デジタル遺品とは?「パスワード解除ができない!」のトラブル防止は生前対策の「デジタル終活」が重要
「デジタル遺品」という言葉に明確な定義はありませんが、「パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなど」と理解するとよいでしょう。パスワード解除が一つの壁になるデジタル遺品はどうしたら良いのか、生前に対応できることは少なくありません。デジタル遺品との向き合い方について、「デジタル終活」に強い弁護士が解説します。
「デジタル遺品」という言葉に明確な定義はありませんが、「パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなど」と理解するとよいでしょう。パスワード解除が一つの壁になるデジタル遺品はどうしたら良いのか、生前に対応できることは少なくありません。デジタル遺品との向き合い方について、「デジタル終活」に強い弁護士が解説します。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
皆さんは、「デジタル遺品」という言葉を聞いたことがありますか?
「デジタル遺品」という言葉自体に明確な定義はありませんが、「パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなど」という形でイメージされるとよいでしょう。
「デジタル資産」や「デジタル遺産」という言葉が使われることもありますが、これらについても「デジタル遺品」と同様に明確な定義があるわけではありません。ただし、「デジタル資産」や「デジタル遺産」という言葉が使用される場合は、「資産」や「遺産」という言葉が示すとおり、資産的な価値(金銭的な価値)に重きを置いた形で使われるケースが多いようです。
デジタル遺品については、大きく分けて「オフラインのデジタル遺品」と「オンラインのデジタル遺品」の2種類に分類することが可能です。
オフラインのデジタル遺品とは、いわゆる「パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存されたデータ」であり、「オフライン」つまりインターネットにつながっていない状況を前提としたデジタル遺品を指します。具体例として、スマホで撮った写真データやパソコンで打ち込んだワードやエクセルなどの文書データをイメージするとわかりやすいでしょう。
一方で、オンラインのデジタル遺品とは、いわゆる「インターネットサービスのアカウントなど」であり、「オンライン」つまりインターネットにつながっている状態を前提としたデジタル遺品を指します。具体例として、X(Twitter)やFacebook、あるいはインスタグラムなどのSNSのアカウントに加え、ネット銀行やネット証券のアカウントなどをイメージするとわかりやすいでしょう。
オフラインのデジタル遺品やオンラインのデジタル遺品をそれぞれまとめると、図版「デジタル遺品の分類と具体例」のような形になります。
突然ですが、ここでクイズです。
Q. パソコンやスマホなどのデジタル機器に備わっている機能で、本人が生きているときはとても便利なものである一方で、本人が亡くなってしまったあとにはとても不便になるものは何でしょう?
少し考えてみてください。
多くの人が毎日のように使っている機能だと思います。ヒントは、「誰にも見られたくないから……」です。
正解は……「パスワードロック機能」ですね。
自分のパソコンやスマホにパスワード(パスコード)ロック機能を設定し、パスワードなどによる認証ができない限り、パソコンやスマホの中に入れないよう設定されている人が多いはずです。そして、そのパスワードを誰にも教えず、自分だけしか知らないという人も多いのではないでしょうか。
パソコンやスマホのログインパスワードがわからなければ、万が一の際、遺族が故人のパソコンやスマホ内にアクセスすることは困難です。特に、パスワードを複数回間違えてしまうとデータが初期化されてしまうおそれのあるiPhoneなどのスマホについては絶望的な状況に陥り得ます。
デジタル遺品のトラブルを抱えていたり、トラブルになりそうだと不安を感じている場合は、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。
故人のパソコンやスマホのログインパスワードがわからず、これらのデジタル機器内にアクセスできない場合には、下記のようなトラブルが発生する可能性が高くなります。
万が一の際、故人の葬儀を執り行うことになるかと思いますが、葬儀では故人の「遺影」を飾るのが一般的です。
パソコンやスマホ内にアクセスできない場合、この「遺影」となる写真をデジタル機器から取り出すことができず、映り映えしない写真や古い写真を「遺影」にせざるを得ないというトラブルが起こる場合があります。
昔であれば、カメラで撮影した写真は現像して紙焼きする(今でいえば、プリントアウトする)ケースが多かったかと思いますが、最近ではほとんどの方がスマホなどで写真を撮影され、プリントアウトまでする人は少数かと思います。
特にスマホ内に入れない場合には、スマホ内の写真データにアクセスできず、遺族は「遺影」となる写真データへアクセスすることができません。
実際、故人のスマホなどを開くことができず、故人の近影を取り出すことができなかった事例があります。古い写真を遺影として使わざるを得ないこととなり、事情を知らない親族から「こんな古い写真を遺影にするなんて、故人がかわいそうだ」などと嫌みを言われて傷ついた、というケースが増えてきているようです。
葬儀の際には、故人の友人や知人に急いで連絡を取り、通夜や告別式に参列してもらうことになります。
故人の友人や知人の連絡先はすべて故人のスマホの中に入っているケースが多く、スマホの中に入れないと連絡先がわからず、声をかけられないというトラブルが起こり得ます。
携帯電話のない時代は、各家庭に手書きの電話帳があり、すぐに電話番号がわかるようになっていましたが、これだけ携帯電話やスマホが普及した中で、手書きの電話帳が残っている家庭は皆無でしょう。
実際、葬儀社に話を聞くと、故人のスマホのパスワードがわからず、友人や知人を呼ぶことが難しかったという事例が増えているようです。
上記のように、パソコンやスマホ内に入れないと、遺族は必要な情報にアクセスできず、大きなストレスを抱えることとなります。
そのため、何とかしてスマホ内に入ろうと、ログインパスワードを何回も入力してしまうケースがあります。
しかし、特に故人がiPhoneを使用されている場合には注意が必要です。iPhoneには、パスワードを複数回(10回)間違えると、スマホ内のデータを初期化する機能、つまりデータをすべて削除する機能が備わっており、故人がこの機能を利用している可能性があるためです。
実際、故人が亡くなったことで慌ててパスワードを何度も入力し、スマホ内のデータがすべて消えてしまったというトラブルはよく耳にします。
携帯電話の会社(各キャリア)はパスワード解除に対応していませんが、スマホのログインパスワードを解除してくれる専門事業者も存在します。ただし、パスワード解除に20~30万円程度の費用が必要とされるだけでなく、解除するのに半年以上かかるケースもあり、実際にはパスワード解除を断念される人が多いようです。
なお、パスワードを複数回間違えてしまい、データが初期化してしまったら、専門事業者でもデータを復旧することは難しいようですので、注意が必要です。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す上記のようなデジタル遺品に関するトラブルを回避するためには、どうすればよいでしょうか。
このようなトラブルの多くは、故人のパソコンやスマホ内にアクセスすることができないことが原因で生ずるものが多く、故人のパソコンやスマホ内に入れてしまえば、ほとんどの問題を回避することが可能です。
そのため、万が一の際、遺族が困ることのないよう、生前から自身のパソコンやスマホなどのログインパスワード(パスコード)を共有しておくとよいでしょう。
生前からパスワードを共有してもよいという人は、パートナーや家族に対して、自身のデジタル機器に関するログインパスワードをしっかりと伝えておきましょう。
「生きているうちにログインパスワードを共有することはちょっと……」という場合は、万が一の際、家族などに自身のパソコンやスマホなどのデジタル機器のログインパスワードを共有できるような「仕組み」を整えておくとよいでしょう。
たとえば、自分に万が一のことがあったときの「引き継ぎノート」とも言えるエンディングノートを活用する方法があります。エンディングノートにログインパスワードも記入したうえで封筒に入れて封印し、家族などに対して「万が一のときは、封筒を開封してエンディングノートを見てほしい」と伝えておく形が考えられます。
また、名刺サイズの紙にパソコンやスマホのログインパスワードを記入し、自身の財布や通帳に挟んでおく方法も考えられます。万が一の際は、家族が財布や通帳を確認する可能性が高く、エンディングノートのように明確にその存在を伝えなくても、見つけられやすいと言えます。
以上、デジタル遺品のトラブルを回避するため、パソコンやスマホなどのデジタル機器のログインパスワードをパートナーや家族と共有しましょうとお伝えしました。
しかし、一方で、「見られたくないデータ(デジタル遺品)があるから、パスワードは共有できない!」という人も多いのが実情です。
そこで、最後に、見られたくないデジタル遺品がある場合の生前対策についてもふれたいと思います。
「デジタル遺品を隠す方法があるなら、ぜひ聞きたい!」という人は、私が講師を務めるセミナーでも多くいますが、残念ながら「絶対的な正解」はありません。
「見てほしくないデータは削除すればよいのではないか」という人もいますが、遺族が専門家に依頼すれば、削除したデータであっても復旧されてしまう可能性があります。なお、突然死の場合には、死ぬ前に削除することは当然できません。
そのため、「パソコンのドキュメントの○○○○○という名前のフォルダだけ見てほしい、それ以外は見ないでほしい」など、自分の意思を明確にしておくことをお勧めしています。「そんなことを言ったら、逆に怪しまれるじゃないか?」という指摘をうけることもありますが、自身の意思を伝えて、そのとおりに対応してもらえるだけの人間関係を築くことも生前対策(デジタル終活)の一部です。
上記のように意思表示をしたうえで、「見てほしい」と指示したフォルダへの動線に「見られたくないもの」を置かないようにしておけば、最低限の対策はできるものと思われます。
また、見てもらいたくないファイルやフォルダにはパスワードロックをかけておいてもらうなどの対応も考えられます。二重三重に対策をしておくとよいでしょう。
以上、デジタル遺品に関するトラブル事例とともに、生前対策としての「デジタル終活」についてお伝えしました。
デジタル終活において非常に重要なのは、「ログインパスワードの共有」です。特にスマホについては、ログインパスワードを共有しておかない限り、万が一の際、遺族が故人のスマホ内へのアクセスすることは非常に難しいと言わざるを得ません。
そのため、今すぐにでもエンディングノートや名刺サイズの紙を準備し、スマホのログインパスワードだけでもパートナーや家族と共有できるように手配することをお勧めします。
デジタル遺品のトラブルを防ぐには生前対策としての「デジタル終活」が大切です。わからないことや不安なことがあれば、一度、終活に強い弁護士などの専門家に相談してみましょう。
(記事は2023年8月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の弁護士検索サービスで