目次

  1. 1. 生前贈与とは
  2. 2. 生前贈与を受けた場合でも相続放棄は可能
  3. 3. 生前贈与を受けて、相続放棄を検討するケース
  4. 4. 生前贈与を受けた後の相続放棄のリスクや注意点
    1. 4-1. 詐害行為取消権を行使される可能性がある
    2. 4-2. 相続放棄には3カ月の期限があり、撤回もできない
    3. 4-3. 生前贈与後に相続放棄をしても、持ち戻しで相続税がかかることがある
  5. 5. 相続放棄後に遺留分侵害額請求を受けることはある?
    1. 5-1. 通常は遺留分侵害額請求を受けることはない
    2. 5-2. 遺留分侵害額請求を受ける可能性があるケース
  6. 6. 相続放棄以外で借金を受け継がせない方法
    1. 6-1. 相続人が限定承認を行う
    2. 6-2. 生前に債務整理をする
  7. 7.生前贈与と相続放棄に関するよくある質問
  8. 8. まとめ|相続放棄で不安があれば弁護士に相談を

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生前贈与とは、自身が生きている間に、配偶者や子、親族などに自己の財産をあげることをいいます。贈与する財産について制限はありませんので、現金や預貯金に限らず、株式や不動産などを生前贈与することも可能です。

また、毎年110万円以内の範囲で生前贈与を行えば、その範囲では非課税となりますので、節税対策として利用されることもあります。

なお、生前贈与は、相続放棄と異なり、裁判所での手続などは不要です。

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相続放棄とは、相続の対象となる財産や債務を承継しないことをいいます。生前贈与と異なり、裁判所での手続きが必要です。具体的には、管轄の家庭裁判所に対し、相続放棄の申述書を提出し、家庭裁判所がこれを受理すれば、相続放棄が認められます。

相続放棄は、生前贈与と無関係の手続きです。したがって、生前贈与を受けた後に相続放棄の手続きをとることもできます。

親の財産状況に大きな変化があったケースが想定されます。

例えば、親が事業を営んでおり、その事業が好調であったため、生前に親から1000万円の生前贈与を受けていたものの、その後、新型コロナウイルス感染症の影響で親の事業がかたむいてしまい、多額の借金を背負うことになった場合です。

親の死後、この借金から逃れるためには、子は相続放棄を検討することとなります。

生前贈与を受けた人が相続放棄することは可能ですが、リスクや注意点もあります。

親に多額の借金があることを知っていながら、生前贈与を受け、死後に相続放棄をした場合、債権者が「詐害行為取消権」を行使する可能性があります。

詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知っていながらした行為について、債権者が、その行為の取消しを裁判所に請求することができるというものです(民法424条1項本文)。

例えば、親にプラスの財産が1000万円、借金が1500万円あり、そのことを親だけでなく、子も知っていたとします。その状況で親がプラスの財産1000万円を全て生前贈与した場合、親の借金の状況はさらに悪化し、債権者は借金を回収するのが難しくなります。

このようなケースでは、相続放棄の有無に関係なく、詐害行為として生前贈与が取り消される可能性があります。

相続放棄については、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に対し、相続放棄の申述書を提出する必要があります。ただし、この3カ月の期間内であっても、相続財産の全部又は一部の処分を行った場合、相続人は単純承認をしたものとみなされてしまいます。

相続財産の処分とは、例えば、相続財産である預貯金を引き出すこと、不動産の名義を変更することなどです。これらの行為があれば、単純承認として、相続を認めたことになります。特に、当面の生活費の捻出のために相続財産に手を出してしまうと、単純承認となってしまうため、注意が必要です。

相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出してから認められるまで、1カ月ほどかかります。この間であれば、申立てを取り下げることができます。しかし、一度相続放棄が認められてしまうと、これを撤回することはできません。

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贈与してから一定期間内に贈与者が亡くなると、その生前贈与はなかったこととされ、相続税の課税対象となります。これは、贈与者の死後に相続放棄をしたとしても免れることはできません。

贈与税の課税方法の一つである「暦年課税」では、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円以下まで無税です。しかし、一定の期間内に行われた生前贈与については相続財産に持ち戻されて、相続税が課税されます。

なお、この期間は2023年12月31日までに行われた贈与については「3年」でしたが、2024年1月1日以降は段階的に引き上げられ、2031年1月1日以降の贈与は「7年」となります。

生前贈与の相続財産への加算の変更点を図解。2024年以降の贈与から新制度が適用されます
生前贈与の相続財産への加算の変更点を図解。2024年以降の贈与から新制度が適用されます

一方、もう一つの贈与税の課税方式である相続時精算課税制度の贈与については持ち戻しされることはありません。詳しく知りたい方は以下の記事を参考にして下さい。

【関連】相続時精算課税制度とは?【改正内容を図解】年110万円非課税 2500万円まで贈与税もかからない

遺留分とは、相続人に定められた「最低限の遺産の取り分」です。生前贈与を受けた者が後に相続放棄をした場合、ほかの相続人から遺留分を侵害したとして請求されることはあるのでしょうか。

相続放棄をした場合、その者は初めから相続人とならなかったものとみなされます。生前贈与を受けた後に相続放棄をした場合、それは相続人以外の者に対する生前贈与になります。遺留分の算定の基礎となる生前贈与の範囲が限られますので、基本的には遺留分侵害額請求を受けることはありません。

相続開始前の1年以内にした生前贈与の金額が高い場合には、遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。また、生前贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、その生前贈与の金額次第で、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

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限定承認とは、相続によって得るプラスの財産を上限として相続をするもので、相続で引き継いだプラスの財産からマイナスの財産を清算して、残ったプラス財産があれば、相続人がこれを相続することができます。

事案によっては、プラスの財産が残らない可能性もありますが、少なくとも借金等のマイナスの財産を承継することはなくなります。なお、他に共同相続人がいる場合には、相続人全員が共同して限定承認を行う必要がある点には注意が必要です。

生前に破産等の債務整理を行うことで、借金を承継させないことができます。

Q. 生前贈与でプラスの財産だけもらい、相続放棄するのはあり?

最初から相続放棄をするつもりで、プラスの財産について生前贈与を行うことは、債権者を害する行為であるとして、債権者から詐害行為取消権を行使される可能性があります。なお、債権者が相続放棄について詐害行為取消権を行使することはできません。あくまで取り消されるのは、生前贈与の方です。

これは、相続放棄は他人の意思によって相続を承認するか放棄するかを強制するべきではないところ、相続放棄に対して詐害行為取消権の行使を認めてしまうと、相続の承認を強制することと同じ結果になってしまい妥当でないことなどが理由です。

Q. 相続放棄をしたら生前贈与された土地はどうなる?

相続放棄と生前贈与については、それぞれ別個独立した無関係のものですので、土地を生前贈与された者が相続放棄をしても、その土地は生前贈与を受けた者が所有者であることに変わりはありません。相続放棄も成立します。

Q. 生前贈与は単純承認になって相続放棄ができなくなる?

生前贈与は、当然ながら相続開始前になされるものであり、相続開始前に相続の承認がなされるということはありませんので、単純承認とはなりません。したがって、生前贈与がなされた場合でも、相続放棄をすることはできます。

相続税の節税などの目的で、生前贈与を活用することがあります。生前に親から子などへ財産を贈与しておくことで、相続時の遺産総額が減り、結果として相続税を減らすことができるためです。

しかし、生前贈与をした後に、贈与した側の経済状況が変わり、亡くなる頃には遺産がマイナスになっていることもあります。すると「生前贈与でプラスの遺産は受け取ったが、マイナスの遺産は相続放棄したい」という状況が生まれます。

このような状況でも、相続放棄は可能です。しかし、贈与する側、される側両方が悪意を持ってこれを行うと、詐害行為取消権を行使される可能性があるので、注意が必要です。

生前贈与や相続放棄についてわからないことがあれば、弁護士に相談することも検討しましょう。

(記事は2024年5月1日時点の情報に基づいています)

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