目次

  1. 1. 遺産の使い込みとは
    1. 1-1. 遺産の使い込みの具体例
    2. 1-2. 遺産の使い込みは犯罪?|子の場合、罪に問えない
    3. 1-3. 使い込みが疑われる場合にすべきこと|弁護士や税務署に相談を
  2. 2. 遺産の使い込みに気づいたときの対処方法
    1. 2-1. 使い込んだ相手と話し合う
    2. 2-2. 遺産分割調停を申し立てる
    3. 2-3. 裁判を起こす|不当利得返還請求、不法行為にもとづく損害賠償請求
  3. 3. 遺産の使い込みを証明するための証拠
  4. 4. 遺産の使い込みの返還請求は時効に注意
    1. 4-1. 不当利得返還請求権の時効は5年、または10年
    2. 4-2. 不法行為にもとづく損害賠償請求の時効は3年
  5. 5. 遺産の使い込みを防ぐ対策
    1. 5-1. 定期的に情報共有をする
    2. 5-2. 任意後見制度を利用する
    3. 5-3. 家族信託を利用する
    4. 5-4. 成年後見人をつける
  6. 6. 親の財産を使い込んだらどうすればいい?税務署から指摘される?
  7. 7. 遺産の使い込みに関するよくある質問
  8. 8. まとめ 使い込まれた遺産の返還請求には証拠収集が不可欠

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遺産の使い込みとは、被相続人(亡くなった方)の財産管理をしていた相続人などが、故人名義の預貯金をはじめとする相続財産を勝手に使ったり自分のものにしてしまったりすることです。いわゆる「相続における使途不明金」と称される問題です。遺産の使い込みは、故人の生前や、死後の遺産分割が確定する前に行われます。

一方、故人の生活費や治療費、介護費のために遺産が使われていたのであれば、使い込みとは言えません。

遺産の使い込みは、親が亡くなった後に預貯金残高が少額であったことをきっかけに発覚するケースが多いです。

遺産の使い込みでよくある事例としては、以下のようなものがあります。

【親の生前に起こりうる使い込みのケース】

  • 同居の長男が認知症にかかった親の預貯金を出金して自分の生活費として使っていた
  • 勝手に親の生命保険を解約してお金を着服していた
  • 親の証券口座で株式を勝手に取引していた
  • 親が保有するアパートの賃料を横領していた
  • 親の不動産を勝手に売却して、売却益を自分の口座に入れていた

【親の死後に起こりうる使い込みのケース】

  • 遺産口座から、他の相続人に黙ってお金を引き下ろし、私的に流用した
  • 資産性のある貴金属や骨董品、美術品を勝手に持ち出した
  • 葬儀費用や医療費の名目で過大にお金を引き下ろした
  • 生命保険を独り占めした
  • 遺産の一部を隠して、遺産分割協議の対象から外していた

一般には人の財産を勝手に使ったり自分のものにしたりすると「窃盗罪」や「横領罪」が成立します。ただし、配偶者や親子などの親族間では、これらの罪に与えられる処罰が免除されるルールになっています。そのため、子どもが親の財産を使い込んでも罪に問えません。

なお、相続人の配偶者や後見人などによる使い込みや横領は、刑事告訴が可能です。刑事告訴をすることで窃盗罪や横領罪が成立し、使い込まれた遺産が返ってくる可能性が高まります。不安がある場合は弁護士に相談するのが安心です。

「きょうだいが親の遺産を使い込んでいるかも?」などと疑われるときには、まずは使い込んだ本人に開示や説明を求めます。ただし、使い込みを疑われた側は非協力的なことが多いでしょう。

親の生前であれば、親本人に連絡をして預金取引状況などを確認してもらい、使い込みの事実や金額が明らかになってから親族同士で話し合うのが良いでしょう。

親の死後であれば、使い込んだ人が開示に応じない場合には、弁護士に相談して金融機関へ照会してもらいましょう。弁護士は「弁護士会照会」という制度を通じて資料の開示を求め、証拠資料を集めることが可能です。

また、税務署に通報する方法もあります。税務署側としても使い込みが隠されたまま相続税申告・納税がされれば、納税額が減ることになりますので、調査対象にしてくれる可能性があります。

使い込みが疑われるなら、放置せずに状況をはっきりさせることが大切です。

相続人による使い込みが明らかになったら、次の方法で対処してみてください。

まずは使い込んだ本人へ、預貯金その他の財産を返還するよう求めましょう。

このとき「いつ、いくら使い込んだのか」「いくら返還すべきか」を明確にする必要があります。事前に取引明細書などを入手して、使い込まれた金額を予測しておきましょう。

話し合いの際には、相手の支払能力や使い込まれた金額を考慮して、支払可能な範囲で和解します。合意ができたら合意書を作成します。分割払いになるなら公正証書にしておくと安心です。

ただし、当事者間の話し合いは双方とも感情的になりやすく、合意を得られないおそれがあります。弁護士に介入してもらえば、法的根拠に基づくアプローチによって相手の責任を明らかにしてくれるため、返還に応じてくれる可能性が高まるでしょう。

当事者間での話し合いで合意できなかった場合、被相続人が亡くなった後の使い込みであれば、遺産分割調停で解決できる可能性があります。

遺産分割調停は家庭裁判所の調停委員が当事者双方の意見を聞き、話し合いによって合意を目指す手続きです。

以前は、相続発生後の使い込みについては、遺産分割調停で解決を図ることはできませんでした。しかし、2019年の民法改正によって、使い込みをした人以外の相続人全員の同意があれば、使い込まれた遺産が存在するものとして、遺産分割調停ができるようになりました。なお、相続開始前の使い込みについては、遺産分割調停で解決することはできません。

話し合いや調停で解決できない場合、使い込みをした人に対して裁判を起こす必要があります。この場合の裁判は「不当利得返還請求」または「不法行為にもとづく損害賠償請求」です。

不当利得とは、法律上の原因なしに利益を得ることです。誰かが使い込みにより不当利得を得た場合、損失を被った相続人は利得者に対して利得の返還請求ができます

不法行為にもとづく損害賠償請求とは、相手の不法行為によって損害を受けた人が不法行為者(加害者)へ損害の賠償を求めることです。

裁判所が使い込みの事実を認めれば、遺産を使い込んだ相続人に対して、遺産の返還や損害賠償が命じられます。不当利得返還請求でも不法行為にもとづく損害賠償請求でも、どちらの方法でも遺産を取り戻せます。

関連記事:不当利得返還請求とは 使い込みの事例と請求できる要件や注意点を解説

使い込みの疑いがあったとしても、客観的な証拠がなければ遺産を取り戻すことができません。特に「不当利得返還請求権」や「不法行為にもとづく損害賠償請求」などの裁判手続きでは、返還を請求する側に立証責任(使い込みの事実を証明する責任)があります。

使い込みの証拠として集めるべき資料には、以下のようなものがあります。

  • 預貯金通帳、口座の取引履歴
  • 被相続人の生活費や介護費用などの領収書
  • カルテ
  • 診断書
  • 介護認定資料
  • 介護記録

これらの証拠を自分で集めるのは、大変な手間となるでしょう。手続きも複雑で時間と労力がかかります。またカルテなどの医療関係資料は、一定期間が経過すると廃棄されてしまうので、早めの対応が必要です。証拠集めに悩んでいる人は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

「不当利得返還請求」と「不法行為にもとづく損害賠償請求」には時効があります。それぞれ時効期間が異なり、両方の時効が成立している場合は、使い込まれた遺産を取り戻すことができなくなってしまいます。

不当利得返還請求権の時効は「権利行使できると知ったときから5年」または「権利の発生時から10年間」です。つまり使い込みが発覚してから5年以内もしくは使いこみがあってから10年以内に請求しなければなりません。

使い込まれた時期が古い場合、時効によって請求できなくなってしまうおそれがあります。

不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効は「損害及び加害者を知ってから3年間」です。一般的には「使い込み発覚時から3年」と理解すると良いでしょう。

不当利得にも不法行為にも時効があるので、使い込みが発覚したらすぐに行動するべきです。早く対処しないと、時効消滅してしまう危険が高まりますので、弁護士に依頼してスムーズに進めるのがよいでしょう。

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同居の相続人による使い込みを防ぐには、どのように対処すれば良いのでしょうか?

親の財産管理を特定の相続人に任せている場合は、他の相続人が定期的に親の預貯金の状況などを確認し、情報を共有するとよいでしょう。「他の相続人が見ている」という状況は使い込みの抑止にもつながります。万が一不正な引き出しがあった場合にも、すぐに気づくことができます。

親が元気なうちに「任意後見契約」をして任意後見人をつける方法です。任意後見契約をしておけば、親が認知症にかかって自分で財産管理できなくなったとき、任意後見人が財産を管理します。そうすれば同居の相続人が勝手に預貯金の出金などできなくなり、使い込みを防げるでしょう。

親が元気なうちに「家族信託」を利用する方法です。親自身が自分の判断で財産を信頼できる第三者へ預け、管理してもらいます。認知症になった後も信託契約の効果は続くので、受託者(財産を預かった人)が継続して財産を管理し続けてくれます。そうすれば、同居の相続人が勝手に使い込むのを防げるでしょう。

親が任意後見契約や信託契約をする前に認知症になってしまったら、裁判所に申立てをして後見人をつけてもらいましょう。

後見人がつくと、後見人が財産を管理するので同居の相続人による使い込みを防げます。ただし成年後見制度の利用後は生前贈与などが難しくなるので、「相続税の節税対策」はしにくくなると考えてください。高額な相続税が発生しそうなケースでは、認知症になる前に相続税対策をしておく必要があります。

もしも親の財産を使い込んでしまったら、早めに財産を返還しましょう。すぐに返還できないなら、親や他の相続人に通知して少しずつ返していくべきです。

使い込みを隠していると、後に発覚したときに大きなトラブルにつながります。最悪の場合、親の死後に裁判を起こされて何年も争うことになり、親族関係が完全に断絶してしまう可能性もあります。

また、たとえ他の相続人にバレなかったとしても、使い込みを隠したまま相続税の申告をすれば、税務署の調査を受けて追徴課税されるケースもあります。

正直に打ち明けて、トラブルの芽を摘み取っておきましょう。

Q. 長男による親の遺産の使い込みが発覚。長男は「親から生前贈与してもらった」と主張しているが、どうすればよい?

まずは、親の意思を確認できる証拠(贈与契約書など)があるかどうか確認しましょう。親が認知症などで意思能力があったかどうかもポイントです。生前贈与が実際にあったとしても、「特別受益」として生前贈与分を相続財産に合算して計算することで、公平に遺産分割を行うことができます。

Q. 親の介護費用や生活費を親の預貯金から引き出した場合、使い込みに該当する?

親の財産管理を任されていた人が、親の生活や介護のためにお金を引き出していた場合は、勝手な使い込みとは言えません。 ただし、使用した金額が高額である場合には使い込みの疑いがあります。領収書を提示してもらい、親のための出費かどうか確認するとよいでしょう。

Q. 親の生前に多額の預貯金を使い込んでいた場合、贈与税の対象になる?

個人的な用途で親の預貯金を使い込み、そのまま口座に戻さなければ、贈与税の課税対象になります。なお、1年間に110万円以下の贈与には、贈与税がかかりません。

Q. 遺産の使い込みは税務署の税務調査の対象になる?

使い道が明らかでない「使途不明金」の存在を無視して相続税申告をした場合には、税務調査を受ける可能性が高まります。申告漏れを指摘されると、過少申告税や延滞税などのペナルティが発生します。

遺産の使い込みが発覚した場合、遺産分割調停や裁判で使い込まれた財産を取り戻せることがあります。しかし、使い込みを認めさせるには証拠の収集が必要不可欠です。また、調停や裁判手続を適切に進めるには専門的な知識や経験が求められます。証拠収集を個人で行うことは限界があるので、一度、弁護士などの専門家へ相談するとよいでしょう。

遺産の使い込みは相続人同士での熾烈な「争続」に発展してしまうケースも少なくありません。トラブルを未然に防ぐために、早いうちから任意後見や家族信託などの対策を進めましょう。遺産相続トラブルについて心配ごとがあるなら、相続に詳しい弁護士への相談をお勧めします。

(記事は2025年9月1日時点の情報に基づいています)

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