだと思います。
公正証書遺言は、ご自身で公正証書役場に電話をして遺言書の作成を依頼することもできます。ただ、それには、相続に関して、ある程度の知識があって、誰にどの財産を譲るかを決めている必要があります。また、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書といった資料を準備する必要が出てくる場合もあります。
日常生活では、なかなか身近ではない手続きもあるため、公正証書遺言の作成を考えておられる方には、まずは遺言書や相続をテーマにした本を読むことをおすすめします。その上で、「1人で完成させるのは難しい」と感じた人は、弁護士や行政書士などに相談してみてください。
(記事は2023年7月1日時点の情報に基づいています)