相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないことです。借金しか残っていない場合など、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合には相続放棄を考えることが多いでしょう。

相続放棄をする場合は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内に相続放棄をしなければなりません。具体的には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄の申述書と添付書類(被相続人の住民票除票など)を提出し、受理してもらうことが必要です。

相続放棄しても相続人には管理義務がある

相続放棄をした人は、相続放棄した後も、その放棄により新たに相続人となった人が相続財産の管理を始めることができるまでは、その財産の管理を継続しなければなりません(民法940条)。例えば、被相続人の子が相続放棄をしたことによって、被相続人の兄弟姉妹が相続人となった場合、兄弟姉妹が相続財産の管理を始めることができるまで、子が相続財産の管理をしなければなりません。

相続人全員が相続放棄をした場合には、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、相続財産を引き継いでもらうしかありません。

そこで、他の相続人や相続財産管理人に相続財産を引き継ぐまでの間に財産を管理するにあたって注意すべき点を説明します。

実家の解体や売却をしないこと

例えば、空き家となっている実家の管理が困難であることを理由に相続放棄をしたような場合、実家の解体・売却をすると相続放棄が認められなくなりますので注意しましょう。実家が老朽化していることから建物自体を取り壊したいと思っても、相続放棄をするのであれば、取り壊してはいけません。

なぜなら、法定単純承認といって、相続財産を「処分」した場合には、相続人は相続することを承認したとみなされてしまうからです(民法921条1号)。相続財産の「処分」とは、相続財産の形状・性質を変える行為をいい、家屋の取壊しも含まれます。

ちなみに、相続財産の「保存行為」であれば、問題ありません。「保存行為」とは、財産の現状を維持するのに必要な行為をいい、例えば、実家の崩れそうなブロック塀を補修する場合などがこれにあたります。
なお、固定資産税の滞納分などは支払わなくて問題ありません。

賃貸アパートなどの片付けも原則として控えるべき

被相続人が賃貸アパートに住んでいた場合、貸主や管理会社から部屋を引き払うように求められることがあるでしょう。

しかし、相続放棄をするのであれば、部屋内の残置物(遺品)を勝手に処分してはいけません。相続財産の「処分」をしたとして、相続することを承認したとみなされてしまうからです。貸主や管理会社に迷惑をかけるかもしれませんが、事情を説明して、慎重に対応することが大切です。

相続財産管理人を選任してもらう

では、上記のような実家や賃貸アパート内の遺品の管理義務を免れるにはどうしたら良いのでしょうか。他に相続人がいる場合はその相続人に管理を引き継ぐことになりますが、相続人全員が相続放棄をした場合は相続財産管理人に管理を引き継ぎましょう。

相続財産管理人とは

相続財産管理人とは、相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する人がいなくなった場合も含まれます)、相続財産の管理をするため、家庭裁判所によって選任される人です。

相続財産管理人を選任してもらいたい場合には、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをしましょう。申立てにあたっては、少なくとも下記の費用が必要です。

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手(申立先の家庭裁判所によって異なる)
  • 官報公告料4230円

また、上記の費用以外にも、相続財産の管理に要する経費や相続財産管理人の報酬が相続財産から支払えないと見込まれる場合は、申立人が経費や報酬の相当額を予納金として家庭裁判所に納めなければなりません。予納金は、個別の事情によるものの、概ね20万~100万円程度です。

最終的に相続財産から経費や報酬が支払えなければ、これらは予納金から支払われます。その分は申立人には返ってきません。そのため、相続放棄をした後も管理義務が継続することや、相続財産管理人選任の申立てに予納金が必要となり得ることを踏まえつつ、相続人同士で話し合って、相続放棄をするかどうかを決定することが大切です。

相続放棄をして遺品整理をする注意点

価値のないものでも形見分けしてはダメ?

形見分けも注意が必要です。相続財産の「処分」に当たると、相続を承認したとみなされてしまいます。「処分」に当たるかどうかは、裁判例上、処分対象となる財産の交換価値のみならず、相続財産全体の額、被相続人・相続人の財産状態、当該処分の性質等を総合的に考慮して、判断されています。

第三者から見て、換価価値が明らかにないものであれば、形見分けしても問題ないでしょう。例えば、写真や手紙などです。しかし、自動車や絵画、高価な時計などは換価価値があるので、安易に形見分けをしないように注意してください。

被相続人の債務を支払わないこと

被相続人に借金などの債務があったとしても被相続人の現金や預貯金から支払ってはいけません。相続財産から債務を弁済することは、相続財産の「処分」に当たると判断されてしまうからです。なお、相続人自身の財産から債務を支払うのであれば問題ありません。

葬儀費用や葬儀関連費用(仏壇や墓石の購入費用など)、治療費などは、被相続人の現金や預貯金から支払う余地がありますので、弁護士に相談しましょう。

まとめ

相続放棄をしたいと思っていても、相続財産の「処分」に該当する行為をしてしまうと相続放棄が認められなくなってしまいます。ただ、相続財産の「処分」に当たるかどうかの判断が難しいケースは少なくありません。相続放棄をしたい場合には、不用意に行動することなく、弁護士に相談しながら進めることがおすすめです。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)