エンディングノートが書けず 手軽に何でも保存するファイルから始めた

――『自分で作る ありがとうファイル』は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

息子が小学校4年生になった頃に、塾通いを始めさせたいと思った時、私も勉強している姿勢を息子に見せたほうが説得力あるなぁと思って資格取得の勉強を始めることにしたんです。ちょうど50歳という節目の年齢だったことと、近所の人や両親の老いも感じていた頃だったので、何か人の役に立ちたい、社会に貢献できる知識を得たいと考え、メンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー、行動心理士、シニアピアカウンセラー、終活ライフケアプランナー、エレガンスマナーの資格を取りました。

終活について学ぶなかで、自分のエンディングノートを書こうとしたのですが、筆が進まないんです。やはり死を意識してしまうんでしょうね。「私は今、元気なのに死後のことなんて考えられない……」と止まってしまう。けれど、残された家族のためにも、エンディングノートの必要性は十分に理解できたので、エンディングノートよりもっと気軽にできるものはないかと考えたことが始まりでした」

出演した作品のDVDや写真などもファイルしているという財前さん。「アナログ世代ですからね」と笑いながらも、それらは代えがたい財産だそうです。(撮影:伊ケ崎忍)

――ノートではなくファイルに着目された理由は何でしょう?

最初はルーズリーフに線を引いて、ライフプランなどのテーマ別に表を作っていたのですが、これがけっこう手間がかかるんです。私は昔から自分の出演した作品の写真や切り抜きなどを作品ごとにA4サイズのファイルに入れてまとめていました。サイズが同じなので収納しやすいし、見たいものがすぐに取り出せる便利さが気に入っていたんです。そこで、大事なものをまとめたファイルを作ろう! と始めたのが、「ありがとうファイル」の原型です。

まずは、医療保険や生命保険などの保険証券を入れるところから始めました。保険証券って、最初に送られてくるものですが、何度も確認はしませんよね。いざ、入院となったときに、どの保険にどんな保障があるのかを確認するのは大変です。そこで、加入している保険証券を一緒にまとめています。また、両親には「通院している病院の診察券を全部貸して」といって、かかりつけ医の診察券をすべて並べてコピーして保存しました。こうしておけば、もしもの時、たとえば親が救急車で搬送されることがあっても、そのファイルを持って行けば、普段、どこの病院にかかっているのか、またどんな医療保険に加入しているのか確認することができます。慌てる時でも、そのファイル一つあればいいのです。

――「ありがとうファイル」は、最初どのように作ればいいでしょうか?

「ライフプラン」のシートを使って年表に自分と家族の現在、そして未来の年齢を書いていきます。そうすると、自分が還暦のときに親は何歳か、子どもは何年生かということがひと目でわかるようになって、将来に向けた設計図を描くことができます。保険の満期や年金支給が開始される年なども書きます。私の場合は自分の生命保険の満期時の生存給付金で息子に保険をかけようと計画しています。さらに預貯金や公共料金の口座の自動引落しや不動産など「財産」に関することや保険証券や年金手帳、さらにはマイナンバーカードや実印などが家のどこにあるのかを記す「置き場所リスト」、WEBサイトのIDやログインパスワードなどを紙に書いて残す「デジタル住所録」といった、今、大事なものをファイルしていけばいいんです。写真はもちろん、ちょっと気になったチラシでも、どんどんファイリング!整理整頓は後でもいい。書き記す時間のないときでも、とりあえずファイルする習慣をつけていけばいいと思います。

財前さんは「自分と家族のライフプランを考えるのは、ワクワクする楽しい作業」といいます。(撮影:伊ケ崎忍)

ファイルは家族の歴史 人生を充実させる夢の作業

――母の味レシピなど、家族の記録の項目が多いのは理由があるのですか?

何気なく食べている家庭の味も再現するとなると難しいものです。母の味を子どもへ、そして孫へと受け継いでいく。その中で少しずつ変わることがあってもいいと思うんです。それが家族の大切な歴史。つないでいくことが大事だと思っています。

また、遺品整理をするときに家族が悩まないように、「お宝コレクション」のファイルもつくりました。これを作るときに、「自分にとって大事な物って何だろう」と考えました。改めて考えると、無駄遣いばっかりで、大事なものって意外と少ないことがわかりました(笑)。自分の人生を振り返りながら、自分の大事なもの、好きなもの、嫌いなものを考えたり、これからの人生を考えたりしていると、これからしたいことがどんどん浮かんで、ファイルづくりが今後の人生を充実させるためのとても夢のある楽しい作業になっていたのです。私が作りたいのは、エンディングノートではなく、いわば自分と家族がこれからよりよい人生を送るためのライフプランだと気が付きました。

――改めて財前さんが大事だと確認されたのはどのようなものですか?

私の場合は財前家に関するもの、たとえば宗派や家紋についてきちんと知っておくことにも重きをおきました。宗派によって葬儀のやり方も異なりますからね。大分県の一部の地域では、葬儀で結婚式のように、お膳を振る舞うのですが、地域によって冠婚葬祭のスタイルが違うので、それを理解せずにやると、ご近所の方が戸惑うこともあると思います。親の葬儀の際、どなたに連絡すればいいのかも把握しておかないと不義理をしてしまいます。ファイル作りは、自分の家の宗派について改めて勉強し直すきっかけになりました。また、先祖代々の家紋や屋号に関して、きちんと調べて書きとめ、次の世代へ引き継ぐことも日本人として重要な務めだと思っています」

――ご本だけでなく。誰でもすぐに「ありがとうファイル」が作れるようにと無料のダウンロードサービスもありますね。

みなさん、それぞれが思い思いの「自分だけのありがとうファイル」をつくることを楽しんで欲しいと思っています。どんなことを残しておくべきかがわかるように、大切な項目の書式を無料でダウンロードできるサービスもしています。ライフプランや交友関係を残すおつきあいリストのほか、葬儀や遺言書のこと、相続の名義変更のことなど、全部で38項目の書式を用意しています。カラーバージョンとシンプルな白黒バージョンの二つのパターンがあるので、お好きな方を選んで自分好みのファイル作りを楽しんで欲しいです。

財前さんの「ありがとうファイル」ダウンロードサービスはこちら

財前さんのインタビュー後半は、ご自身の両親と“もしもの時”にどうして欲しいか話し合ったことについて聞きました。「棺桶に何を入れたいか」という話で、お父様が入れて欲しいと言った物に家族で大爆笑したそうです。はたして、それは何だったのでしょうか――。後編に続く。

「ありがとうファイル」は家族への愛を伝えて残す「夢のバトン」 財前直見さんインタビュー(後編)

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)