相続争い(争族)の悲惨な末路【事例8選】 回避策について弁護士が解説
亡くなった人の遺産の分け方を決める相続人間の話し合いは、常にスムーズに進むとは限りません。お金や公平性が絡む繊細な問題であるため、きょうだい間でのもめごとが生じるケースもよく見られます。相続争いのよくある事例、“争族”のデメリット、相続争いを避ける方法について、弁護士がわかりやすく解説します。
亡くなった人の遺産の分け方を決める相続人間の話し合いは、常にスムーズに進むとは限りません。お金や公平性が絡む繊細な問題であるため、きょうだい間でのもめごとが生じるケースもよく見られます。相続争いのよくある事例、“争族”のデメリット、相続争いを避ける方法について、弁護士がわかりやすく解説します。
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ある人が亡くなり、遺言書がない場合は、相続人間で話し合って被相続人(亡くなった人)の遺産の分け方を決めることになります。
民法上、遺産配分の目安として「法定相続分」が定められていますが、これは絶対的なものではありません。そのため、「生前贈与を受けた長男が法定相続分の遺産を取得するのは不公平だ」とか、「献身的に介護をした私が多くの遺産を相続すべきだ」とか、相続人によってさまざまな主張がなされ、意見が対立します。また、法定相続分に沿って遺産を分けるとしても、誰がどの遺産を取得するか、遺産をいくらで評価するかについても意見が対立します。
相続では、このように対立点が多数あるうえに、当事者が家族や親族となる場合が多く、感情的になりがちであることや多額の財産が関係することから、話し合いがまとまらずに争いになってしまうケースが少なくありません。特に「公平」とは何かをめぐって争われることが多く、価値観の相違などからなかなか折り合いがつかないことが多いです。
よく相談がある相続争いの事例を8つ紹介します。一般的にどのような理由で相続争いになっているか、参考にしてみてください。
一部の相続人が一方的に不公平な相続割合を主張し、これにほかの相続人が反発してもめるケースです。
たとえば、長男が「自分が長男だから遺産を多く取得する」と主張し、ほかのきょうだいがこれに反発してもめるケースです。家長が隠居や死亡した際、長男がすべての財産と権利を相続するという「家督相続制度」は戦後に廃止されており、現在は子同士の法定相続分は同じとなっています。そのため、ほかのきょうだいとしては、「自分が長男だから」といった主張を素直には受け入れがたいことが多いでしょう。
相続人のなかに亡くなった人の介護を献身的にした人がいる場合、それ以外の相続人ともめるケースはよく見られます。介護した相続人が「私は介護に尽くしたから多めに遺産をもらいたい」と主張するものの、そのほかの相続人が「法定相続分どおりに分けるべき」と反発するからです。
私が所属する法律事務所でもこのような寄与分をめぐる相談を受けることは多いです。ただし、介護した相続人の心情は十分に理解できるものの、寄与分が認められる法律上の要件は厳しく、裁判所に持ち込んでも簡単には認めてもらえないのが実情です。
亡くなった人が特定の相続人に偏った生前贈与をしていた場合、ほかの相続人が「生前贈与分を考慮して相続割合を決めるべき」と主張してもめるケースもあります。
私の事務所でもこのような特別受益をめぐる相談を受けることは特に多いです。ただし、亡くなった人から贈与の話を聞いただけであるなど、生前贈与を立証する十分な客観的な証拠がないことが少なくありません。
土地や建物などの不動産は預貯金のように簡単に分けることができないので、その分け方でもめるケースはよく見られます。
遺産に不動産だけでなく十分な預貯金もあれば、ある相続人は不動産を相続し、別の相続人は預貯金を相続することで、公平に遺産を分けることは可能です。しかし、遺産が不動産だけだったり、預貯金が少ない場合は、公平に分けることが難しくなります。
このような状況では、不動産を売却して、その代金を分けることが選択肢となります。しかし、一部の相続人が不動産に居住しており、売却が難しいことも少なくありません。また、一部の相続人が不動産を取得する場合も、その代償金の金額でもめることも多くあります。
一部の相続人が「遺言者は遺言書作成時に認知症であったから遺言書は無効である」と主張してもめるケースです。
遺言をめぐる争いの場合、遺言が有効か無効かで各相続人の取得額に大きな差が出ることから、ほかの争いに比べて交渉による解決は困難な場合が多いです。遺言能力を否定するハードルは高いので、遺言書作成当時の遺言能力に関する証拠をいかに集められるかがポイントです。
亡くなった人の口座から多額の出金がなされている場合、いわゆる遺産の使い込みをめぐってもめるケースにも出合います。よくあるのが、同居していない相続人が、同居している相続人による使い込みを疑う“争族”です。遺産の使い込みは基本的に家庭裁判所での遺産分割調停の対象外で、別途地方裁判所での訴訟を要する点が特徴です。
亡くなった人が知らない間に養子縁組をしており、その被相続人が亡くなったことをきっかけに相続人がその事実を知ってもめるケースです。法律上、養子には実子と同じ相続権が認められているため、養子縁組によって相続分が減る実子や相続権が失われるきょうだいなどが「亡くなった人は養子縁組当時に意思能力がなかったため養子縁組は無効である」「養子と同じ取得割合は納得できない」などと主張して争います。
亡くなった人が再婚していた場合、前妻の子と後妻家族はともに法定相続人になります。後妻家族が再婚の事実を知らない場合、相続人は自分たちだけと思っていたところに新たに相続人が現れるかたちとなるため、「知らない人に遺産を渡したくない」と主張してもめます。しかし、法律上は前妻の子にも法定相続分が認められている以上、遺産を渡さないという主張を貫くことは難しいと言えます。
相続争いによって遺産分割が長期間にわたって完了しないと、以下のような不都合が生じてしまいます。
遺産分割が終わらなければ、各相続人は遺産をスムーズに活用することができません。たとえば、不動産を売却したくてもできず、売却の好機を逃してしまい、むしろ維持費がかかるばかりという事態になり得ます。持分だけであれば単独で売却することができるものの、持分のみの売却は買い手が見つからないか、見つかってもかなり低額での売却になってしまいます。
2021年(令和3年)の民法改正によって、相続開始から10年を経過したあとにする遺産分割については、原則として、相続人は特別受益や寄与分の主張をすることが認められなくなりました(民法904条の3)。ほかの相続人の生前贈与(特別受益)や献身的に亡くなった人の介護をしたことの寄与分を主張したい相続人にとっては、大きな不利益と言えます。
相続争いが生じると、その争いのなかで互いに感情的になって非難し合うなどして、関係性が悪化してしまいがちです。いったん関係が険悪になると修復も困難で、相続争いを機に関係性が断絶してしまうケースもめずらしくありません。
相続税の申告時に「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの適用を受けるには、原則として、相続税の申告期限内に遺産分割が成立していなければなりません。
なお、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した場合、後日遺産分割が成立した際に相続税の申告をし直すことで、上記の適用を受けることができるようになります。
相続争いが長期的に解決しないと、相続人の誰かが弁護士に依頼して調停や訴訟などの法的手続きに発展してしまいかねません。いったん法的手続きに発展すると、1年以上にわたって争いが続いてしまうケースが少なくありません。その場合、弁護士費用や裁判費用がかかるなど、コスト負担も増えます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す相続争いを当事者だけで解決することは困難です。一人で抱え込んでしまうと、思い悩んで堂々めぐりになってしまいがちですので、早めに専門性の高い弁護士に相談して、解決を依頼することが望ましいでしょう。
弁護士は、専門的な知識や経験に基づいて、依頼者の言い分を法律や裁判例に沿う形で説得的にまとめてくれますし、主張の裏づけに必要な証拠集めもサポートしてくれます。また、ほかの相続人にどういった提案をすべきか、どこまで妥協すべきかなど、状況に応じて適切な助言もしてくれます。
弁護士として私が担当したケースでも「言い分はあるものの、直接話をしたくない」「当事者間では感情的になって冷静な話し合いができない」といった理由で依頼を受け、私が窓口となることで各相続人がお互いに冷静になって言い分を伝え合うことができ、譲歩し合って解決に至ることができたケースがよくあります。
また、弁護士が窓口になることによって心理的なストレスから解放されることも大きなメリットでしょう。私が依頼を受ける際も「直接ほかの相続人とやり取りをせずに済むようになるだけでも気が楽になってありがたい」と言っていただくことは多いです。
相続争いを未然に防ぐことができるのであれば、それに越したことはありません。そこで、相続争いの代表的な予防策を3つ紹介します。
被相続人が健康なうちから、その人と相続人との間で相続について話し合っておくことが一つの予防策です。
遺産を誰にどのように相続させたいかという被相続人の思いや相続人の言い分を伝え合って調整を全員が納得できる相続のかたちを決めておき、将来相続が発生した際に、これを尊重して遺産の分け方を決めることで、相続争いになる可能性を減らすことが期待できます。
ただし、被相続人の生前に遺産分割をすることはできないため、法的な拘束力まではありません。
遺産の分け方に法的な拘束力を持たせたいのであれば、遺言書の作成が必要です。遺言書があれば、原則としてその内容に沿って遺産を分けることになるため、相続人間で遺産の奪い合いが生じるのを防ぐことが可能です。
他方、介護に従事してくれた長男にほかのきょうだいよりも多めの遺産を渡したいなど、相続人間での取得割合を変えたい場合、取り分が少ない相続人には不満が生じやすくなります。その際、被相続人は、取得割合を変える理由について、生前に相続人に直接伝えたり、遺言書の付言事項に書いたりしておくことが大切です。
また、遺言無効や遺留分侵害に関するトラブルが生じる可能性もあるため、争いを避けるにはこれらにも配慮して遺言書を作成することが大切です。
家族信託とは、信頼できる家族や親族などと信託契約をして財産管理を任せる仕組みです。家族信託では、遺言書と同様に、自分が亡くなった際の財産の承継先を決めておくことができます。
さらに、遺言書と異なって、家族信託では自分の死後、配偶者が亡くなったときの二次相続での財産の承継先を決めておくこともできます。たとえば、自宅不動産を自分が亡くなった際(一次相続)は妻に、妻が亡くなった際(二次相続)は長男に承継させることができます。
遺産を独り占めしようとすれば、ほかの相続人の反発を招き、親族関係の悪化につながるほか、遺産分割協議がまとまらなくなる可能性が高まります。また、遺産を隠したり使い込んだりすると、ほかの相続人に訴訟を提起されて泥沼化するリスクがあります。
弁護士に遺産分割協議の代理を依頼するのがよいでしょう。弁護士に依頼することで、ほかの相続人にどういった提案をすべきか、どこまで妥協すべきかなど、状況に応じて適切な助言を受けることができ、解決するケースも多いです。ただし、それでも解決しない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
厚生労働省のデータによると、2023年(令和5年)に亡くなった人は、157万5936人でした。そして、司法統計によると、同年の遺産分割調停の申立件数は1万5750件でした。相続が発生して遺産分割調停の申立がされる割合は約1%という計算です。交渉で解決に至る場合もあるなど、調停申立件数=相続争いの数というわけではないものの、一つの目安にはなるはずです。
相続人であれば、金融機関に対して残高証明書や取引履歴の発行を請求することが可能です。これらが通帳に代わる資料になります。ただし、亡くなった人の口座がある金融機関を知らない場合、手当たり次第で探すのは手間がかかります。
その場合、弁護士を通じてほかの相続人に通帳の開示を請求するのがよいでしょう。弁護士からの請求には応じるという場合も少なくないためです。また、それでも開示に応じない場合には、弁護士に口座の調査をしてもらうことも可能です。
相続が発生した場合、さまざまな事情から争いに発展してしまうことは少なくありません。
いったん争いになってしまうと、当事者間で解決することは困難であるうえ、相続争いを長引かせることによるデメリットも多いです。相続争いが泥沼化すると、「遺産を有効に活用できない」「特別受益や寄与分の主張ができなくなる」「親族間の関係性が悪化する」といった不都合が生じてしまいます。さまざまな障害を避けるためにも、相続争いになった場合には早めに弁護士に相談や依頼することをお勧めします。
(記事は2024年6月1日時点の情報に基づいています)
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