意外と知らない「遺産」とは? 課税対象の範囲を税理士が解説
相続が発生すると「何が遺産なのか」で戸惑います。遺産には現預金や不動産などのように把握しやすいものもあれば、債権や借金のようにわかりづらいものも含まれます。さらに、遺産の中には、課税対象になるものと、ならないものがあります。今回はわかっていそうでわかっていない「遺産」について税理士が解説します。
相続が発生すると「何が遺産なのか」で戸惑います。遺産には現預金や不動産などのように把握しやすいものもあれば、債権や借金のようにわかりづらいものも含まれます。さらに、遺産の中には、課税対象になるものと、ならないものがあります。今回はわかっていそうでわかっていない「遺産」について税理士が解説します。
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「遺産を相続する」というと、一般的には、現預金や宝石、不動産など価値のあるものだけを受け取るイメージがあります。しかし、法律上で相続の対象になるものは、みなさんが思うほどオトク感のあるものだけではありません。亡くなった人の借金なども相続の対象になります。また、亡くなった人の持ち物であっても、遺産分割の対象とはならないものもあります。
そもそも遺産とは何でしょうか。遺産とは、亡くなった人が所有していたすべての財産のことを言い、「相続財産」とも呼びます。相続の対象となる財産とも言えます。ただ、財産といっても金銭的な価値をもつプラスの財産(積極財産)だけを指すのではありません。借金などといった弁済しなくてはならないマイナスの財産(消極財産)も遺産になります。
ここでは、具体的に遺産を見ていきます。遺産には「プラスの遺産」と「マイナスの遺産」があります。これらの中には、ネット銀行の預金やネット上の証券口座にある株式、仮想通貨(暗号資産)のように、デジタル化されているために被相続人(亡くなった人)でなければ存在を把握しにくい財産もあるので、実際の遺産確認の際には注意が必要です。
プラスの遺産となるものは以下の通りです。
マイナスの遺産となるものは以下の通りです。
これらを相続により引き継いだ場合、相続した人が弁済する義務を負います。
また、遺産ではあるけれど遺産分割協議の対象から外れるものがあります。墓地や墓石、仏壇や仏具、神棚・神具や系譜など宗教的・祭祀的な要素を含むものがこれにあたります。これらは、民法により、祭祀主宰者(祭祀承継者)一人が引き継ぐこととされています。
さらに、遺産と見られがちだけど、実は遺産ではないものもあります。
遺族給付とは、法令等により被相続人と一定の関係にある人に対して給付されることが決められているものです。これは遺族固有の権利であるため、遺産になりません。
遺産の中に賃貸物件や株式がある場合、定期的に賃料や配当が発生します。これら遺産から発生した収益は遺産に該当しません。ただ、発生の都度「誰が受け取るのか」について争いになりやすいので、遺産分割協議の中で取り決めることが多いです。
亡くなった人の一切合切の財産が遺産になると言いましたが、一身専属な権利・義務は相続の対象とはなりません。一身専属的な権利・義務とは、その性質上、本人のみに認められた権利・義務で、他者に譲渡・相続することができないものをいいます。具体的には、次のようなものが一身専属権に該当します。
たとえば、子どもが親の税理士事務所を引き継ぐ場合、事務所用不動産や家具を引き継ぐことはできても税理士という地位は引き継げないわけです。税理士事務所の経営を継続する場合、子ども自身があらためて税理士資格を取得する必要があります。
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相続の相談が出来る税理士を探すここまでお伝えしたのは「民法上の相続財産(遺産)」です。気になるのが「どのような遺産が相続税の課税対象となるのか」です。民法上の相続財産で経済的な価値を金銭で見積もることができるものが相続税の課税対象となります。具体的には「プラスの遺産からマイナスの遺産を差し引いた部分」が相続税の課税対象です。
なお、マイナスの遺産のうち差し引けるものは「相続開始時に弁済が確実と認められるもの」になります。そのため、保証債務・連帯債務は一定要件に該当しなければプラスの遺産から差し引くことはできません。
ただし、民法上の相続財産「だけ」が課税対象となるわけではありません。相続税法では「実質的な相続財産で税金を負担するだけの価値のあるものに課税する」という考え方から、相続税の課税対象は、民法上の相続財産よりも定義の範囲が広くなっています。
以下に掲げるものが相続税の課税対象となる財産です。
相続・遺贈によって取得した財産、つまり民法上の相続財産(遺産)は相続税の課税対象となります。
みなし相続財産とは「民法上は相続財産ではないが、相続税法上は相続財産としてみなされる財産」です。主に次のようなものがあります。
これらは、被相続人が生前から保有していた財産ではありません。そのため、民法上は相続財産には該当せず、「受け取った人の固有の財産」となります。
しかし、被相続人の金銭的・身体的負担があったからこそ発生した財産である点、被相続人の死亡をきっかけに相続人に受給の権利が発生した点から、相続税法上は相続財産とみなし、課税の対象としています。なお、生命保険金と死亡退職金にはそれぞれ非課税枠があります(後述)。
この他、遺言により免除された債務などもみなし相続財産に該当することがありますので注意が必要です。
相続税法では、相続財産に対する税金だけでなく、財産の持ち主が生きている間に行った贈与についての税金についても規定しています。そのため、贈与財産については相続税ではなく贈与税が課税されることとなっています。
ただ、相続税と贈与税の課税対象を厳密に分けてしまうと、納税者の中には法律を逆手に取って相続税を免れようと計画する人も出てきます。例えば、財産の持ち主が亡くなる間際になって慌てて暦年課税制度の非課税枠を使って贈与をし、相続税の課税対象額を減らすという手法です。こういった行為を放置すると納税者間の課税の不公平感が生じます。
この不公平感をなくすため、相続税法では、被相続人が亡くなった日からさかのぼって一定期間内に行われた生前贈与については、相続財産に加えた上で税額計算を行うとしています。この期間はこれまでは「3年」でしたが、2024年から「7年」に変更されました。2024年以降の贈与については、段階的に生前贈与加算の期間が延長され、2031年からは完全に7年間の加算に移行されます。なお、すでに支払った贈与税額は、払った人の納めるべき相続税額から控除されます。
生前贈与された財産は原則として贈与税の課税対象となるため、相続税の計算から外れることとなります(先述の相続開始前7年以内の生前贈与加算は例外)。ただし、これはあくまでも暦年課税制度が適用される贈与財産のみです。
贈与税には、暦年課税制度以外にもう一つ、「相続時精算課税制度」があります。これは生前贈与したときには特別控除2500万円まで贈与税は課されないものの、相続発生時に生前贈与分も相続財産に加えた上で相続税を精算するという制度です。2024年からは年110万円までの贈与税の基礎控除(非課税枠)も追加されました。相続時精算課税制度が適用される贈与財産については、いつ贈与が行われたかに関係なく、贈与財産の金額から基礎控除額をさしひいた金額を相続財産に加算することとなっています。なお、すでに支払った贈与税額は、払った人の納めるべき相続税額から控除されます。
なお、以下の遺産やみなし相続財産は相続税が非課税になります。
葬式費用は被相続人の死亡後に発生したものであり、マイナスの財産ではありません。しかし、以下のような葬式費用は相続税の計算の基礎となる遺産総額から差し引くことができます。
ただし、香典返しや墓地・墓石の費用、初七日や法事の費用は差し引くことができません。
以下の財産は相続財産です。盲点になりやすいので注意が必要です。
名義は他人になっているけれど、実質管理しているのは本人である預金や株について、特に「名義預金」「名義株」と呼びます。相続では「妻名義の銀行口座だけれど、実質的には生活費として亡くなった夫が管理していた」という例がよくあります。「相続人が預金や株を贈与された記憶がない」「ハンコや口座を管理しているのは被相続人だった」という場合には、名義預金・名義株として相続税の課税対象となります。
また、生活費や葬式代のために、被相続人の前後に相続人が口座から預金を引き出し、支払いに充てることがあります。このように相続開始前後に引き出された預金は、相続財産として扱われます。
遺言書がある場合には、原則としてその内容に従って遺産が相続・遺贈されることになります。ただし、相続人全員が話し合って合意し、なおかつ相続人以外の受贈者の同意が得られれば、遺言書の内容と異なる方法で相続を行うこともできます。
遺言書がない場合や遺言書に指定のない財産に関する相続を検討する場合、遺言書があってもその内容とは異なる方法で相続を行いたい場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分割方法を決めます。協議の結果は遺産分割協議書に記録します。
「誰がどのくらいの割合で遺産を引き継ぐか」については、遺言書や遺産分割協議で自由に決めることができます。ただし、被相続人の配偶者や子や代襲相続人である孫、父母や祖父母などの直系尊属については、相続開始後の生活への配慮から、遺産について最低限の割合が請求できる権利が民法で定められています。これを遺留分といいます。遺留分の割合は次のように民法で定められています。なお、被相続人の兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分を侵害するような遺言書による指定や遺産分割協議がなされた場合、遺留分が保証されている相続人は遺産を多く引き継いだ他の相続人に遺留分を取り戻す遺留分侵害額請求を行うことができます。ただし、この請求権の行使には時効があるので注意が必要です。
遺産分割協議は、法定相続分を意識した上で行われるのが通例ですが、相続人の中には「受け取る生命保険金の金額が著しく高額」「被相続人の生前、かなりの現預金を受け取っていた」などといった事情がある人もいます。これを「特別受益」といいます。特定の相続人に特別受益が発生している場合に法定相続分通りに遺産分割を行ってしまうと相続人間の不公平感が生じてしまうため、一定の配慮を行った上での遺産分割を行うよう、民法に規定がされています。
一方、特定の相続人が被相続人の生前の介護や看護に尽力した場合、この尽力度合いを「寄与分」として、尽力した相続人への遺産分割の際配慮するよう民法で定められています。
なお、相続人の中には「遺産を受け取りたくない」と考えている人もいます。この場合には、限定承認により相続する範囲を限定したり、あるいは相続放棄により一切合切の財産の相続を放棄したりすることができます。ただし、限定承認も相続放棄も、相続の開始があったことを知った日の翌日から3か月以内に家庭裁判所に申述しなくてはなりません。
遺産相続を行うには、亡くなった人がどういった財産をどれくらい所有していたかを調べる必要があります。この作業は、遺産相続や相続税の申告を行うためだけでなく、予想外の借金を背負わないためにも重要です。
どの世帯にも共通する財産である現預金・有価証券・不動産、そして借金については、以下のような作業を行うことになります。
現預金や有価証券については、自宅内で現金や預金通帳、キャッシュカード、株券や口座開設の通知書などをくまなく探す作業を行います。ただ、最近は、店舗のある金融機関だけでなく、ネット銀行やネット証券などインターネット上で完結する金融機関も増えています。そのため、銀行からの郵便物やノベルティ、メール、スマートフォンのアプリなども確認する必要があります。
土地や建物などを調べるには、登記済証などの権利証を探します。権利証がなければ、固定資産税の納税通知書などから所在を調べ、不動産がある市区町村の窓口で固定資産課税台帳を確認します。また、不動産の権利関係の現状を確認するため、法務局で登記事項証明書を取得する必要があります。
借金の有無の確認は、主に次の4つの作業で行います。
借金の存在が早々に明らかになれば、先述の限定承認や相続放棄の手続きも期限内に行うことができ、不要な債務を背負わずにすみます。相続が開始した中での確認作業は大変ですが、できるだけ早く着手するようにしましょう。
「遺産」といっても、プラスの財産もマイナスの財産もあります。また、民法上は遺産ではなくても、相続税が課税されるみなし相続財産もあります。実際に相続にあたっては、故人の財産をすべて調べた上で、遺産分割、相続税納付などの手続きを進める必要があります。期限のある手続きもありますので、不安を感じたら税理士などの専門家への早めの相談をお勧めします。
(記事は2024年3月1日時点の情報に基づいています)
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