目次

  1. 1. 遺贈とは? わかりやすく解説
    1. 1-1. 相続人でない人にも財産を引き継がせられる
    2. 1-2. 相続との違い
    3. 1-3. 生前贈与との違い
    4. 1-4. 死因贈与との違い
    5. 1-5. 遺贈義務者とは
    6. 1-6. 遺贈の手順
  2. 2. 包括遺贈とは
    1. 2-1. 資産も負債もまとめて引き継がれる包括遺贈
    2. 2-2. 包括遺贈の注意点
  3. 3. 特定遺贈とは
    1. 3-1. 負債を引き継がなくて済む特定遺贈
    2. 3-2. 特定遺贈の注意点
  4. 4. 遺贈で遺留分を侵害しないよう注意!
  5. 5. 遺留分侵害額請求のトラブルを避ける方法
    1. 5-1. 遺留分権利者には遺留分相当額の財産を相続させる
    2. 5-2. 受遺者に生命保険金を受け取らせる
  6. 6. 遺贈にかかる税金は、相続税
    1. 6-1.注意点① 基礎控除の人数に含まれない
    2. 6-2. 注意点② 2割加算が発生する
  7. 7. 遺贈を放棄する方法
    1. 7-1. 包括遺贈を放棄する方法
    2. 7-2. 特定遺贈を放棄する方法
    3. 7-3. 放棄した後、取消や撤回はできる?
  8. 8. まとめ 遺贈には専門的知識が必要 弁護士に相談を

「遺贈」とは、法律(民法964条)で以下のように定められています。

第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

つまり、遺贈とは「遺言によって、財産の割合を指定して、特定の誰かに財産を引き継がせること」です。引き継ぐ相手に制限はなく、法定相続人(民法で定められた相続人)以外でも可能です。個人でなく、法人や団体に財産を引き継がせることもできます。

例えば、次のようなケースです。被相続人(亡くなった人)の子どもが生きている場合、その子どもの子ども、つまり孫は相続人ではありません。従って、相続はできません。しかし、遺言書に「孫にA銀行の預金を遺贈する」と書いておけば、A銀行の預金を孫に引き継がせることができます。同じように、生前に介護のお世話になった長男の妻は相続人ではありませんが、遺言によって財産を譲ることができます。

読み方は「いぞう」です。遺贈する側を「遺言者」、遺贈される人や団体を「受遺者」と言います。なお、遺言者の死後、受遺者は遺贈を放棄することができます。

関連記事:法定相続人とは?範囲と相続順位、相続割合を詳しく解説

「相続」は、法律の規定に従って遺産が法定相続人に引き継がれることをいいます。つまり、相続を受けることができるのは、法定相続人に限られます。

従って、相続人でない人に対し、財産を相続させることはできません。仮に相続人以外の人に対して、遺言書で「相続させる」と記しても無効です。あくまで「遺贈する」と記すことで財産を引き継ぐことができます。

一方、相続人に対しては、財産を相続させることも、遺贈することもできます。ただし、一般的に相続人には「相続させる」と書いた方がメリットがあるので、わざわざ「遺贈」する必要はないでしょう。

たとえば、不動産を引き継いだ場合、相続であれば、相続人単独で所有権移転の登記手続き(不動産の名義変更)をすることができます。しかし、受遺者だと、他の相続人全員と共同で申請しなければなりませんので、手続きに手間がかかる恐れがあります。

なお、相続放棄しても特定遺贈なら受け取れるなど、遺贈にメリットがある場合も考えられます。

「生前贈与」は、生前に財産を誰かに無償で譲る契約です。

契約なので、無償で財産を譲る相手の同意が必要となり、生前に効果が発生するため財産の所有権は生前に移転します。また生前贈与には厳格な要式がなく、口頭でも有効です。

一方、「遺贈」は、遺言者の一方的な意思表示による単独行為なので、受遺者の合意は不要です。ただし受贈者が遺贈を放棄すると効果は発生しません。

また、様式もなく口頭でも有効な生前贈与とは違い、遺贈は必ず要式を守った遺言書で行わねばなりません。

「死因贈与」は、贈与者(遺産を贈与する被相続人)の死亡を条件として効果を発生させる贈与契約です。契約なので受贈者の合意が必要となります。生前贈与と同様、厳格な要式は不要なので口頭でも成立させることができます。

一方、「遺贈」は遺言書によって行う厳格な要式行為であり、受遺者の合意は不要などの違いがあります。

「遺贈義務者」は、遺贈を実行する人です。

たとえば「自宅を長男の妻に遺贈する」と遺言したとき、誰かが不動産の名義変更をしなければなりません。その名義変更を行うのが遺贈義務者です。

遺言書に遺言執行者を定めない場合、相続人が遺贈義務者となります。しかし遺言執行者を定めると遺言執行者が遺贈の手続きを行うので、相続人が遺贈の手続きを行う必要はありません。

遺贈したい場合は、まず「遺言書」を作成しましょう。遺言書において財産を引き継がせたい人を対象に「遺贈する」と書けば遺贈できます。

遺贈する財産は「A銀行の預金」などと特定してもかまいませんし、「すべての財産を遺贈する」「遺産の3分の1を遺贈する」などの包括的な表現でも有効です。また遺贈の対象は法定相続人でも法定相続人以外の人でもかまいません。

ただ、先ほども説明しましたが、一般的には相続人に対しては「相続する」と書いたほうがいいでしょう。遺贈は、相続人以外の方に財産を引き継ぎたいときに活用しましょう

相続人に手間をかけさせたくない場合や相続人が遺贈の手続きを行うかどうか不明な場合には、「遺言執行者」を指定しておきましょう。遺言執行者がいれば、確実に遺言の内容を実現してもらいやすくなります。

遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。まずは「包括遺贈」とは何かを確認しましょう。

包括遺贈とは、財産内容を指定せずに行う遺贈です。たとえば「全財産をAに遺贈する」「遺産のうち2分の1をBに遺贈する」などとすると、包括遺贈となります。

包括遺贈の場合、プラスの資産もマイナスの負債もまとめて受遺者へ遺贈されます。割合だけが指定されて具体的な財産が決まらないので、受遺者は遺産分割協議に参加し、具体的に「どの遺産をどれだけ引き継ぐか」を決定しなければなりません。

包括遺贈には、以下の注意点があります。

1)負債が引き継がれる
包括遺贈の場合、受遺者には「負債」も引き継がれます。たとえば「2分の1」の遺産を包括遺贈されると、負債の2分の1も引き継ぐため、債権者から支払い請求を受ける可能性があります。包括遺贈を放棄するには、原則的に「相続があったことを知ってから3ヶ月以内」に家庭裁判所で「遺贈の放棄の申し述べ」をしなければなりません。

2)遺産分割トラブルが発生する可能性がある
受遺者は相続人にまじって遺産分割協議に参加する必要があるため、他の相続人との間でトラブルが発生することも考えられます。

特に相続人以外の人へ包括遺贈すると、遺贈を受けた人(受遺者)に負担をかけてしまう恐れがあるので慎重に検討しましょう。

「特定遺贈」とは、財産を指定して行う遺贈です。たとえば「A銀行の預貯金100万円を孫であるBに遺贈する」と遺言すると、特定遺贈となります。

特定遺贈の受遺者が法定相続人でない場合、遺産分割協議に参加する必要がなく、すぐに遺産を受け取れます。また「負債を引き継がない」というメリットもあります。

特定遺贈も「放棄」ができますが、包括遺贈と違って期限はありません。家庭裁判所に申し述べをする必要もなく、他の相続人に「遺贈を放棄します」と告げれば財産を引き継がずに済みます。

特定遺贈にも以下の注意点があります。

1)被相続人以外には、不動産取得税がかかる
法定相続人が不動産を相続したり遺贈を受けたりしても、不動産取得税はかかりません。一方、法定相続人以外の人が不動産の特定遺贈を受けると不動産取得税がかかります。

2)遺産が失われる可能性がある
特定遺贈を行っても、被相続人が死亡するまでに時間が経ち、その間に指定されていた財産が失われる可能性があります。その場合、特定遺贈は無効になってしまうので注意しましょう。

3)遺留分トラブルが発生する可能性がある
特定遺贈の対象となった財産の価値が高い場合、相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。すると、相続人から受遺者へ「遺留分侵害額請求」が行われてトラブルになるケースがあるので注意しましょう。遺留分侵害額請求については、次項で詳しく説明します。

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遺贈する際には相続人の「遺留分」を侵害しないよう注意しなければなりません。

遺留分とは「最低限もらえる遺産の割合」のことで、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子どもなど)に認められる権利です。たとえば配偶者と1人の子どもが相続人になる場合、配偶者には2分の1、子どもにも2分の1の遺留分が認められます。

遺言によって遺留分を侵害してしまうと、侵害された相続人は侵害した受遺者へ「遺留分侵害額請求」を行ってお金を請求することができます。

たとえば「甥にすべての遺産を遺贈する」と遺言した場合、被相続人の子が甥に「遺留分侵害額請求」という金銭請求を行い、被相続人の子と甥の間で金銭トラブルが生じてしまう可能性があるのです。

遺贈する際には、遺留分トラブルを発生させないような配慮が必要です。

遺留分侵害請求のトラブルを避けるには、以下の方法があります。

遺留分権利者がいる場合、遺留分権利者へも最低限の遺留分相当額の遺産を相続させましょう。遺留分を侵害しなければ、遺留分侵害額請求をされる恐れはありません。

なお兄弟姉妹には遺留分が認められないので、これらの相続人への配慮は不要です。

受遺者に高額な遺産を受け取らせるなら、受遺者に生命保険金を受け取らせる方法も有効です。生命保険金は遺産分割の対象にならず、指定された受取人が全額もらえます。

遺留分侵害額請求が起こっても、生命保険金から支払いができるので、トラブルをスムーズに解決できるでしょう。

遺贈すると、税金がかかる可能性があります。税金の種類は、遺贈は遺言によって財産を譲るので「贈与税」がかかると思われるかもしれませんが、被相続人が亡くなった後に発生するので、「相続税」です。

なお、法定相続人以外の方に遺贈するときにかかる相続税について、次のような点に注意する必要があります。

相続税が発生するのは「基礎控除」を超える場合で、受遺者も遺贈財産の評価額に応じて相続税を払わなければなりません。

基礎控除は「3000万円+法定相続人数×600万円」です。ただし、法定相続人以外の受遺者は、この基礎控除の計算人数には含めないので注意しましょう。

配偶者や一等親の血族以外の人に遺贈すると、相続税が2割増しで加算されます。たとえば以下のような人は、相続税を2割増しで払わねばならないので注意しましょう。

  • 兄弟姉妹、甥姪、いとこなどの親族
  • 代襲相続人でない孫
  • 姻族(婚姻により出来た親戚)
  • 親族ではない第三者

関連記事:遺贈と税金の関係 「包括遺贈」と「特定遺贈」はこんなに違う

遺贈されても財産や負債を引き継ぎたくない場合は、放棄が可能です。その場合、「包括遺贈」と「特定遺贈」で放棄の方法が異なるので確認しましょう。

包括遺贈の場合、相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で「包括遺贈の放棄の申し述べ」をしなければなりません。

特定遺贈の場合、期限はありませんし家庭裁判所での手続きも不要です。他の相続人に「遺贈を受けません」と伝えるだけで事足ります。

ただし受遺者が態度をはっきりさせない場合、相続人が催告することができます。相当期間内に受遺者が確かな返事をしない場合は、遺贈を受遺者が承認したとみなされます。

遺贈の放棄の撤回は、基本的にできません。ただし脅迫や詐欺、錯誤(間違い)によって放棄してしまった場合や、被後見人が単独で遺贈を放棄した場合などには取り消すことができます。取り消しができるのは詐欺や脅迫などの事実を知ってから6ヶ月以内、放棄の意思表示から5年以内となっています。

遺贈する際には遺言執行者の指定や遺留分への配慮など、専門的な知識と適切な対応が必要です。また受遺者になった場合も、遺贈の流れを知っておく必要があります。いずれの立場でも、一人で対応すると、トラブルになる可能性があるので、弁護士などの専門家に相談しながら安全な方法で行いましょう。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)