一人ですべての遺産を相続 遺産分割協議書の書式や書き方は? 注意点も解説
一人がすべての遺産を相続する場合、遺産分割協議書の作成は不要に思われるかもしれません。しかし、複数の相続人が話し合って一人に相続させることを決めた場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。一人がすべての遺産を相続する場合の遺産分割協議書について、作成が必要なケースやひな形、書き方や注意点などを弁護士が解説します。
一人がすべての遺産を相続する場合、遺産分割協議書の作成は不要に思われるかもしれません。しかし、複数の相続人が話し合って一人に相続させることを決めた場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。一人がすべての遺産を相続する場合の遺産分割協議書について、作成が必要なケースやひな形、書き方や注意点などを弁護士が解説します。
目次
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一人がすべての遺産を相続する場合、遺産分割協議書の作成を要するかどうかは、相続する人が決まった経緯によって異なります。
複数の相続人が話し合って、そのうち一人がすべての遺産を相続することを決めた場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。
(例)
相続人である配偶者A、子B、子Cが話し合って、配偶者Aにすべての遺産を相続させることを決めた場合
たとえば父親が亡くなり、残された母親の生活に配慮して、子どもが遺産の相続を辞退するケースなどでは、遺産分割協議書の作成が必要になります。遺産分割協議書を作成しないと、不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなどが滞ってしまうのでご注意ください。
また、遺産の分け方の話し合いは口頭だけでも成立しますが、書面で遺産分割協議書を作成していないと、そのときには「遺産を辞退する」と言っていた相続人があとになってから「そんなことは言っていない」と訴え出し、争いに発展する恐れがあります。トラブルを防ぐためにも遺産分割協議書を作成しましょう。
一方、以下のようなケースでは、遺産分割協議書の作成は不要です。
①相続人が最初から一人しかいない場合
法定相続人が最初から一人しかいなければ、相続人間の話し合いが発生しないので、遺産分割協議書の作成は必要ありません。
(例)相続人が子Aのみであり、Aがすべての遺産を相続する場合
②相続欠格や廃除、または相続放棄により、相続人が一人しかいなくなった場合
当初は法定相続人が複数いたものの、相続欠格や廃除、または相続放棄によって相続権が失われた結果、最終的に相続人が一人しかいなくなることがあります。この場合も、相続人間の話し合いが発生しないので、遺産分割協議書の作成は不要です。
(例)当初の相続人は子Aと子Bの2人だったが、Aが著しい非行によって廃除の審判を受けた結果、相続人がBのみとなった場合
③遺言書によって、一人がすべての遺産を相続すべき旨が指定された場合
被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成しており、その中で一人にすべての遺産を相続させる旨が記載されていた場合は、原則としてその内容に従って一人が遺産を相続します。遺言書による相続の場合、遺産分割協議書の作成は不要です。
(例)遺言書の中で「子Aにすべての遺産を相続させる」と記載されていた場合
一人がすべての遺産を相続する遺産分割協議書について、ひな形や書き方(記載すべき事項、作成方法、調印方法)を解説します。
図版「遺産分割協議書のひな形」に記されているとおり、一人がすべての遺産を相続する遺産分割協議書に入れる要素は下記のとおりです。
遺産分割協議書は相続手続きをスムーズに進めるため、また後のトラブルを防ぐために適切に作成することが大切です。自身で作成することに不安がある場合は弁護士に相談しましょう。
一人がすべての遺産を相続する遺産分割協議書には、図版「遺産分割協議書のひな形」で示したとおり、主に以下の事項を記載します。
①タイトル
「遺産分割協議書」と記載するのが一般的です。
②被相続人の表示
被相続人(以下「亡くなった人」)について、以下の情報を記載します。
・氏名
・生年月日
・死亡日
・本籍地
・最後の住所地
③相続人全員が合意した旨
遺産分割協議書に記載された内容について、すべての相続人が合意したことを明確に記載します。
④相続の方法
一人がすべての遺産を相続する旨を記載します。後日に判明する遺産についても、同じ人に相続させる旨を明記しておきましょう。
なお、後日に遺産が判明した場合には、あらためてその分け方を話し合うことも考えられます。その場合は、作成時点で判明している遺産をリストアップし、遺産目録にまとめて遺産分割協議書に添付しましょう。
⑤可分債務の取り扱い
相続人が話し合って一人がすべての遺産を相続することを決めても、亡くなった人が負っていた銀行からの借金の返済を含む金銭債務などの可分債務は、法定相続分に従って自動的に分割されます(最高裁昭和34年6月19日判決)。したがって、債権者から弁済を請求されれば、各相続人は法定相続分に応じた金額を弁済しなければなりません。
ただし、相続人の内部で相続債務の負担者を決めておくことは可能です。たとえば、遺産を相続する人が相続債務もすべて負担するならば、ほかの相続人が弁済を請求された場合や、実際に弁済した場合の手続きや精算方法を記載しておきましょう。
⑥清算条項
遺産について、相続人間において一切の債権債務関係がないことを明記しましょう。相続トラブルが後日再燃することを防ぐ効果があります。
⑦遺産分割協議書の作成日
実際に遺産分割協議書を作成した日付を記載します。
⑧署名欄
相続人の住所と氏名を記載し、押印する欄を設けます。
遺産分割協議書の本文を作成する方法については、特に決まったルールはありません。手書きで作成しても構いませんが、Microsoft WordなどのPCソフトを利用するのが便利です。
遺産分割協議書は、当事者である相続人の数と同じ部数を用意します。複数ページにわたる場合は、各ページ間に契印を押しましょう。
調印にあたっては、署名欄にすべての相続人の住所と氏名を記載し、各相続人が押印します。住所は印字でも構いませんが、氏名は自書します。押印にあたっては、印鑑登録された実印を用いましょう。
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相続の相談が出来る弁護士を探す一人がすべての遺産を相続する遺産分割協議書について、よくある質問とその回答をまとめました。
相続人が一人になれば、一人がすべての遺産を相続することについて、遺産分割協議書を作成する必要はありません。遺産を相続する人以外の相続人全員が相続放棄をすれば、相続人が一人になるので、遺産分割協議書の作成は不要となります。
ただし、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要であり、提出すべき書類も多岐にわたるため、手間がかかるケースが多いです。一人がすべての遺産を相続する場合、遺産分割協議書の内容はシンプルなので、基本的には遺産分割協議書を作成するほうがよいと思われます。
一人がすべての遺産を相続することについて、相続人全員で話し合って決めたうえで遺産分割協議書を作成していれば、後に遺留分を請求されることはありません。
これに対して、遺言書によって一人がすべての遺産を相続することになった場合は、ほかの相続人から遺留分を請求される可能性があります。もしほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けたら、お早めに弁護士までご相談ください。
一人がすべての遺産を相続する場合でも、相続人全員で話し合って決めたのであれば、遺産分割協議書の作成が必要になります。
相続手続きを円滑に進めるため、また後の相続トラブルを防ぐためには、適切な内容や方式によって遺産分割協議書を作成することが大切です。自身で遺産分割協議書を作成することに不安がある場合は、弁護士にご相談ください。
(記事は2023年8月1日時点の情報に基づいています)
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