遺産の使い込みに気づいたら時効に注意 すぐに行うべきこととは

「親の遺産を他の相続人が勝手に使い込んでいるのでは?」。使い込みが疑われる場合、証拠を集めて相手に返還を求める方法があります。ただし「時効」の壁には注意しなければなりません。今回は遺産の使い込みに気づいたときの対処方法と注意点を解説します。親と同居していた相続人が預貯金などを出金して使い込みトラブルになっているなら、ぜひ参考にしてみてください。
「親の遺産を他の相続人が勝手に使い込んでいるのでは?」。使い込みが疑われる場合、証拠を集めて相手に返還を求める方法があります。ただし「時効」の壁には注意しなければなりません。今回は遺産の使い込みに気づいたときの対処方法と注意点を解説します。親と同居していた相続人が預貯金などを出金して使い込みトラブルになっているなら、ぜひ参考にしてみてください。
遺産の使い込みとは、亡くなった方と同居していた相続人が預貯金をはじめとする相続財産を勝手に使ったり自分のものにしてしまったりすることです。
一般には人の財産を勝手に使ったり自分のものにしたりすると、「窃盗罪」や「横領罪」が成立します。ただ、配偶者や親子などの親族間では、これらの罪に与えられる処罰が免除されるルールになっています。
子どもが親の財産を使い込んでも罪に問えません。
もしも親の財産を使い込んでしまったら、早めに財産を返還しましょう。すぐに返還できないなら、親や他の相続人に通知して少しずつ返していくべきです。
隠していると、後に発覚したときに大きなトラブルにつながります。最悪の場合、親の死後に裁判を起こされて何年も争うことになり、親族関係が完全に断絶してしまう可能性もあります。
正直に打ち明けて、早めにトラブルの芽を摘み取っておきましょう。
「兄が親の遺産を使い込んでいるかも?」などと疑われるときには、本人に開示や説明を求めましょう。
親の生前であれば、親本人に連絡をして預金取引状況を確認してもらい、使い込みが明らかになってから親族同士で話し合うのが良いでしょう。
親の死後には、使い込んだ相続人へ情報の開示や説明を求めます。要求に応じない場合には、弁護士に相談して金融機関へ照会して調査しましょう。
使い込みが疑われるなら、放置せずに状況をはっきりさせることが大切です。
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弁護士照会などの方法で同居の相続人による使い込みが明らかになったら、次のように対処してみてください。
まずは使い込んだ本人へ、預貯金その他の財産を返還するよう求めましょう。
このとき「いつ、いくら使い込んだのか」「いくら返還すべきか」を明確にする必要があります。事前に取引明細書などを入手して、使い込まれた金額を予測しておきましょう。
話し合いの際には、相手の支払能力や使い込まれた金額を考慮して、支払可能な範囲で和解します。合意ができたら合意書を作成し、分割払いになるなら公正証書にしましょう。
話し合っても解決できない場合、地方裁判所で裁判を起こす必要があります。
この場合の裁判は「不当利得返還請求」または「不法行為にもとづく損害賠償請求」です。
不当利得とは、法律上の原因なしに利益を得ることです。誰かが不当利得を得た場合、損失を被った人は利得者へ利得の返還請求ができます。
不法行為にもとづく損害賠償請求とは、相手の不法行為によって損害を受けた人が不法行為者(加害者)へ損害の賠償を求めることです。
遺産を使い込まれた場合、不当利得返還請求でも不法行為にもとづく損害賠償請求でも、どちらの方法でも取り戻せます。
不当利得返還請求権の時効は「権利行使できると知ったときから5年」または「権利の発生時から10年間」です。つまり相続開始から5年以内、使いこみがあってから10年以内に請求しなければなりません。使い込まれた時期が古い場合、時効によって請求できなくなってしまうおそれがあります。
不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効は「損害及び加害者を知ってから3年間」です。
一般的には「使い込み発覚時から3年」と理解すると良いでしょう。
不当利得にも不法行為にも時効があるので、使い込みが発覚したらすぐに行動すべきです。
早くしないと、時効消滅してしまう危険が高まります。
使い込みの証拠として集めるべき資料には、以下のようなものがあります。
素人では、集めるのが大変な手間となるでしょう。手続きも複雑で時間と労力がかかります。
またカルテなどの医療関係資料は、一定期間が経過すると廃棄されてしまうので、早めの対応が必要です。時効の成立を防ぐためには、専門家に依頼してなるべくスムーズに収集を進めるのが良いでしょう。
同居の相続人による使い込みを防ぐには、どのように対処すれば良いのでしょうか?
親が元気なうちに「任意後見契約」をして任意後見人をつける方法です。
任意後見契約をしておけば、親が認知症にかかって自分で財産管理できなくなったとき、任意後見人が財産を管理します。
そうすれば同居の相続人が勝手に預貯金の出金などできなくなり、使い込みを防げるでしょう。
親が元気なうちに「家族信託」を利用する方法です。親自身が自分の判断で財産を信頼できる第三者へ預け、管理してもらいます。
認知症になった後も信託契約の効果は続くので、受託者(財産を預かった人)が継続して財産を管理し続けてくれます。そうすれば、同居の相続人が勝手に使い込むのを防げるでしょう。
親が任意後見契約や信託契約をする前に認知症になってしまったら、裁判所に申立をして後見人をつけてもらいましょう。
後見人がつくと、後見人が財産を管理するので同居の相続人による使い込みを防げます。
ただし成年後見制度を利用すると生前贈与などが難しくなるので、「相続税の節税対策」はしにくくなると考えてください。
高額な相続税が発生しそうなケースでは、認知症になる前に相続税対策をしておく必要があります。
遺産の使い込みが発覚すると、相続人同士で熾烈な「争続」に発展してしまうケースが少なくありません。そんなことにならないために、早いうちから任意後見や家族信託などの対策を進めましょう。遺産相続トラブルについて心配ごとがおありの場合、一度弁護士に相談してみるようお勧めします。
(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)
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