少子高齢化や2015年の相続税増税に伴い、相続は「お金持ちだけの問題」ではなくなりました。関心の高まりに伴い、「そもそも相続って何だろう」と疑問に持つ人もいるでしょう。相続について知っておきたい4つのポイントを税理士が解説します。

相続とは何か

相続とは、ある人が死亡した場合に、その亡くなった人(被相続人)が保有していたすべての財産や権利・義務を、配偶者や子どもなど一定の身分関係にある人(相続人)が受け継ぐことを言います。

日本では私有財産制が認められていますが、財産を持つ人が亡くなった場合、この財産の取り扱いを定める法律が何もないと財産が宙に浮いてしまいます。また、亡くなった人が持つ権利や借金、未払いの税金といった負債を抱えていた場合、これらを引き継ぐ制度を定めておかないと、亡くなった人との間に利害関係があった人たちが困ることになります。

相続制度そのものは家父長制度時代から存在しますが、現在は、こういった事態を避ける意味も含めて相続制度が定められています。

なお、死亡には、自然的な死亡だけでなく、行方不明になって後7年が経過した場合などの「失踪宣告」や事故や災害などで亡くなった可能性が極めて高い場合の「認定死亡」などの法律上の死亡を含みます。

相続には3つの方法がある

相続の方法として次の3つがあります。

  • 遺言書による指定
  • 遺産分割協議による遺産分割
  • 遺産分割調停

相続においては、被相続人の遺した遺言書による指定が最優先されます。ただし、遺言書の法的有効性が重要です。そのため、遺言書があるとわかったら、すみやかに家庭裁判所で「検認」の手続きをする必要があります。

遺言書そのものがない場合、あるいは遺言書による指定のない財産については、相続人同士の遺産分割協議により分割することとなっています。もし、その協議がまとまらない場合には、裁判所で遺産分割の調停を行うことになります。

相続で最低限知っておくべき4つのポイント

相続について何も知らないと、いざ身内が亡くなったときに対処するのが難しくなりますが、すべてを理解するのもまた大変です。相続について、最低限知っておきたい4つのポイントをご紹介します。

ポイント1:相続財産になるのは何か

知っておきたいのが「相続の対象となる財産」です。相続の対象となるもの、相続の対象にならないものについて解説していきます。

●相続するものには「プラスの財産」と「マイナスの財産」がある

相続と聞くと、現預金や不動産、美術品といったいわゆる「売買しうる資産」「市場価値のある財産」を思い浮かべます。しかし、日本の相続制度は「包括承継」です。つまり、プラスのものだけでなく、マイナスのものなど意外なものまでも引き継ぐことになります。

相続の対象となるプラスの財産・マイナスの財産はおおよそ次のようなものです。

・プラスの財産

動産(現預金、有価証券、貸付金、売掛金、自動車、家財、船舶、骨とう品や所外、貴金属など)
不動産(宅地、農地、建物、店舗、居宅、借地権、借家権など)

・マイナスの財産

負債(借金、買掛金、ローンやリースの未払い分など)
未払税金等(所得税や住民税、固定資産税や延滞税等の未納分)
未払費用等(水道光熱費や電話代、医療費、家賃などで被相続人が使用していた期間分のうち未払いのもの)

・相続の対象とならない財産もある

日本の相続は、被相続人の権利や義務を包括的に承継する制度となっています。ただ、身分的な権利・義務関係や祭祀関連の財産など、相続の対象とならない財産もあります。相続の対象とならない財産は次のようなものです。

一身専属的な権利義務(生活保護受給権、国家資格、親権、扶養義務など)
香典、弔慰金、葬儀費用
生命保険金(被相続人自身が保険金の受取人になっているものを除く)
死亡退職金(受取人指定がなく、被相続人に受取の権利があるものを除く)
遺族年金(被相続人自身が保険金の受取人になっているものを除く)
墓地、墓石、仏壇、祭具、系譜(祭祀主催者が承継するが遺産分割の対象とはならない)

「相続の対象とはならない」ものとは、あくまで「民法上の相続の対象とならない財産」です。生命保険金や死亡退職金については、民法上の相続の対象とはなりませんが、税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。

また、生命保険金や死亡退職金のうち一定額や墓地や墓石などは相続税法上非課税財産として取り扱われます。

ポイント2:遺産をもらうのは誰か

また「誰が遺産をもらうのか」も重要です。日本の相続では「遺言書の有無」が大きく影響します。

●遺言書がある場合

遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容が優先されます。

遺言書による遺贈の受取人が指定されている場合には、その受取人(受遺者)が遺産を受け取ることになります。なお、受遺者には、民法で定められた法定相続人だけでなく、それ以外の人を指定することができます。

●遺言書がない場合や遺言書に定められた財産以外について指定がない場合

遺言書による指定のない財産がある場合や遺言書そのものがない場合については、民法に従い、法定相続人が遺産を受け取ることになります。「誰が法定相続人になれるのか」については、民法により、以下のように決められています。なお、民法で定められた相続人を「法定相続人」と言います。

配偶者(法律上の婚姻関係のある配偶者のみ。事実婚や内縁の妻は含まれません)は、常に法定相続人になります。

配偶者以外の親族(血族のみ)は、相続する順位が決まっています。
第一順位:直系卑属(子や孫)およびその代襲相続人
第二順位:直系尊属(父母や祖父母)
第三順位:兄弟姉妹およびその代襲相続人

第一順位の子が生きていれば子が相続人になりますが、子がすでに亡くなっており、さらにその子ども(被相続人の孫)がいなければ、第二順位の父母が相続人になります。ただし、先順位の人が1人でもいれば、後順位の人は相続人になれません。また、養子縁組をしている子は実子と同様の扱いとなります。

なお、「代襲相続人」とは、生きていれば相続権がある人が既に亡くなっている場合に、その地位を引き継いで相続権を持つ人を言います。代襲相続人になるのは、生きていれば法定相続人になる故人の直系卑属です。第一順位の子がすでに亡くなっていれば孫が、第三順位の兄弟姉妹がなくなっていれば、その子である被相続人の甥や姪が代襲相続人になります。

ポイント3:遺産をどう分けるのか

「遺産をどう分けるか」も、ポイント2と同じく遺言書の内容が優先されます。また、遺言書に指定がないものについては、相続人による遺産分割協議を行いますが、まとまらない場合には、調停や審判により法定相続分に基づいて遺産分割方法が決定されます。

●遺言書による指定

遺言書に財産そのものあるいは相続分についての指定がある場合、その指定に従うことになります。ただし、遺留分を侵害した指定をすることはできません。もし遺留分を無視した指定がなされている場合、法定相続人(第三順位は除く)は遺留分減殺請求を行うことができます。遺留分とは、被相続人の配偶者及び直系卑属および直系尊属である法定相続人について民法が保証した一定割合の相続財産をいいます。

●法定相続分とは

法定相続分とは、民法に定められた各法定相続人の相続割合のことを言います。法定相続分は、相続順位ごとに、次のように定められています。

【配偶者と子が相続人の場合】
配偶者に2分の1、子に2分の1

【配偶者と父母(あるいは祖父母)が相続人の場合】
配偶者に3分の2、父母(あるいは祖父母)に3分の1

【配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合】
配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1
配偶者以外の相続人が複数いる場合には、その人数で相続分を分けることになります。

ポイント4:相続税は発生するか

相続において課題となるのが「遺産分割」とともに「相続税が発生するかどうか」です。相続したからといって常に相続税が発生するわけではありませんが、相続税法上の相続財産には民法上の相続財産以外もあるので注意が必要です。

相続税が発生するか否かは、「相続税の課税対象となる金額(課税価格)の総額が基礎控除額を超えるか否か」で判断します。

●基礎控除額とは

基礎控除額とは、相続税の申告も納税もしなくていいボーダーラインです。次の計算式で算出します。

相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

基礎控除額は、法定相続人の中に相続放棄した人がいる場合、その相続放棄がなかったものとして計算します。法定相続人に養子がいる場合、実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までを法定相続人に含めて計算します。

●相続税計算の基礎となる「課税価格」とは

課税価格とは、相続人が承継した財産の価額に生命保険金などの「みなし財産」の価額を足し、負債の総額や非課税財産の総額を差し引いた金額を言います。この金額が、相続税を計算する基本になります。次の算式で計算します。

各相続人の課税価格=純資産価額(※)+相続開始前3年以内の生前贈与の財産の価額

※純資産価額=相続又は遺贈により取得した財産の価額+みなし相続等により取得した財産の価額-非課税財産の価額+相続時精算課税制度の対象となる生前贈与の財産の価額-債務及び葬式費用の額

つまり、相続税の有無を考える場合、単に相続で引き継いだ財産だけでなく、死亡退職金や生命保険金などの「みなし相続財産」や、死亡前の3年間に生前贈与された財産、相続時精算課税制度の適用を受けた生前贈与財産をも考慮しなくてはなりません。

■相続しないこともできる

人が亡くなった場合の相続は、通常「単純承認」という「亡くなった人の財産・債務を丸ごと引き継ぐ」方法によります。しかし、中には「借金がどれくらいあるか分からない」「引き継ぎたくない財産がある」などの理由で、単純承認をしたくない場合もあります。このような場合には、プラスの財産の範囲内でだけマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」で相続する範囲を限定したり、「相続放棄」により相続しない選択をしたりすることができます。

単純承認とはすべての財産を無条件で相続すること

●限定承認

限定承認とは、相続人が相続によって得たプラスの財産を限度としてマイナスの財産を引き継ぐという方法です。単純承認をした場合、被相続人の債務が財産を上回ったら、相続財産でまかないきれない部分については、相続人固有の財産から弁済しなくてはなりません。この負担を避けたい場合、限定承認を行えば、引継ぐ債務を相続財産の範囲内に収めることができます。
ただ、相続人全員の合意が必要であることや事務手続きの煩雑さから、現在は限定承認を行うケースは非常に少ないようです。

限定承認とは、相続人が相続によって得たプラスの財産を限度としてマイナスの財産を引き継ぐという方法

●相続放棄

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことを一切放棄することをいいます。債務の額が財産の額を上回る場合だけでなく、相続財産に価値や魅力を感じられない場合や事業承継で他の相続人だけに相続させたい場合などに用いられます。限定承認と違い、相続人単独の意思で決めることができます。

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことを一切放棄すること

これら2つのいずれかを行いたい場合には、被相続人が亡くなって相続することを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申述書を提出しなくてはなりません。ただし、期限内に手続きを終えても、相続財産の一部を勝手に費消したり、隠したりした場合には、いずれの手続きも無効となり、自動的に単純承認をしたものとされてしまいます。

■相続全体の手続きの流れ

財産を所有する人が亡くなったら、どのような手続きをどれくらいの期間で行うことになるのでしょうか。死亡届からすべての相続手続きが完了するまでの基本的な流れについては、期限を含めて以下のようになります。

●相続(被相続人の死亡)から7日以内に必要な手続き

死亡届の提出
死体火葬(埋葬)許可申請書の提出(国外で亡くなった場合には3カ月以内)

●相続(被相続人の死亡)から14日以内に必要な手続き

世帯主変更届(亡くなった人が3人以上の世帯の世帯主だった場合)
住民票の抹消届
国民健康保険証の返還、遺族の国民健康保険の加入

●相続(被相続人の死亡)から3カ月以内に必要な手続き

葬儀の実施
金融機関への連絡
生命保険・損害保険の手続き
社会保険・年金関係・遺族年金の手続き
遺言書の確認・検認
相続人及び相続財産の調査、相続人の確定
相続人全員で遺産分割協議の開始
相続放棄・限定承認

●相続(被相続人の死亡)から4カ月以内に必要な手続き
被相続人の所得税の準確定申告及び納税

●相続(被相続人の死亡)から10カ月以内に必要な手続き
遺産分割協議書の作成
不動産の名義変更、預貯金の払い戻し等の相続手続き
相続税の申告及び納税

以上は大まかな流れになります。中には順番が前後したり、手続きそのものがずっと遅くなったりする場合もあります。ただ、相続放棄・限定承認や準確定申告、相続税の申告については、期限を守らなくてはなりません。

(記事は2019年9月1日時点の情報に基づいています)